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第二章 第8話

 朝のホームルームにて安西先生が帰りのホームルームで体育祭実行委員を決めることを説明すると、私は下校時間が延びることを懸念し同時に木村さんに「仕方がないから自分が」と手を挙げるのを控えるように釘を刺されたことを思い出した。


 昼休みに小鞠さんから「遥ちゃんっていつも働いてない?」と言われ、今日の放課後も出勤するって私の発言の反応だったけれども、輝夜さんも仕事があると言っていたのにどうして私ばかりそんなに仕事をしているイメージがあるのか少し疑問に思った。


 ともあれ体調不良から復帰して一日授業を受けたけど特に問題はなかった。あとは帰りのホームルームで体育祭実行委員がスムーズに決まればいいなとぼんやり考えていた。それが良かったのか悪かったのか――クラスのざわめきが後者だと物語っている気もする。


「ええと、春夏秋冬さんは転校生だからまだ学校の事情とかよく分からないんじゃないかしら?」


 安西先生の困り顔に私は思わず目を逸らした――だけども彼女の言葉は正論だ。そう考える生徒もいるだろう。

 けれど部活やアルバイトに行きたい生徒たちは「もうこの際彼女でいいんじゃないか」と諦めにも似た空気を漂わせ始めているのも事実。


「はい。クラスにも慣れてきて学校のためにもなると考えたら委員会に立候補するのは当然だと思いました。他の皆さんも予定があって手を挙げづらいようですし……それに私も時間の都合も付けられますから」


 春夏秋冬さんが凛とした声でそう言いながら手を挙げた。

 他のクラスの子だと思っていたけれど放課後の予定を聞かれた時にレッスンがあると説明していた気がする。時間の都合がつくかどうかはともかく委員会への話し合いへの参加やクラスメイトの前で練習の指揮を取ることには不都合はないはず。


 転校初日の失敗以来腫れ物に触るような扱いをされている以上は、恐らくそれらを一掃したいという気持ちがあるのは確実だ。そんな下心を持って人に接する相手とクラスメイトを一緒に仕事させるなんて。春夏秋冬さんが仕事のできる人なのは知っているけれどパートナーとして選ぶ基準は「利用できるかできないか」だけ。


 クラスでそのことを知っているのはおそらく私だけ……だったら私が手を挙げれば丸く収まるかもしれない。そう思った瞬間、私は手を挙げようとした。


「「「はい」」」


 しかし私の手が完全に上がるより早く三人の男子生徒から手が上がった。私は慌てて肩を震わすだけでその場をやり過ごそうとした。

 きっと誰も私が手を挙げようとしていたなんて気づいていないはず……あでも青山さんが怖い顔でこちらを見ている。もしかして私の考えがバレバレ?


「えっと、鈴木君谷君田口君だね。体育祭の実行委員に立候補してくれるのかな?」


 安西先生の表情が明らか安堵の色を帯びていき私もその顔を見て胸をなで下ろす。毎朝カレーを食べないと気が済まないという鈴木君、他校の女子柔道部員と付き合っているらしい谷君、そして赤い靴下がトレードマークの田口君。


 三人ともそれぞれに人望が厚くきっと女子からも人気がある(詳しくは知らない)のだろう。

 けれど悲しいことに輝夜さんと小鞠さんには敵わない。このクラスは美少女揃いで女子の権力が異常に高いのだ。なお私もそのおこぼれにあずかっている一人である。


「はい、推しているVtuberがバストサイズが95以上の女子が困っていたら手を貸せと言っていたので」


 三人組の代表である田口君がよく分からないことを言った途端、クラスメイトの視線がなぜか私の方へと集中した。


「なんで皆さんこっちを見るんですか? 今まさにその視線に困り果てていますよ!」


 どこからツッコめばいいのか……そもそもなんでバストサイズの話が出てくるの? スルーすべき? それとも抗議すべき? もしかして私の胸のサイズってクラスで公然の秘密みたいになってる……? だとしたらこれはセクハラってやつじゃないの? 頭の中が疑問符でいっぱいになった。

 ただ経緯はどうあれ体育祭実行委員をやりたい気持ちは本物みたいだ。だったら私が口出しするべきじゃないのかな?


「田口君セクハラ行為は控えるように。それと皆さんも夏野さんに注目を集めるのはやめなさい」

「先生もそこで名前を出さなくていいんですよ!?」


 先生は私を擁護しているようで実際には背中から刺しているように感じられた。

 それでもクラスメイトたちの好奇な視線から解放されたことは確かだ。とりあえず先生には感謝しておこうと思った(遠い目)


「えーっと、とにかく体育祭実行委員は決定ですね。谷君、鈴木君、田口君も春夏秋冬さんのことをきちんとサポートしてあげてくださいね」

「このクラスをワールドシリーズ制覇に導いてみせます」

「このクラスだけで体育祭のチームを組むわけじゃないのでそこまで頑張らなくても大丈夫ですよ」


 先ほどまでの重苦しい雰囲気は田口君たちの突拍子もない発言によって霧が晴れるように消え去った。

 まさかあの場を和ませるためにわざとあんな発言をしたのだとしたら彼らの機転には舌を巻くしかない。


 ただ問題はこれからだ。彼らが権限を持つことになった以上私が体育祭のチアガールに無理やり推薦されないことを祈るしかない。

 まあこのクラスには輝夜さんや小鞠さんはじめ可愛い子がたくさんいるのだから私が選ばれる可能性はまずないだろうけれど。


 ――そのVtuberさんが『バスト95cm以上の女の子を体育祭でチアガールとして活躍させろ』なんてやけにピンポイントなことを言い出したらその可能性はあるけど……念のためそのVtuberさんの情報を集めておいた方が良いかな?

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