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ソルガル!!  作者: ファフニール
3/20

3率直に言っていけ好かないと思います

3率直に言っていけ好かないと思います




1,250ルナ。

それが前回のクエストで手に入った報酬だった。ソルガルではほとんどスキルがすべてだということを、いやと言うほど思い知らされた僕は今、一人パソコンの画面とにらめっこだ。

ちなみにあの後、まさかと思ってウェブ上で自分の口座を調べたら、本当に二万八千円振り込まれていてびびった。中学生の僕には結構な大金である。思わず色々衝動買いしたい欲求に駆られたが、今後交通費とかで使うかもしれないと思い自重した。とりあえず僕は窓ガラスが割れていることの言い訳を考えないと。今が夏でよかった。出かけるときは雨戸にしておこう。

初の戦闘を終えて、へとへとになって帰ってきた僕を待っていたのはじいちゃんの作った晩御飯と、パソコンに届いたメールだった。

送信者は、ソルガル。

「スキル習得やクエストの確認は私と同期しても可能ですが、ソルガルサイト内のマイページでも可能です」とは、じいちゃんに見つからないようにこっそり家に入ってきたソフィの言。

流石のじいちゃんも僕がこんな美少女を連れて帰ってきたら卒倒するかもしれないから気を使った。本当は同期して帰ってきて部屋の中で解除すればいんだけど、そんな気力がなかったんだ。ゲームをぶっ通しで何時間もしたあとみたいに、あるいは運動会のあとみたいに、僕の身体と頭は疲労でくたくただった。

だからパソコンでスキルの設定が出来ると言うのはありがたい。

いちいちソフィと同期しないといけないってのはしんどいから。

実は悩むほど習得できるスキルがあるわけではない。

各スキル二つか三つくらいが習得可能になり、スキル名の表示の隣に消費ルナの値が表示されているが、1,250ルナで習得できるのは、そのうちのひとつだけなのだ。

すべてのスキルを習得できるわけではない、とウェブ上の説明には書いてあったしそれはソフィにも確認した。

僕の感覚から言うと、ひとつ中心となる系統を決めてしまい、補助的に他の系統を覚えるというのが一番効率が良い気がする。

よし、と僕はあえて口に出して言ってみた。「お決まりですか」とソフィが聞いてくる。

「うん。やっぱり変化系統にする」

そう言って僕はマウスをクリックした。


変化スキル「硬度4」習得済み

NEW「硬度8」800ルナ

NEW「液化」1200ルナ


本来の用途とは違うとはいえ、チーフスカウトを撃退できたのは「硬度4」を使ったおかげだ。それに僕はどうも力押しでがんがんというのは向いてない気がする。変化系統を中心に習得して、余裕があれば攻撃系統と移動系統をちょこちょこ覚えよう。

僕は少し悩んだが「液化」にポインタを合わせてクリックした。

このスキルを習得しますか、と聞いてきたのではいをクリックする。


変化スキル「液化」を習得しました!

残50ルナ


ポップアップウィンドゥがそう表示されたのと、家の電話が鳴ったのはほぼ同時だった。


「孝一、母さんが代わりたいそうだ。」

じいちゃんがしばらく話した後、母さんと電話した。姉ちゃんは相変わらず目を覚まさないけど健康ではあるらしい。いつ目を覚ましてもおかしくないそうだ。でもそれは、目を覚まさない理由がぜんぜんわからないってことでもあるみたいだ。

母さんは少なくとも夏休みの間は神戸にいると言った。僕はもう、僕も行きたいとは言わなかった。母さんはそれが少し拍子抜けだったみたいだけど、心配しなくていいからねと言って電話を切った。

母さんは神戸に行きたいといいたがる僕をなんと言って説得しようかと考えてたみたいだった。でも僕は神戸に行くわけには行かなくなったんだ。姉ちゃんを助けられるのはたぶん僕だけだから。

