終章 ルーキーだけどもうルーキーじゃない。
大陸樹ヘイムダルにて行われた戦いは、ベンチャーズギルド総力によるドラゴンゾンビの撃破と、プリマヴェラ所属のコントラクター、カズマ・カンダ(一真)が、重要参考人であるディニアルを討ち取ったことで終息した。
負傷者は多数確認されたものの、幸いにしてギルド側に死亡者はおらず、上々の結果であったと言えるだろう。
特に重傷であったソル・ソーダライトも、火傷の痕こそ残ったものの、近い内に現場復帰するとのこと。
ディニアルの死亡に関してギルドは未確認であるが、討伐者である一真本人の口から、「自分が殺害した」と公言し、かつ「遺体を確かめるようなことはしないでほしい」と嘆願した。
ギルドは彼の意見を尊重するとして、捜索を取り止めにしたものの、極秘の元、特殊部隊による捜索が行われた。
しかしながら報告では「発見出来たのは、血の付いた黒衣と大剣のみであり、遺体や遺骨は確認出来なかった」とのこと。
表向きは「死亡した」としているため、ギルドはこの報告に関する機密情報等は全て破棄、隠蔽した。
以後、重要参考人ディニアルの行方を知る者はいなかった。
それから、二週間後。
ベンチャーズギルド・プリマヴェラ支部の集会所では、ギルドマスターのカトリアが、若い女性と応対していた。
「えぇ、大丈夫です。ご安心ください」
「ですけど、町の外にはキラーベアが出没していると……」
「それも問題ありません。"彼"なら、必ず成し遂げて帰還して来ます」
カトリアと対面している女性は、産まれて間もない子どもが流行り病に感染し、すぐに医師に診察と特効薬を頼んだものの、その特効薬が切れていると言う。
幸いにも、今日中に到着するヘイムダルからの定期便に、その特効薬が積まれているのだが、同時にキラーベアが出没した。
しかも、森の外で。
キラーベアの出没をギルドが把握した時には、既に定期便は出立しており、加えて護衛を任されているコントラクターは新人ばかりで、とてもではないがキラーベアの相手など出来る実力はない。
このままでは定期便がキラーベアに襲われ、特効薬がプリマヴェラに届かない可能性が高い。
幼児の抵抗力は弱く、特効薬無しでは命に関わる恐れもある。
そこでカトリアは、このような緊急時にすぐに向かわせられるコントラクターを派遣した。
「我々プリマヴェラ支部が誇るルーキー……いえ、『スーパーエース』は、キラーベアなどに遅れは取りませんよ」
微塵の不安も感じていないその微笑には、全幅の信頼があった。
定期便の護衛依頼を遂行中の若いコントラクター達は、気楽そうに談笑しながら歩いていた。
「こんな簡単な依頼じゃ、ランクなんか上がらないよなぁ」
「だな。魔物でも出てくれば話は別なんだろうけど、こんなところじゃスライムの一匹もいないさ」
「そうそう。あーぁ、さっさとプリマヴェラに着かねぇかな……」
プリマヴェラ周辺の魔物の出没率は低いとされているが、警戒心が無さすぎるにも程がある。
商人達も表にこそ出ていないが、内心では「こんな不真面目者ばかりで本当に大丈夫なのか」と不安がっている。
この場にベテランの一人でもいれば、「油断するな」と一喝してくれるのだろうが、そんな熟練者はここにいない。
緑にあふれる風景は、ぽかぽかとした陽気とも合わさって実にのどかな光景だ。
――凶暴な魔物さえいなければ、だが――。
不意に、地響きと共に野太い咆哮が空気を揺るがした。
「ひっ!?な、何だ!?」
コントラクターの一人が竦みながらもその音源を見やる。
大の大人十人分はある巨駆に、焦げ茶色の剛毛に覆われた大型の魔物――キラーベアだ。
「ちょっ……こいつ絶対ヤバい奴だって!?」
背中にある長剣に手を掛けることなく、へっぴり腰になっている。
