表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/33

八章 事情があるのはどこも同じ。

 エスターテは、オアシスを基点に作られた砂漠の町だ。

 魔物が簡単に町中へ侵入出来ないように、四方を頑丈な石造りの壁で囲っており、空から侵入しようとする有翼の魔物は即座に見張りの飛び道具や攻撃魔術によって叩き落される。

 魔物の侵入を防ぐことから、エスターテのコントラクターや町民達は、これを『砦』と呼んでいるらしい。

 町中への出入りは、砦の北側に門があるため、基本的にはそこからしか出ることが出来ないが、南側には非常脱出口も備えられている。

 プリマヴェラからやって来た商隊は、北の門から入るのだ。

 武装した屈強な門番兵への応対はカトリアが向かい、二言三言と言葉を交わしてから、砦の門が開かれる。


 町の中は閑散としており、お世辞にも活気づいているとは言えない有様だ。


 どういうことか、定期便が来たと言うのにあまりに静か過ぎる、と商隊達は訝しむが、とにかくは交易を開始していく。

 その間に、カトリアを代表とするコントラクター達は、エスターテの集会所へ向かう。


 その途中で、一真は歩きながらエスターテの町並みを見渡す。


「プリマヴェラとは全然違うな」


 プリマヴェラは背の低い木造建築が不等間隔で並んでいるような町並みだが、エスターテは馬車の幌や大きなテントのような天幕を張り立てている物が多い。

 一真が知るところの前世の知識で言えば、大規模なフリーマーケット会場のような形だ。


「エスターテは、プリマヴェラほど民家の建築が進んでないからな。ギルドの集会所や医療機関とかの重要施設から優先的に作られて、きっちりした作りの民家に住んでいるのはギルド関係者ぐらいだ」


 その彼の呟きに応じるのはソル。


「ギルド関係者が優先されるってことですか?エスターテって、プリマヴェラとかと積極的に交易をしてるのに……それでも民家の数が揃わないくらい資材が不足してるんですか?」

 

 どう言うことかと一真は返す。


「木材や石材は、一度の定期便であまり多くは運べないと言うのも理由のひとつだがな……一番の理由は、エスターテとプリマヴェラには大きな違いがあることだ。分かるか?」


 ソルの言う「大きな違い」とは何か。

 住居や町の特色などでは無いだろう。

 もっと一目見るだけで分かるような違い……

 ふと、一真の視線が砦に向けられた。


「……町を守るための砦の維持に、資材が回されてるってことですか?」


 架空戦記モノのラノベで、そう言った設定を聞いたことがあった。

 軍事力・武力の維持のために、市民の生活が蔑ろにされている……と言うものだ。


「そうだ。いくら民家を立てたところで、それを魔物に壊されちゃ元の木阿弥だからな」


「それって、一般人が不満に思いますよね。……暴動とか起きたりしないんですか?」


 貧富の格差の果てに起こり得るのは、不満を怒りに換え、怒りを原動力とした暴動だ。

 その危険があるのではないかと一真は言うが、ソルは「いや」と首を横に振る。


「少なくとも、エスターテの町民はそれを不満に感じてないらしくてな。むしろ、資材云々よりも水や食料の方が重要だと思っているのさ。劣悪な環境に慣れ過ぎて、感覚が麻痺してるってのもあるだろうが……」


 ソルの言うことは、一真にも理解出来る。

 この砂漠の町は自給自足が困難であり、他町との交易を断続的に行わなくては経済の流れどころか、明日とまではいかなくとも、来週の飲水すら覚束ないほどに不安定な町なのだ。

 一真自身も、もし自分がこのエスターテで生まれ育ったとしたら、住む場所よりも食料と飲み水をよこせと言うかもしれない。


「ま、個人一人が気にしたところで結果がすぐに出るもんじゃない」


 それより、とソルの視線が前に向けられる。


「これからここのギルドマスターに挨拶だ。失礼のないようにな」


 ソルと同じく視線を前に向ける一真。

 プリマヴェラの集会所よりも、無骨で質素な外観だ。




 

