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六章 せっかくだから行ってみたい。

 南から、一羽の伝書鳩が飛来する。

 伝書鳩の行き先は、プリマヴェラの町の集会所だ。

 集会所の、伝書鳩のために設けられた小窓に止まる。


「いつもありがとうございます」


 ギルドマスター――カトリアは席に着きながら書類仕事をこなしつつ、伝書鳩の脚に括り付けられた手紙を解き、それを開いた。


「(『エスターテ周辺に魔物の増加傾向あり。襲撃確率が高くなるため、注意されたし』?来週には"定期便"を出すと言うのに……)」


 内容を読み取り、カトリアは眉をひそめる。

 その様子を見てか、補佐役が訊ねる。


「ギルドマスター、手紙に何か?」


「現在、エスターテ周辺の魔物の数が増えているようです」


「つまり、定期便が襲撃を受ける可能性が高くなると」


 この補佐役は、カトリアが直々に使命しただけあってかなりの切れ者かつ優秀なギルドメンバーで、魔物の数が増えている、と聞いただけで手紙の内容を読み取った。


「今回の護衛は、ソルさん達のパーティーに依頼するつもりでしたが……方針を変えます」


 カトリアは背筋を整えて補佐役に命じる。


「エスターテに返信を。内容は、『プリマヴェラからエスターテへ。了解。襲撃に備え、護衛戦力を拡充する。十分以上の受け入れ体勢を要求する』と」


「かしこまりました」


 ギルドマスターからの命により、補佐役はすかさず紙とペンを取り、カトリアの口頭から伝えられた内容をそのまま書き記し、書き終えるなり伝書鳩の脚に括り付けると、飛び立たせる。


