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ペットがヤンデレシリーズ

逆ハー作ってる妹のせいで引きこもったはいいが、死亡フラグは折れてくれなかった。どうしよう。

作者: 白つくし

前作でのたくさんの感想、お気に入り登録、ありがとうございました!

―――――――いつからだろう。


 誰も訪ねることのないはずの私の部屋に、ノックが聞こえ始めたのは。



――――――――いつからだろう。


 とんとん、と聞こえてきたノックが、ドンドン、になったのは。



―――――――――いつからだろう。


 ドンドン、バンバン、げしげし、と聞こえてくるノックと一緒に、罵声が聞こえ始めるようになったのは。



 どうもこんにちは。平凡代表こと、私です。

 一応名前は鈴と言いますが、別に覚えてなくても結構です。

 どうせ「愛菜ちゃんのお姉さん」になるので。へっ。結局は顔なんだよ、顔。


 今は訳あって、クソでかい豪邸の一部屋に引きこもってます。


 先程から「ドアのノック音」「人の罵声」という幻聴が聞こえるので、ペコたんと一緒に布団をかぶって耳を塞いでいる所存です。

 相変わらずペコたんはもふもふしている。さっきからもふもふな羽毛を、私にすりすりしてくるのだ。

 なにこれ可愛い。


 いやー、困った困った。

 最近怖いもの見たさに、ホラゲーなどというものをしてしまったせいだろう。

 プレイ中は怖かったが、真相エンドの、ラストに出てくる女の子の霊のストーリーには泣けた。

―――――――幼いころから、自分より出来のいい妹と両親から虐げられ、比べられ、女の子は肩身の狭い思いで生きてきた。

 大人になった女の子は、やっとできた、自分自身を愛してくれた婚約者を、妹に奪われてしまう。

 愛していた婚約者にはバッサリと切られ、婚約者は妹の夫になってしまった。最低なクズ男だ。くたばれと何度連呼したことか。

 何もかも妹に奪われた女の子は怒り、嘆き、悲しみ、精神を病んでしまい、妹を殺害することを決意する。

 

 殺害を決行するその日、女の子は「妹とその結婚相手」がいる家に向かう。

 いざ、というその時、女の子は悲鳴を聞き付けた「妹の夫」に運悪く見つかってしまったのだ。

 女の子はその後、逆上した妹の夫に殺されてしまった。やっぱりクズ男はクズ男だったのだ。何も殺さなくてもいいじゃないか。せめて通報するとかさ!

 可哀そうに。女の子は愛する元婚約者に殺されてしまったのだ。

 妹殺害計画は失敗し、挙句の果てに愛する人に殺されてしまい、女の子は悪霊になってしまう……。


――――――といったストーリーだった。デジャブ感が満載だったこのストーリーに、私は途中から号泣した。

 感情移入しまくったのだ。私と女の子は、あまりにも境遇が似ている。

 わかる、わかるよ。辛かったね、寂しかったよね、苦しかったよね。

 生きていたら、私たち友達になれたはずだよ、きっと。

 「妹が魔王同盟」でも結ぼうよ。ワラ人形でも作って、丑三つ時に神社に行って五寸釘でも打ったら、きっと気分はスッキリすると思うんだ!

