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一日のはじまり
朝、部屋を出ると、茶色で短い髪のさわやかな青年が共有廊下のほこりを箒で集めていた。
「あ、相原さん。おはようございます」
「おはようございます」
背筋を正し、折り目も正しく相原さんが口を開く。
「水曜日は一限からでしたね」
「ですです!もう眠くて眠くて。相原さんこそ、いつもありがとうございます」
「いつものことですよ。遅れますから、早く行ってください」
スマホを覗くと、確かに急がなければ間に合わない時間だった。
「本当だ。じゃあ行ってきます!」
「お気をつけて」
相原さんは小説家だそうだ。引っ越したばかりの時に、向こうから挨拶をしにきてくれた。誠実で良い人そうだが、小鷹はいつも警戒しているようだった。不思議だ。
自転車で坂道をくだり、野菜の無人販売所を通り抜けた先の赤信号。ちょっとくせのある黒髪が肩を掠める、少し小柄な後ろ姿があった。おはようと声をかけて横に並ぶと、茶色っぽい瞳が顔を覗き込んできた。
「おはよう進藤くん。今日も会ったね」
「小鷹がこんな時間なんて珍しいな?」
「……うん、今日はたまたま」
「そっか」
僕の一日はいつも通りに始まった。