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シオン  作者: じょにぃ3
11/11

第11話

 深夜しんや、病室のベッドで咲間シオンは目をました。

右手の人差し指をゆっくりげてみる。


まだ少し震えるけれど、たしかに動く。

窓から差し込む朝の光が、彼女の紫の髪を優しくらす。


「……お母さん」


 小さく呟いて目を閉じる。

その日、彼女は母親が公園のブランコを押してくれる夢を見た。



 僕は現実世界へ戻る。

すると、それまで出入りしていたあの鏡はガシャンと音を立て、まるで役目を終えたみたいにくだった。


 今思えば、この鏡は僕に贖罪しょくざい機会きかいすらあたえていてくれたのかもしれない。


砕けた鏡を一つ拾って言う。


「ありがとう」



一杯いっぱい500円!?えーと…じゃあこのアメリカーノを」


 数ヶ月後すうかげつご、僕は喫茶店きっさてんのソファーでコーヒーを飲んでいた。


「大丈夫かな…」


時計を見ながら不安ふあんつのらせる。

するとガラス越し、横断歩道の向こうに立つ一人の少女が目に入った。


 少しびた髪に、ポニーテールをいたロングヘア。

それは歩けるまでに回復した咲間さんの姿だった。


「ここだよ」と手を振る。


するとチリンチリンとドアベルを鳴らし、彼女は入店して来た。


「ふー、歩くのはまだ少し慣れませんね。あーすみません、このミルクティ…いえダージリンティーを一つ」


 向かいのせき紅茶こうちゃを注文する咲間さんに緊張きんちょうしながら尋ねた。


「お母さん…どうだった」


「ええ。随分変わってましたけど、会えました」


「そっか。話はできた?」


「…はい」


 彼女は今日、禁錮中きんこちゅうの母親へ面会に行った。自分の気持ちに整理せいりをつけたいと言って。


「最初は……何も言えませんでした。ただ、向かい合って座るだけで、胸が苦しくて。でも最後に一言だけ言えました」


「何て?」


「……『ありがとう』って。昔の優しかったお母さんに」


僕は息を飲む。


「そしたらお母さん、泣きながら『ごめんね』って言ってくれた……それで、もう十分でした」


 咲間さんは窓の外を見て、穏やかに微笑ほほえむ。


「もう会いに行くことはないと思います。でも、今日会えてよかった。おかげで全部終わった気がしますから」


その顔にもう寂しさはなく、ただ静かでんだ表情がそこにあった。


「……よかった」


 僕はは小さく呟いて、胸の奥で何かがけるのを感じた。


「それじゃ、行きましょうか」


 手を繋いで二人で店を出る。

夕焼けが喫茶店のガラスを染め、そこに映る僕たちにあの日の公園を思い出させた。


 咲間さんは僕の肩にそっと頭をあずける。


「圭吾さん」


「ん?」


「今でも時々、お母さんの夢を見るんです。その日の朝は少し胸が痛いような…でも、それでいいんですよね」


僕は彼女の髪をでながら、静かに答えた。


「うん。それでいいと思う」


 咲間さんは小さく頷いて、目を閉じる。

その瞬間、冬の冷たい風が通り抜けて僕たちの体を震わせた。


それでも前に向かってゆっくり歩く。


不完全ふかんぜんでも歩き続ける」


僕たちはそう決めたのだから。

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