強行偵察班、接触せよ!
隔日更新に間に合いました! (`・ω・´)
----アドリエンヌ 視点----
目の前に居る、『ノア』と名乗った男性から提案された内容を理解するのに必死になっていると、男性は突然自分の耳元を手で押さえる仕草をして1人で喋り始めた。
「はい、えぇ。接触に成功しました、これから具体的な話に入るところです。え? 御子息がですか? 分かりました」
男性は振り返って仲間の集団を見てから肩を竦めて、私に向かって話し出した。
「具体的な話をする前に、そちらの負傷者の手当てをしたい。回復魔法などは使えるのか? 一応だが医薬品の準備もしてある」
私達の手当て!? 彼らは見ず知らずの国の兵士を助けるというのだろうか。これから国交を持つ為の話し合いをするのだから恩を売っておきたい気持ちは分かるが、もし決裂して戦争にでもなった時の為に『少しでも兵士を減らしておく』とは考えないのか。
それ以前に今この男性は『医薬品』と言った筈。『魔法薬』ではなく『医薬品』なんていう高級品を他国の兵士に使用するほど物資に余裕があるのか? 駄目だ、判断する材料が少なすぎる。姉様やお父様なら少ない情報でも正確な判断が出来るかもしれないが、第4王女として政治的な教育を殆ど受ける事なく自由に育てられた私にはそんな高度な判断は出来ない。しかし、苦しんでいる兵士達を見捨てるわけにも行かない───。
「回復魔法は使えますが傷を塞ぐので精一杯です。宜しければ、痛み止めなどを分けてもらえませんか?」
「了解した、直ぐに手配する。向こうで待機している仲間を呼んでも良いか?」
「構いません」
結局私はノアの人達からの提案を受ける事にした、もしこの判断が間違っていたとしても苦しんでいる兵士を救いたい。男性が再び耳元に手を当てて2・3言を喋ると、丘の上に待機していた甲冑達がこちらに向かって移動してくるのが見えた。ただ、一番大きな甲冑は動かずに左右を他の甲冑が守るようにしているのが分かった。
指揮官が警戒しているのか? 私がそう思っていると、次々と到着した甲冑の中から別の男性が出てきて私に声を掛けてきた。
「初めまして殿下、私がこの部隊を指揮しているシュウイチだ。早速だが手当する代わりに、騎士の皆さんに武器を仕舞って欲しいのだが?」
そういえばこちらの兵士達は抜刀中だった、私は焦りながら武器を仕舞うようにお願いする。一部の兵士達は本当に渋々といった仕草で武器を仕舞ったが大半の兵士達は、仲間の手当てをしてくれるという話から好意的な感情を抱いている様子で直ぐに武器を仕舞ってくれた。
その姿を見たシュウイチと名乗った指揮官は、耳元を抑えながら喋り始めた。どうやらアレは離れた場所と会話するための魔法具のようなモノを使用しているのだろう。
「コウキ、安全が確保された。こっちに来て良いぞ」
そう指揮官が言った瞬間、丘の上に居た大きな甲冑が空を『飛んだ』のが見えた。補助魔法で脚力を強化して『跳ぶ』事や風属性の魔法を使用して『浮く』事は出来るが、『飛ぶ』なんていう事は羽を持つ生物にしか出来ない。丘の上から悠々と空を飛びながらこちらに近づいて来る甲冑は、その色と大きさから『悪魔』のように見えた。
「悪魔……」
甲冑を見ながら私がそう呟いた時、その場に張り詰めた空気が流れたのが分かった。先ほどまで強面ながら優しい笑顔で負傷者の手当てをしていたノアの面々が私を睨み付けている。全員の顔から笑顔が消えてたその光景にこちらの兵士達も怖気づいているのが分かる。
ここにきて───、やっと私も自分の発言がとんでもない失言だった事に気がついた。必死に弁解の言葉を探している私に指揮官が低い声で忠告してくる。