「(先日のキラーベアの急出没に続いてこの報せ……何も無ければいいけれど)」


 だとしても、責任を預かる者として楽観視は出来ない。

 カトリアはあらゆる可能性を想定しながら、今手元にある業務を片付けて行く。






 鍛冶屋『ヘパイストス』は今日も変わらず、朝から金槌音が規則正しく鳴り響く。

 小気味良いリズムが打ち鳴らされるそこへ、一真は声を掛ける。


「棟梁、おはようございます」


 彼の挨拶を聞いて、棟梁は壁に立て掛けてあったソレを手に取りながら迎える。


「来たか。出来ているぞ」


 手に取ったそれは、鞘に納められた剣だ。

 一真は軽く頭を下げつつそれを受け取る。


 突然の休日から三日後。

 一真が注文した武器の受け取り予定日だ。


「ありがとうございます。抜いてみてもいいですか?」


「構わん。周りには気を付けろ」


 短くそう頷く棟梁を見て、一真は近くに誰もいないことを確認してから、柄を握り、鞘から抜き放った。


 反り返った細身の刀身は片刃。

 四角形の角を切り落としたような鍔に、柄は薄地の布を巻き付けている。

 切っ先の白刃は朝日に照らされて、鈍く光沢を放つ。


「……うん、よしっ」


 感触や重量を確かめて、一真は頷いた。

 キンッ、と小さな音を立てて、剣刃は鞘へと納められる。


「柄物が変われば必要な力も変わる。使いこなしてみせろ」


「はいっ」


 一真は、いつものバスタードソードから替わる新たな相棒――カタナブレードを背中のラックに取り付けた。

 一真が知るところ、言うところの『日本刀』だ。

 決して安い金額では無いものの、今すぐ生活に困るほどではない程度には貯蓄に余裕のある一真は、カタナブレードの代金を払ってから、集会所へ向かう。




 集会所に入るなり喧騒が聞こえてくるのも、もはや聞き慣れた静寂のようなものだが、今日は違う意味で騒がしい。

 掲示板の前に人集りが出来ているところ、どうやら新たに貼り出されている掲示物が話題になっているようだ。

 しかし人集りの規模は大きく、その中には体躯の大きいコントラクターも多いため、一真の身長では掲示板が見えない。

 これは人集りが散るまで読めそうもないか、と諦めて先に依頼を受けようと受付カウンターの方へ踵を返そうとして、


「あっ、カズくん」


 踵を返した先に、ちょうど集会所に入って来たのだろう、ユニと目が合った。


「あぁ、おはようユニ」


「おはよ。で、どしたの?誰か酔っ払って乱闘騒ぎでもあったの?」


「いや、乱闘とかじゃなくて」


 アレだよ、と一真は掲示板と人集りを指す。


「あ、掲示板の告知?カズくんは読んだの?」


「まだ読めてない。人集りが収まるまで読めそうにないから、先に依頼でも受けようかなって」


 一真は視線を受付カウンターに向け直した。


「じゃぁさ、訊いてみようよ」


 そう言うと、ユニも受付カウンターに近付いて、受付嬢に話し掛ける。


「すみませーん、今日は何かあったんですか?」


 彼女の言う「訊いてみようよ」と言うのは、受付嬢に訊ねるということのようだ。


「はい。来週に、エスターテ行きの定期便が出立するのですが、今回はもう少し護衛のコントラクターが欲しいらしく、志願者を募っています」


 受付嬢が言うには、最近のエスターテは魔物の数が増えているらしく、当初に予定していた護衛人数だけでは心許ないため、エスターテ行きの護衛者を募集しており、掲示板に貼られているのはその告知であるとのこと。

 定期便と言うのは商隊のことを指しており、月に一度、主にプリマヴェラとソンバハルの二町が、決まった期間の中で他町――特にエスターテとゼメスタン――と交易を行うため、ギルドがバックアップとなって護衛を引き受ける。

 交易品だけでなく、商隊の生活用品や食糧なども含めて大量の物資、資金を運ぶため、それを狙った野盗や魔物の襲撃も珍しくない。

 そのような被害から物資や商人を守るのが護衛を任されるコントラクターの役目である。

 平常であれば、ある程度の実績を積み、なおかつギルドから信頼されているパーティーに護衛を引き受けてもらうのだが、今回はそれだけでは人手が足りないらしく、ギルドマスターたるカトリアがこのような方針を取ったと言う。


「それって、必要なランクとかはあるんですか?」


 ユニの隣で話を聞いていた一真は受付嬢に質問する。


「いえ、特に必要なランクなどは設けておりません。ただ、あまりにも志願者が多い場合は、ランクの高いコントラクターや、ギルドマスターが名指しした方に絞られることになります」


 基本的に志願さえすれば、コントラクターなら誰でもエスターテ行きに同行出来るが、定員が溢れてしまった場合は涙を飲んでくれと言うことだ。


「(エスターテか……砂漠の町だってカトリアさんから聞いたけど……行ってみたいな)」


 それを聞いた一真は、もう一度掲示版を見て、頷いた。


「……俺、希望します」


 一真のエスターテ行き希望を聞いて、ユニも挙手した。


「あ、じゃぁ私も行こっかなー」


 しかも、遊びに行くような感覚で。


「え、ユニも行くのか?無理に俺に合わせてくれなくていいんだぞ?」


 一真が行くのなら自分も、とユニは言うのだ。


「ん?別に無理なんかしてないよ。それに……」


「それに?」


 少しだけ視線を泳がせてから、ユニはいたずらっぽく答えた。


「カズくんと一緒の方が、楽しいからね♪」


「……無理してないって言うなら、いいか」


 不覚にも、ユニのその表情に見惚れかけたのは、何とか隠しておく。

 二人のやり取りに苦笑していた受付嬢は、咳払いを挟んでから確認を取る。


「お二方、エスターテ行きの護衛をご希望ですね?ギルドカードの提示をお願いします」


 言う通りに、一真とユニはギルドカードを提示する。


「カズマ・カンダ様と、ユニ・ガブリエル様ですね。かしこまりました。……恐れ入りますが、もし定員が溢れてしまった場合はご参加出来ない場合がありますが、よろしいでしょうか?」


 暗に、それぞれFランクとEランクのコントラクターなので、もし定員が溢れてしまい、他に高ランクのコントラクターが希望している場合はそちらを優先するため、文句は聞けませんよ、と言っているのだ。