「話が違うじゃねぇか!?なんでこんなとこに大型の魔物がいるんだよ!?」
ギルドの方からも予め「不測の事態にも柔軟に対応出来るように」と言い含められていたのだが、彼らは話半分にしか聞いていなかった。
腹を空かせているのだろう、キラーベアは血走った目でよだれを垂らし、一番近くにいたコントラクターに狙いをつけた。
「お、俺!?」
舌をなめずりするキラーベアを見て、彼は恐怖のあまり腰が抜けて尻もちをつく。
「く、来んなっ、来んなぁ……!」
逃げることすら頭から抜け落ちた彼に、キラーベアはゆらりと前脚を振り下ろし――
ガギァンッ、と言う鈍い音が響いた。
咄嗟に目を閉じていた彼は、視界を開く。
そこには、キラーベアの前脚を武器で受け止めている一人のコントラクターがいた。
騎士のような出で立ちに、鈍器のような武器を持つ、自分達とそう変わらない少年だった。
「そこのあんたら、早く馬車と一緒に逃げろ!」
少年――一真はそう言い放ち、足腰を踏ん張ってキラーベアを食い止める。
「そこにいちゃ邪魔だって言ってるんだ!」
一真の声に我を取り戻したコントラクターは、仲間に引きずり起こされながら立ち上がり、逃げる馬車の元へ急ぐ。
それを見送ってから一真は、弾かれるように飛び下がってイニシアティブを取り直す。
「……そういえば、あの時は一矢報いるのが精一杯だったっけ」
一真は、初めてキラーベアと遭遇した時のことを思い出す。
ユニと共にキノコ狩りに出ていた時に出会し、一撃入れて怯ませたのはいいが、余計な怪我をしてしまった。
だが、今はあの時と同じではない。
ここで逃げては定期便に被害が出る。
そして、キラーベアよりももっと恐ろしく強い魔物を相手取ってきた一真にとって、この程度は大した問題ではない。
せっかくの捕食を邪魔されて、怒り狂ったキラーベアは勢いよく右前脚を薙ぎ払うが、一真はその一閃をバスタードザンバーの腹で受け流し、
「ハアァッ!」
流れるようにバスタードザンバーを横薙ぎに振り抜き、キラーベアの頬へ叩き込む。
予想外の反撃を受け、なおかつ頭部へのダメージで脳髄を揺さぶられたキラーベアはよろめいて両前脚を着く。
その隙を見逃す一真ではない、続いてバスタードザンバーを上段から振り下ろし、キラーベアの脳天へ打ち込む。
一度だけでなく、二度、三度と。
立て続けに頭部を強打されたキラーベアは、目の焦点が合わないながらも前脚を振り回して暴れる。
一真はそこで深追いせずに一度距離を取り、左手を懐に伸ばし、そこからスティレットを取り出して放つ。
スティレットが腹に突き刺さり、キラーベアはさらに煩わしげに唸る。
「(馬車はここから離脱出来たか)」
後ろ目に、馬車やコントラクター達の姿が見えなくなっているのを確認する一真。
これで背後の憂いは無くなった。
一真はバスタードザンバーの柄を捻ってロックを解除、刀を抜き放つ。
一瞬の踏み込みの後、一真は重装備でありながら疾風のごとく駆け出し、キラーベアに一太刀与えながら斬り抜ける。
対するキラーベアも追従するように前脚を振るうが、一撃与えては距離を置く一真に当たりはしない。
何度も斬り傷を付けられ、キラーベアはその動きを鈍らせる。
「仕留める!」
瞬間、一真はキラーベアの認識よりも速く刀を振り抜く。
無防備な首筋へ放たれた神速の一閃により、急所を突かれたキラーベアは、断末魔ひとつ上げることなく地に伏した。
「……よし」
死んだフリの可能性も考慮して、その辺の石ころを拾い、キラーベアの顔に投げつけるが、ぶつけられても反応が無いため、完全に絶命したようだ。
その場に放棄した鞘を拾い上げ、それに刀を納刀し、背負い直してから、一真はすぐに定期便の馬車の後を追う。