「殿下、今の発言は忘れよう。だが……間違ってもあのスーツの前で『悪魔』なんて言わないでくれ」
私は、骨が外れる勢いでガクガクと首を縦に振る。指揮官がここまで怒る理由は、恐らくあの甲冑……彼らの言葉でスーツには命を掛けて仕えるべき王族が乗っているのだろう。その王族の人間に『悪魔』なんて言ったら、激怒した彼らに殺されるかもしれない。
ましてサンドワームを余裕で討伐するような人達だ、口が裂けても言える筈が無い。そんな事を考えているとスーツを纏った王族が目の前に飛んできて内部から声が聞こえてきた。
「初めまして。アラカ──、そちら風に直すとコウキ・アラカワと言います」
「『神聖メルカヴァ王国』の第4王女でアドリエンヌ・ド・メルカヴァと申します」
なるべく優雅にスカートも摘んで挨拶をしたが、苗字があるという事は王族……少なくとも名のある貴族で間違いは無いようだ。やはり先ほどの判断は間違っていなかったと自画自賛していると、白金騎士団の団長が思わず気を失いそうになる事を言い出した。
「王女殿下に対して、そのような甲冑を纏ったまま挨拶をするなど失礼ではないか!」
失礼なのはアンタよ! お願いだから現状を理解して欲しい。この人達はA級災害指定の魔物を簡単に屠って、医薬品を他国の人間に盛大に使用する事が出来る大国の人間なのだ。この大陸でも中小国の扱いを受けている王国とは格が違いすぎるのに、その大国の王族相手に礼を失しているなんて言うのは国辱ものの発言だ。
私はノアの人達の怒りを買ったのではないかとビクビクしていたが、あっさりとスーツが膝を付いて胴体部分が開いた。
「失礼しました、改めましてコウキ・アラカワと言います」
「ふぁ……」
「むぅ……」
中から出てきた少年の姿に私と団長の驚きの声が重なる。コウキ様と名乗った少年は私達の前で改めて自己紹介した後で、右手を直角に曲げてから指先をおでこの辺りにつける仕草をした。その優雅ながらもどこか気品溢れる仕草に心が奪われ、次に身に着けている服装に目が奪われる。
その服は汚れ1つ無く、目にした事が無いほど真っ白の礼服のような服装で肩には金と黒で作られた装飾が付いている。そして胸の所には国旗だと思われる『羽と文字』が書かれたワッペンが付けられて、ボタンも金製らしく光り輝いている。
人ではなく神々が作り上げた服と言われても納得する出来だ。この1着だけでどれ程のお金が掛かっているのか想像できない、そしてコウキ様は私達の驚きに気づく事無く、同じ材質でできた帽子を被ってから質問してきた。
「騎士の人達の様子はどうですか?」
「へ? あ、はい! 貰った鎮痛剤が効いているようで立って歩けると言っています」
「そうですか、ですが渡した鎮痛剤はモルヒネと言ってあまり常用は出来ません。帰られたら専門の医師に見せて治療を受けて下さい」
医師? 治療? コウキ様の国では王室直属の御典医だけではなく、一般の兵士ですら医師に見せる制度があるのだろうか。王国では一般兵士は怪我をした場合、仲間同士で看病するか教会から派遣された治癒術士が面倒を見る。その為に大怪我をした場合の生存率はあまり高くない。
北の帝国では少数ながら医師がいるそうだが、それでも生存率は高いとは言えない。もし仮に国が負傷した兵士の面倒を見るとなれば莫大な費用が掛かる計算になるが、コウキ様の国ではそれすらも負担できるほど大国なのだろうか。
「よろしければ、僕達の医療部隊を呼び出しましょうか?」
コウキ様の言葉に何度目か分からない驚きの声を上げそうになるのを堪える。専門の医療隊が存在しているなんてやはり王国とは違いすぎる! これ以上ここでノアの人達に借りを作る訳に行かない、一度砦に帰るべきではないか?
