四章 ギャップ萌えにも程がある。
異世界――と言うより、このプリマヴェラの町に放り込まれ、コントラクターとして働くようになってから、随分と早寝早起きになったものだと、一真は窓の向こう側、大陸樹ヘイムダル越しに登ってくる朝日を浴びながらそう思った。
グリンマンティスの間引き依頼の達成から、一週間。
ここ最近の一真の生活リズムは、日によってやや異なる場合もあるものの、ほぼ固定化しつつあった。
朝は辺りに日の光が差し込むと同時に起きる。
買い揃えていた食材で朝食を作り、食後の片付けが済むなりすぐに依頼を受けに行く準備だ。
コントラクター用の軽装を纏い、保存食料や飲料水、薬品類などを道具袋に詰め込み、昨夜の内に手入れしておいたバスタードソードを背負う。
集会所に立ち寄り、達成出来そうな依頼を受注してはすぐに出立。
魔物と戦い、物資を集め、そうして依頼を達成して帰ってきては報酬を受け取って夕食、道具や武器の手入れを終えて入浴、それだけのことを終えればもう辺りも暗く、床に就けば魔物との戦いで疲れていることもあって朝までぐっすりだ。
今日もいつもと同じように、依頼を受けに行くつもりだ。
朝の時間を終えて、依頼を受けに行く準備を整え、一真は宛てがわれた自宅を出る。
まだ日が登り始めて間もない早朝だと言うのに、プリマヴェラは多くの人々が行き交う。
擦れ違う町民達と挨拶を交わしつつ、集会所へ向かう。
その途中で、宿屋『ハミングバード』の戸が開けられ、扉の向こう側からリーラが出てきた。
「あっ、カズマさん。おはようございます」
「おはようリーラ。その様子だと、買い出し?」
リーラの手に麻袋が握られているところ、何か買い出しに出掛けるのだろうと読み取る一真。
「はい。ちょっと食材が足りなくなっちゃいそうなので、今の内に買い出しです。カズマさんは、今日も依頼を受けに行くんですか?」
「うん。って言っても、まだFランクなんだけどな」
「コントラクターの昇級って、すごく難しいって聞きますし、大変そうですよね……でも、カズマさんならきっと大丈夫です。頑張ってくださいっ」
こくこくと頷いてくれるリーラに、ちょっとだけ元気を分けてもらって、「ありがとう、今日も頑張って行ってくる」と返して、集会所へ向かう。
今日の夕食は、『ハミングバード』でいただこうか、などと考えつつ。
集会所は相変わらずの賑わいだ。
喧騒を聞き流しつつ、一真は受付カウンターに赴き、まずはギルドカードを提示する。
さて今日はどの依頼を受けようかと依頼状の束を待っていると、
「あちらの方、同行者を募っているそうですよ。一度、お声を掛けてみるのはいかがでしょう?」
受付嬢は、一真の斜め後ろ辺りを指す。
そちらへ振り向いてみると、確かに誰かを待っていそうな、真っ黒な外套で身を包み、その外套から覗く蒼銀色の髪の少女が、
……と言うより、あんな目立つような格好などそう簡単に忘れるはずがない。
「あれ、あの子……この間の」
「あら、お知り合いでしたか?」
「知り合いって言うか……通りすがり同士と言うか」
気配もなくすぐ真後ろに回り込んでは驚かしてきた、死神のような少女。
関わればまたおちょくられるのではないか、と警戒する一真だが、それは勘繰り過ぎかとすぐに思い直す。
とりあえず話し掛けるくらいならいいだろう。実際にどうするかは後で決めればいい。
そう思い、一真はそこへ歩み寄った。
「ん、あれっ、キミってこの間の?」
互いに目を合わせると、少女の方も一真のことを覚えていたような反応を見せる。
「一週間ぶり……でいいのか?同行者を募ってるって聞いたけど」
今度はからかわれるものかと一真は警戒心を隠しつつ頷く。
「うん、一人じゃちょっと難しい依頼を受けようとしてるんだけど……もしかして、手伝ってくれるのっ?」
募っていた同行者だと思ってか、少女は一真に一歩踏み込んで真紅色の瞳を輝かせた。