一真が定期便の馬車の無事を確認した頃には、もうプリマヴェラは目と鼻の先であり、周囲に魔物の気配も無いため、御者に一言告げてから一足先に集会所へと帰還した。
ほぼ無傷で一真が帰還してきたのを見て、受付嬢は表情を和らげる。
とは言え、まずは報告だ。
「定期便の無事を確認しました。護衛のコントラクター達も怪我もなく、間もなく到着するはずです」
懸念されていた不安材料は全て解消された。
これで病に苦しんでいる町民達も、すぐに良くなるはずだ。
「はい、依頼達成おめでとうございます。報酬は後ほどお支払い致しますが、ギルドマスターが中でお待ちになられています」
「カトリアさんが?分かりました」
一真は頷くと、ほとんど顔パスのようにカウンターの中へ入り、その奥にある執務室へと向かう。
ドアの前でノックしてから、一真は名乗る。
「失礼します、カズマ・カンダです」
「どうぞ、お入りください」
ドアの向こうから、カトリアの許可が降りてきたので、一真は少しだけ緊張しながらドアノブを捻った。
執務室では、相変わらず山積みの書類をせっせと片付けているカトリアがいるが、彼女は一度その手を止めて、入室してきた一真に向き直る。
「おかえりなさいカズマくん。怪我はありませんでしたか?」
依頼の結果よりも先に身を案じてくれるカトリアに、一真は自然体で頷いた。
「大丈夫です。定期便の被害も無し、キラーベアの討伐もついでにやっておきました」
今回の緊急の依頼は、あくまでも定期便の安全確保であって、キラーベアの討伐は"ついで"でしかない。
尤も、その安全確保のために、キラーベアを討伐、もしくは撃退する必要があったのだが。
「さすがカズマくん。期待のスーパーエースの銘は、伊達では無いということですね」
「スーパーエースとかって煽てられても、まだBランクですけどね」
微笑を見せるカトリアに、一真は謙遜しつつ肩を竦める。
二週間前の大陸樹ヘイムダルでの戦いで、重要参考人ディニアルを討ち取ってみせた一真は『若き英雄』としてその名が大陸中に知れ渡った。
だが、同時に『多くの美少女を侍らすプレイボーイ』と言う浮名も知れ渡ってしまった。
「……にしても、良かったんですか?」
「何がですか?」
「二週間前のことですよ」
一真は二週間前のことをつい昨日のことのように思い返す――。
――ヘイムダルの宿舎に帰還してすぐに、一真はリーラも含めたカトリア達六人と一堂に会することになった。
そこで一真は、カトリアに告白したのだ。「俺と付き合ってください」と。
これまで、数多くの男に言い寄られてはやんわりとお断りしてきたカトリアだが、今回ばかりは別だった。
答えはシンプルに、しかし大変長い間を置いてから「………………はひ」と頷いた。
当然、いきなりの告白に他五人は驚いたものの、セレスを始めとしてすぐに納得したように頷いてくれて、特にラズベルは笑いながら思い切り一真の背中を叩いた。
これにて、一真とカトリアは恋人同士として結ばれた。
――のは、良かったのだが。
「それじゃぁ、私達はカズくんの『第二第三の夫人』になるってことだね」
ユニのこの一言が引き金だった。
彼女が言うには「正妻はカトリアさんだけど、一緒にいてもいいよね?」とのこと。
つまるところ、"一夫多妻"のソレである。
ホシズン大陸では婚約に関してはかなり自由であり、十六歳以上であれば、多重婚や同性婚なども普通に認められているのだと、この時に一真は初めて知ったのだ。
カトリアとラズベル、セレス、ユニは成人済みだが、リーラとスミレはまだ規定年齢を満たしていないので、実際の婚姻届の提出は数年先の話になる。
