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読んでいただき、ありがとうございます。
今話が最終話となります。
※変わらずゆるい設定ですので、気楽に読んで下さい。
※2022.12. 27 後半の文章を少し追加致しました。
よろしくお願い致します。
「なっ!?こんなところで何してるのよ?」
学園長室の執務机、椅子に腰掛けながら課題に目を通していると、ノックの音と共にこちらの返事も待たずにララが部屋へと入って来た。
そして私の姿を目にするなり放ったのが、先程の台詞であった。
「まあ!ララさん、どうされたの?」
「それはこっちの台詞よ!アルバート様が座る場所にあんたが居るほうがおかしいでしょ!」
そう叫んだあと、ララはキョロキョロと部屋を見渡した。
「ねえ?アルバート様はいないの?」
「アルバート様?」
私はララのアルバート様呼びに驚いて、思わず聞き返してしまった。
「だから、学園長のアルバート様よ。何?名前も知らなかったの?」
「いえ、名前は存じておりますが……。ララさんが学園長のことを名前で呼ばれたことに驚きましたの」
すると、ララはその大きな瞳をスッと細め、私を睨み付けた。
「白々しい……。ねえ?なんでここに居るの?」
「きちんと許可は得ておりますわ。課題をする場所を提供していただいているだけです」
最近は私の周りでキャンキャンと犬達が縄張り争いを繰り広げるので、静かに集中したい時はここに来るようにしている。
「もしかして……アルバート様もセドリック様みたいにあんたの犬になってるんじゃないでしょうね?」
しかし、私の返答にララはその瞳に憎悪の色を滲ませながら強い口調で責めてくる。
「学園長は私の犬にはなっておりませんわ」
「でも、こんな特別待遇を受けてるじゃない。どうせまたあんたがアルバート様も攻略しちゃったんでしょ!」
「攻略?」
「だから、本当に白々しいのよ!あんたも転生者なんでしょ?それくらいわかってるんだから!」
苛立った様子でそう捲し立てるララに、私は驚きを隠せなかった。
そうではないかとは思っていたが、まさかララのほうからカミングアウトしてくるとは思わなかったのだ。
「もう、ほんとやだ……。アルバート様ならレティシアを学園から追い出してくれると思ったのに」
そのままぶつぶつとなにやらララは呟いている。
「あんたも……と仰るなら、ララさんも転生者なのですよね?」
「そうよ。それも気付いてたでしょ?」
「まあ、薄々は……」
「やっぱりね……。で、これからヒロインの私をどうするつもり?」
「え?どうするつもり、とは?」
「だからぁ、よくある悪役令嬢の転生モノみたいに、私にざまぁとかするつもりなのか?って聞いてるのよ」
「え?これって悪役令嬢の転生モノなんですか?ゲームのパッケージの真ん中はララさんだったと記憶しているのですが……」
この乙女ゲームのパッケージを私に見せながら、メインキャラ達の魅力を力説していた前世の妹。
たしかにララはパッケージのド真ん中で椅子に座り、その周りを四人の攻略対象者達が各々ポーズを取りながら、囲っていた。
ちなみにレティシアはパッケージの裏に載っている。
その記憶から四人の攻略対象者とヒロインであるララとの恋愛シミュレーションゲームだと理解していたのだが……。
「もちろん私がヒロインよ!私が主役のゲーム」
(良かった、合ってた)
ホッとして、私は前のめりになっていた姿勢を正すべく、椅子に座り直す。
「それなのに、あんたのせいで私の世界がめちゃくちゃ……。私がイケメン達と恋人になって幸せになるはずだったのに……あんたばっかりが幸せになっててずるいじゃない!」
(そんなことを言われても……)
このゲームをプレイしたことがない私は、レティシアがどのような行動を取るのが正解なのかがわからない。
しかし、ここがゲームの世界であることに変わりはないのだから、結局はゲームの強制力でヒロインが誰かと恋愛をするものだと思っていた。それに……
「それなら断罪イベントがありますわ!断罪イベントで私がいなくなった後に恋人になれば……」
「……」
なぜか、無言でララに睨まれてしまった。
しかもその瞳にはうっすら涙が溜まっている。
「その断罪イベントを台無しにしたあんたに、そんなこと言われたくない」
「ええっ?台無し?」
台無しも何も、断罪イベント定番の舞台である卒業パーティーはまだ先だ。
(あれ?去年の卒業パーティー?いや、でもララさんは今年編入してきたはず……)
私が頭の中でどういうことかと思案していると、ララがぼそぼそと話し出す。
「この間の中庭の……あれが断罪イベントだったのよ」
「え……」
中庭とは、先日のあれのことだろうか?