僕は電話を切り、じいちゃんにおやすみを言うと二階の自分の部屋へと上がった。


「では寝ましょうか。睡眠はとても大切なことです」

「は、はい」

僕はその時になるまで、間抜けにも気がつかなかった。僕の部屋にはベッドが一つで当然布団も一組しかない。

姉さんの部屋は神戸に行くときにベッドを持っていったから今じゃただの物置だし、母さんたちの部屋には鍵がかかっている。

さてここで問題です。ソフィはどこで寝るでしょう。

「そ、その」

と僕は切り出した。ソフィが小首を傾げる。

「ソフィにも、その睡眠とか必要なのかな」

美少女はぱっと花が咲くような笑顔を僕に向けた。

「はい。当然です」

「そ、そうですか」

「位相差空間では、同期中のソフィにスタミナや疲労という概念はありませんが、三次元世界では便宜上有機体で身体を構成しているため、睡眠や食事が必要なのです。」

え。

「ちょっと待った!食事も必要なの?」

「ええ、まぁ」

「だ、だってソフィ、朝から何も食べてないじゃない」

「大丈夫。二、三日食事をしなくてもソフィは平気です」

その時、ソフィのお腹からくぅという可愛い音がして、若干空気が静寂につつまれた。

「有機体というのも考え物ですね」

「ちょ、ちょっと待ってて。何か買ってくるから!」

あわててコンビニに駆け出した僕は、早速報酬のお金を降ろすことになった。


買ってきたコンビニのパンをもぐもぐと食べるソフィを見ながら、こうしてみると普通の女の子と変わんないなとそう思った。ただとびきり可愛いだけだ。

絨毯の上に膝を折って座っているソフィは、スカートのすそが非常にきわどい感じなのを気づいているのだろうか。

僕はなんとか全身全霊の努力を払ってそれを見るまいとした。

でも時々はちらちら見た。

ごめんなさい。

「ごちそうさまでした」

ソフィは丁寧にそう言って頭を下げた。

「さぁ、寝ましょう」

そう言えば何も解決してなかったね。


僕が床で寝ると強弁に主張したにもかかわらず、ソフィはそれを頑として受け入れなかった。

「ソフィが床で寝ます」

そういうわけにもいかなかった。アンドロイドであろうが素手でロボットを叩き壊せようが外見はかわいい女の子だ。床で寝かすなんて出来ない。

「ですから、一緒に寝ればよろしいと申し上げています」

それはもっとできないの!

すったもんだをしている間に、僕はそう言えば姉ちゃんの部屋に冬布団があるのを思い出し、押入れからそれを引っ張ってくることに成功した。ちょっとほこりっぽいけど仕方ない。

僕がそれをベッドの横に敷き、ふぅとベッドに腰掛けて一息つくと、ソフィがそこにコロンと転がった。

僕はおもわずごくりと生唾を飲む。

寝そべっても少しも形を崩さない胸の起伏は、今は僕のスウェットの中でその存在を主張している。僕は背の高いほうではないから彼女にぴったりだったのはいいが、胸のあたりが非常に窮屈らしい。

すそが持ち上げられて、おへそが見えそうだ。

下半身は僕のハーフパンツを貸し出したが、そこから伸びる真っ白い脚があまりにも悩殺的過ぎる。

僕はそうそうに布団を頭からかぶっておやすみと言い捨てた。

目に毒どころの騒ぎじゃない。

「おやすみなさい」

そう言った彼女の口調が微笑みを隠しているような気がした。



「クエストスタート」

ポップアップウィンドゥが僕にそう告げる。二度目の同期を果たした僕は、再び位相差空間に降り立った。

クエスト一覧に新しく表示されたクエストは五つあった。

とりあえずその内で一番難易度の低そうなクエストを選んだつもり。

ちなみに同期するのにまたもやキスされました。柔らかさがまだ唇に残っている気がするけど、それも今や自分の唇でもあると思うと素直に喜べない。

『言ってくださればいつでもして差し上げます』

いやいいんです、違うんです。


「クエスト飢狼の群れを狩れ!」

1.クエスト種別撃退イベント(一定数の敵を倒すかボス敵を弱らせる)

2.制限時間180分

3.出現する敵ハウンド

4.報酬1000ルナ¥20,000.-

5.勝利条件ハウンドを40体撃破する

敗北条件制限時間が経過してしまうクレセントガールの消耗限界を越えてしまう


てっきりメカニカルな敵で統一されているのかと思ったら、モンスター的なやつもいるらしい。僕が歩き始めると町中のそこかしこに狼をベースにした灰色のモンスターがとてとて歩いているのがわかった。外見は狼そのものだけどやたらに筋肉質で角ばっている。あと目が一つ目で、その一つの目の中にいくもの眼球があって気持ち悪い。