それに砦に駐屯している王国最強の黒金騎士団なら何かあった場合にも対応できるはず。実際、国交についての話し合いの為に王都にも連絡しなければならない。私はそう考えて、なるべく自然にノアの人達が砦へ来るように話を持っていく。
「───砦に帰ったらお願いします。それと先ほどの提案も砦に一旦帰ってからで宜しいでしょうか? 陛下と連絡を取らなければいけませんし……」
「構いません、我々もその方が宜しいかと思います」
砦へ来ることを了承してくれた指揮官の言葉にホッとしながら、私は負傷者を馬車に乗せるよう伝えて自分は空いている馬に跨った。
----荒川功樹 視点----
砦に向かって移動している最中に父さんから映像通信が入る。
「騎士の治療は兎も角、なんで医療隊まで呼ぶ必要があるんだ? 向こうで勝手にやらせればいいだろ」
「ここで好印象を与えておけば交渉が有利になると思うよ? それに苦しんでいる人を見捨てるのも嫌だし」
軍人だった父さんには見慣れている光景かもしれないが、俺は血を流しながら苦しんでいる人をほっとけない。しかも自分の命を顧みず主君を守った騎士達なのだからその勇姿を称えるべきだと思う。そう言うと父さんは『そんなモンか』と言っていたが、やはり軍に所属していた人間には分かり難い感情なのだろう。それよりもだ───。
「父さん、出発前に渡された『この服』だけど……。今更ながらで悪いけど何コレ!? なんで僕が軍服を着る必要があるのさ。しかも挨拶の方法が敬礼だし、服も皆同じかと思ってたら父さん達は迷彩服じゃん」
「馬鹿、格好良いだろう? それなアメリカ海軍の『ドレスホワイト』っていう礼装を元に作った、TMNの正式な1種礼装だ。因みに指揮官以上のクラスしか着用できない規則だからな? 階級章もちゃんと付いていて、お前とアリスちゃん達は『特務少将』扱いだぞ!」
「少将ってアホじゃん! 何考えてるの? というか父さん達300人ちょいしか居ないのに少将って階級インフレしてるよ」
もう駄目だ、最近はちょっと見直して『父さん』と呼んで居たけどやっぱりマッチョで良いと思う。いっその事『ゴリマッチョ』にしてやろうか? そんな事を密かに考えているとマッチョが更にアホみたいな事を言い出した。
「お前なに言ってるんだ? ノアの構成員は現在10万人で軍属は8万だぞ、実際の戦闘指揮権を渡す事は無いが建前上は旅団規模の戦力を指揮する事になる。まぁ……お前なら上手くやりそうだからその内、『独立混成旅団』を任せるかもな」
そっちこそ何言ってるんだよ、いつのまにそんなに増えたんだ。母さんから聞いたときは『2万名くらいね』とか言っていたのに増えすぎだろうが。しかもマッチョは『俺は軍事統合管理官でTMNの役職は総司令官だ!』なんて自慢しているが、総司令官がノコノコ異世界に来るな。地球で椅子に座って踏ん反り返ってて下さいよ、それはそれで腹が立つがな。
しかし最近になって何故かクレアさんが『敬礼』の仕方を俺にレクチャーしに来てた理由が分かった、少将を押し付ける為だったのか。俺はてっきり、ふざけて父さんに敬礼して見せた時のだらしなさにイラッとしたせいだと思っていた。
「俺も聞きたい事があるんだが、お前なんで『エルフ』とか『サンドワーム』とか知ってるんだ?」
そうだった、俺が転生した世界は俗にいう『サブカルチャー文化』特に『オタク文化』は存在していない。信吾と最初に逢った頃に『アニメとか見ないの?』と聞いた時に『フヒ? そんな子供向けの番組なんて見ないよ』と返されて衝撃を受けた。
漫画とかも殆ど無く、俺が子供の頃から暇な時は絵を書いていたのもそれが原因だ。そんな中でエルフだのドラゴンだのは一部の物好きが『神話』のような小難しい話をする時にしか出てこないので、認知度はかなり低い。というか多分神話にもエルフとかサンドワームなんか出てこないと思う。
どうするか? 『前世で覚えました』なんて言ったら病院送りになるだろうし上手い言い訳が思いつかない。ここは母さん風にゴリ押ししてみるか……。
「父さん、気にしないで。いいよね? 気にしないで」
「お、おう」
