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ソルガル!!  作者: ファフニール
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9マスターを信じています

9マスターを信じています




「お嬢ちゃんが私の相手?」

一切の気負いなく、というよりまるっきり自然体で佇む金髪の美女は、しなやかでそれでいて豊満な、女豹のようなその身体を見せ付けるように、胸の前で腕を交差した。たっぷりとした量感の乳房がその形を変え、胸の谷間が強調される。

いや、中身男だけどね。

「かわいい。食べちゃいたい」

敵にまでセクハラはやめてください。

メアリがお嬢ちゃんと評したのは、おかっぱの童女といった出で立ちの和風少女だった。

メアリの対戦相手、アンナだ。

本当に小学生くらいの身長しかないし、みためもそのくらいに見える。

胸とかはまったくなくて体型も寸胴。

クレセントガールの容姿は僕らが初期設定のときに選んだものだから、あれはその男の人の趣味ということになるけど。

「いい趣味してるわね。私と気が合いそう」

度重なるメアリの発言に、くりくりした瞳が愛らしい和風童女はついに口を開いた。だれもが愛らしい舌足らずな声を想像して、本当にその通りの声だったんだけど、それ以外はまったくの予想外だった。

「てめこら、小さいからって舐めてんじゃねぇぞ、こら。そのでかい乳もみたおされてぇのか?」

童女の中身はやくざでした。僕らサイドどころか敵サイドの人たちもドン引きしている。なにやらひそひそと話してるし。

「うるっせぇぞ、お前ら!何か悪ぃか!」

後ろを向いて汚い言葉で罵声を放つ童女。なんでこんな人があんな外見選んだんだろう。まぁこれが自分の外見になるなんて知ってたら選ばなかったかもしれないけど。

「まぁしつけがなってないわね、でも」

そう言って女豹は舌なめずりをした。

「そこもかわいいわ」

その瞳には、背筋がゾッとする様な女の色香が混じっていた。

男だけどね。


「デュエルスタート」

その合図があってもメアリは動かない。防御型のメアリは基本的に攻め手は苦手だ。だがおそらく既に防御系のスキルを発動しているはず。

まずは様子見。

そこから攻略方法を練るのだろう。

対するやくざ童女アンナは、すごい目つきでメアリを睨みつけ、そしてスキルを発動した。

「複合スキル『シンバ』」

アンナがその名を呟くと、その目の前に白い4メートルほどのライオンが出現した。発生系の中位スキル「使い魔(獅子)」と何らかのスキルの複合。

「使い魔」は正直あまり習得している人はいないと思う。消費ルナがものすごい割に、もとからスペックの高いクレセントガールと比較すると、まぁそこそこいいんじゃない?というくらいの力しか持ってない。クエストを攻略するパートナーとしては、正直いてもいなくても変わらないくらい。敵がたくさんいる場合、プレイヤーは結局その操作にかかりきりになり、戦力はあまり増えたとは言えないんだ。

だが、敵が一人きりの場合、たしかに話は別だ。自分と使い魔の戦闘対象が同じであれば、操作はそれほど困難な作業ではないかもしれない。

「ふぅん。それ、対プレイヤースキル?」

メアリが目を細めて尋ねる。童女はにんまりと笑みを浮かべて答えた。

「試してみろよ。その身体で」

その時、白いライオンがメアリ目掛けて地面を蹴った。メアリは腕を交差させて一撃に備える。おそらくガードを発動しているのだろう。まずはその威力を見極める気だ。

白いライオンはメアリに飛び掛ると、まずそのガードを前足で跳ね除けようとする。発動するスキル「ガード」。青い光がメアリの腕を覆い、そして次の瞬間には打ち消される。

「!?」

ライオンキングの前足はそのまま苦もなくメアリを弾き飛ばした。

「かはっ」

吹き飛ばされ、アスファルトの地面に叩きつけられるメアリ。まずい。クレセントガールの肉体的痛みは、結構えぐいくらいに僕らに伝わる。メアリはそのまま痛みを堪えるように眉をしかめる。