「ま、待った待った、どんな依頼なのか教えてくれよ。じゃないと、俺が手伝っていい依頼か分からないだろ」
ってかその前に、と一真はまだお互いの名前を知らないことに気付く。
「俺は、カズマ・カンダ。ついこの間にコントラクターになったばかりのFランクだよ」
「あっ、名乗ってなかったもんね。私、『ユニ・ガブリエル』って言うの。はい、ギルドカード」
ユニと名乗る少女は、外套の内側にあるポーチからギルドカードを取り出して一真に見せる。
年齢は一真と同じ16歳で、ランクはひとつ上のEランク。
しかし一真は、クラス――剣士や魔法使いと言った戦闘職――の欄を見て目を見開く。
「えっ、『ヒーラー』って……その格好で!?」
「うん、そうだよ」
ヒーラー……つまり、RPGで言うところのパーティーの回復役だ。
そう言ったキャラクターは大抵、僧侶や神官と言った聖職的な役柄を持ち、白や紺を基調とした正装を身に纏うはずである。
……のだが、ユニの格好――装備はどう見ても神に仕えるようなものではない、むしろ死霊使いと名乗る方が自然だろう。
あるいは、神は神でも、"死神"に仕えているのかもしれないが。その背中に背負うサイズが殊更に死神感を強める。
「ねぇねぇ、キミのギルドカード見せてくれないの?」
「あ、ごめん」
ユニがギルドカードを見せるように催促してきたので、一真もポーチからギルドカードを取り出し、彼女に手渡す。
「まぁ、お見せするほどのもんじゃないけど」
「ふむふむ。……よしっ、ありがと」
十分内容に目を通したか、ユニは頷いてギルドカードを一真に返す。
「じゃぁよろしくね。カズマ、だから……『カズくん』」
ユニは迷いなく右手を差し出す。握手を求めているようだ。
「カズくん?まぁ、こちらこそよろしく」
利き手を差し出すのは、信用の証だと言う。
彼女が信用すると言うのなら、自分もまた信用すべきだと、一真はその一回り小さくて色白い手を取った。
いきなり愛称で呼ぶのは、彼女なりのご愛嬌だろうか。
「あ、そうそう、手伝ってほしいって言う依頼のことなんだけどね……」
握手を終えるなりパッと手を離したユニは、懐から依頼状の控えを取り出しては、一真にそれを見せる。
その内容とは――
このプリマヴェラ深森に来るのも、もう何度目になるだろうか。
そろそろ地図も覚えてきた一真は、岩陰にひっそりと隠れるように繁殖しているそれに目を凝らし、潰さないように丁寧に引き抜いた。
ピンク色を基調に白の斑点模様が特徴的な、菌類――茸だ。
『プリマヴェラピルツ』と呼ばれる、この地特有の食用茸だ。
町の食材屋でも親しまれており、他町との交易品としてそれなりの価格で取引される。
現在プリマヴェラでは、つい最近に茸類を用いた健康的な料理が流行っているらしく、町内ではプリマヴェラピルツが不足しているとのこと。
そのために、コントラクターにプリマヴェラピルツを集めて来て欲しいという依頼だ。
それだけならユニ一人どころか、一真単独でも余裕で遂行可能な依頼なのだが、問題はそのプリマヴェラピルツの納品数にあった。
「これでやっと12本目……まだ半分にもなってないのかぁ……」
一真は採取したプリマヴェラピルツを麻袋に放り込み、袋の中身がこぼれない程度に軽く止める。
今回の依頼は、プリマヴェラピルツ50本の納品である。
この本数を一人で集めようものなら、確実に日が暮れるだろう。
あまりにも日にちが経ちすぎない限りは、契約期間が切れて依頼失敗にはならないものの、それでもただひたすら同じもの掻き集める作業と言うのは気が滅入るものだ。
「ごめんね〜、さすがにこれを一人でやる気にはなれなかったし、茸狩りなんて手伝ってくれる人とかいなくて……」
ユニも一真とは違う場所、木陰を探ってはその中からプリマヴェラピルツを引き抜く。