「そうなったらしょうがない、また次の機会を待ちますよ」


 一真もユニも、それは理解している。

 それはともかくとして、エスターテ行きの定期便の出立は来週だ。






 それから、依頼を受けては達成しつつ一週間を待つ。

 どうやら、エスターテ行きの定期便の護衛を志願しているコントラクターは少ないらしく、このぶんなら一真とユニも同行出来るとのこと。

 そもそも、このような商隊の護衛依頼と言うものが、コントラクター達からあまり好まれていないからだ。


 理由としてはまず、『自分達の自由が効かない』こと。

 通常の依頼なら自分達のペースで進めることが出来るが、そうでない他人と足並みを揃えなくてはならず、行動や時間――それも数日単位で不自由になるからだ。


 もうひとつは、『場合によっては危険な相手と対峙する』こと。

 商隊と言う性質上、魔物や野盗の襲撃を受ける可能性がある限り、どんな相手が狙ってくるか分からないからだ。

 そして、どれだけ危険な相手が現れようとも、コントラクターである以上はランクに関係なく、商隊を守るための盾にならなくてはならない。

「自分の手には負えないので逃げます」なんて泣き言は、敵にも護衛対象にも通用しないのだ。

 報酬面でも不況があり、護衛依頼の報酬金そのものはそれなりに高額だが、上記のような危険な状況を切り抜けられたとしても、ギルドから追加の報酬が上乗せされることはない。

 商隊やその場の最高責任者が個人的な感謝として報奨を与えるケースもあると言えばあるが、『割に合わない』ことも多いのだ。

 特に今回のように、最初から危険である可能性が高いと予測されるのなら、殊更である。


 そのため、商隊の護衛を自ら引き受けたがるコントラクターは少なく、基本的にギルド側と腕利きのコントラクターとが交渉した上で成立する。


「……と言うことは、カズマさんは明日からしばらく、帰ってこれないんですよね?」


 宿屋『ハミングバード』の食事処でリーラは、明日に出立する定期便に一真も同行すると知って、眉の端を落とす。


「うん。だから、しばらくここにも来れないなぁ」


 リーラお手製のクリームシチューを啜る一真。期間限定として、プリマヴェラピルツが入ったクリームシチューだ。

 明日からしばらくの日数、エスターテ行きの定期便の護衛依頼を受けることを、リーラに伝えに来たついでにここで夕食をいただいている。


「あぁいえっ、お仕事なら仕方ないです」


 それに、とリーラは心配そうな顔をする。


「定期便の護衛って、何も無い時もあるけど、時々すごく危険な時もあるって聞くので、やっぱり心配しちゃいます」


「大丈夫だって。護衛に付くのは俺だけじゃなくて、もっと腕利きの人達もいるから、そんなに気負わなくていいってカトリアさんも言ってたし」


 努めて気楽そうに言う一真。

 実のところ、彼も緊張しているのだ。

 プリマヴェラ周辺とは異なる生態系に、砂漠と言う環境がそもそも初めて(当然、前世でも砂漠を渡った経験などない)で、その上で商隊を守るために身体を張らなくてはならないのだから。


「うーん……わたしが心配してもしょうがないですし。とにかくカズマさん、怪我しないように……って言うのは、難しいですよね?」


「魔物と戦う以上は怪我する可能性はあるけど、まぁ、出来るだけ怪我しないように気を付けるさ」


 一真とて、怪我をするつもりなど毛頭ない。

 とは言え、リーラのこの心配そうな表情をどうやって和らげてやれるものか。

 少し思考を回し、ふと思い付く。


「じゃぁさ、エスターテ(むこう)でお土産買ってくるよ。どう言うものが欲しい?」


 物で納得させるのも少し安直な気もするが、少しでもリーラの気がそれに向けられるなら、と一真は"お土産"案を挙げた。


「お、お土産ですか?そんな、悪いですよ」


「せっかく普段は行かない町に行くんだし、俺もリーラには世話になりっぱなしだから。たまには恩返しさせてくれよ」


 世話になりっぱなし、というのは、一真にとっては事実だ。

 いくらギルドからの資金援助を受けてのこととは言え、二日も宿の一室を貸し切らせ、タダ飯数回、日用品一式まで用意してもらったのだ。

 彼女にはどこかでお返しをしなくてはと思っていたので、この"お土産"案はちょうどいい。


「えーっと……じ、じゃぁ、安くてもいいですから、美味しいものをお願いします。出来れば、わたしと女将さんの二人で分けっこ出来るので」


 リーラの言う「女将さん」とは、『ハミングバード』の経営者のことであり、この宿屋は二人で切り盛りしているのだ。


「分かった。個包装されてるお菓子とかあれば、買ってくる」


 お土産のリクエストを聞き入れて、一真は大きく頷く。


「あ、でも、もし忙しくてお土産が買えなくても、別にいいですからねっ。お仕事、頑張ってきてください」


「もちろん」


 プリマヴェラから行って戻って来るまでの間、四六時中ずっと護衛するわけでは無いだろう。

 どこかのタイミングでエスターテを散策出来ることもあるはずで、もし時間があまり無かったとしても、カトリアに頼めばお土産を買う時間くらいは作ってもらえるだろう、と一真は見ている。


