幸せになるには
近ごろよく考えるのは、恋愛結婚と政略結婚両者にはあまり違いが無いのではと言うことだ。
恋愛結婚でもその後の生活が上手くいかなければ、幸せな結婚とは言えないし、政略結婚だったとしても、両者がお互いを尊重し、協力し合えば幸せな結婚と言えるだろう。
要するに、恋愛結婚でも、政略結婚でも、その後幸せかどうかは、両者の努力で変わってくるってこと。
「なので、私たちは今日初めて顔を合わせた、紛うことなき政略結婚ですが、お互い幸せでいるために努力いたしませんか?」
結婚式が終わった夜、夫婦の寝室で滔々と語ったあと、ベロニカは薄着の上にローブを纏い、棚から紙とペンを取り出した。
本日付けで夫となったオリバーの視線が突き刺さる。
おかしな女だと思われただろうか?
「君の考えはよく分かったが、紙とペンを用意したのはなぜだ……?」
「今からここに、お互い、されたら嫌なことを書き出しておくんです。そうすれば、険悪になるのを事前に防げるだろうと思って」
「なら、嫌なことだけじゃなく、一緒にしてみたいことも書き出せば、もっと良くなりそうだな」
ベロニカの考えに同意してくれるだけでなく、より良くなるように意見も出してくれるだなんて、思ってもみなかった。
「私たち、仲良くやっていけそうですね」
◆◆◆
「父上と母上の仲が円満なことには、そんな理由があったんですね」
結婚して一年後に生まれた息子のハイディーは、あっという間に成長し、今では学園で生徒会に所属しているほど、優秀な青年になっている。
ハイディーには最近、悩み事があったみたいで、食事もあまり喉を通っていない様子だったから、オリバーと一緒にハラハラしながら見守っていたけど、学園が休みの今日、ようやくベロニカに悩みを打ち明けてくれたところだった。
その悩みというのが、会長の王子が、幼い頃からの文通相手と、最近できた隣国の王女である婚約者との間で、揺れ動いていることで、学園内が荒れそうでどうしたらいいか、という悩みだった。
だからベロニカは、自身と夫の話を伝え、王子にもハイディーの考えを教えればいいと思ったのだ。
「ええ。王子の婚約者はもう決まっているのでしょう? そうであれば、文通の相手といつまでも関係を持ち続けるのは、婚約者に対して不誠実だわ。例え、文通相手に恋心を抱いていたとしても、その恋は表に出てこないよう封印し、婚約者と上手くいくよう努力すべきだと思うのだけど。ハイディーは今の話を聞いて、どう思った?」
「母上には、今の王子と同じように、好きな人がいたんですか?」
痛いところを突かれ、ベロニカは目を細めた。
「オリバーには秘密よ? 今はオリバー一筋だもの」
それに、私の恋は絶対に叶わないから。
幼い頃の恋心。あの子が病気で亡くなったと知らされたときは、この世の終わりかと思ってた。
塞ぎ込んでいたら、いつの間にか結婚適齢期になって、オリバーと婚約していたのだ。
「……失礼なことを聞いてすみませんでした。そうですね、私も母上と同じ考えです。王子がどう行動するのかは未知数ですが、私の考えを伝えてみます」
ハイディーは晴れやかな表情になり、ベロニカの部屋から退室して行った。
息子の力になれたみたいで良かったわ。
◆◆◆
ハイディーの悩みは解決したらしく、食欲も元通りになり、オリバーと一緒に安堵のため息をついた。
「君がハイディーの相談に乗ってくれたと聞いた。今でも俺の希望を覚えてくれていたんだな」
「結婚初日の約束ですから。忘れるなんてこと、しませんよ」
オリバーがあのとき希望したことは、たった一つのことだった。
将来、子どもができたとき、愛情を持って育てて欲しいと。
ただ、それだけだった。
オリバー自身が、両親の愛情をあまり受けられなかったからなのか、子どもができたら、のびのびと育て、色んな話を真剣に聞いてあげたいと、考えていたらしい。
ベロニカもオリバーと一緒にハイディーを育てる中で、過去の恋を薄れさせることができた。
「お互いの希望を書いておいて正解でしたね」
「ああ。そうだな」
幸せになるには、両者の努力が不可欠ですね。