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僕の章

初めまして。小説を初投稿させていただきました、サイパンと申します。拙い文でお目汚しかとは思いますが……。楽しんでいただけたらと思います。

 僕には彼女がいる。といっても、正式にお付き合いしてるんじゃない。僕の妄想の中だけの彼女。ただし、実在する。しかも、僕の隣の席。わーい、妄想し放題だー。なんてくだらないことを言って気分を盛り上げてみようという、無駄な試みをしてみる。一応、今は授業中なのだけれど、「催眠術師」の異名を持つ国語教師の話をまともに聞いていられるのは、ガリ勉くらいだ。僕は残念ながらガリ勉じゃないし、むしろガリ勉になれたらいいなとか思うくらいの成績を保持し続けている人間なので、授業は適当に聞き流している。聞き流して、あとで後悔する。僕は実にアホです。

 隣の席の彼女、葉山桜苗はやまさなえは、綺麗な横顔を無防備にさらけ出してうつらうつらとしている。それなりに成績の良い彼女だが、別にガリ勉ではない。よって彼女も居眠り組に仲間入り。ようこそ歓迎します、とか心の中で言ってみる。

 桜苗、と呼ぶのは妄想と胸の中だけ。実際に呼ぶときは「葉山さん」。たまーに間違えそうになって必死で誤魔化す。誤魔化せているかどうかは……考えないでおこう。僕の乏しい語彙力と表現力では結果などはなから見えている。

 これ以上なくつまらない国語の授業も、気がつけば終盤に差し掛かっている。隣の桜苗はいつの間にか起きていて、ノートにシャーペンを走らせていた。特に上手いわけでもないけど、はっきりとしていて読みやすい字。おおっと。そんなことを考えているのも大切だが、ノートをとることも充分に大切だ。気持ちを入れ替えて、ノートにカキカキ……。

 話を聞くのもつまらないが、板書するのもかなりつまらない。建前だけは真面目にやりつつ、横目で桜苗を盗み見る。と、既に板書を終えて再び眠りに落ちていた。板書終わるの早くないか……。というか、終わってすぐ寝るって、よっぽど眠いんだろうなあ……。寝顔見られたから、別に良いけど。

 内容を見事に聞き流した僕は、桜苗の寝顔を充分に堪能して授業の終わりを迎えた。ふふふ……。ノートはちゃんととったけど、どういう意味なのかは全くわからない! 自慢できないけどな!

 ふむ。どうも最近、頭が狂ってしょうがない。そろそろ病院に赴いて、お医者さんにかかろうかな? 僕みたいな患者の相手をするお医者さんがとっても可哀想に思えるけれど。

 一日の一番最後、つまり六時間目の授業が終わって、全員が解放されたような空気に――――包まれなかった。

「いきなりで申し訳ないんですが、ちょっと話があるので聞いてくださーい」

 国語教師と入れ違いに入って来た担任の声で、その場の全員が口を揃えて不満の意を表する。しかし担任はベテランなだけあって、生徒の抗議など聞こえていないかのようににこやかに対応する。これだから大人は嫌いだ! なんて思ってもないことを心の中で叫びながらため息をつく。大人を嫌いにはならないが、帰る時間が遅くなるのは嫌だ。ちなみに僕らを引き止めたのが桜苗だったら、僕は喜んでその場にとどまって、必要とあらば命さえ差しだ……すのはちょっと止めておこうか、うん。いや、自分の命がなくなるのは構わないんだけど、桜苗に気持ち悪がられたら嫌だからさ。え? もう充分気持ち悪いって? 君たちに気持ち悪がられるのは別に何とも思わないさ! 桜苗が気持ち悪いと思わなければね! ……末期症状が出始めたかな。

