表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/35

 05話 第二講座 “魔術の種類、願いの数

 視点は宝坂叶一(主人公)に戻ります。

 基本、魔術考察。



 


 昨日(さくじつ)授業の一環として魔術の知識を得ることになった。正直、僕はあんなファンタジーみたいなものが存在するとは信じていなかったが百聞は一見に如かず。手から火を出すなんで芸をしてしまっては本物と認めざるを得ない。

 魔術とは奇跡ではなく現象を起こす“手段”。

 僕らが知らない、魔術世界特有の反応現象らしい。

 だが、疑問も残る。


 “何故にわざわざ魔術を使うのだろう?”


 はっきり言って魔術というモノには互換性が存在する。

 火を起こしたいなら、チャッカマンを使えばいい。水を飲みたいのならば汲んで沸かせばいい。身を護りたいのならナイフでもスタンガンでも持ち、護身すればいいはず。


 つまりはこの世界特有の現象(魔術)は代用可能という話だ。仮に現象(魔術)に誰かを殺す性能を期待しても、爆弾やミサイルなどの兵器があちらには存在するように。


 白髪の魔術師に云わせると魔術世界は魔術(キセキ)を選択して、化学世界が化学(リアル)を選んだだけらしい。

 

 確かに、化学世界と呼ばれた我々の世界はリアリティのみを求めている。過去には『不思議』というものを根本的に信じていただろうに。

 一つ例を挙げるなら雷。その語源は“神鳴(かみな)り”であって文字通りに神の怒りが黒雲を呼び、空を()る天の光の正体と考えていたらしい。

 この考えは特定の地域のみに存在したわけではなく、ギリシア辺りでは、かの有名な雷神ゼウス。日本では菅原の怨霊神など世界中で似通った考え方をしていたようだ。

 

 人間は『不思議』を未知なる形状に具現化し、神や精霊といったなんなかの意識を持った存在に仕立て上げた。しかしながら、この現代においてはそんな驚異は認められない。雷の正体は雲の中で発生する静電気による放電であり、間違っても神の憤怒から来るものではないと誰もが認めている。


 神は不在で悪魔も不在。物理現象のみが万物のルールとして世をつくる化学世界。

 ……この思考は間違っているのだろうか?例えば解明されてない未知の『不思議』があって、人々が「お化けの仕業だ」「神様のチカラだ」と言ったとしても、内心はそんな筈はないだろうと蔑むのが極めて現実的な思考だと思う。

 仮に本気でそう思う人がいるのなら、それは“本物”を一度でも見た者か宗教的な盲信者だけ。

 

 つまり、僕が思うに魔術とは「便利」という言葉の枠組みに収まってるだけの道具に過ぎないということだ。そんな物が何故に化学という現実に押し潰されず、未だこの世界に蔓延るのか理解出来なかった。

 

『ここの人々は日常的な奇跡を持てるのだ』


 僕はそう思い、新たな授業を待ち望む。



***

 


「っんーよいしょ!」


 僕はゆっくりと体を起こす。昨日よりもよく眠れたけれど、それでもまだ意識がボンヤリとする。

 朝の日差しが二度寝をしろと誘惑してくるが、その眠気を振り解き、僕はベットの外に出ていった。

…………ん?んん?


 起きてすぐの鈍った身体に電流のようなものが走る。いや、本当に体中が痛いぞ、特に腕や爪先が。



 筋肉痛かなと考えたが痛みで動けないレベルの激痛という訳でもないので我慢して、僕は手早く制服を着て日課をこなす。そして学園に足を運んだ。


 ***


 現在地はルーンテール学園の食堂。一階のエントランスの近くに設けられている食堂は広く、多くの人が訪れるスペースが取られている。昨日はもっと人がいたと思うのだが、朝早く学園に来たのもあって、食堂はガランとしている。

 僕は食堂のおばちゃんに「イセカイ定食一つ‼︎」と注文した。


…………実のところまだ、イセカイ定食しか食べてはいけない決まりなのだが。どうやら一週間後には他の物も食べて良いようだ。

 そんなこんなで、僕は、イセカイ定食とやらを口にする。昨日の夕方も()ったのだが、なんとも言えない味がする。日本食のような、そうじゃないような味。

 頑張って例えるのなら、ふやかした宇宙食というか、少し濃くなった病院食というか。ほんと変な味だ。


 美味しくないが、不味いわけでもないコレとは悲しくもしばらく付き合っていくことになりそうだ。




 

 昨日はアイリに怒られたので、今日は早く教室に向かうとする。扉を開けると、里香とアイリが先に座ってた。

「おはよう、鍵山さん。弓野(きゅうの)さん」と立ったまま挨拶をすると、弓野さんは怪訝そうな顔でこちらを見て来て、

「……里香でいい。…………弓野って苗字、嫌いだから」とぶっきらぼうに返す。


 彼女のチョボンと小さく座る様子がとても可愛らしく、仮に妹というものがいたら、こんな感じなんだろうなと僕は思った。

 「分かったよ。ごめんね里香ちゃん」

 謝罪すると里香ちゃんはジト目のままだが、興味を失ったみたいにこちらを向くのを辞めた。


「私も、アイリで良いわよ。特別よ! このチームで活動するのにずっと苗字じゃ、辛気(しんき)臭いじゃない!」


 アイリもため息混じりにそう言った。

 

「うん‼︎分かったよ、アイリ‼︎」


「なんか、アンタ気安いわね!!」

 

 アイリは顔を真っ赤にして叫ぶ。そうこうしているうちに、天木さんと因幡さんの二人もやって来て、自己紹介をしながらわちゃわちゃと騒いだ。


 

 そしてチャイムが鳴るとジエルが教室に入って教壇に立つ。

「おはよう。楽しそうだね」

 