「いやまぁ、手伝うって決めたからには最後まで付き合うよ。……さすがに大変だけどな」
ここはもうないなぁ、と一真は背伸びしながら立ち上がる。
双方で集めたプリマヴェラピルツを一つの麻袋に集約しつつ数える。
これで27本目。ようやく半分だ。
深森の浅い場所から探し始め、そこも粗方回ったので次は深層域へ踏み込んでいく、一真とユニの二人。
プリマヴェラピルツはどこだとあちこちを探りに探っている内に、ふと一真は違和感に気付く。
「ユニ」
「ん、どしたのカズくん?」
黒衣に付いた土を払いつつ、ユニは一真に顔を向ける。
「なんか変じゃないか?」
「変って、何が?」
一真が感じた違和感を、ユニは気付いていないのか小首を傾げている。
「いや、だって……俺達がここに来てから、魔物と一度も戦ってないだろ?ここに来たら、大体二、三回は出会すはずなんだけど」
そう。
グリンマンティスやゴブリンに邪魔されずに茸狩りが出来るのは良いことだ。
良いこと……なのだが、それはそれで不自然である。
「あ、そう言えば……でも、何で?」
ユニも一真の違和感に気付いたらしいが、その原因まではわからない。
「(小型のモンスターが見当たらないって言うことは……)」
一真は、前世でプレイしていたゲームで覚えた知識を掘り起こす。
普段は頻出するザコ敵が、ある時ふといなくなる。
そのようなケースは……
「……長居は無用だな」
するべきではない想像を振り払い、一真は残り半分ほどのプリマヴェラピルツを集中して探し、ユニも魔物と遭遇しないことに疑念を抱きつつも、彼に続く。
魔物と戦闘することが無いおかげで、順調に集まっていくプリマヴェラピルツ。
「これで44本目っと……もう少しだね」
ユニは一真が集めたプリマヴェラピルツと合わせて数え直し、残り六本だと確認する。
深層域に踏み込んでからそれなりの時間が経っているにも関わらず、スライムの一匹も見当たらないのはやはりおかしい。
これは何かあるぞ、と一真は先程から警戒の糸を張り続けている。
この辺りの探索が済めば、いよいよ最奥部だ。
そこで何が起きているのか。
背中に携えているバスタードソードの存在を確かめつつ、一真は立ち上がり――
木陰からスライムが飛び出してきた。
スライムだけではない、グリンマンティスやゴブリン、おおよそ深森に棲息する魔物や動物の多くが、自分達のテリトリーも忘れて一方向へ逃げていく。
「何っ?魔物がみんな逃げてくよ!?」
この明らかな異常に、ユニも緊張に声を上ずらせる。
一真はバスタードソードを抜き放ち、魔物達が逃げる方向とは真逆を見据える。
その、奥。
ちょうど深層域の入口に当たるその場所に、焦げ茶色の毛並みをした"そいつ"が大地を踏み締めながらのし歩いて来る。
大の大人十人分はあるだろう巨体に、前脚には血に塗れた鋭利な爪。
原生していた熊が突然変異を繰り返して凶暴な魔物となった姿――『キラーベア』と呼ばれる、大型の魔物だ。
「で、でかい……」
その巨躯を目の前に、一真は思わず見上げる。
「キラーベア!?出没情報は無かったんじゃないの!?」
そう言いながらも、ユニは背中に携えた得物――サイズを抜き、両手で握る。
依頼状には、大型の魔物の確認情報は無かった。
しかしそれは依頼状が発注された時点での事であり、実際にその状態が維持されるとは限らない。
――このように、事態は一刻の元に動いているのだから。
そのキラーベアの周りには、戦いを挑んだのは良いが返り討ちにあったのだろうグリンマンティスやゴブリンの死体が転がっている。
キラーベアは一真とユニの人間二人を外敵と判断すると、後ろ脚で立ち上がり、両腕を上げて威嚇する。
グゴォァァァァァッ、とグリンマンティスやゴブリンの威嚇など比較にならないほどの重音が、木の葉や雑草を震わせる。
「ッ……脅かせば怯むと思うなよ!」
一瞬竦みかけた足を踏みしめ、一真はバスタードソードを手にキラーベアへ距離を詰めていく。