 さっさと部活に行きたい、もしくはさっさと家に帰りたい僕らを引き止めて担任が話し出したのは、すぐ近くで殺人事件が起きたから気をつけろというものだった。正直、どうでもいい。みんなもそんな感じの表情をしている。けれど担任が「犯人は現場から逃げて、まだ捕まっていない」と告げると、何人かは表情を変えた。僕は特に何とも思わなかったし、桜苗の表情も変わらなかった。いつも通り、本人は何も思っていないんだろうが何故か不機嫌に見えてしまう真顔で話を聞いている。ただ、内心で何を思っているかは知らない。何を考えてるかわかる能力を持ってたら、もっと早くから有効的に活用している。活用方法は、まあ、秘密ってことで。

それにしても、殺人とは……。詳しい場所を担任に訊いたら、うちの中学校の一本向こうの道だということで。それを聞いたら、さすがに怖くなった。そんなに身近で殺人が起きたとは思わなかった。僕は少し顔をしかめたが、桜苗はそれを聞いてもなお無表情でぼんやりとしていた。もしかして話を聞いてないのか? いや、そんなことはないはずだ。だって、ほら、ため息をついた。そして呟いた。「誰が死んだんだろう」って。さあ、誰が死んだんだろうね?

 なんの連絡もないということは、僕の家族ではなさそうだ。そして、多分、このクラスの誰の家族でもない。だから、実感が沸かない。だって直接は関係ないからね。もしかしたら通学路の途中でお通夜の光景をみかけるかもしれないけど、それで終わりだ。ここの人が死んじゃったのかなって、それだけ。非情な奴だとか言わないでほしい。君たちだって知らない人のために心を痛めたりはしないだろう? 通りがかりに見かけたお通夜で、その主役の人に同情したりしないだろう? だから責めないでほしいなあ。

 何があるかわからないから、気をつけて帰るようにと、担任教師がしつこく繰り返して、ようやく僕たちは解放された。クラスメイトたちが我先にと教室を飛び出して行く。僕は部活に入ってないし急ぐ用もないので、荷物を担いでのんびりと教室を出た。

 僕らは今、中学二年生の二学期を過ごしている。三年生が引退したあとの時期だから、部活に入ってる人はみんな大変そうで、けれど充実した顔をしている。楽しそうだと、思わないこともない。けど、入りたい部活が一つもないから、やっぱり入る気はしない。僕は運動が苦手だから運動部はまず無理だし、文化部に入るにしても、音楽も美術も成績はいつも二か三だ。そんな僕ができることなど無いに等しい。卑下とかじゃなくて、本当に。客観的な事実です。

 最近の僕は、何故か生命力が枯渇している。思い当たる節は多すぎて、むしろ見当がつかない。困ったものだと言いつつ実は何も困ってない。そして生命力の枯渇を自覚しだしてからというもの、舌が饒舌になってかなわない。人間の体のメカニズムって、すごーく不思議だ。

 あーあ、と意味も何も持たない言葉を吐き出して空を見上げる。快晴ではないけれど、曇りでもない。じゃあただの晴天じゃないかと言われると、それとも違う気がする、微妙な天気。一年間の大半がこんな感じの天気だ。暑くも寒くもないし、本当に微妙。そんな微妙な日に人なんか殺して、何がしたかったんだろう。どうして人を殺したんだろう。そもそも、どんな人が殺されてどんな人が殺したんだろう?

 暇つぶしにと思って考え始めたが、一度考え始めたら疑問がどんどん浮かんできて止まらない。考えることは嫌いじゃないからいいけど、このままだと深く考えすぎて脳みそがパンクしそうだ。だから、程よいところでやめておくね。

 学校から三分ほど歩いたところに、大きな敷地を有する家がある。洋風の建物ではなく平屋の純日本家屋だが、家が大きい。そして庭やその他も広い。すごく大きい。倉庫が三つほどあって、十メートル走を同時に五人くらいで行えそうな庭があって、奥にあるフェンスの向こう側には手のつけられていないらしい空き地がある。一応雑草は刈ってあるが、まわりを取り囲むように腕を伸ばす数本の桜木も含めて、雑草を刈る以外の措置は行われていないようだ。ところどころに土が見えてしまっているが、それも整備されていない。庭の端にある花壇の花は丁寧に世話されているようだから、フェンスの向こうの敷地だけ放っておかれているらしい。無論、全てが推測である。文末からわかるように。

