(ほぼ)完全ひきこもり女子高生
渉くんは部屋に入るときこそ微妙な顔をしていたけど、いざおじさんとパソコンで何やら始めてからは、目をきらきらと輝かせている。しかも時折、あのおじさんに尊敬のこもったまなざしすら向けている。作曲のことなんてなにも分からないけど、この表情を見ていると、どれだけ魅力的なんだろうと思う。無関係のことではあるけれど、目の前にある「楽しさ」を理解できないというのは、なんとも歯がゆくなる。
創作といえば、小説家の相原さんも同じような「楽しさ」を知っているのかな。一度作品を読んでみたいけど、相原さんは決して見せてくれようとしない。前に部屋に入ったときすごそうな賞状が目に入ったけど、すぐ隠されてしまったし、もちろんペンネームを教えてくれそうもない。柔和でまじめな人に見えるけど、小説家であることを根拠づける物証がないし、たまに不審な行動もみられるから、玲奈ちゃんを筆頭に警戒されている。
こんな色物揃いの木陰荘だけど、色物揃いだからこそひきこもっていても退屈しない。大家さんは優しいし、わざわざアパートの外の退屈な世界で頑張る意味が分からない。
私は夢……バーチャルヨウチューバーになる夢のため、おじさんとゲームの腕を磨く。運といい声はもう持っているから、あとはできる限りたくさんスキルを身に着けるだけだ。配信を見に来る人が楽しめるような、学校では学べない色んなスキルを。