 集会所の中もまた違いがあり、プリマヴェラのような酒場に近い性質は無く、これまた質素なテーブル席と長椅子が並んでいるだけだ。

 むしろ、こちらの方が"集会所"らしそうだ、と一真は声にせず呟いた。

 まずはカトリアが受付カウンターに向かい、受付嬢と言葉を交わす。

 エスターテの受付嬢の制服も赤基調は変わらないが、胸のリボンの色だけが異なっている。

 プリマヴェラの制服のリボンはピンク色だが、エスターテの制服のリボンは水色だ。

 各町のギルドごとにリボンの色が違うようで、それでどこの町のギルド関係者かを判別するのだろう。

 受付嬢の一人が奥へ引っ込むと、入れ替わるように一人の女性がカトリアの前に姿を現す。


挿絵(By みてみん)


 燃える炎のような赤い髪を後頭部当たりで束ねた、長身の女性――カトリアと同い年くらいの少女とも言える。

  

「遠路遥々お越しいただき恐縮です……っと、堅苦しい挨拶はこんなもんでいいかしらね」


 挨拶形式は形ばかりで、すぐに口調と態度を砕けさせる。

 身に着けているものはギルドの制服だが、所々を着崩している。

 失礼の無いように気を付けていた一真からすると、「(この人の方がよほど失礼じゃないか?)」と心底で呟く。

 彼女の前に立つカトリアも一瞬だけ訝しむように眉間を微動させ、すぐに自分の用件を話し始める。


「ベンチャーズギルド・プリマヴェラ支部、ギルドマスターのカトリア・ユスティーナです。僭越ながらお伺いしたいのですが、エスターテ支部のギルドマスター『イダス・クヴァシル』殿はどちらへ?」


 赤髪の女性がギルドマスターかと思いきや、彼女とはまた違う人物がギルドマスターらしい。

 今は席を外しているようだが、赤髪の女性はばつの悪そうに「これまたご丁寧なこって……」と頭を掻きながら首を横に振る。


「あー、ウチの父さ……ギルドマスター、今ちょっと『砂丘遺跡』の方に調査に行っててね。と言うか、中継拠点に伝令を送ったんだけど……いや、聞いてないか。悪いね、今朝に急にだったもんだから、入れ違った?」


 こりゃ失礼、と挟んでから赤髪の女性は名乗った。


「あたしは『ラズベル・クヴァシル』。ギルドマスターのイダス・クヴァシルの娘ってことで、今はギルドマスター代理を務めさせてもらってるわ」


 当のギルドマスターが不在なので、その娘が代理を務めている、と言うことらしい。


「は……では、ラズベルさん。砂丘遺跡の調査と聞きましたが、何か異変が起きたのでしょうか?」


 ラズベルの話し態度にペースをズラされつつも、カトリアは先の言葉である『砂丘遺跡の調査』について問い掛ける。


「異変と言うか、このエスターテ周辺で魔物が増加傾向にあるって言うのは、事前に伝達があったでしょ?それが、ここ二、三日で明らかに魔物の様子がおかしくなったのよね。もしかするとってことで、住民には一応いつでも逃げ出せる準備はしておくようには言い付けてる」


 町がやけに静かなのはこう言うことらしい。


「様子がおかしい、と言うのは?」


「町の近くで魔物が頻出している……って言うのはあんまり珍しくないんだけど。……そうねぇ、()()()()()()()()()()()()()()()()()ってとこかしら」


