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第二十六回 山賊討伐 一

 建安三年のお正月。私は十二歳になり、益徳さんは三十二歳となりました。


 しかし、お正月を祝ってはおられません。益徳さんは豫州の小沛に出立していったのです。

 曹操さまが貸し与えた軍勢は二千。極少と言うような数です。実は当時の曹操さまの軍勢は多くはなかったのです。

 兗州は反乱も多かったですし、州境で駐屯している兵がほとんどだったので、本来は兄者さんに貸せる兵はほぼなかったのですが曹操さまがどうにか捻出したのでした。

 それに兄者さんは喜び、大はしゃぎでしたので、曹操さまもホッとしたようですよ。


 私は劉備一家が出ていくのを城壁に登って見送っておりました。

 益徳さんは伯父さまから貰った駿馬に跨がって、立ち止まっては振り向き、立ち止まっては振り向き。その度に城壁の私に向かって手を振ってくださったのです。

 益徳さんが止まると、兄者さんも雲長さんも止まって振り向いてくれます。

 本当に二人は一心同体なんだわ。


 後に城外で見送っていた曹操さまは、張飛ばかり余に手を振っておって、肝心の劉備と関羽は振ってくれなかったと悲しんでおりました。

 いえいえ曹操さま。あれは私に振られたものだったんですよ?


 私は、少ない兵ながらも、きっと益徳さんなら徐州を取り戻し、私を迎えに来てくれると信じていました。


 それから数ヶ月。私の花嫁修行は続いておりましたが、益徳さんたちも着々と徐州奪還に向けて進んでいたようです。





 小沛の城は徐州とはほぼ州境で、少し足を伸ばせばもはや徐州という位置でした。

 兄者さんたちはそこで兵を訓練させ、馬や矢を集めたのです。


 そして雲長さんや益徳さんを集めて善後策を検討しました。


「雲長、益徳。これからどうやって徐州を取り戻すのか、意見を言ってみてくれ!」


 それに益徳さんは、迷いなく手をまっすぐ上げます。兄者さんは益徳さんを指差しました。


「はい、益徳くん!」

「おう兄者。すぐさま呂布を攻めて、捕えてしまおう!」


 すごい益徳さん。それが出来れば兄者さんたちは逃げずに済んだのに。

 兄者さんも、益徳さんの言葉に数度頷きました。


「なるほどなァ。雲長はなんかないか?」

「さすれば兄者。呂布は現在、騎兵三万、歩兵二万を有しております。周囲の諸侯とは同盟を組んでおり、まともに戦えば多くの将兵を失い、また逃げることになりましょう」


「やっぱりかぁ~。益徳。ダメだってよ」


 益徳さんもなるほどと頷いております。それでホントに歴戦の猛者なのかな……。

 雲長さんは二人が分かるように続けました。


「この徐州付近には、賊なれど呂布と同盟を組んでいる輩がおります」

「ふぅん?」


「それは楊奉(ようほう)韓暹(かんせん)というものたちで、数千の兵を持っております」

「なるほど、それで?」


「この二人、天子が頼るものなく長安より逃げる際に、天子を助けた功績により、韓暹が大将軍、楊奉が車騎将軍に任じられております。しかし横柄で不遜なために大臣たちに追い出され、山賊と成り果て民を苦しめているのです」

「天子さまに不遜はいけねぇし、民を苦しめるやつァ許せねぇな」


「それを我々で討ち取り、兵や兵糧(ひょうろう)を我が軍に取り込むのです。さすれば呂布は同盟相手を失い、我々は物資を得られる。まさに一石二鳥です。呂布に対抗できる一途になりましょう」

「へー、そりゃいいや。じゃ雲長に千兵を与え楊奉を。益徳に千兵を与えて韓暹を討たせる。どうだ? この作戦」


「全然ダメですね」


 兄者さんはヘコーと横に倒れました。雲長さんはそれにも構わず冷静に作戦を言いました。


「留守番が居なくては城が心配ですよ。兄者は五百の兵で城を守ってて下さい」

「へー……」


「楊奉は烈山(れつざん)に五千。韓暹は相山(そうざん)に三千の兵を有しており、それぞれの山に山塞(さんさい)を築いております。互いの山に異変があったらすぐにのろしを上げて連絡し合い、援軍を出しあって挟撃する体勢を組んでます」

「そ、それじゃあ二千の兵しか持たねぇオイラたちには勝ち目はねぇじゃねぇか」


「まぁまぁ、儂が五百の兵を率いてまず韓暹の正面から挑みます。韓暹は兵力が少ないと侮って山塞を出て攻撃を仕掛けてくるでしょう」

「オイオイ。いくら雲長でも五百と三千じゃあ、ちと危険じゃねぇか?」


「そうです。それは韓暹を山塞から誘き寄せるためです。山道で伸びきった韓暹の兵に対し、山肌に伏せておいた益徳の千の兵でその横腹を突いて貰う。武勇優れた益徳相手です。こうすれば韓暹は正面と横の兵を相手にせねばならず、混乱して壊滅するでしょう」

「へぇ! すげぇや!」


「それで終わりではありません。山塞を奪い、降伏した韓暹の兵に、楊奉へと連絡ののろしを上げて貰います」

「なるほど。すでに韓暹の兵を取り込んでるから楊奉と互角だな?」


「さすが兄者。まぁまだ降伏したばかりの兵なので実戦には役にはたたないと思いますが、韓暹の時と同じ策を使います。儂が山塞から楊奉を迎え撃ち、益徳は山に兵を伏せておき、楊奉の後ろを突いて貰えば一網打尽です」

「そりゃすごい。それでやろう!」


「まだ作戦が図に当たったわけじゃありませんからぬか喜びはなさらないで下さい。じゃあ益徳。それでいいか?」

「オイラ、暴れられるならなんでもいい」


「ふふふ、頼もしいヤツ。では兄者。吉報をお待ちくだされ」


 話が決まると、兄者さんは二人を将軍に任じました。といっても名ばかりのものですがね。それを受けて雲長さんと、益徳さんは準備をして出ていきました。

 兄者さんがマヌケに見えますが、普通の主君であれば、兵数のほとんどを部下に貸し与えたりしません。逆に反乱を起こされたなら勝ち目がないからです。

 やはりそこが兄者さんで、雲長さんも、益徳さんも気持ち良く仕事ができるのです。

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