たしかに途中までは断罪イベントっぽいなぁとは思っていたが……。
(でも私、断罪されてない……)
そう、断罪イベントなのに肝心の悪役令嬢が断罪されなかったのだ。
「はぁーーー。もう、どうしたらいいのよ……」
最初の勢いは何処へやら、ララはそう言いながら、その場にしゃがみ込んでしまった。
そうすると、大きな執務机が邪魔になり、座ったままの私からララが見えなくなってしまった。
仕方なく、私は椅子から立ち上がり、ララへと近寄り声をかけた。
「そんなに落ち込まないで下さい。別に断罪イベントは起こらなくても、恋愛はできますわよ?」
「だって……もうゲームは終わっちゃったのよ?これからどうやったらララみたいに幸せになれるか、わかんないわよ」
不貞腐れた口調でそう言いながら、ついにララの瞳から涙が溢れ出した。
「それはこのゲームのララの幸せでしょう?その幸せと、あなたの幸せが一緒だとは限りませんわ」
「そんなことないわ。イケメンと幸せに過ごすのよ?凄く幸せだったに決まってる……」
「具体的には?」
「え?」
ララが涙を流したままこちらを見た。
鼻水も出ていて、ちょっとかわいい。
「具体的にどんな風にこのゲームのヒロインは幸せに過ごすのかしら?私の記憶では、恋人になったり結婚したりして『幸せに暮らしました』みたいな、具体性に乏しい終わり方のゲームが多かったのだけれど……。このゲームは違うのかしら?」
「……」
ララは無言のまま、涙に塗れた目元をごしごしと手でこすった。
「ねえ?幸せなんて千差万別だと思いませんか?例えば、悪役令嬢の断罪イベント。あれをあなたは不幸だと思っているのかもしれないけれど、ある種の人にとっては幸せになり得るものかもしれないわよ?」
以前から思っていたことなのだが、断罪イベントの悪役令嬢は、衆人監視の前で罪を暴かれ、罵倒される。
それを喜ぶ性質の人からすれば、断罪イベントの悪役令嬢なんてご褒美でしかないだろうと……。
「あなたはゲームのララじゃないんですもの。あなたの幸せを考えて好きに行動すればいいと思うわ」
「でも、ゲームじゃない恋愛の仕方なんてわかんないし……」
「恋愛の仕方なんて人それぞれよ。ララさんはどんな人が好き?見た目、性格、性癖、なんでもいいわ」
「え?せいへ……え?」
「細かいことは気にしないで。ねえ?どんな人がタイプ?」
私の質問にララはちょっと考えるような表情をした後に、小さな声で「優しい人がいい」と呟いた。
そんな彼女に私は温かな眼差しを向ける。
(好きなタイプが『優しい人』なんてかわいいわね)
もしかしたらララは前世ではまだ中学生くらいだったのかもしれない。だからゲームじゃない恋愛の仕方がわからないと嘆いているのだ。
(色々教えてあげたくなっちゃうわね。それに……ヒロインでもこんな泣き方できるんじゃない)
子供のように鼻水をたらしながら、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていたララ。
私のテンションは俄然上がる。やはり泣き顔はこうじゃないと。
あまりタイプではなかったが、そのかわいい泣き顔に免じて、これから彼女が恋愛をしやすいように様々な種類の男性の様々な姿を見せてあげようと考える。
ゲーム画面を見つめるより、実際の男がどういうものかを見るほうがきっと楽しいはずだ。
その場面を想像して得た少しの興奮を隠したまま、ララのこれからの幸せが見つかるように私も色々協力すると伝えると、彼女は安心した様子でこの部屋から出て行った。
◇◇◇◇◇◇
ララを扉の前で見送り、学園長室に戻った私は再び椅子に座り、脚を組む。
(さて、これからどうしよう?)
断罪イベントによって貴族社会から解放されるだろうと、残りの学園生活は好き勝手にやっていた。
しかし、いつの間にか断罪イベントも乙女ゲームも終わってしまっていたらしい。
つまり、私はこのまま貴族令嬢としてこの世界で生きて行かなければならない。
「うーん……」
普通に考えれば、卒業して、婚約者であるセドリックと結婚、そして公爵夫人となる。
そうすると今のように犬達と戯れるのも難しくなるのかもしれない。
「うーん……」
貴族社会はやはり息苦しく、不自由だ。
それなのに、あまりにも息抜きの場がない。無さすぎる。
前世でも私のパートナーとなる人の中には、世間一般的にお堅いと言われる職業や、責任ある立場の人が多くいた。
本人の性質が大前提だが、そんな日常のストレスも関係していたような気がする。
まあ、日常の自分と、プレイ中の自分との落差に興奮するからと、敢えてお堅い職業に就いていた強者が一人居たが……。
(貴族にはアルバートのような人がまだまだ居るのかもしれないわね……)
やはり、このままではいけない。
私にも、ついでにこの世界にも、フラストレーションを発散する場所が必要だ。
そして、必要ならば作らなければ。主に私の為に。
私は組んでいた脚を下ろし、椅子に座り直す。
(利用する人の身元がはっきりとわかるのが前提よね……でも秘密は守れるように……やはり会員制かしら?それなら紹介制度も取り入れて……キャストのスカウトや教育も必要よね?……道具も揃えて……)
私は思い付くままに今後のプランをノートに書き込んでいく。
(私一人じゃ無理ね。まずはアルバートに協力を仰いで……)
その時、椅子がピクリと動いた。
どうやら集中し過ぎて、気付かぬうちに時間が過ぎていたようだ。
(今日はここまでかしらね)
私は、椅子の汗に濡れた銀髪を手で優しく梳くう。
すると、椅子が四つん這いのまま、その顔をゆっくりとこちらに向けた。
その赤い瞳はどろりと恍惚に満ちている。
私は椅子に微笑みかけながら立ち上がり、私が幸せになる為の未来に向けて歩き出した。
最後は犬じゃなくて椅子になってしまった……。すみません。(執務机でララからは見えていませんが、最初から最後まで椅子は居ました)
これにて、完結となります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
良いお年を!