勘違い
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----功樹 視点----
クレアさんの自己紹介とここまで来た経緯を聞きながら、現在起きている状況を再確認する。どうやら新世界はロシア、アメリカだけではなく他の国の上層部にも食い込んでいそうだ。しかし……、どうして危険を冒してまでそんな組織に協力する人間がいるんだ? 一体、見返りはなんだよ。
「クレアさん、協力者達は見返りに何を受け取っているんですか?」
「カネと老化抑制薬よ」
「それって……」
「そう、私達ノアがG-88で生活する為に創り上げた薬に似たモノを新世界も開発しているの。もっとも、用途は違うけどね」
確かに、あの薬は体の中の時間を止める作用があると説明書に書いてあった。だけどあくまで抑制するだけで、『不老』になるわけではない。いや、むしろ延々と薬を使用しないといけないぶん逆にたちが悪いか。そんな事を考えていると、クレアさんが端末を操作する手をとめて、こちらを見ながら真剣な顔で言葉を発した。
「功樹君、新世界の技術力、科学力、人員は恐らくノアと同等よ。そして私達にある甘さや馴れ合いなんてヤツらには存在しない───」
「お前達ノアか新世界が潰れるまで戦いは終わらないか……」
大尉がクレアさんの言葉を引き継いだ。だが、そんな大尉の言葉に薄く笑ったクレアさんが訂正をいれる。
「ユリヤ大尉、アナタもノア側についたんでしょ? 『我々』といって欲しいわね」
「そうだな、我々は負けられないというわけか。それで、これからどうするのだ? 現在、私の部下達がアラカワを脱出させる為に遅延作戦を展開中だ。だが、どうやら予定されている救出部隊には新世界のからの暗殺者がいるそうなんだが……」
「それは分かっています。作戦を変更して、私が通ってきた地下通路を移動しながら北上し包囲網を突破したいと考えています。その為には一度すべてのポイントから撤退してもらわないといけないのですが……、地上の様子がわからなければタイミングが掴めませんね」
大尉とクレアさんが作戦会議をしている中で俺はふと、先程の説明で疑問におもった事がある。ずっと移動をしていたクレアさんは、救出部隊や捜索部隊に自分が無事だという事をまだ連絡をしていない。という事は、新世界はまだクレアさんが生きているという事を知らないんじゃないのか?
「クレアさん、新世界は貴女が生きている事を知っていると思います?」
「え……、そうですねぇ、まだ知らないと思いますよ。脱出する前には連絡をいれますのでバレますけどね。大尉、そちらの装備で使えそうな物は───」
やっぱり知らないのか。ならもし俺がここで死んだら……、死んだと勘違いさせたら新世界はどうでるだろうか? あいつらはどうやら俺を殺したいみたいだから、目的を達成させてやったら尻尾をだすんじゃないか。目的さえハッキリさせれば対応策は練れる……、というか母さんが練ってくれると思う。
「大尉、遠くても構いませんのでどこかに装備の整った安全な場所ってありますか?」
「む……、ふむ。ウラルのチェリャビンスクに秘密基地がある。持ち主は我々の味方である国家維持部隊だから安全ではあるだろうな。中佐、申し訳ないが私としては部下が戦闘で死ぬ分には構わないが、犬死にだけは許容できない───」
旧モスクワ市外からチェリャビンスクまでは約1900キロ……、使えるかどうか分からんがルートM5を使えば移動も楽だよな。その為にはやはり移動時間だけでもいいから世界中を混乱させたい……。やはりここは俺が死んでおくのが一番だな。いつもは勘違いされてばっかりだが、このあたりで俺のほうから狙って世界中を勘違いさせてやろう。
「ちょっといいですか? 考えがあります」
二人が議論をやめて俺の方を向いたのを確認してから、無い頭を振り絞って妙案と思えることを相談する。
「今現在、新世界の明確な目的がわかっていません。そこでヤツらの真の目的をハッキリさせるために、とりあえず今の目的を達成させてやるべきかと思います。僕を含めたここにいる全員が戦闘中に死亡したことにして、チェリャビンスクまで撤退する事を提案します」
「なるほど、功樹君は私達が死んだ後に新世界がどのように動くかを見て相手の目的を探るというわけですね?」
「はい」
「しかし、戦闘中に死亡したとどうやって判断させるんだ? 偽装するための死体を準備する為の時間もないぞ」
「先程、地下鉄構内を爆破して敵の足を止めましたよね? それを使って次の攻勢時に残っている爆薬を全て点火、この辺り一体を崩落させます。ほぼ確実に死んだと思われるでしょうが、救出部隊は絶対にここを掘り起こして遺体を確認する筈です。そしてロシア政府も日本に……というか母さんに僕の遺体を還す為に近くの消防、警察、軍を総動員してここを掘り返すでしょう」
「ほう、時間稼ぎと共に動きに制限をつけるのか……。そして、そもそもの捜索が始まる前にはロシア軍と救出部隊が新世界と戦闘を始めて混乱に余計拍車がかかるな。お前、可愛い顔をして以外とエグイことを考えるな───。流石に悪魔の子と言ったところか」
「褒め言葉として受け取っておきます。それでどうですか?」
俺としては最善の策だと思うのだが、実際に判断して行動してくれるのはクレアさんや大尉達だ。
「いけるな」
「いけると思います。一つ質問が」
クレアさんは深刻そうな表情をしている。分かっている……、分かっているんだ。俺も同じ事を心配しているのだが、それはもう信じるしかない。
「美紀さんの事です。功樹君が死んだと知ったら冷静でいられるでしょうか?」
「きっと、実際に遺体をみてDNAを検査するまで母さんは僕を生きていると扱いますよ。前にあったアラカワ粒子の暴走事故の時も生きているのを信じて待ってくれましたからね」
「わかりました。ある程度の不確定要素は許容しましょう。それでは大尉、次の攻勢時に作戦を開始します。至急、部下に連絡して準備をお願いします」
「了解」
慌しく作戦の細部を詰める二人を見つめながら、皆の事を考える……。きっと天才の母さんは俺の意図を見抜いて行動してくれる筈だ。マッチョも冷静にいつでも出撃できるよう準備を整えてくれると思う。信吾や相川さんはどうだろうか? 心配してくれるだろうか。そして……アリス、きっとアイツは泣くだろうな───。
そういえば、チェリャビンスクって数年前に隕石が落下しましたよね。(´・ω・`)
『アリス泣くだろうな』(次回、注目!