「それは……」


 それを聞いてカトリアは思案するように、目を細める。


「ん、どうしたの。何か心当たりでもある?」


「その砂丘遺跡に、特別危険な魔物がいる……と言うことでしょうか?」


 プリマヴェラ深森にキラーベアが現れたのと同じで、その場所の生態系に影響を及ばすほどの魔物が現れたのではないかと、カトリアは言う。


「断定は出来ないけどね。その可能性が高いと見ているから調査に向かってるのよ」


 まぁ何にせよ、とラズベルは溜息をついてからカトリアに向き直る。


「調査隊が帰還してくるのが、今日の夕方か夜辺りになるから……カトリア、だっけ?今日のところはあんたさんところのコントラクター達も休ませてあげなよ」


 いくら歳が近いとは言え初対面の、それも四大領地の一角の長と言っても過言ではないギルドマスターを相手に気安い口調のラズベル。

 ざっくばらんに見えて、実は大物なのかもしれない。


「そちらの事情は分かりました。では、今晩にまたお伺いさせていただきます」


 現状で、やることはない。強いて言えば休むことだろうか。

 カトリアの言葉を括りに、プリマヴェラのコントラクターは集会所を後にした。




 商隊達とコントラクターも含めた『プリマヴェラの客人』は、数少ない民家を無理矢理空けるようにして用意された宿に身を寄せていた。

 その中で、商隊の人間達は不安そうに話し合っていた。


「そっちはどうだ……」


「ダメだ、今回は商売上がったりだな……」


「売れたのは水と食料ばかりで、本来の売れ筋なんかはサッパリだ……」


「魔物の様子がおかしいと言うのは本当なのか?巻き込まれるのはごめんだぞ……」


 どうやら、今回の交易はあまり芳しくないようだ。

 エスターテ全体が魔物の被害を強く警戒しているのだ、暢気に商売の話など出来ようはずもない。


 その一方で、ソル達のパーティーはあくまで気楽そうに談笑しながら、自分達の武器の手入れをしている。

 ソルは鼻歌交じりにピストルの手入れをしながらも、その思考は先程のラズベルの話に傾いている。


「(砂丘遺跡全体に影響を及ぼすほどの魔物か……あそこで強い魔物と言えば、『スカルバーン』辺りか……?)」


 ソルの挙げた『スカルバーン』とは、砂漠地帯で力尽きた飛竜(ワイバーン)系の魔物が朽ち果てて、体内のマナが消失する寸前に遺骨に宿り、血肉や内臓機などが完全に消失してから、骨だけの状態で再び動き出したと言う魔物だ。

 骨だけとは言え元々は飛竜、飛ぶことこそ出来なくなったものの、その膂力は生前のものと何ら変わらない。

 むしろ、血肉を通じた痛覚などを持たない分、物理的な攻撃には逆に強くなっていると言う結果だ。

 ソル自身も、パーティーメンバー達と共にスカルバーンの討伐依頼を受け、成功したことはあるが、かなりの強敵で想像以上の損耗を強いられた相手だと記憶している。


「(しかし、生態系に影響を及ぼすほどではないはずだ……)」


 確かに強力な魔物だ。

 だが、他の魔物がその存在に怯えて棲処(すみか)から逃げ出すほどだろうか。

 では、別の何かがいるのか、それは何なのか……と思考に耽るソルの目の前で、部屋の隅にいた一真がカタナブレードを片手にふと立ち上がり、部屋から出ようとしているのが見えた。


「カズマ、どこ行くんだ?」


「ちょっと町を見て回ろうと思って……ダメですか?」


「別にいいさ。一応出る前に、カトリアに一言断ってからにしておけよ」


「はい」


 一真は軽く頭を下げて一礼してから、部屋を出た。




 ソルに言われた通り、別の部屋――女性用の客室にいたカトリアに一言伝えてから、一真は外に出る。

 四方を壁に囲った町とは言え、陽射しを完全に防げるわけではないため、直射日光が遠慮なく一真に降り注ぐ。

 暑いといえば暑いが、カトリアの言っていた通り、何時間も砂漠地帯にいれば身体が暑さに慣れてきたようだ。


 なんとなく町中を歩いていても、やはり出歩いている人は少ない。

 その数少ない人の顔を覗き見れば、どことなく表情が暗い。

 やはり、魔物の異変について不安を感じているのだろう。

 いざとなれば、自分の家や財産を捨てて逃げなくてはならないのなら、なおのことだ。

 普段はもっと活気づいていて、こんな暑さなど気にならないほど賑やかな町なのだろう。


「(せっかく他の町に来たって言うのに、こんなんじゃリーラへのお土産どころじゃないな……)」


 本当なら、もっとじっくり楽しみながら土産物を吟味するはずだった。

 リーラには申し訳ないが、しかし町全体がこんな調子では、買う気にもなれない。


 ぐるりと町を見て回る途中で、そう言えば砦の中はどうなっているのだろうと思い、一真は砦の中に足を踏み入れた。

 最低限の舗装がされた通路の各所に、武器弾薬などが納められた道具箱が配備されている。

 エスターテには魔物の大群が押し寄せることもあると、カトリアから聞いたことがある。

 これは、そのために必要な準備なのだろう。

 そう考えると、住む場所よりも町民達を守るための武力が必要なのだとも思えてくる。

 そして、その町民達もそれが当たり前になっている。

 もし、自分が転生した時に拾われたのが、プリマヴェラではなくエスターテだったとすれば、今のようにコントラクターとなって依頼を請けては達成していくような生活が出来ていただろうか。