そのうちの一匹が僕目掛けて、実際には青い髪の少女を目掛けて駆けてきた。かなりのスピードだ。口からだらだらと涎を垂らしながら凶悪な牙を覗かせる。

僕は一つ深呼吸すると、まっすぐにハウンドを見て構えた。ハウンドは僕に向かって走り今まさに飛びつかんというときに、僕はとっさにしゃがんでその足元のアスファルトに手を触れる。

「液化!」

すると、アスファルトはどろりとしたコールタールに還り、ハウンドの四本の脚の一本を捉える。

突然足場がなくなったハウンドはバランスを崩し、僕がアスファルトから手を離すと、固形に戻ったアスファルトに脚を固められてしまう。

よし、思ったとおりだ。

僕はこの実験をしたくて、ハウンドが近づくに任せたのである。

「ソバット!」

生暖かい布袋に触ったようないやな感触がした後、ハウンドの悲鳴が聞こえる。ハウンドは絶命して舌をだらりと出していた。

まず一匹。

僕がふぅと額の汗を拭うようなしぐさをしていると(ソフィは汗をかかない)、二、三匹のハウンドがこちらに駆けてくる。都合がいい。

僕はスキルを液化に戻して、その辺のブロック塀を無造作に掴み取る。

手の平の中に液状になったブロックがたゆたう。

「よいしょ!」

僕はそれを思い切りハウンドに投げつけた。

ブロックの塊は僕の手を離れると、空中で本来の固体に戻る。それは投げつけられている最中だから、当然固まりは空気抵抗を受けてミサイルのような流線型となる。

それがソフィの腕力で放たれるのだ。ちょっとしたライフルである。

ぎゃいん、という悲鳴を上げてハウンド達がその場で仰け反った。今ので一匹は絶命したようだ。残りの二匹が凶暴にうなりながらこちらを睨み付ける。

僕はもう一度ブロック塀を掬うと、思い切りふりかぶった。


ハウンドのクエストはそつなくクリアして、それから残り四つのクエストを順にクリアしていった。大体一日一クエストのペース。精神的に疲れるのでそれ以上はちょっとしんどい。

ルナは六千くらい貯まり、スキルをさらに三つ覚えた。

五つ目のクエストをクリアした日、帰ってパソコンからマイページを開くと二通のお知らせが来ている。

来ているとは思っていた。表示されていたクエストはすべてクリアしてしまったから。クリックすると、一通は「スロットが2になりました」という件名だった。

「これでだいぶ楽になりますね。」

机に座る僕の背後からソフィが覗き込む。じいちゃんがいない買い物の時間を狙ってお風呂に入ってきたソフィはほかほかして目の毒だ。

何か背中にふかふかしたものが当たっているのは気にしないようにしよう。

楽になるのは本当だった。

戦闘中にいちいちスキルを付け替えるのは結構面倒だし、スロットが増えれば複合スキルが使える。

僕は午後いっぱいを複合スキルの研究に費やすことに決め、そして二通目のお知らせを見る。

「オープンクエスト、のお知らせ?」

初めて聞く単語だ。

ソフィに尋ねようと後ろを振り向くと、丁度ドライヤーで髪を乾かしているところだった。Tシャツのすそから覗く白い肌が目にまぶしい。この共同生活は本当に心臓に悪いです。

「オープンクエストは他のソルボーイズと共闘するクエストです」

ソルボーイズとは、確か僕の様な参加者のことだ。ちなみにソフィたちはクレセントガールズという。ということは、ようやくこのソルガルもMMOらしくなるってことか。

MMORPGの醍醐味は、なんと言っても見知らぬ他人である誰かと共闘して一つの目的を達成することだ。僕などウェブ上のフレンドの方が現実の友達より多いんじゃないかと思う。だって百人くらいいるし。

「クエスト参加者2となっていますから、マスター以外にもう一人と共闘することになりますね。ちなみにどうやらこれは強制クエストです」

そうでなくても、今のところこのクエストしか受注できる依頼はない。

日時は明後日の朝九時から、三日間。

三日間!?

