3 少女漫画じゃあるまいし
帰りの電車にて。
冴はイケメン教授に拾ってもらった花柄のハンカチを見つめていた。
頭の中ではハンカチにまつわる事件が脳内でリピート再生されている。
冴の頬が真っ赤に染まった原因は、ハンカチを落とすという行為からくるもののみではなかった。
お顔の整った背の高い教授の、心配した、こちらを窺うような表情。
ふわっと漂った柔軟剤のいい香り。
ハンカチを渡す際の、少しだけ触れた指と指。
そのどれもが、血液が沸騰するかのような気分を味わわせるには充分すぎる条件だった。
いまだに彼の姿が脳裏に焼き付いて離れない。
冴は、達観しているところはあるが、見た目は背が低くどんぐり目で、鼻は小さく、顔立ちが幼いため、母親からは中学生に見えるといつも言われてきた。
それが悔しく、他人からどう見られるか非常に気にするタイプである。
イケメン教授の目にも自分がどう映っているか気になっていた。
あの、自分を窺う、心配したようなまなざし。
きっと、幼くて可愛らしい子って、思われてるんだろうな…
まあ、話してみないとわからないけど。
冴は、その教授のことを「大人の男性」として見ていた。
だからか、自分だけが幼く見られていると思うと不釣り合いで少し嫌だった。
大人っぽくみられたいわけではない。
ただ、普通がいいだけなのだ。
それにしても、高校生にもなってハンカチを落としてしまった。
なんて恥ずかしいんだろう…
教授はそこまで驚いていなさそうだった。この行為は稀ではないのか?
そう聞かれるとよくあることのように思えてくる。
一体全体カバンのどこから抜け落ちたと言うのだ。
まあ、そんなことは考えても仕方のないことだから、思考をストップしよう。
いまだに興奮がやまない。
どれだけ他のことに思考を巡らせても頭から離れないあの教授のビジュの良さ。
それだけではない。
彼の醸し出す雰囲気という雰囲気からは影のあるものが感じ取れ、どこか自分と似たものを見出していた。
例えるなら、誰にも懐かない孤高の狼。
目立たないが美しく、真夜中を静かにひっそりと照らす満月のような。
一目散にここから逃げ出して、今いる世界を放り出してまで、もう一度出会いたいと思える、そんな存在。
冴はハンカチから目を逸らすと、窓の外に目を向けた。
もう一度、会えるかな。
次のオープンキャンパスで、また会えるといいけれど。
なんとなく大学のパンフレットを開き、文学部のページに視線を落とすと、さっきの教授の写真があった。名前を見ると、そこには、三宅宏幸と書いてあった。
あの教授は准教授だったんだ。
確かに、教授にしては年齢が若いと感じていた。
そして、名前は宏幸。
名前からはイケメン具合がそこまで想像できないが、古風でいい名だと冴は思った。
家に到着すると自分の部屋へ行き、再び、かの准教授の名前と顔写真を眺めた。
よーく見ると、全く見ていて飽きない顔だ。
噛めば噛むほど味が出る的な?
おじさんと呼ぶには若く凛々しい顔立ちをしていた。
彼のことを考えると胸が高鳴りワクワクした。
つまらなかった日常も、少しは良いと思える、そんな気がした。




