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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

帰宅時間

作者: Leda

 目の前には倒れている人。足下まで真っ赤が広がっている。

 午後5時半を過ぎた頃。灰色の人たちでごった返した電車の駅。静かな悲鳴が広がっていく。

 刃渡り十センチ以上ありそうな包丁を握り締めた人と目が合った。瞬間、私も刺されるかしら、と思ったが、その人が、自分の方が刺されたみたいな顔してるのが、段々と面白くなってしまった。私はあの時どんな顔をしていただろう。

 そんなことを思っているうちに、警察官か誰かがやって来て、手から包丁を離しつつ、あの人を何処かへ連れて行ってしまった。あの人も抵抗はしなかった。

 近くにいたということで、私は警察官に話を聞かせてほしいと言われた。私は、倒れた人の後ろにいたのでよく見えなかったと答えた。

 「ただ、あの人の方が刺されたみたいな顔をしていました」

そう付け足してみたが、警察官はただ神妙に私の話を聞き、バインダーと睨めっこをしながらペンを走らせるばかりだった。

 次の日、早朝の短いニュースの時間に、昨日の駅で起こった事件が流れた。刺された人は、どうやらまだ生きているらしい。刺した人については、学生とだけしかニュースキャスターは言わなかった。

 未成年の若さに、あの鬼気迫った表情という微妙な雰囲気は、一種の興奮を私に覚えさせた。

 灰色の世界の中に、ただ一つ添えられた赤。坐臥の中唯一鮮やかな色。瞼の裏に張り付いて消えてくれそうにない。

 

 今日も駅は灰色の人でごった返し、あの鮮やかさはどこにもない。

 あの鮮やかさをもう一度見てみたい。が、あれはただ赤いだけでは駄目なのだ。若さ、鬼気迫った雰囲気もが合わさらなければいけない。

 そう思いながら、灰色の一人となって、今日も駅の中を歩いていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  刺した人は、自分では刺しても、心では刺されていたのでしょうか。深い傷を負ってしまった、ということなのかもしれません。  主人公の微妙な感情がよく伝わってきました。
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