 そんなことを考えながら砦の中を歩いていたせいか。


「あれ?」


 いつの間にか、何故か町の外へ出てしまった。

 しかしここは北の出入り口ではない。


「もしかして、南の非常口から出たのか?」


 多分そうだろう、と一真は砦の中に戻ろうとして、外を見る。

 一歩町の外に出れば、そこはもう砂の海だ。


「…………」


 ふと一真は、今日の午前中に起きた、サンドラの群れとの戦いを思い出す。

 砂漠と言う足場の違いに慣れず、たかが群れの一頭相手に随分と苦戦してしまったものだ。


「(俺は、足手まといになりたくてここに来たんじゃない)」


 腹積もりを決めた時には、既に足は砂漠の砂を踏み込んでいた。

 そしてカタナブレードを抜き放った。


 目の前を揺らぐ陽炎を斬り裂くように、一心不乱に刃を振るう――。




 日が沈み始め、砂漠を朱く染め上げていく。

 ラズベルは、エスターテのギルドマスターの業務として、四方の砦の見回りをしていた。

 何か問題や不審な点が無いかと、見張り達と言葉を交わす。

 西、北、東と時計回りに巡り、最後に南方砦に着いた時、見張り達が下の方に視線を向けているのに気付く。


「どうしたの、アリの数でも数えてたっての?」


 ラズベルの声に気付いた見張りは、パッと姿勢を正して向き直る。


「あ、いえ、アリはさすがにいませんし、いてもここからじゃ見えませんが……アレです」


 見張りは、砦を出てすぐのところを指差した。

 ラズベルもその指先に視線を向けると、そこにいたのはプリマヴェラのコントラクター――一真がいた。


「何やってんの、あれ」


「どうやら、特訓みたいですよ。最初は転んでばっかでしたが、段々動きのキレが良くなってる」


 剣を素振りし、砂の上を素早く駆け回り、また素振り。

 砂漠での戦いに慣れきっている者達からすればまだ少し危なっかしく見えるが、最低でも小型の魔物に遅れを取ることはあるまい。


「段々?……いつからやってた?」


 ラズベルは訝しむように見張りに訊ねる。


「へ?えーと……多分、二時間くらいはやって……」


「バカ!二時間も水も飲まずにやってるってことじゃないの!ってか、見てたんなら止めさせなさいよ!」


 見張りを怒鳴りつけると、ラズベルはすぐに踵を返した。




 

 体が暑さに慣れるように、足が砂に慣れてきた。

 踏み込みの際は、体重を預け過ぎずに歩幅を縮めて小刻みに蹴る。

 砂を踏むのではなく、砂の上を跳ねるように。


 目の前にいる仮想の敵は、サンドラ。


 カタナブレードを振るい――それは避けられて――、すぐに距離を取り――肉を食い千切るだろう噛み付きを躱し――、またすぐに踏み込んで斬り掛かる――敵の首筋を捉える――。


 これを繰り返す内に、自分の中で納得出来る動きが形になりつつあり、疲労を感じても、呼吸が荒くなろうとも「もう少し」と続ける。

 もう少し、もう少し、もう少し……と


 不意に、『頭の中ががくりと傾き、目が暗転する』。


「(あ、やばいこれ、熱中症だ)」


 そう感じた一真は、カタナブレードを振るう手を止めて、すぐにエスターテへ戻ろうとするが、意識が混濁したその歩みはまるで千鳥足だ。

 早く水を飲まなければと思っても、足が上手く言うことを聞いてくれない。

 足が縺れて倒れ込みかけた時、何か柔らかい感触が顔を覆った。


「ったく、外に出るんなら水くらい持っときなさい」


 顎を持ち上げられ、一真の口にボトルの先が突っ込まれ、否応なく冷たい水が注ぎ込まれる。

 