 クリームシチューはもちろん残さずいただき、リーラへの感謝も忘れずに、一真は『ハミングバード』を後にする。

 明日の早朝から出立するので、今日は早めに床につく。





 翌朝。

 普段の一真の起床時間よりも早い、まだ辺りに陽が差し込み始めるかどうかの時間帯、プリマヴェラの出入り口付近は慌ただしく人や物が出入りする。


「食糧は三番車両だ、間違えるなよー」


「こっちは割れ物注意だ、そっと積めていけよー」


「そろそろ出発時間だ、急げよー」


 何両もの荷車に交易品や物資に詰め込まれ、馬車が連結され、商人とギルド関係者とコントラクターが言葉を交わして打ち合わせていく。

 自分の荷物も特定の荷車に積み込んだ一真は、ユニと一緒に商人達の手伝いに回っていた。


「……これだけの規模の商隊の護衛だって言うのに、コントラクターの人数は意外と少ないんですね」


 よっと、と木箱を所定の位置に下ろし、ベルトに括り付けて固定していく。


「いつにも増して危険だと分かっていて、好きで首を突っ込みに行くような奴は、お前ともう一人くらいってことだろう、さ」


 その一真の隣で、彼が運んでいた木箱より一回り大きな木箱を手早く固定していくのは、海賊のような青年――ソル・ソーダライトだ。

 ソルと、その彼とパーティーを組んでいるコントラクター達は、元々からエスターテ行きの定期便の護衛をカトリアから頼まれていたため、今回の定期便の仕様に若干の差異があっても滞りなく参加している。

 それでも、一真とユニ、ソル達、加えてその他の志願者を含めても、十人ほどしかコントラクターが揃わなかったのだ。

 商隊の規模に対するこの戦力不足をどう解決したのかと言うと。


「……えぇ、そうです。今日の内に中継拠点に到着し、予定通り馬車の入れ替えを行い、翌朝にエスターテへ向かいます」


 商人やギルド関係者と言葉を交わすカトリアの姿をちらりと見やる一真とソル。


 その解決方法とは至極単純で、『ギルドマスター自らが戦列に加わる』と言うものだ。

 確かに、SSランクと言う格を持つコントラクターなら、一真五人分くらいの戦力になるだろう。


挿絵(By みてみん)