キラーベアは迂闊にも近付いて来る一真を見据え、右前脚を振りかぶり、右から左へと薙ぎ払う。
ブォンッ、と重々しい風切り音と共に振り抜かれたそれは一真の見切りの範疇だ、軽く跳躍することで前脚の一撃を躱し、空振りした前脚にバスタードソードを振り下ろす。
「はッ!」
剣刃はキラーベアの前脚を捉えたものの、体毛に阻まれたせいで、毛を切り飛ばすことは出来ても、その下にある肉体には浅く傷を付けただけだった。
「浅いかっ」
手応えの無さを認めると同時に、キラーベアは煩わしげに前脚を振るい、バスタードソード諸共一真を吹き飛ばす。
「ぐっ!?」
木の幹のように太く重いそれは、爪に斬り裂かれることは無くとも、ただぶつけるだけで鈍器そのものと化す。
数度地面を転がって立ち上がる一真だが、左肩の痛みが左手の握力を鈍らせる。
「(痛ってぇ……ぶつかっただけだって言うのにっ)」
痛いからちょっとタンマ、などと聞いてくれるはずもない、外敵を見定めたキラーベアは一真を仕留めようと躍起になって前脚を振り翳す。
もう一度軽く跳躍して回避する一真だが、地面に叩き付けられた前脚はそこを中心に小さなクレーターを穿つ。
まともに喰らったら最後、骨を砕かれるだろう。
「余所見してると、痛い目見るよっ!」
キラーベアが一真を狙っている間に、ユニは背後へ回り込み、その背中めがけてサイズを袈裟懸けに振り抜いた。
バスタードソードよりも"引き裂く"ことに特化した大鎌の一閃は、一真が最初に与えた一撃よりも効果的なダメージに繋がったらしく、キラーベアはよろめいた。
「私だって、やれるんだから……っ!」
が、それも一瞬のことでしかなく、キラーベアの標的が今度はユニに替わる。
「こ、のぉっ!」
袈裟懸けから流れるようにサイズを薙ぎ払うユニだが、キラーベアもまた前脚を振るい、固く鋭い爪にはサイズも文字通り刃が立たずに弾き返されてしまう。
「はぅっ」
蹈鞴を踏むユニに、必殺の右前脚を振り下ろそうとするキラーベアだが、
「こっちを、向けぇっ!」
そこへ一真がバスタードソードを腰溜めに構えながら突撃してきた。
無防備なキラーベアの左脇腹に向かって、身体全体で押し込むようにバスタードソードの切っ先を突き込む。
剛毛に刃先が滑ることなく、研ぎ澄まされた剣刃が深々とキラーベアの脇腹へ沈み込む。
抉るような一撃をまともに受け、キラーベアは苦しむような声を上げて暴れ回り――苦し紛れに振り回されたキラーベアの爪が、ほぼゼロ距離にいた一真の左腕を引き裂いたのだ。
「いっ、ぎ……ッ!?」
袖を破られ、露出した腕から紅々としたモノが溢れる。
「カズくんッ!?」
彼の左腕の出血を見て、ユニは悲鳴のような声を上げるが、一真は構わずにバスタードソードをキラーベアの左脇腹から引き抜いた。
「はっ、一矢報いてやったぞっ、ザマァみろ!」
バスタードソードが突き刺さっていた部位を押さえながらのたうち回るキラーベアに、一真は啖呵を切ってみせる。
「ザマァみろじゃないでしょっ、早く逃げるよ!」
サイズを背中に納めたユニは、慌てて一真に駆け寄るなり右手を取ると、そのままキラーベアから逃げるように引っ張っていく。
「い、今なら追ってこれないな、よしっ……」
左手の指先の感覚が薄れつつも、一真はユニと共に最奥部から逃げ出していく。
ひとまず深森と外との出入口付近にまで引き返してきた一真とユニ。
一真は座らされるなり、飲み水で傷口から滲み出る血液を洗い流していく。
「いっつつ……」
「もーっ、カズくんってば!なんて無茶なことするの!」
ユニは頬を膨らませて怒りながらも、一真の負傷部にタオルを押し付けて止血していく。
「じっとしててね……」
一真の傷口を押さえたままで、ユニは目を閉じる。
すると、彼女の周りに淡い緑色の魔法陣が発現され、詠が唱えられる。