 その後に書かれていた「妹への復讐ストーリー」には、興奮した。

 もっとだ、もっとやれ。「妹」には、その程度の復讐じゃあ足りない!クズ男には慈悲などいらん!…といった具合に、かなり盛り上がった。

 ちなみに、精神を病んでいたせいで精神年齢が逆戻りし、女性ではなく少女の霊になったらしい。

 ゲーム終盤では、あんなに恐ろしかったドロドロ血まみれ少女がとても愛しく感じられた。

 おどろおどろしい効果音と共に出てくる女の子に、

「そんなに私を驚かせたかったのか、この~。愛いやつめ☆」

 と和んでしまった。

 歪にゆがんでいる口元が、血がドロドロとタレ流れている瞳が、ぼさぼさに振り乱れた髪が、何とも愛らしい。

 フルコンプしてしまったのが惜しいぐらいだ。続編は出ないだろうか。

 できれば「復讐」もので。対象相手は、言わずもがな、だ。


 ところで、やっぱり幻聴が止まない。どうすればいいのだろうか。 



「おいっ、鈴出てこいやあっ!さっさと出てこねぇとこのドアぶち壊すぞっ!あぁん?」



 ほら、こうやって「お前はどこぞのヤンキーか?」とツッコミたくなるようなセリフが聞こえてくる。幻聴だ、幻聴。

 ドアノブがガチャガチャいっていることなんて知らない、知らない知らない知らない。



「鈴、この僕がお願いしてるのに、出てこないとは何事ですか?さっさと出てきなさい」



 お前はどれだけ俺様なんだ。敬語キャラの上に俺様とかもう末期ですよ。

 あなたの場合「お願い」ではなく「命令」でしょうが。

 きっと今のも幻聴なんだ。

 あのねちねち眼鏡が、わざわざ私の部屋なんかに来るはずがない。

 ドアがげしげしいってるのなんて聞こえない。いやまさか、ねちねち眼鏡が蹴っている、なんてことはないよね?


 私的敬語キャラは、女性の部屋のドアを蹴る、なんてことはしないのです。

 お前は敬語キャラを舐めきっている。一回人生やり直せ。できれば平凡な一般家庭に生まれ、ほのぼのと暮らしていってください。

 まちがっても「監禁系ヤンデレ」にはなりませんように。お願いします。



「おねえ…ちゃん、でて、きて?」



「…っ、……はるか……きゅん……だと?」



 あまりのことについ声が漏れた。

 あのスウィートエンジェルの声まで聞こえるとは……!私はついに精神を病んでしまったのだろうか。


 うへへ、はるかきゅんに、「おねえちゃん」て言われちゃったよ!「おねえちゃん」て!


 幻聴だけど。


 ペコたんが、急にくちばしで頬をつついてきた。地味に痛い。

 嫉妬だろうか。可愛いな、この。


 ごめん、ごめんて。浮気とちゃうのよ。

 ほら、天使は天使だし!中身は「ストーカー系ヤンデレ」だし。見てるだけなのよ、見てるだけ。



「私のダーリンはペコたんだからねっ!」



「ぴぃーよっ!りんちゃん、だいちゅきちゅき!ペコたんだけっ、だーけっ!」



 ペコたんは、「当然だ」といった風に鳴いた。

 ペコたんは最近、教えてもいないのに「ペコたんだけ」という言葉を覚えた。

 何が「ペコたんだけ」なんだろうか?うーん。


 機嫌を直したペコたんは、もっふもふな羽毛を押し付けてくる。

 撫でてくれ、という合図だ。

 私の顔は今、さぞやでれでれしていることだろう。でへへ、ペコたんマジ天使。



 ……さっきからドアがドンドン、バンバン響いているのは、はるかきゅんのせいではないと信じたい。

 はるかきゅんは、暴力なんかとは無縁のいい子なんだよ。



 三人もの男から暴力を受け続けたドアは、みしみしいってきた……気がする。可哀そうに。


 だんだんと罵声が大きくなってくる。ドアの蝶番がそろそろ限界なのではないだろうか。



 ドンドン、バシバシ、げしげし、ガチャガチャ。



 幻聴にしてはあまりにもはっきりとしすぎているこの音に、私は恐ろしいことを考えてしまった。


 もし、これが幻聴ではなく現実で、ドアがこじ開けられたとしたら。


 もし、妹信者であるヤンデレ兄弟に捕まったとしたら。


 もし、まだ私の死亡フラグが残っていたとしたら。

 


「絶対死亡フラグ残ってるよッ!ドアみしみしいってるしっ!死ぬ死ぬ、捕まったら、ヤンデレに殺されるっ!」



 絶対に出たくない!頑張れ、ドア!



 ドンドン、バシバシ、げしげし、ガチャガチャ、バキッ、ドダン!



 …………今、バキッ、やらドダン!などという効果音が聞こえてきたが、どういう意味なのだろうか。ドアのあたりから聞こえてきたのだが、私にはよくわからない。



 おそるおそる布団から顔を出すと、………………蝶番が見事にぶっ壊れ、何者かの足によって無残に踏まれているドアの姿があった。

 何て惨い。あとで絶対に修復させてやる。このやろう。

 ドアたん、いままでありがとう。

 私は意を決して、ヤンデレ三兄弟と向き合う。ペコたんは、私の肩に乗りながら三兄弟を威嚇している。

 あああ、威嚇している姿も可愛いよペコたんっ!ペコたんをこんな男たちに見せたくないっ!



