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第十回 新兵舎の声 一

 益徳さんと、郎中の仕事をして数日。都の中は平和なようで特に事件もなく見回りをして夏侯のお屋敷の門まで送られると言うような毎日です。


 うーん、平和っていいわぁ~!


 って益徳さんと仲良く伸びしながら言ってる場合じゃないです。平和じゃ手柄は立てられないじゃないですの! でも本物の戦は怖いし、お化けも怖い。もー、ちょうどいい真ん中ってないんですの?


 そんな中、いつものようにお屋敷の中を駆け回っておりますと伯父さまが部屋の中で悩んでいるように唸ってらっしやるので、足を止めて部屋に顔を出してみました。


「伯、父、さ、ま」

「おおなんだ、三娘か。元気そうだな」


「それに比べて伯父さまは元気がなさそうですわ」


 伯父さまは困った顔をしながらため息をつきました。


「実はそうなんだ。困ったことがあってなぁ」

「あら。だったら話してみるだけでも楽になるかもしれません。私に話してみては?」


「……ふむ、そうだな。関係のない三娘に話してみるのもいいかもしれん」


 そう言って伯父さまは話し始めました。





 実は、この都は新しいながらも官民ともに発展し、区割りや道割りなど日々整備されておる。

 軍もさらに増強され、兵数も多くなった。であるからして、兵を入れ宿泊させる兵舎の棟数も増やしていった。


 しかし、新しい兵舎で変な噂が立ってな。


 そのぅ……。変な声が聞こえるというのだ。


 実際に新兵たちがそこに泊まり始めたのだが、


「おい……、おい……」


 と呼ぶ声がする。恐ろしくなって郷里に帰りたいものもいれば、転任を希望するものもいる。

 度胸のあるものが、進み出て泊まってみると自薦するものの、これも次の日には真っ青な顔をして出ていってしまう。


 さぁそうなると新しく出来た兵舎はケチがついたものだ。誰も入りたがらないし、士気も落ちる。

 不思議な声など、迷信だと言い聞かせても実際に聞こえると反論され、これを収める方法がなくて困っているのだ。





 私は白目を向いてその場で立ち卒倒しておりました。後ろに壁があってよかった。お陰で床に身を打ち付けなくて済みましたわ。

 それにしても何ですって? 不用意に聞いていれば、またお化けの話じゃありませんこと?

 伯父さまったら、悩みを聞いてあげようという仏心の私に、そんな怖い話をするなんてヒドイですわ。


 でもお待ちになって。お化けにはお化けですわ。こちらには“度胸お化け”がおりますのよ。

 うふふ。益徳さんの力でお化けを解決してお手柄ゲットですわ!


「伯父さま!」

「うん、どうした?」


「その問題、張飛さまに解決して貰ってはどうかしら?」

「なに? 張飛にだと? いくら戦の駆け引きが上手い豪傑といえども、正体不明の怪異相手では役には立つまい」


 ふふ。益徳さんの前では、怪異のほうが勝手に逃げていくわよ、きっと。


「それでもお任せする価値はあると思うのです!」

「まあそなたが言うならそれでもよかろう。儂は公務があるから現場には行けんが、兵長に案内するよう命令しておこう」


「伯父さま、張飛さまが解決したら、昇進できるように曹操さまに口利きをしてくださいね」

「なに? まだ張飛を中郎将にするつもりなのか? ふふ、張飛に解決できるものか。よかろう。もしも解決できたのならな」


「仰いましたね? 武士に二言はございませんわよ?」

「おい……、いくら解決して曹操に口利きしても、いきなり中郎将までは昇格できんぞ? せいぜい秩石が二、三十増えるだけだ」


「わ、分かってますわ」


 いや全然分かりませんでした。えー、それしか加増されませんの? 一発で中郎将になれると思ったのに甘かったですわ。

 中郎将にはもっともっとお手柄を立てないといけないようですわね。えーと、一度で三十石の加増されるとして、あと五十匹のお化けを退治すれば千五百石の加増ってことになりますわね!


 ……いや、そんな簡単な話じゃないような気がしますわ。なんでお化け退治なんですの?




 とりあえず益徳さんに会いに行ってその話をしますと、胸を叩いて二つ返事で引き受けて下さいました!

 ……てか、あんまり信用してないみたいですけどね。なによう益徳さん、私を子ども扱いしないでちょうだい。


 益徳さんは、いつものように矛を肩に担いでにこやかに進んでいきます。私は横に並んで、矛を持つほうとは別の益徳さんの手にそっと手を伸ばして、手を繋いでみました。


 ドキドキします。益徳さんの手の温もり──。

 私の胸は壊れてしまうのではないかというくらいときめいておりました。

 益徳さんのほうも拒否などせず、軽く握り返してくれたのです。

 私は益徳さんの大きな身体を見上げると、そのお顔はニッコリとこちらを向いておりました。


「こうしてみると親子みたいだな」


 バター! ぶ、ぶっ倒れ~。

 そ、そりゃ私は六尺しかないですけど……。歳の差は二十ありますけど、まだまだ子どもですけど~。

 私の気持ちを全然分かっていただけないなんて……。ひーん、悲しいですわ。




 そんなことをしながら軍の兵舎に着きました。今は昼間で兵士は訓練中なのかひっそりとしております。

 しかし伯父さまのいっていた通り、兵長が出迎えて下さいました。


「校尉の姪御さまと、張郎中ですな。私は兵長の(かん)と申します。校尉よりお話はうかがっております。例の兵舎をご案内致します。こちらへどうぞ。お嬢さまには輿も用意してございます」


 あら。伯父さまったら準備がいいですわ! 輿だなんて。確かに敷地が広いので助かります。

 私は四人の兵士が担ぐ輿に乗せられました。肩で担ぐタイプなので高い高い。益徳さんの背に届きました。


「おー、お嬢ちゃんもオイラに追い付いたか。目線が高いな」


 うふふ。輿に担がれてだけど益徳さんを見下ろせるだなんて嬉しくなっちゃいますわね。

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