「な、何?」

白いライオンの隣に寄り添うように童女が立っていた。

メアリの問いに嬉しそうに答える。

「『シンバ』は『使い魔(獅子)』と『スキル耐性』の複合スキルなんだよ。ガードは半減。スキルによる攻撃もほとんど効かない。はっはっは。何だお前、その目。さっきの威勢はどうしたんだ。ほら、立ち上がれよ。そんなんじゃぜんぜんそそらねぇよ」

メアリはふらふらしながら立ち上がる。その目だけは射抜くように童女を見ているが、心なしか恐怖の色が混じっているように見える。

「正真正銘の対プレイヤースキルってわけね。あんた、今ぜんぜんためらいがなかったけど、ひょっとしてもう、経験済みなのね」

メアリの問いに喜色満面という顔でアンナが答える。

「五人。お前で六人目だよ。こうして、ヴァーサスクエストがある度に参加してる。なかなか喜ばれるぜ。好き好んでヴァーサスに参加するやつなんてそうそういねぇからよ」

五人?その意味がわからず、僕が首をかしげる。いや本当はわかってる。わかっててわかりたくないんだ。

僕のとなりにすっと、コージが立った。

「お前、プレイヤーキラーか?」

コージの威圧的な視線すら、アンナはにへらと答える。

「っへ。ご名答。もうすっかりこれが楽しくてよ。普通のクエストぜんぜんやってねぇの。でも俺、今まで全勝だから、ルナにはこまらねぇけどな」

「セシル!お前、どんな基準で仲間選んでるんだ!」

コージの怒声が響く。セシルは困った様に頭の後ろを掻いた。

「いやぁ、実は紹介でさ。三人はフレンドでもなんでもないんだ。おい、アンナ。お前そんな危ないやつだったの?」

「うるせぇよ、てめ。助っ人してやってるだけありがたく思えや」

「おい、リリス。なんなんだよあいつは」

そう言ってセシルは困ったような顔で、後ろに佇む赤い髪のガールに声を掛けた。

僕らの側の時が止まる。

リリス?リリスだって?

「お前のフレンドだろ?助っ人してくれたのは嬉しいけど、ああいうのは困るよ」

少女は赤髪のショートボブが特徴的で、きつい眼光が印象的だった。すらっとした体型で、でも出るところはしっかり出ている。だがやはりその目。

その目がほかの印象を掻き消すくらいに強い。

なんなんだあの目は。まるで。

「助っ人はする。必ず勝つ。だからこっちのやり方には口を出さない。そうだろ?セ~シ~ル~。そういっただろ?いいじゃないか。勝つよアンナは。復讐も遂げられて、それで何が悪い?」

「いや、別に俺は復讐したいってわけじゃ・・・・」

「うるさいよ、少し。黙れお前」

「うぐ」

その目のあまりの暗さにセシルは気圧される。本当に魂の底が見えるくらい暗い目だ。

「アンナ、やれ」

セシルの言葉に、童女はにんまりと笑った。

「いびり倒してやるよ、オカマ野郎」

「棄権しろ、メアリ!」

コージがメアリに向けて叫ぶ。だがその声を嘲る様なアンナの笑い声がさえぎる

「馬鹿だな。『棄権』なんてコマンド出てこなかったろ?ないんだよそんなシステム。狩るか狩られるかだ」

そう言ってアンナは指先をメアリに向けて、そして呟いた。

「いたぶれ、『シンバ』。一思いには殺すなよ?」

そこからは一方的な虐殺だった。

腕が裂け、太ももが血に濡れ、服がぼろぼろになり、アップにまとめられた髪がほつれる。立つのもやっとという有様だったメアリは、もうここに来て立ち上がることもできなくなっている。

それだけいたぶりながら決して首からかかる宝石には手を出さない。遊んでいるのだ。メアリを追い詰めて。

「もうクエストはいい!出るぞ」

コージが我慢できないという風に剣を抜こうとしたとき、メアリの声がそれを押しとどめた。

「待って!も、もう少しだけ」

「でも、メアリ!」

オリビアももう一秒たりとも我慢できないという様子だ。僕だって今にもライオンを爆破したいくらい。

それでもメアリは妖艶に笑う。

「いいから。お姉さんを信じて」

「何が、信じてだ。オカマ野郎」

メアリに近づいたアンナがその小さなつま先でメアリの胸を蹴り上げる。まるで悪魔のような奴だ。

「っかは」

かすれた声で、メアリが呻く。

「てめぇ!」

オリビアの怒声。だがそれをすらメアリがとどめるように手のひらを突き出す。

「メアリ・・・」

「どうした、オカマ野郎?ほら、何かやってみろよ」

メアリは、懸命に指先を動かして、やっとという風にその足首を掴む。もう力がぜんぜん残ってない感じだ。荒い息をつきながら、細い少女の足首を握るその力はあまりにも頼りなげで、そして。

