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 01話 魔術世界に行く




 ーーーーふと、目を開ける。


 初めに視界に飛び込んできたのは息を呑むほどに圧巻な大窓。

 飛行機、滑走路、そして空。この場の全てを内包する景色は一つの絵とさえ思えた。

 銀の窓枠が額縁と錯覚するような美しい絵画(そら)

 高大な天に描かれた天然の芸術は万人の気分を明るくすることだろう。

 自分の生きている世界に青空があって良かったと改めて思う。

 普段、様々な表情を見せる青。

 だが今日は特段、透き通っていて綺麗だった。

 

 しばらくすると、先まで穏やかな気持ちが失われてきた。どうも気分が悪い。ドス黒い煙が全身を駆け巡るような感じ。

 こんな吐き気に襲われている理由は二つ。

 

 ふわっと浮くような高揚感。

 日本、そして()()()()から出ていくという不安。


 ただ二つの正反対の感情が肌に汗をかかせた。

 汗は立春の暖かさに消えていったが、逆にそれが少しの不快感を残していく。

 緊張と気持ち悪さを受け止めるように僕は空港で頭を手に落としてうずくまる。

「ーー大丈夫ですか?」


 鈴のような柔らかい声が響く。心地よい少女のような声が耳に入り意識を外側に戻すと、誰だろう? と思い、僕は顔を上げる。

 そこには僕と同じくらいの年齢だと思われる制服を着た少女が心配げな様子で立っている。

 一目見て、きっと笑顔がよく似合うだろうと思えるほどに可愛らしい顔。

 なによりも彼女の瞳。

 日本人らしい黒色の目が惹きつけるに僕を見ていた。


「ああ、ごめん。ただ別の世界に行く事に緊張してただけなんだ。それよりもしかして君も…?」


「うん!私も代表に選ばれたんだ。まあ一般枠だけどね」

 少女はニコッと微笑えんだ。彼女の笑顔は予想通り、いや予想以上に素敵なもので少し恥ずかしくなってしまう。


「僕も一般枠に当選したんだ。僕は宝坂叶一。君の名前は?」

「私の名前は天木凪輝(あまきなき)。よろしくね。」

 互いに自己紹介をし、しばらくの間、趣味や好物など様々なことを話し合った。



『学生使節団、一般枠の四名の方は10番ゲートの航空機に集合をお願いします』


 アナウンスがポーンと明るく鳴り響く。

 急がなくては。


「ヤバッ!」

 僕らはアナウンスを聞き終えると急いで集合場所に駆けて行った。



***


 飛行機の中には中学生くらいの背丈の女の子と、自分より背丈の高い青年が茶色のシートに座っていた。他にはガタイの良い男が二人しかおらず、プライベートジェットとも形容できる。

 飛行機は暫くすると放送が鳴り、機体が少し振動した。

 ふと、窓を見るとアスファルトで満たされた滑走路から僕達が離れていくのが分かる。

 耳が気圧に少し押され、息苦しくなったので耳抜きをしつつ、到着を待つことにした。




 飛行機から出ると、そこは一面の海と灰色の大地。


 大きくはないが、沖ノ鳥よりは格段に大きな人工島。

 この島の他に視界に収まる陸地は無くて、せり上がって形成されたのか、大海に呑まれて取り残されてしまったのか、などちょっとした考察が出来そうだ。

 

 眩い金色(こんじき)の太陽を反射し、僕の目を眩ませる海。空にエメラルドが混ざったような青色が鼻をくすぐる潮の匂いを感じさせる。

 灰の大地に足を付けるとそれがコンクリートを材質にしているということにようやく気づく。

 

 更に進んでいくと“扉”が見えた。それは金属で出来た巨大な扉だ。

 目を凝らすと根本(ねもと)には多くのケーブルが絡まってるのが分かる。


 まるでSFモノに出てくるような未知の機械を連想させた。

 

 扉に近づくとテレビかどこかで見たことのある男が立っていた。

 確か、なんかの大臣だろうか?

 男はこちらを見据えると横一列に並ぶように命令し、一つ話を始めた。

 男の口から話される、堅苦しく淡々とした説明。


(……………………)

 

 話の内容は規約と世界的偉業への責務。

 それは応募していた時に書いていた事と全く同じ会話は退屈で、欠伸(あくび)を誘う。ただ、ちゃんと聞かなければいけないので、僕はその気持ちを抑え込む。

 

 男の長い話を要約すると、今から異世界とも呼べる場所に転送するから向こうの世界の職員に従ってくれということらしい。

 


 ──(とびら)が開く。新造されたであろう門はその新鮮さを微塵も感じさせない。太古から存在していたかのような厚みを含んで、扉は開く。

 

 二人の少女と一人の少年が僕の前を通り過ぎて進んでゆく。一足先に扉へ向かう少女達に焦り、僕は彼らの背中を追いかける。

 

 

 扉の先は知らない光景で満ちていた。色彩を得た宇宙、とでも表現するべき所に出る。

 星はねじれて、光は砕ける暗い泉。再生と崩壊を繰り返す宙を見ていると僕は不思議な気持ちになる。

 

 星の道を歩き続ける。光道は果てしなく続くのでは無いかと思わせる程に長く続いていた。だが、歩き続けると突然前から明かりが迫る。

 その輝きがあまりも眩しくて、僕は自然と目を瞑ってしまう。




 目を開けようとすると目一杯の光が飛び込んで視界がブレる。見えなくて手探りでこの場を探ると冷たくて滑らかな床の感触がする。……あぁ、ちょっとずつ見えてきた。

 光に慣れてきて少しずつ目を開けた。

 そこは大理石の様な滑らかな光沢のある石で造られている塔だった。キョロキョロとあたりを探ると、白色のローブを纏っている男たちが立っている。

「こちらへどうぞ」

 男たちの案内に促されるまま、僕らは彼らの後ろに付いて行った。

 

 塔の外を出ると爽やかな風が流れて来た。塔は城と繋がっており城は子供ころインターネットで見た、イギリスかどっかの城にそっくりな物だ。

 

 下を眺めると、中世を思わせつつも小さなビルなども見える城下町が広がっていた。そのまま城の中に入ると、甲冑を着込んだ人々が並ぶという異様な光景が広がる。

 

 その最奥には笑みを浮かべこちらを見てくる男がいた。

 トランプの王札(キング)のように冠を被り、杖を携える初老の老人。

 そしてその前方にはツインテールが良く似合う女の子が仁王立ちでこちらを睨んでいた。




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