 ふと、カトリアと一真の目線が合い……カトリアはにこりと微笑を浮かべてくれた。

 その微笑に内心を揺さぶられつつ、照れ隠しをするように一真は次の荷物を運ぼうと取り掛かる。

 そんな一真の心情を悟ってのことか、ソルは苦笑しながら答えた。


「ギルドマスターに惚れた奴は多々いたが、見ての通りの高嶺の花だからな。……止めはしないが、苦労はするぞ?」


「……俺がカトリアさんに釣り合うような男に見えますか?」


 一真とて自覚はしている。

 同年代の男子と比べても小柄で、頼りなさそうだと思われても仕方ないと。

 しかし、ソルは鼻を鳴らして何のことも無さげに言ってやる。


「それを決めるのはお前や他人じゃなくて、ギルドマスター本人だろ?そりゃ今すぐってことなら、丁重にお断りされるだろうがな」


 トン、とソルは一真の肩を軽く叩く。


「出来ることを一つずつやっていきゃいい。見ている奴は、ちゃんと見ているからな。……もうすぐ出るぞ」


 お前も急げよ、と言い残してからソルは仲間の元へ向かう。

 その黒いジャケットが翻る背中を見送りつつ、一真は取り掛かっている荷物を詰め込んでいく。


「見ている奴は、ちゃんと見ている、か……」


 しかしそれは、『男として』と言うよりは『コントラクターとして』ではないだろうか。

 それでも全く見向きもされないよりは遥かにいいか、と一真はユニの元へ向かった。




 ようやく辺りが明るくなってきたところで、先頭の馬車がゆっくりと歩き出す。

 コントラクター達は各馬車に二、三名ずつ配備されており、一真とユニは、他の護衛と比較してもランクが低いため、前線に打って出るよりも、カトリアの援護を任されている。

 それ故に、一真とユニはカトリアと同じ馬車に搭乗している。


 プリマヴェラを出立してからしばらくが経った辺りで、カトリアは一真に話しかけた。


「カズマくんは、何故今回の定期便の護衛を志願したのか、理由をお訊きしてもよろしいでしょうか?」


「え、理由ですか?……プリマヴェラ以外の町に行けるってことなんで、丁度いい機会かなって」


 一真は正直に答える。

 砂漠の町ともなれば、気候環境なども厳しいものになるだろうと予想はしているが、それでも単独で砂漠を渡ろうとするよりは、大勢と共に行動した方が馬車と言う足代わりも用意されるし、食糧を含めた物資も豊富だろう、と言う打算もある。


「あ、ちなみに私はカズくんが行くって言うから、ノリでついてきました」


 ついでに、ユニもこの定期便の護衛を志願した理由を答える。答えになっているかどうかは些か妙なところはあるが。


「理由は人それぞれにあるとは思いますが……お二人は先週に、出没情報のないキラーベアと遭遇したことを覚えていますか?」


 すると、急に話の方向が変わった。

 何故そこで先週の話になるのかと思いつつも、一真は「はい」と頷いた。


「んーと……依頼状を確認した時点では、大型の魔物の出没情報は無かったはずでした」


 ユニもその関係者なので横から話に加わる。


「それが、今回とどう関係するんですか?」


 その問いに対して、カトリアは深刻そうな表情を浮かべた。


「ギルドでも把握しきれなかったキラーベアの出没に、今回のエスターテ周辺の魔物の急増。それに加えて、ソンバハルやゼメスタンでも、『魔物がいつもより凶暴化していたり』、『本来なら棲息していないはずの種がそこに居着いている』と聞いています。……偶然の一致にしては、報告件数が多過ぎるのです」


 普通ならそうそう起こり得ないことが、連続で多発していると言う。

 それを聞いて、ユニも考え込む。


「んー……どうしてそんなことが起きているのか、私じゃ分かりませんけど……カズくんはどう思う?」


「お、俺か?えぇ……」


 ユニに意見を求められた一真だが、その彼は渋面を作って頭を捻る。


「(大陸規模で異常が起きているってケースは……なんだろう、何があったっけ……?)」


 一真は必死に前世の記憶と言う引き出しを開けては洗いざらい中を引っくり返していく。

 キラーベアの出没に関しては、他の魔物の動きが不自然過ぎたからこそ、「何かが起きている」くらいは察せれた。

 だが、それがひとつの場所だけでなく、複数の場所でなおかつ断続的に起きているのだ、これが不自然で無いのなら、何を疑えと言うのか。

 ようやくひとつの案件を思い出せた一真は、絞り出すように応じる。


「……大昔に、勇者の手によって封印された大魔王が復活しそうになっている、とか?」


 これが前世の現実世界なら笑われて流されるだけだが、この魔法が存在するファンタジー世界なら、強ち間違いではないかもしれない。

 半分くらい冗談めかした言い方をした一真だが、カトリアは大真面目に答えた。


「封印されし大魔王とまでは言いませんが……『他の魔物や環境に変化をもたらすほどの強い影響力を持った"何か"が存在している』とギルドは捉えています」


 それが魔物によるものなのか、自然災害によるものなのか、あるいは人為的なものなのか、その判断が付かないために暫定として『"何か"』と称しています、とカトリアは言う。


「まぁ……完全な偶然であると言う可能性も全くゼロではないのですが、我々ギルドも慎重に調査を続けています。なのでお二人も、何かおかしいと感じたことがあれば、すぐに報告をお願い致します」




 それから、魔物の襲撃が起こることもなく、夕方頃にはプリマヴェラとエスターテを繋ぐ中継拠点に到着し、今日のところはここで一晩を明かして、また翌朝に出発する予定だ。

 と言うわけで六章でした。


 一真の新武器はポン刀。


 リーラちゃんにお土産フラグを立てる。


 なんとギルドマスター自ら戦列へ。


 の3本でお送りしました。


 なろうのメンテをすっかり忘れており、本来なら13時くらいには投稿出来たはずでしたが、完全にミスりました。ちくせう。

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