「じゃあ、今日は魔術の種類について説明しよう。気をつけ!礼!」


 お願いしますと各自言い、椅子に座った。


 そうして、今日も、ジエルと名乗る教師は楽しそうに話し始めた。

「魔術の種類それは、例外もあるけどおおまかに言えば、三種類に分けられる。

 一つ目は、『現象魔術』。

 二つ目は、『術式魔術』。

 三つ目は、『構成魔術』。

 じゃあ一つずつ、順を追って説明して行くね」

 

「一つ目『現象魔術』。昨日見せた、火を出す魔術がこれに当たる。

 一言で言えば術式(コード)を使わない魔術の事だ。

 魔力は、この世界(魔術世界)に住む人なら誰でも肉体(からだ)に内包してるんだけど、

 魔術を使う時は、腕や指に、魔力を循環(じゅんかん)させる()()のような物が体に刻まれるんだ。」

 「この世界の人間(魔術師)達は、自分の身体(からだ)の一部を銃身(バレル)のように、武器のようして、魔術を打ち出す。

  『現象魔術』は難しい術式(理屈)をコネないで、使える魔術だ。足の指を動かす程度の集中力で使う事が可能な魔術なんだよ」

  

(なるほど、要するに、複雑な事をしないでも良い魔術って事か)

ーーそう思いながら、僕はメモを取る。

   

 

「さてと、次は『術式魔術』だ。こっちの方が君たちに馴染み深いんじゃないかな」


()ずは、例え話から入ろうか。

 たとえば突然、この学校が突然燃えたとしよう。そして鎮火をするために消防車がやってきた。

 ……が、消防車から降りた消防士はなぜがトタンバケツを持って来きて、消化を始めた」


(なぜ、今その話を?)

 消防車という異世界らしからぬ言葉に心が囚われていると、


「消防士は一生懸命バケツに水を汲んで火を消そうとした。

 ……ってバカだと思わない?」


 突然、教師は声量を上げ、冗談めかして言った。

「だってさーホース使えよって話になるよね。バケツで汲める水程度じゃ、学校の火を消火出来るわけないじゃ  ん!

 ……っとまあそういうことで、水を出せても『水を出す量』、『幅』、『圧力』なんかが足なかったら『水で火を消す』という結果は基本生じないじゃない。だからこそホースを使う必要が出てくる。

 魔術もこれと同じ。魔力で術式(コード)という名のホースを作り、魔力という水を放つんだ。こんな感じでね」

 そう言うと、ジエルは突如、横を向き、手を前に突き出し軽く叫んだ。

「ーーThe co(認知)gnitive(せよ)

 するとジエルがかざした手の前の空気がトン、と波紋の様に揺れ、白く輝く、手より一回り大きい円が(えが)かれた。

「ーーーーcontrol on(制御を)

 続けて彼は、唱える、輝く円の内側を埋めるように緻密な紋様が刻まれていった。

 みるみる、円の中は幾何学的な、模様に変化していくのが分かる。

「ーーether(未知なる)μάγοι(博士たち)

 彼が、魔法陣と呼んだそれは輝きが増し、中央から(まばゆ)い青く白い、光線が駆けて行った。

その後、役目を果たした星が空気に溶けるように輝き消滅する。

 

(マジかよ!)

 

 少年は目を見開き驚く。火を出した時も驚いたが、今ビームを放っていた全工程は少年にとって、思い描いていた魔術そのものだったからだ。

 キョロキョロあたりを見渡すと他の生徒も明らかに驚いているのが判る。

「すごいですね!まるでアニメ見たいですね!」

 天木(あまき)さんがキラキラ目を光らせながら言った。すると、ジエルは腕を下ろしながら、語りかける。

 

「確かにね。君たちから見た、魔術はそんな認識なのかもね。

 これは、汎用的な攻撃性光線魔術(エーテル・マゴイ)っていう魔術なんだ。少し昔、銃もなかった時代は、魔獣狩りなんかにも使われたし、魔術全盛期には、皆んな人に向けて、これをぶっ放してたんだ」

 

 (魔獣?は何か分からないけど、獣に撃つものを、人にも撃ってたのかよ)

 



……僕は少し、ドン引きした。


「じゃあ、三つ目の『構成魔術』これは意外と簡単で、さっき言った、『術式魔術』を詠唱をしないで、自分の心の中だけで魔法陣の形状を作り、それを実際に再現して、使用する物だね」


「詠唱しないメリットとデメリットもあって、

 メリットは、完璧に覚えた魔術は、詠唱をする魔法よりも早く撃つ事が出来る。逆にデメリットは、覚えて無いと、安定しなくて、不発したり、逆に発動するのが、遅くなる事だ」


「……だから、魔術師は、基本、汎用的な魔術は構成魔術(詠唱なし)で、撃って、決め手となる魔術は術式魔術(詠唱あり)で使用するんだ」


 そうして、一段落着くと、

「さて、じゃあ今日の授業で質問は、あるかな?」

と聞いてきた。

  

 すると、里香ちゃんが、小さく手を挙げた。 心なしか、その時の彼女は緊張してるように見えた。

「…魔術は、いつから、あったんですか?…昔からあったんですか?」


 ジエルは微笑み口を開く。


「この後の、授業を奪っちゃう事になるから、多くは言わないけど、(はる)か昔、神様が、落とした、“魔法”によって作られたんだ」

 とだけ言うと、「じゃあ今日はここまで。次の時間は、歴史だよ」と呼びかけて、帰って行った。

 

 (あの先生(ヒト)いつも突然帰るな)

ーーそんな事を思いつつ、二回目の、ジエルの授業は終わりを迎えた。




 


 

  

次回、幕間出します。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
イセカイ定食がどんな味なのかは気になりますね~。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