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集合住宅ストラテジー  作者: 有折葉縁
13/19

異世界少年

 少年は名前をルートヴィヒという。もっと長い名前を名乗っていたけど、全然聞き取れなかった。ルートヴィヒですら長い。僕らは自然と、ルート、ルートくんと呼ぶようになっていた。

 ルートはどうやら、異世界から迷い込んできたらしい。全く信じられない話だったが、彼は杖を振って遠くのものを動かし、小さな火球を出して見せた。信じられないといった様子で美咲さんが火球をつかみ、大叫びしていたから、本物の炎で間違いない。本当に異世界から来たのだろうか。信じがたいが、しかし目の前の魔法は本物に見える。事実だとして、訳アリにもほどがある。

彼の全身のけがを木陰荘の面々が心配していると、心配ないよと言わんばかりに杖を一振り呪文を一言。青白い光を薄く放ちながら、なんとみるみる傷が塞がっていった。異世界少年ははじめ、魔法が使える自分が実験動物にされることを、過度に恐れているようだった。けれどこうして魔法を唱えるところを見ると、色々気遣ったり話したりしているうち、僕らのことは信用してくれたみたいだ。

「ルートくん」

 大家さんの瞳が輝いている。少しこわい。

「はい」

「ルートくんは、身分を証明することができません。頼れる人はいませんし、戸籍すらありません」

 いつもの雑な話し方はどこかへ潜み、不自然な敬語で語りかける。まるで、論理の正しさを見せつけるかのように。

「……はい」

「ということは、ルートくんはもう、うちの子になるしかありませんね」

「はい……はい?」

「あぁけれど困りました。木陰荘には無料で貸せる部屋はありません」

 え?三階に空き部屋はあったような気がするけど……

「ということは、ルートくんはアタシの部屋に住むしかありません」

「へ?」

 ルートくんはあっけにとられている。僕らもみなほとんど同じ表情を固めている。

「いや、いやいやいや!異議あり!それはおかしいです!」

 思わず声を上げる。

「なんでだ?ルートくんはアタシが拾った。だからアタシのものだ」

「えっ……」

 ルートくんは今にも泣きそうだ。実験動物になるより恐ろしい未来が見えてしまっているかもしれない。身長が小さいだけで恐ろしい化け物は、驚くべきことによだれを垂れ流している。きたない。

「ルートはルート自身のものだし、部屋なら三階に空きがあるはずだ!無料では貸せないというのなら、ひとまず泊まるのは同性の部屋じゃないとダメだ!犯罪だ!」

「むっ……」

 よだれの滝が途切れた。

「渉の言う通りだ。百歩譲っても、決定権は間違いなくルート少年にしかない」

 おじさんが援護してくれる。他のみんなも、味方してくれているようだ。全員、大家の横暴を白い目で見つめている。

「ル、ルートくん。アタシの部屋にくればお菓子もご飯も食べ放題だ。そうだ、旅費も出そう。この異世界を旅してみたくないか?だからアタシを選んでくれ。それだけじゃないぞ、えーっと……」

「わ、渉さん!」

 助けを求めてルートがこちらを見上げる。きゅっと狭めた細い眉、潤んだ瞳に感情が乗っている。こんな状況じゃなくても、思わず首を縦に振るだろう。

「今日はとりあえず、うちに泊まるといいよ」

ルートの表情が一気にぱっと明るくなる。

「はい!!!」

「あああああああああぁ……」

 住民たちにジト目で看取られながら、大家は死んだ。

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