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読んでいただき、ありがとうございます。
更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。
※レティシア視点に戻ります。今話は短めです。
よろしくお願い致します。
「レティシア嬢。なぜ呼び出されたのか、わかっているね?」
学園長室に呼び出された私は、銀髪を後ろに撫でつけた赤い瞳の男性と向かい合う。
年は三十代前半くらいだろうか?
とても整った顔立ちをしているが、その目付きは酷く鋭い。
彼がこの学園の学園長であり、名をアルバートという。
「いいえ。皆目見当もつきませんわ」
私は彼の質問にきっぱりとそう答えた。
最近の試験結果は全て平均点以上だったし、授業だって真面目に受けている。
係の仕事だってサボったことはなかった。
「実は君がこの学園の風紀を乱していると、投書があってね」
「まあ!」
「複数名の男子生徒達と、皆が見ている学園の至る場でいかがわしい行為をしていると」
「まあ!」
心外だ。心外過ぎる。
「そのようなこと、するはずがありません」
「しかし、君が複数名の男子生徒とよく一緒にいるというのは本当だろう?」
「はい。あれはあの子達がじゃれ合う様子をただ見ているだけですわ」
「ほう。つまり、いかがわしい行為ではないと?」
そう言いながらアルバートはこちらに冷えた眼差しを向ける。
「はい。公共の場である学園ではそのような行為はいたしておりません」
「そうか、学園ではしていないと?」
「はい。まだ学園では誓ってしておりませんわ」
失礼な。
さすがに私だって公共の場でやっていいことと駄目なことの区別くらいはつく。
そして、私はやるならバレるかバレないかのギリッギリを攻めて、相手の反応を楽しむほうが好みだ。
「それに、その辺りのことはすでにお調べになっているのでは?」
「……」
無言という名の肯定を得られて私は満足する。
それにしても、私の潔白はすでに証明されているはずなのに、なぜ呼び出されたのだろう?
複数名の男子生徒と過ごすのが駄目だというのなら、ヒロインのララが真っ先に呼び出されるべきだと思う。
(これ以上のことはするなと言う警告を与えたかったのかしら?それとも……)
私は向かいに座る赤い瞳を探るように見つめる。
「なんだ?もしや私にも興味を持ったとでも言うのか?」
アルバートは私の視線を受け、嘲るような口調でそう答えた。
「いえ……」
「先程の君の発言通り、君のことはすでに調査済みだ。つまり、君が彼等とどのように接しているのかも、君の人柄も概ねは報告を受け、わかっている」
「……」
「だから私が彼等のように君に侍ることはあり得ない。それに、私は君と同じように支配する側の人間だ」
「えっ?」
私は驚きに目を見開く。
そんな私を見て、アルバートは呆れたような表情になる。
「なんだ。自分と同じような人種はいないとでも思っていたのか?」
「そういう意味では……」
「君はまだ若い。知らないことが多いのは仕方あるまい。だが、私のように幼き頃より帝王学を学び、支配者として一流の教育を受けた人間もいる。世間は君が思っているより広いんだ」
そう自信たっぷりの口調でアルバートは私に告げた。
(ふぅん、支配者としての教育を長年受け続けたら、こんな風になるのね)
私はやっと、目の前に居る彼のことを少しだけ理解できた気がした。
そして理解すると同時に興味が湧いた。
心の奥からうずうずとした気持ちが湧き上がる。
私は逸る気持ちを抑え、にっこりと微笑みながら問うてみた。
「なるほど……私はてっきり、私とあの子達との関係に興味があって呼ばれたのかと思ってしまいました」
「……興味だと?」
「ええ、お有りですよね?」
「おい、私の話を聞いていなかったのか?」
アルバートの声が一段低くなる。
「きちんと聞いておりましたわ。では聞き方を変えましょう。私とあの子達との関係を知った時、学園長は自身が私に侍る姿を想像されませんでしたか?」
「そんなわけがないだろう!!」
アルバートの大きな怒声が部屋に響いた。
「まあ!そんな大きな声で怒鳴らないで下さいませ。てっきり図星だったのかと勘繰ってしまいますわ」
「……いい加減にしないか」
私はアルバートの睨み付ける視線を受け流し、この部屋の扉に目を遣る。
アルバートがあんなに大声で怒鳴っても、誰も様子を見に来る気配はない。
「それに、私があの子達を侍らせているというのが、そもそも間違いです」
「何?」
「私はあの子達の心を開かせて、そしてその開いた心を預かる……そんな関係です」
(まあ、心だけじゃなくて躰もだけど)
彼は私の言葉に困惑した表情を浮かべている。
きっと私が何を言っているのか理解できないのだろう。
「うふふっ。理解できませんか?」
そう言いながら私はすたすたと扉へと向かい「ガチャリ」と鍵をかけた。
「おい、何をしている?」
「いえ、言葉で理解できないのなら、体験してみるのが一番かと思いまして」
先程のアルバートの怒鳴り声でも誰も来なかったということは、この部屋は防音仕様なのだろう。
これからアルバートが多少声を上げても大丈夫そうだった。
私はにこにこと機嫌良く笑いながら、今度はアルバートへと近付いて行く。
実は前世でも、アルバートのようなタイプに出会ったことがある。
さすがに帝王学を学んでいたわけではなかったが、人の上に立つのが当たり前だと育てられてきた人だった。
だけど、残念ながらその人が持つ本質は違った。
その人はそんな違和感に自身で気付いて、運良く私と出会った。
(アルバートはまだ自分では気付いていないようだけど……)
気付いていないのならば、気付かせればいい。
それになにより……その澄ました支配者面を剥がしてやれば一体どんな顔をするのかを、私が見てみたい。
私は従順な犬が好きだ。
だけど、従順な犬にするのも好きなのだ。
☆メリー・クリスマス☆
今からサンタ業務です。皆様も良いクリスマスを!