俺の笑顔の奥に母さんの姿を垣間見たのか、即答してくるマッチョに苦笑しつつ死ぬ前の事を思い出す。相変わらず自分の事に関わる内容は思い出せないが『楽しかった』という事だけは強烈に覚えている。
一体過去の俺は何をそんなに楽しんでいたのか分からないが、きっと幸福な人生を送っていたんだと思う。感傷に浸っていると、まだ切れていない通信で俺の表情を見たマッチョが優しい顔で声を掛けてくる。
「どんな経緯で知ったのか言いたく無いならそれで良い。ただその知識は大事にしろよ? それは恐らくお前しか持っていない貴重なモンだ、そんなシケた面しないで胸を張れ」
「うん」
珍しく───本当に珍しく父親らしい事を言ってきたマッチョに、当分は『ゴリマッチョ』は止めてやろうと思いながら、俺は見えてきた砦の中を想像して気持ちを切り替えた。
砦の入り口で一旦止まると、どうやら俺達の姿を見た騎士団がどういった集団なのかを王女さんに聞いているようだった。確かメルなんとか王国の第4王女でアドリエンヌと名乗っていた筈だ、それなりに地位がある人だからすんなり通してもらえると考えていたが、どうやら違うようだ。
「ですから姫様! そのノアと名乗る者達を武装解除しない限り、砦へ入れる事は出来ません」
「そこをどうにかお願いしたいのです」
「無理です。現在は安定していますが我国が戦時体制なのはご存知でしょう? 特にあのような悪魔を模した甲冑を纏っている者など信用……むぐぅ」
アドリエンヌさん……長いからアディーで良いか、アディーさんが何故か慌てたように騎士の口を手で押さえているがどうしたんだ? 悪魔云々は俺のスーツの事だと思うが、信吾と2人で外観をデザインしたこのスーツは格好良いと思う。
前世の知識から『サタナキア』という悪魔をモデルにスラスター位置を調整してある俺のスーツは、厳ついながらも格好良い絶妙な出来だと自負している。しかし埒が明かないな、マッチョに通信してスーツの解除を提案するか。
「父さん、スーツ解除したら? どうせ小火器とか持ってきてるでしょ」
「それが早いな。俺が話を通すが、もし生身で砦に入る事になったら絶対にコートとジョナサンの傍を離れるなよ。あいつ等は室内戦闘なら俺より強いから傍にいれば安全だ。それと多分、一芝居打つからお前は黙ってろ」
ジョナサンさんは大人しそうな学者的な人だから想像出来ないが、顔が傷だらけのコートさんは絶対に強いと思う。前に『昔釣りに行った時にグリズリーに出会ってな、ナイフがあって良かったよ』とか笑いながら言っていたのを覚えている。
熊にナイフで挑んで帰って来るような人なんだから、銃を装備しているならエルフの騎士が襲ってきてもどうにかしてくれるだろう。
「どうやらスーツの件で揉めているようなので、中に入る人間はスーツを解除する。それで良いかな?」
スーツのコックピットを開けて、騎士の人に笑顔でそう告げたマッチョにアディーさんは申し訳なさそうに謝ってくる。
「申し訳ありません、感謝します」
「何を言っている、全面的な武装解除が条件だ!」
頭を下げるアディーさんの後ろから騎士が怒鳴るが大丈夫なのか? 確かに俺達は全員武装した集団とはいえ、あくまで国交を持つ為に話し合いに訪れた『使節団』だぞ。この世界では外交とかって重要視されていないのか? 俺が疑問に思っているとマッチョが低い声で騎士に向かって言い放った。
「そちらの言い分は把握した。では先遣隊の我々を拒絶するという事で良いのだな? これから本隊に戻って『接触には成功したが、その場に居合わせた騎士が拒絶したので引き返した』と報告する事にする。後日、本隊が貴国に対してどのような『判断』を下すのか我々は関知しない」
なるほど、一芝居ってこういう事か。砲艦外交とまでは言わないが結構強気に出たな、母さんから釘を刺されているので実際に武力で解決はしないが騎士からしてみれば、『じゃあ帰るわ、でも後から戦争になっても良いんだよね?』と言われたのに等しい。騎士の顔がみるみる青ざめていくのが分かる。
それもそうだろう……さっき戦時体制とか言ってたから既にどこかと戦争をしている筈だ。そんな中で自分が原因で敵が増えるかもしれない事態に陥っているのだ、俺なら間違いなく漏らす。さらにマッチョは止めの一言を告げる。