メアリは見たこともないくらい凄絶に笑った。

「捕まえた。複合スキル『儀王の金枝』」

その瞬間、アンナが全身から血を噴いてその場に倒れる。痛みに震えながら何が起こったのかわからないという風にぱくぱくと金魚のように口を開けるアンナ。

メアリはふらふらとしながらだが屹然とその場に立ち上がった。集中が解けたのだろう、スキル『シンバ』は跡形もなく消えている。

「何をされたかわからない?うふふ。ごめんね。ずっとこのときを待ってたの。人ってさ、MとSがいるっていうじゃない?でも私ね。そのどっちかだけしかないってうそだと思うの。

人間ってされて嬉しいことを人にするでしょ?だからきっと私たちはMであり、Sでもあると思うのよ。どう思う?」

「あ、ああ、あ」

童女はとてもではないがしゃべれる状況じゃない。それをメアリは残酷に見下ろしながら言葉を続ける。

「私はドMで、それでいてドSなの。今のスキル『儀王の金枝』は中位スキル『蓄積』と『倍返し』の複合スキル。耐えに耐えた甘美な痛みを、相手に倍にして返すスキル。どう?痛い?」

「あ、あう、うう」

これまでの攻撃を、メアリはスキルでガードしていたのではなかった。ずっとこの一撃の為に「儀王の金枝」を発動していたのだ。

クレセントガールに涙を流す機能があれば、その顔はなきじゃくって濡れていただろう。この世の地獄を見ているような表情でアンナは悲痛を訴えた。

「その顔。その顔が見たかったの」

そう言うとメアリはスキルを変更しながら地に倒れて為すすべないアンナの額にそっと手を置いて、それから低く呟いた。

「『火炎弾』」

一瞬にしてその身体が炎に包まれ、アンナは同期が解除されて消えた。

「ばいばい」

「勝者メアリ」

ポップアップが表示される。僕はさっきアンナの事を悪魔の様だといった。だけどそれは間違いだ。本物の悪魔はもっと恐ろしく、そしてもっと艶やかだった。

「セットがぐしゃぐしゃだわ」

そう言って僕らの方に帰ってくるメアリに、軽口を叩けるつわものはいなかった。


「使えないな」

そう短く言って、赤髪の少女が顔をしかめる。

「悪いなセシル。約束を破った」

「お前、ほかに言うことはないのか?フレンドだったんだろ?」

黒髪の美女の、怒気を含んだ言葉に、だが赤髪は唇の端を歪めて答える。

「そうだな。責任を感じてるよ。俺は絶対に負けない。これでいいか?」

「そういうことを言ってるんじゃ」

「サードデュエルソフィVSリリス」

「行ってくる。応援してくれよ?リーダー」

「いってらっしゃい、リリス」

セシルが呆然とする中、銀色の髪の少女ルシアがそれを見送った。


僕は一歩前に出る。リリスもまた。

「おい、コーイチ。やばくなったら自分で自分の宝石を割れ、いいな!」

コージの声が背中に掛けられる、僕はわかったと答えた。

『マスター』

頭の中で心配そうなソフィの声がする。

「大丈夫、きっと大丈夫だから」

『マスターを信じています』

僕は形ばかりの笑みを作る。怖い。怖いけど、僕には譲れない願いがあるんだ。

赤い髪の少女は片頬だけを吊り上げるような笑い方で僕を見る。その目は地獄のように暗い。

「悪く思うなよ。さっきのメアリ?だっけ?あいつがアンナ燃やしたのみて、ちょっと興奮してるからさ、お前ろくな負け方できないよ。俺さ、人が爆破されるの見るのが好きなんだ」

そう言って一層笑みを深めるリリス。破壊神が、確かに僕の目の前にいた。

リリス、お前の願いは何なんだ?




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