「やっとでたな、鈴。俺たちを無視するなんて、いい度胸してるじゃねぇか、え?」



「今回ばかりはコレに賛成です。本当に困った人ですね」



「やっと、でた」(にぱぁ)



 人の部屋のドアをこじ開けたくせに、男たちは口勝手に思い思いのことを言っていく。

 にぱっと笑ってるはるかきゅんマジ天使っ!

 関わりたくはないが、鑑賞したいくらいだ。鑑賞ね。

 しかしねちねち眼鏡、実の弟に「コレ」とはないだろう。「コレ」とは。いくら単細胞だからといって、可哀そうだ(笑)


 あんなに感じていた恐怖は、すでに怒りの域に達している。ドアを壊されて怒っているのだ。

 だったら、壊される前にドア開けとけよ、なんて言葉は聞こえない。開けたら最後、何をされるのか分からなかったので、怖かったのだ。こちらは、花の十代だ。乙女を舐めんな!


「妹にぞっこんな皆様は、今回どういったご用件で私のドアをこじ開けやがったのでしょうか?つまらない要件なのでしたら、それなりの覚悟を持ってもらわなくてはいけませんが」



 ついでに、あとでドアを修復してくださいね、と足しておく。

 たかがドア。されどもドア。ドアというのは、個人のプライバシーにおけるもっとも重要なものなのだ。


 ねちねち眼鏡と単細胞は、微妙な顔をして私を見てくる。はるかきゅんは、始終笑顔だ。


 どうしたのだろうか?

 いつものこいつららしくない。


 ―――――――――嫌な予感しかしないのは、私だけだろうか?



「鈴、僕はすべて勘違いしていました。謝らせてください。…僕は始め、あの女が家事を全部しているのだと思っていました。…ですが、君が引きこもって以来、いつもは当たり前のように清潔だった衣服が、いつもは当たり前のように出ていた食事が、「当たり前」だと思っていたことが「当たり前」ではなくなったのです。あの女に掛け合ってみたところ、実は君がすべてをやってくれていた、と聞きました。そこで初めて君のありがたみが分かったといいますか……早く戻ってきなさい」



 あのねちねち眼鏡が、私に「皮肉気ではない」笑顔を向けてくる。

 わぁお、不気味だ……思わず鳥肌が立ってしまった。



「僕は、あの女からすべて聞き出しました。もう邪魔な女はいません。もう引きこもる理由などないのですよ?」



 鳥肌になった腕をさすりながら、はて、と思った。

 ねちねち眼鏡が先程から言っている「あの女」とは、もしや……。



「つかぬ事を窺いますが、あの女、とは…?」



「ああ、口にするのも汚らわしい女ですよ。そう……君の妹です。あんな女に一時とはいえ惚れていたなんて……僕は大バカ者ですね」



 ねちねち眼鏡が、妹信者でなくなった…だと?

 私の中の危険感知ブザーが、さっきからぶーぶーいっているのが聞こえる。キケン、逃げろと叫んでいる。

 呆然とする私をよそに、今度は単細胞が話しかけた。



「……チッ…………悪かった…。本当のことをあの女から聞いた。族のやつらにも言っておいたし、もう睨まれることもねぇだろ。…ハァ、………っつ、でもよっ、何で俺を無視したんだよ。あんなに呼んだのに。……早く家事しに戻ってこいよ」



 単細胞、こやつも妹を「あの女」呼ばわりしている。

 何なんだコイツ。「俺を無視しないで」とか、かまってちゃんかよ。うざい。

 まぁ、もう族に睨まれないってことだけは嬉しいかな。



「おねえ、ちゃん。おむ、らいすっ。たべたい!」



 はるかきゅんは、私の袖をにぎにぎしながら可愛らしく言ってきた。

 もちろんですっ!作りますとも今すぐにッ!

 はるかきゅんの頼みなら、私はなんだって作る!