「じいちゃんになんて言おう」

僕は頭の中でいいわけを考え始めていた。


「いいぞ。でも向こうの親御さんに迷惑かけんようにな」

友達の家族とキャンプに行くという、この簡素化したコミュニケーション不全の世の中ではほとんど有り得ないだろう言い訳は、じいちゃんにはあっさり通った。さすがじいちゃんだ。二人でテレビを見ながら夕食を食べているとき、僕は思い切って切り出した。「じいちゃんも、温泉でもいくかな」そう言って食事の後、居間のパソコンをいじりだした。ごめん、じいちゃん。今度一緒に行ってあげるからね。

それから僕は自室のパソコンで指定された場所の行き方を調べた。今度のクエストには場所の指定があるのだ。それはそうだろう。そうじゃないと他のプレイヤーと出会えないし。

指定された場所は僕のぜんぜん知らない場所だった。西東京市という場所らしい。そう言えばソルガルの範囲は東京都区内だったな。実は23区から一人で出るのは、僕にとって初めての体験かもしれない。僕は乗り換え検索でちゃんと行き先を調べて、あとの時間は複合スキルの開発に心血を注いだ。

そして二日間はあっという間に過ぎた。


西東京市の田無という駅は、池袋までJRで出たあと、西武新宿線という路線で、ローカル電車にだいぶ揺られてやっと着いた。

ソフィは髪の色が目立つので姉さんの部屋から帽子を引っ張り出してきて被せた。それでも目茶苦茶かわいいソフィは、すれ違う人の視線を集めて仕方がなかったけど。

途中池袋での乗り換えに手惑い、あやうく遅れるところだった。

遅れるとクエストに参加できないのだろうか?もしも途中の電車で強制的にクエストに入ったらどうなっちゃうんだろう。オープンクエストの時は絶対寝坊できないな。

見渡した限りではそれらしい人はいない。おそらくとっくにあっちに行ってるんだろう。僕は遠慮がちに口を開き、「ソフィ、ど、同期を」とどもった。

「はい」と言うとソフィは僕の肩にそっときれいな手をおいて、僕の唇に自分の唇を合わせた。

いつまでたってもなれない感覚の後、僕はソフィと同じ存在になる。

僕はソフィの視点で位相差空間をみた。

すると、一人の少女が僕に気づいて「おや」とでも言うようにきれいな形をした眉を上げた。少女は手を振りながら僕の方へ歩いてくる。

「遅かったな。だれも来ないかと思った」

間に合いはしたがぎりぎり五分前。遅かったと言われても仕方ない。

僕のソフィよりも頭一つ分背の高い長身の美少女だった。よく通った鼻梁と形のよい眉からシャープな印象を受ける。スタイルもよく、出るとこは出ている。胸は、少しだけソフィよりも大きいかもしれない。

見事な金髪を腰まで伸ばした少女は、にこりと笑って握手を求めてきた。僕はその手をあわてて握り返す。

「コージだ。よろしく」

「僕は孝一。よろしくね」

「コーイチ?」

そこでコージと名乗った金髪の少女は怪訝そうに眉をひそめた。その姿がなんとも言えず愛らしい。中身が男だなんてほんと信じられない。僕もきっとそんなこと思われてるだろうけど。

『マスターも十分愛らしいですよ』

それはどうも。

「どうかした?」

「いや、似た名前だなと思っただけだ。コーイチとコージ。即席のコンビとしては上出来だ」

「そうだね」

そう言って僕もにこりと笑った。

「お前のクレセントガールもなかなか趣味がいいな。童顔で巨乳ってのも悪くない」

「べ、別に趣味ってわけじゃ」

「まぁ、俺のアリシアの方がいいけどな」

そう言ってコージはひらひらと手の平を振った。

『率直に言っていけ好かないと思います』

まぁまぁ。

その時、ポップアップウィンドゥが目の前に開いた。

コージも空中の一転に視線を移す。他人のウィンドゥは見れないようになっているのか。

「始まるな」

「うん」

クエストスタート。

僕にとって初めてのオープンクエストは、こうして幕を開けたのだった。


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