「撤収準備! ノア島まで引き返すぞ。それでは殿下、残念ながら我々はこれで失礼する」
そう言って振り返るマッチョの意を酌んだ隊員達も撤収を始めるフリをするので、俺もスラスターを点火して浮き上がる。その時、青ざめたまま黙っていた騎士が苦渋の決断をして口を開いた。
「ぐっ……、中に入るのが5名までなら武装を認める。残りは外で待機して欲しい、我々も姫様の身を守る必要があるのだ───理解してくれ」
なんの事はない、この騎士もサンドワームと戦った騎士と同じようにアディーさんを守る事に必死だったのだ。俺は多少の罪悪感を覚えながら砦の中へ入っていった。
砦の中に入ると、中央の広場みたいな所でスーツを解除するように言われたので大人しく従う。解除すると、ブルパップ式のアサルトライフルを持ったコートさんとジョナサンさんがサッと俺の脇に走り寄って来て安全を確保してくれる。
なんかこういう扱いを受けると自分が重要人物になったようで少し気恥ずかしいが、マッチョから命令されているので仕方ない。
「我々は4人が武装する、白の軍服を着ている人間はこちらの護衛目標なので武装しない。最大限の譲歩のつもりなのだが、どうだ?」
「お心遣い感謝する。先ほどの態度は改めて謝罪したい」
騎士が幾分態度を和らげて話しかけてくるので俺も表情を緩めながら、『お互い様です』と相槌を打つ。アディーさんの案内で砦の建物の中に入ったのだが、なんともファンタジーな感じが溢れている場所だった。
廊下の要所にはバトルフックのような槍を持っている騎士が立っているのが見受けられるが、アレは実践で役に立つのか? 俺の知識だと儀礼用の武器に近かった筈だ。色々な所を眺めながら歩いていると、『こちらでお待ちください』と言われて豪華な部屋に通された。
「王都と連絡を取ってきますので、こちらでお待ち下さい。すぐにメイドがお茶の準備を致しますのでお寛ぎ下さいね」
「分かった。だが、あまり遅くなると外の部下が心配するから定期的に1人伝令を出したい、許可を貰えるか?」
「はい、その時は後ろに控えている騎士……クロヴィエンスにお伝え下さい。外までご案内します」
そう言ってからアディーさんは退室していった。あのこちらを警戒していた騎士はクロヴィエンスさんと言うのか、彼の方を見ると石像のように腕を組んで固まっている。マッチョと同じで筋肉質だが、クロヴィエンスさんのほうがなんとなく格好いい。チラチラと見つめた後、暇になったのでマッチョにここに来るまでに気になっていた事を質問してみた。
「ねぇ、ここまで来る時に村あったよね? なんであんなに多く点在してるんだろ、もうちょっと纏めたほうが移動とか商売で効率的じゃない?」
俺の質問にマッチョはニヤリとしながら答えてきた。
「よく気づいたな。あれ村じゃねぇぞ、上手いこと偽装してるが村に見せかけた偽装陣地だ。恐らくだが遅延作戦用に使われる使い捨てのトーチカみたいなモンだろ、村の癖にやけに警備隊の数も多かったしな。さっき『戦時体制』とか言ってたからソレに関係してる思うぞ」
「ゴホンッ」
マッチョの説明を聞いていると、後ろからクロヴィエンスさんの咳払いが聞こえてくる。自国の秘匿しておきたい情報を堂々と話されると良い気分はしないのだろう。微妙な雰囲気になってしまったので暫く口を閉じてると、ノックの音と共にお茶をワゴンに載せたメイドさんが入室してきた。
本物のメイドさんがお茶を淹れている姿を感動しながら眺めていると、トレンチに載せたティーカップが『6客』運ばれて来た。なんで6客? 訳が分からず眺めているとクロヴィエンスさんがテーブルの前に来た。
「どれを?」
「ではこれをお願いしたい」
クロヴィエンスさんの一言にマッチョがトレンチの上から適当に選んだカップを渡している。そうか毒見か! なるほど俺達が適当に選んだカップから飲む事で『毒なんか入ってないぞ』ってアピールしているのか。そのままコクコクと中身を飲み干したクロヴィエンスさんは最後に『お寛ぎ下さい』と言い残して元の場所に戻っていった。
なんか凄いぞ、公式なマナーでこういうのは一般的なのか? しかもそれを普通にこなすマッチョ……父さん格好良いな。尊敬の眼差しで父さんを見ていると、突然俺の真後ろに立っていたコートさんとジョナサンさんに命令を下す。