 ペコたんが肩から、恨みがましくこちらを見てきているなんて、知らない。

 だから、ダーリンはペコたんだけだってー。


 ……しかし、この嫌われようはどうしたのだろうか。一体何をしたのだ、妹よ。

 こちらに恋愛フラグが向かっている気がしないでもないのだが………。ふぅ、困った。

 私の永遠の恋人は、ペコたんだけなのだよ。



「……みなさん、ちなみに私の妹、愛菜はどこにいったのでしょうか?」



「ああ、追い出しましたよ。あの女のことだから、なんとかやってるでしょう。ついでに縁を切っときました。さっぱりしましたよ」



 え、えええええ?嘘だろ、あの妹を追い出したというのかこの兄弟は!

 そりゃあさっぱりするだろうけどさ……。

 強欲を絵に描いたような妹のことだ。黙ってこの豪邸を出ることなど、ありえない。しかも、縁なんて、なにがなんでも切りそうにないのに。



「何をしたんだ……この兄弟は」



「あ?なんか言ったか、鈴」



「イエ、ナニモ」



 これ以上ここに居るとキケン。

 ぞわぞわとした危険を感じた私は、溜まりに溜まった皿、洗濯物、ゴミ、その他もろもろをどうにかし、オムライスをつくり、ドアを壊された状態のままなので、客室に部屋を移すとした。

 私がいなかった時の食事は、出前で済ませていたらしい。できれば、これからもそうしていただきたいのだが、そうはいかないだろう。


 それより、私に向かいかけている三兄弟の恋愛フラグをどうにかしなくてはならない。

 あの三兄弟は、私に依存しかけてる気がするのだ。家事的に。あくまで気だが。

 ねちねち眼鏡がデレた。

 単細胞が私に暴言を吐かなくなった。

 はるかきゅんが、にぱ、と笑いながら私を「おねえちゃん」と呼んだ。

 たかがそれだけのことだが、私にとっては十分の脅威だ。

 自惚れだと思われてもいい。私は、自分が安全に生きるために必死なのだ。


 ヤンデレという生き物は、いつ、どこで、何をするかわからない。

 いきなり後ろから刺されたり、毒を盛られたり、食べられたりするのだ!(食事的な意味で)


 私は、何とかフラグがこちらに向かってくるのを阻止しなければならない。

 私と、ペコたんの、平和で安全な生活のためにっ!


 ……しかし、今日は疲れた。とりあえず、これからのことは明日考えよう。

 私は決して心地よくはない眠りについた。


 その夜、悪夢を見たのは言うまでもない。





















「ふふ、ほんと可愛いんだから。鈴は」



 真夜中の午前二時頃、一人の男が鈴の枕元に立っていた。

 男は口元に異様な笑みを湛え、鈴を眺めている。


 男は手慣れた手つきで布団をめくり、鈴の額に、頬に、唇を落とす。その姿はまるで、長年連れ添っている恋人同士そのものだった。

 そんなことをされているのにも拘わらず、一向に起きない鈴。

 そんな鈴を、男はいっそう愛おしそうに撫でた。 



「………だから、あの男たちが目を付けちゃったじゃないか。……もう傍観などしていられないねぇ」



 鈴の耳元に唇を寄せ、男は何度も「愛している」と呟く。何度も何度も何度も。その後男はため息をつき、ニヤリと嗤った。



「鈴、大好きだよ。君は私だけ。私だけを見ていればいい。私だけを愛していればいい。私だけを感じていればいいんだ。私だけしか近づいてはいけないんだよ。私以外なんて……絶対に許さないからね……………ふふ」






――――――――――――――さぁ、私の出番だ。鈴を誰にも渡しはしない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

言葉の意味を間違って使っている、誤字、脱字など、教えてくださると嬉しいです。

いつか、妹視点を書こうかな、と。短いとは思いますが、どこまでも身勝手な妹の転落劇を書き、すっきりしたい(笑)

では、失礼しました!

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[一言] 続きが気になる…!( >Д<;)
[気になる点] ヤンデレ共の掌返しが上から目線過ぎて腹立つ ぶん殴ったれ!!
[良い点] 面白い。 [気になる点] もっと読みたい [一言] 続きがほしいです
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