「――癒やしの力よ、慈しむ御心のままに、彼の者に安らぎを――『ケアーエイド』」
詠唱を終え、魔法陣と同じ淡い緑光がユニの両手に纏われる。
「お……」
途端、一真は左腕の痛みが和らいだのを感じる。
最初に受けた鈍痛と、その次に受けた切傷との両方だ。
傷口を塞いでいたタオルを取られると、止血どころか既に薄膜ながら瘡蓋が出来ている。
「……ホントにヒーラーなんだな」
「当たり前だよ、回復術も使えないヒーラーなんて治癒師じゃないでしょ?」
「いや、ヒーラーのフリした別のナニかと思ってた」
「あーっ、ひどいなもうっ。そんなこと言うなら、瘡蓋掻きむしっちゃうよっ?」
ユニの指先が一真の出来たばかりの瘡蓋をつつく。
「痛てっ、悪かったって、ごめん」
「分かればよろしい」
続いてユニはポーチから包帯のロールを取り出すと、それを一真の瘡蓋を覆うように巻いていく。
「一安心して思い出したんだけど、まだ茸は足りないんだよな」
先程はキラーベアとの戦闘と逃走によって意識から除けられていたが、一真の言うように、プリマヴェラピルツはまだ指定数である50本には足りていない。
「あっ、そうだったね。……でもカズくん、キラーベアがいる中に集めに行くの?」
残るプリマヴェラピルツがあるとすれば、最奥部だ。
しかしそこには手負いとは言えキラーベアがまだ存在して入る。
「そこは、アイツを避けながら集めればなんとかなるだろ」
よっと、と一真は勢いよく立ち上がる。
「もう少しなんだ、ここまで来たらキッチリこなしたいよな」
「……でも、もう一回キラーベアと戦うなんてのは無しだよ?」
「分かってるって。さすがに近くにいるって分かったらすぐに逃げるさ」
体勢を整え直してから、二人は再び深森の最奥部へ踏み込んだ。
幸いにもキラーベアと再遭遇することもなく、指定数のプリマヴェラピルツを集めることが出来た。
余計なことはせずに、すぐに深森から脱出する。
「今日はありがとうね、カズくん」
プリマヴェラの町への帰還道中で、ユニは改めて一真に礼を言った。
「ん、何が?」
「今回の依頼。安請け合いしちゃってどうしよう、一人でもやるしかないかなって思ってたから。だから、手伝ってくれてありがとう」
依頼を手伝ってくれたことへの感謝だった。
「安請け合いって……どんな依頼かも確かめずに請け負ったのか?」
「あっはは……うんまぁ、そんな感じ、かな?」
一真の問い掛けに、視線を泳がせるユニ。
その様子から見るに『他に何か理由を抱えている』ようだが、今ここでそれを問い質しても答えてくれないだろう。
「でもカズくんが手伝ってくれたから、結果オーライってことで、ねっ?」
お茶を濁すように、茶目っ気を見せるように片目を閉じて見せる。
「まぁ、依頼は達成出来たし、いいか」
この依頼に関わったからキラーベアに一撃に貰われたようなものだが、一真は特にそれは気にしていない。程度の差はあれど、単なる怪我に過ぎないのだから。
日が傾き、西の向こう側へ沈み行く中、プリマヴェラの町並みが見えてきた。
「……。ねぇ、カズくん」
ふと、ユニが話しかけて来た。
「ん?」
「もしまた何かあったら……今度は私の方からキミに頼ってもいいかな?」
――西陽に照らされたその表情は、死神のような姿には似つかわしくないほどに清々しい――。
「……あんまり無茶なことじゃなかったらな」
さすがにドラゴン退治を手伝って欲しいとか頼まれたら、首を縦に振れないかもしれない。(そもそもそんな危険度の高い魔物に関する依頼は受けさせてくれないのだが)
「うん、その時は頼りにさせてもらうねっ」
人の話を聞いていたのか聞いていなかったのか、ユニは嬉しそうな笑顔で頷いたのだった――。
と言うわけで4章でした。
2章でその存在を現していた死神系ヒーラー、ユニの登場回です。
カトリア、リーラ、ユニ、とここまでヒロインが三人出てきてます。