 この大きな敷地の家は、数十年前に村長職に就いていた人の家だ。今の所有者が誰だかはわからないが、その人の家族であることは間違いないと思う。

 その人は数十年前、まあ普通に村長だった。けれどある日、賄賂がどうのこうのという事件が起きて、村長職を辞職した。それから僕は生まれていなかったから詳しくは知らないけど、辞めたあとは特に目立つこともなく過ごしていたらしい。辞職して数年後にその人は心筋梗塞で亡くなった。やっぱり事件のことが原因なんだろう。現役だった頃は実年齢よりも若く見えると評判だったが、晩年のその人は実年齢よりも老けて見えるほど、白髪や皺が一気に増えてしまったという。哀れなことだ。だから犯罪は、ダメ。絶対。理由が微妙に不純な気がするけどね。

 村長だった人って、どんな人だったんだろう。ちょっと気にしながら、通学路を進む。と、曲がり角を曲がった先で、不審者とばったり出会った。

 ちょっと長めの髪に、平均的な体つきの青年。灰色のTシャツの上に黒のパーカーを羽織って、下はどこにでもあるようなジーンズ。顔も、まあ普通。

 そんな見るからに普通の大学生風な青年を見て、どうして不審者だと僕が判断したのか。

1・全身が血まみれ。

2・片手に血まみれの包丁を持っている。

3・Tシャツの模様が某犬。

 ……最後のは違ったかな。けど、とにかくこれで、僕の前にいる青年が不審者であることがお分かり頂けたと思う。これで「普通の人じゃん!」と思った人がいたら、その人は……僕と一緒に精神科に行ってお医者さんにかかろうか? ね?

 数メートル先にふらりと立つ不審者は、動く気配がない。かといって、僕が今いきなり走り出して逃げ切れる気もしない。よって動けない。さてどうしようか。向こうが何がしかの反応を見せてくれれば僕も何がしかの判断ができるんだけど……。ああ、そっか。僕が動かないから、不審者も動けないのか。それそれは失敬しました。ま、動かないけどね!

 いやでも本当にどうしよう……、僕が背中に冷や汗かいて頭をフル回転させようとしていると、不審者の向こうから聞き覚えのある声がした。

「お兄ちゃん、何やってるの!? 家から出ないでって……!」

 息切れしながら叫んだ声は、紛れもない葉山桜苗そのもの。声を聞いた僕は、不審者と出くわした時以上に混乱した。

 え? お兄ちゃんって? あれ、桜苗のお兄さん? え、でも、血まみれじゃん? なんでそれについて触れないの? え、だって、見えてるよね? 血まみれなの気づいてるよね? はれ?

「ほら、早く家に戻って……」

 青年の腕を掴んだ桜苗が、僕の方を見て目を見張った。驚愕と困惑の入り混じった表情で僕を凝視してくる。腕を掴まれた青年は、ぼんやりとした表情で大人しく腕を掴まれている。しばしの間、複雑な表情をこちらに向けていた桜苗は、薄く開けていた唇をきゅっと結んで踵を返した。

「驚かせてごめん。また明日」

「ちょ、っと、待って!」

 思わず呼び止める。

「葉山さん、その人、『お兄ちゃん』って……? っていうか、お兄さん何で血まみれで……」

 混乱をそのまま言葉にしてぶつける僕に、桜苗は顔を見せないで答えた。

「明日、話すわ。だから今は……何もきかないで。黙って家に帰って。お願い」

 淡々とした声に、僕は無言でいた。その無言に何を感じたのか、桜苗は再び歩きだして、そのまま道の先に姿を消した。

 

 僕は今日、とんでもないものを目にしたらしかった。


いかがでしたでしょうか。一応、続きものになっていますので、そのうち続きを投稿しようと思っています。書く時間があまりありませんので、とても時間がかかると思いますが……。今後ともよろしくお願いいたします。

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