「ん、むぐっ?んくっ、……」


 突然のことに混乱する思考だが、口の中を水々しい冷気が支配すると、それを飲めと身体が勝手に反応する。

 水分の補給によって、一真はようやくまともに頭が回り、誰が自分に水を飲ませているのかと目線を上げてみれば、先にも見た赤髪の女性――ラズベルだった。

 ボトルが口から離され、一真は少しむせながら礼を言う。


「ケホッ、ケホッ……あ、ありがとうございます……」


「何をそんなに頑張ってたのか知らないけど、無茶してんじゃないよ。死にたいの?」


 呆れたように溜息をつき、ラズベルは一真の腕を取る。


「水を飲んだからってすぐに良くなるわけじゃないんだから、ほら行くよ」


 ラズベルに腕を引っ張られながら、一真は砦の中へ連れ戻されていく。




「……それで、熱中症になるまで訓練をしていた、と」


 日が暮れ掛けている集会所の中、長椅子の上に座らされた一真を見下ろしながら、カトリアは自分の右手を彼の首筋に添える。

 僅かな詠唱の後、カトリアの右手が微かに白く輝き、冷気が発される。


「あー、生き返ります……」


 頸部の冷感により、一真は上がり過ぎていた自分の体温が急速に冷却されていくのを感じながら息を吐く。

 その様子を見守りながら、ラズベルも席に着いて冷やされたコーヒーを啜る。


「で、何そんなに頑張ってたわけ?まさか、幽霊と戦ってましたーなんて言うわけじゃないでしょ?」


「違いますよ。砂漠戦に慣れようとしてたんです」


 差し出された水を一口飲んでから、一真は続ける。


「俺、エスターテに来るまでの戦闘で、砂漠があんなに戦いにくい場所だなんて知らなくて、全然戦えてなかったんです。だから、少しでも砂漠に慣れておきたかった」


「ふーん……真面目だこと」


 でもね、とラズベルは一真の額にデコピンを一発打つ。

「痛てっ」と仰反る一真に言葉を畳み掛ける。


「あんたは砂漠を甘く見過ぎ。あたしが気付いてなきゃ、あんたは干からびてからここに運ばれていたかもしれないんだからね。地形を知るのも大事だけど、自分の体調の変化に目敏くなる方が大事。じゃないと、エスターテ(ここ)じゃ生きてられないよ?」


「……はい、気を付けます」


 確かに、水分補給のことも考えずに砂漠に飛び出したのは迂闊だった。

 それは指摘されて然るべきだろう、と一真は素直に頭を下げた。


「素直でよろしい。……そういや名前聞いてなかったね。あんた、名前は?」


「一真です。カズマ・カンダ」


「ん、カズマね。覚えた」


 すると、冷却を終えたのか、カトリアの右手の冷気が止まる。


「さて、そろそろ大丈夫でしょう。カズマくん、もうじき夕食の時間帯になりますので、客室に戻りましょうか」


「お手数おかけしました、すいませんカトリアさん」


 二人はラズベルに一礼してから、自分達に充てがわれた客室へと戻っていく。

 


 一真とカトリアが集会所を出て数分後、ドアが蹴破られるように大きな音を立てて開けられた。


「はぁっ、はぁっ……ラズ、ラズはいるか!?」


 出入り口から、ラズベルを呼ぶ声が響く。

 どうやらただ事ではないことのようだ。

 何事かと思う受付嬢を尻目に、ラズベルは努めて落ち着きを払いながら駆け寄る。


「はいはい、そんな慌ててどうしたのさ?」


 彼は、ギルドマスターと共に砂丘遺跡の調査に向かったコントラクターの一人だ。

 その彼が一人だけで、しかも大慌てで町に戻ってきた。

 何もないはずがない。




「しょ、『正体不明の魔物』の襲撃を受けた!怪我人も多くてベースキャンプから動けそうにないし、下手をすれば奴が町に向かうかもしれない!」




 集会所内に、これまでにない緊張が走った。

 と言うわけで、八章でした。


 新ヒロインラズベル姉貴のご登場、特訓するあまり軽く死にかける一真、何だか不穏なシリアスを匂わせる最後、の3本でお送りしました。


 果たして一真はリーラのためにお土産を買って帰れるのか!(違わないけど違)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下請け
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