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No.001-1 街の光を見て、貧血少女は外に思いを馳せる

『この世界はかつて、魔法技術が栄えていた』




「………」


そんな感じの言葉をよく聞くが、相変わらず良く分からない。


偶然放送されていたドキュメンタリー番組を見て、そんな事を思った人物が1人。


白く長い髪で、17歳くらいの、無表情な少女。病院のベッドで、暇つぶしにテレビを見ている。


「……」


少女は手に持っていたリモコンを操作して、適当にチャンネルを回す。アニメの再放送がやっていたので、それを見る事にした。



「入るわよ。」


そこに看護婦の人が、夕食用のおかゆを持って病室に入って来た。


「で、調子はどうなの?何か思い出した?まあどうせ、何も変わって無いだろうけどね」


やけに不機嫌な顔でそう言いながら、看護婦の人はおかゆをテーブルに置いて部屋を出て行った。露骨にイライラしているのが良く分かるので、どうせまた彼氏と揉めたんだろうな、と少女は察した。



「…変わって無い、か…事実だけどさぁ……」


あろうことかその少女、自身に関する記憶が全く無い。しかも名前すら思い出せない。目が覚めた時には病院のベッドの上。肉体的には当時12歳くらいだった。


そもそもの入院理由は『貧血』。それも、血の比重があまりにも少ないというもので、定期的に輸血を行わなければまともに歩けないくらいのもの。


別に体に問題があるわけではないが、輸血をしても貧血は全く治らない。長くても2週間でまた貧血症状を起こす。


これが、5年も繰り返されている。


「…いただきます。」


少女は、とりあえずおかゆを口にする。栄養はあるが、毎日材料が同じなのでいい加減飽きている。


「というか冷たいし……さっきのあの女、出来た後に冷蔵庫に入れたわね……」


記憶も全く戻っていない。親族らしき人が来たことは一度も無いので、対人関係がどういったものだったのかも全く知らない。


何かを持っているとすれば、輸血のために用意された点滴スタンドと…あとは、『No.106』と書かれたタグ(ボールチェーン付き)くらい。最初に目が覚めた時に、右手に着けられていたものだ。しかし手掛かりになるかどうかと言えば、まず退院出来なければならないので意味を成さない。


「…あ、そろそろ時間かな。」


おかゆを食べ終わった後に時計を見る。時計の針は、6時53分を指していた。あと2分くらいで、いつも見ているアニメが放送される時間だ。


そう思って少女はチャンネルを変えたが、やっているのは報道特番だった。今週はアニメが放送休止になっていたのを、すっかり忘れていた。



『そもそも、何故科学技術の発展が、魔法技術の衰退に繋がったのか。魔法を使えるポテンシャル、つまり『魔力』を人々は持ち合わせているのに、何故か『魔法の使い方』を忘れる形でーー』



「しかもまたこのテーマ……」


テレビに出て解説してる人曰く、この世界は、今でこそ一企業が手軽に機動兵器を作れるくらいに技術が栄えているが、昔は『魔法』で成り立っていたらしい。


ざっくり言えば、魔法を学校で学び、時々戦ったりして、偉業を成し遂げた人は世界中の人達に評価される…という感じだ。


科学技術が発展するにつれて、突然として人々は魔法の『使い方』を、頭がら飛んで行くように忘れてしまったという。何故かと言われれば、思い当たることはあっても確信が得られない。テレビじゃそう言ってばっかりだ。


「そもそも魔法魔法って、何で同じテーマをいちいち引っ張り出すのかしら。科学技術に文句言いたいだけなら、わざわざテレビで言うんじゃないわよ……」


そう文句を言いつつ、少女はチャンネルをまた変える。だが番組表を見ても、9時台になるまで面白そうな番組がやらなそうだったので、仕方なくテレビを切った。


「はぁ……」


ベッドに寝っ転がり、少女はため息を吐く。…はっきり言って、暇でしかない。記憶喪失はまだ良いとしても、奇病ともいえる貧血のせいで病院の外に出られない。そのため何かやってみたいことがあっても出来ない。


暇つぶしに使えそうなものを貰った事は無いので、娯楽と言えるのがテレビくらいしか無い。待合室にある玩具を弄ることはあるが、長続きしない。




「医院長、いい加減何か行動起こさないと駄目ですって!向こうから支給してくれるとは言え、そう何度も培養血液をあの子に費すわけにはいきませませんよ!」


「じゃあどうすれば治せると言うんだ!無理言って来てもらった明井先生でも全く治せず、完全に折れて医者を辞めてしまったんだぞ!?しかもそのせいで『名医をへし折らせた病院』何てレッテルまで張られて評判はガタ落ち!!だからと言って輸血を止めたらそれこそ却ってレッテルが多くなるしーー」



しかも病院側は、少女を生かす前提でしか動いていない。何かをするのであれば、輸血パックを取り換えるか、食事用のおかゆを届けるくらい。


どの道少女は、この病院に期待などしていない。さっきの看護婦の態度や、廊下から聞こえてくるこの医院長と職員の会話の時点で、まず病院の職員として品格や資格が欠けている…そう思っているから。




そう言う感じで少女は、体や記憶に関することは何の進展も無いまま、グダグダと生かされ続けている。少女からすれば、最早生きている意味などほぼ無いのに。


テレビの影響で、病院の外に対する憧れはあった。だがいつまで経っても貧血は治らないので、いつの間にか諦めた。


…どうせ治らないなら、さっさと楽になりたい。少女は常にそう思っていた。


「……つまんない」


口論になっていた職員と医院長の声が聞こえなくなった後、少女はそうつぶやく。…そして、そのまま眠りについた。




………


「ん…」


少女が目を覚ました時は、とっくに消灯時間を過ぎていた。寝直そうとは思ったが、眠れない。


「……」


点滴スタンドを引きつつ、扉に近づく。少女はそれを、誰かに気づかれないようにそーっと開けた。


点滴スタンドの車輪のキーキー鳴る音を気にしながら、少女は廊下を歩く。階段も降りて向かった場所は、病院の出入り口である、大きな自動ドア。


「綺麗……」


ガラス越しに、病院の外の景色を眺めていた。と言っても、道路を走る車や街灯、部屋の明かりやネオンが点いている建物、あとは運送用に使われている巨大ロボットくらいしか見えないが、少女にとってはそれが良い。


3階の窓から見る上からの景色より、1階から見る景色の方が、自分の近くにあるもののように感じるから。


病院の外に出る事は諦めている。だが少女は、やっぱり外への憧れそのものは捨てきれないようだ。


「……いいよなぁ…外に出れば、自分がやりたい事が大体出来るんだから…」


少女はそうつぶやく。世の中に不満を持っている人は多いみたいだけど、それでも健康に生きている時点で、少女からすればラッキーなものだ。自分なんかとは違って、その気になれば何でも出来るから。


「私もせめて、変な貧血を患って無ければ…」


点滴スタンドのパイプを握りしめて、悔さを隠すような笑みを浮かべながら、俯いた。






その瞬間だった。





「……えっ?」


物凄い音と共に、機動兵器と思われる巨大メカが。横から、病院の壁を抉るように、少女の方に突っ込んできた。


そして、大爆発を起こした。

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