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3 運命のような

今日は大学のオープンキャンパスがあった。宏幸にとって、どんな人物が来るか見計らうための大事な日でもあった。最初のうちは緊張していたが、もう今では四年目だ。そこまでのぎこちなさもない。キャンパスのチラシを並べるように先輩教師に渡されると、「お前、もう四年目なんやって?」と関西訛りで言われた。


「はい」


「可愛い彼女がおるやろ。ええな、若いって。」


「とんでもないです」


あえて、結花と別れたことは伏せておいた。話が面倒になるからだ。


「もう三十三やん?年取るのって、早いなあ。」


「早いっすね」


適当に返事をし、うまく深い話をしないようにかわしながら、チラシを机の上に置いていく。実に単純な作業だ。

仕事を済ませると大学内の喫煙所に行って一服し、開会式に間に合わせる。

まずは、大学に関する説明と入試説明があり、それから学長の話がある。

宏幸は教授たちが並ぶ講堂の後ろの位置に同じく並んだ。


(どんな奴がいるかな。)


講堂内をぐるっと一周見渡すと、ずらっと並んだ椅子に座る有象無象の中、一際光を放つ女の存在があった。

長く伸ばした黒髪をきゅっと結び、ポニーテールにしている。

平凡と言われれば平凡な少女だ。



その少女は、浅野冴といった。



彼の心はなぜか激しく揺さぶられた。

宏幸の目は確実に、浅野冴を捉えて放さない。例えるなら、磁石のような心。

どこか懐かしく神秘的だった。

まるで世界中のありとあらゆる地面から花が一斉に咲き乱れるような、そんな初めての感覚が訪れた。

それは、ずっと無くしていた大切なものが見つかったかのような一種の喜びでもあった。


開会式が終わり、気がつくと自然に後を追っていた。

高校生らしい小さな背中と黄色いセーターが目にとまる。隣には母親もいたが、もはや宏幸の視界には冴しか映っていなかった。


「おい、」


人混みをかき分け、小さな肩にそっと手を置く。

少女は振り返った。黒髪が揺れる。形のいい、まだおぼこい顔立ちがあらわになる。背中を向けていて斜めからしか見えなかったその顔は、頬がふっくらとしていてなんとも愛らしい。


「はい?」

素っ頓狂な声で言う。


「落としたぞ、ハンカチ」


それは善意からでも良心からくるものでもなく、ただの淡い好奇心だった。心を惹かれてしまったからにはどうしようもない。宏幸は、講堂内で彼女がカバンから落としたハンカチを届けるつもりで声をかけた。


「あ、ありがとうございます」


母親も同時に頭を下げた。

少女は、人見知りなのかハンカチを受け取るとさっと顔を背け、母親を引き連れて足早に去って行ってしまった。


宏幸は、その場に茫然と突っ立っていた。彼の鼓動は、どくんと高鳴っていた。少女が不意に見せた柔らかな顔立ちと、緊張して強張った様子は、彼を思考停止にさせた。しばらくの間はまばたきさえも忘れていた。立ち尽くしている彼を、人ごみが絡め取ろうとする。しかし彼の歩調はたどたどしかった。


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