「コート! ジョナサン! トリガーから指を離せ。武器を背中に回して閲兵時の姿勢を取れ」
その言葉に、今までは直ぐにライフルを撃てそうな体勢だった2人が直立不動の姿勢になる。軍靴を鳴らせてビシッとする姿は、後ろのクロヴィエンスさんにも負けないくらい格好良い。
「良く訓練されている精兵だな。軍事面では我国と大幅に違うようだが命令を即座に行動に移すとは───、我国の騎士達にも見習わせたい」
「自慢の部下達だ。だが貴国の兵士も十分な精兵だろう、サンドワームと言ったか? あれは貴国では討伐が難しい生物だったように見受けられた。そんな相手に誰一人として撤退せずにその場に踏み止まって任務を遂行していた、中々出来るものではない」
父さんとクロヴィエンスさんがお互いの兵士達を褒めあっている。なんというか……政治的な会話っていうのはこういう事を指すのだろうか? 俺は話に入ることが出来ずにひたすらアディーさんが早く帰ってくるのを願っていた。
2時間ほど待っただろうか? 3回お茶のお代わりをした所で息を切らせたアディーさんが入室してきた。
「お待たせして申し訳ありません! ただいま王都との連絡を終えました」
その姿に今まで見た目上は仲良く会話していた父さんとクロヴィエンスさんの表情が引き締まる。これからアディーさんが話す内容次第では王国との関係を本気で考える必要が出てくるのだ。固唾を呑んでアディーさんの言葉に耳を傾ける。
「結論から申しますとメルカヴァ王国は貴国の提案を受け入れる用意があります。ですが直ぐにという訳には参りません。後日、公式な外交使節団として王都へお招き致しますので、その時に詳しいお話をしたいと陛下は申しておりました」
「構わない。それで正確にはいつ頃の予定かな?」
「30日後にもう一度この砦に来て頂けると幸いです」
30日後か……まぁ良いんじゃないか? 俺は目で父さんに『良いと思う』と合図を送る。それを汲み取ったのか一度頷いてからアディーさんに返事を返す。
「分かった、それでは30日後にお会いしよう」
そう言ってから父さんは直ぐに席を立ち、『本隊に連絡するので失礼する』と言ってクロヴィエンスさんに外までの案内を頼んだ。そういう『用が済んだらさっさと帰る』というスタイルはあまり良くないと思うんだが、ここで注意してもしょうがないので黙って後ろを付いていく。
父さんは広場でスーツを装着しながら、アディーさんに次に来る時の話を始めた。
「次回ここに来る時は先に部下を1名連絡代わりに派遣する。その時にこちらの使節団の詳しい人数を知らせる事になると思うが、構わないか?」
「構いません、中小国とはいえ我国でも使節団を十分にお迎えする事は可能です」
「そうか、失礼した。それではまた後日」
父さんは、あっという間に会話を終わらせて偵察班全員に撤収を命令した。来た時とは違い、俺以外の全員がスーツの限界まで速度を上げて街道を爆走している。さすがに王国側に失礼だと思って父さんに注意する為に通信を送る。
「父さん、さすがにあの態度は失礼だと思うよ? もうちょっと会談の続きしたほうが良かったんじゃないの」
「功樹、交渉は母さんの役目だ。急いで帰るぞ!」
なに言ってるんだ? おいマッチョ、交渉は30日後なのにどんだけ張り切ってるんだよ。俺が『はぁ?』見たいな顔をしている事に気づいたのかマッチョは声を張り上げる。
「馬鹿野郎! 母さんは地球にいるんだぞ!? 30日後っていうのは30時間後って事だ、理解したならお前だけでもノア島に帰ってゲートを潜れ。今こそ音速を超えて飛行しろ」
「お、おおお。了解!」
俺は慌ててパネルの横にある赤いスイッチを押して───、音の壁を突き抜けた。
急激に加速するスーツの中で、ふと疑問が浮かぶ。コートさんとジョナサンさんの更に後ろに居た、完全に空気だったあの5人目の隊員の人はなんて名前なのだろうか?
ちょっとダラダラと話が進みましたが、次回からは一気にお話が進みます。
ちなみに次回は、美紀さん・クレアさん・エリスさんの怖い女性陣3人が交渉を頑張ります。ロベルタ先生もでますよ!