いやいやそれでいいのかよ、と一真はカトリアと顔を見合わせるが、当のカトリアは「問題ありません。幸せは皆で分かち合いましょう」と清々しく言ってのけた。
ユニ、ラズベル、スミレの三人は即座にこれに同意。
リーラとセレスは互いに顔を見合わせて本当にいいのだろうかと迷ったが、数巡の末に首を縦に振る。
残るは、未来の亭主になるだろう一真が了承すればいいだけ、と言う状況。
同調圧力を六方から突きつけられて、一真はついにそれに同意したのだった――。
「……いくら一夫多妻婚が認められてるって言っても、こうも簡単に事が運ぶと、現実味が無いと言うか」
異性の相手に困っている男の前でそんなことを言えば、即座に血祭りに上げられそうなことを言う一真。だからこその執務室なのだろうが。
事実、「カズマ・カンダはカトリア・ユスティーナの他に五人もの美少女をモノにした」と言う噂は即座に大陸各地に知れ渡り、一真を取り巻く男性の視線は射殺さんばかりであった。
「それはカズマくんがいけませんね。道行く先々で美女、美少女を虜にしてしまうのなら、……その、責任は取らなければなりません」
頬を染めながらもじもじと言葉を先細らせるカトリア。
「分かってます。まだ口約束の段階ですけど、その辺りはちゃんとするって決めましたから」
実際に一夫多妻婚をすれば、色々と問題は山積みになるだろう。
一真としては、ギルドマスターのカトリアを公私共に支えつつお付き合いをしていくつもりだったのだが、よもや巡り巡ってハーレムを実現してしまうとは、自分で(無意識の内に)蒔いた種とは言え、とんでもないことになってしまった。
が、その選択を後悔するつもりはない。
「…………」
ふとカトリアは、一真の顔を見つめる。
「カトリアさん?俺の顔がどうかしました?」
「いえ、何もおかしくありませんよ。ただ、顔付きが少し変わった……精悍さが出てきたかなと」
「ま、この四ヶ月で色々ありましたからね」
このホシズン大陸に転生して、もう四ヶ月。
前世の平和な日本での暮らしから一転、大自然の中で魔物と切った張ったの日常を過ごして来たのだ。
"神田一真"の顔から、"カズマ・カンダ"の顔になってきたと言うべきか。
「それで、ですね、カズマくん。私が正妻なのですから……」
カトリアは控えめながらの上目遣いで、一真を見つめる。
「"一度目"は事故で、"二度目"は私が一方的だったので、さ、"三度目"は、カズマくんから……」
「…………ぁっ。は、はいっ」
彼女が何を求めているのかを理解して、一真は顔から火が出るような熱を自覚しつつも、おもむろにカトリアの座る席へ歩み寄る。
カトリアの形の良い顎を指先に絡めると、優しく持ち上げる。
「ッ…………」
目を閉じながらエサをねだる雛鳥のように唇を差し出すカトリアに、一真はそっと口を近付けていく。
あと、ほんの数cmで――
しかしそれは、不意のドアノックによって遮られてしまった。
「!!」
カトリアは即座に一真を突き離し、条件反射的に背筋を伸ばして、いつものギルドマスターとしての微笑を浮かべながらドアに向き直った。
「はい」
この切り替えの早さは、もはや神業に等しい。
「失礼します、ギルドマスター。カズマさん宛のお手紙が三通届いております」
補佐役が仏頂面をしながら、三通の封筒を差し出す。
「ありがとうございます。カズマくん、またお三方からのお手紙ですよ」
「アッハイ」
補佐役に罪はないと思いつつも、せっかくのところを邪魔されたことへの不機嫌さを隠しつつ、一真は手紙を受け取る。
他町にいるラズベル、スミレ、セレスの三人は、週に一度くらいの頻度でこうして一真に手紙を送ってくる。
朝に依頼を受けて、夕方頃に帰還する一真は、手紙の返信本文を夜中に書くことが多い。
その度に、一真は少しだけ寝不足になることが増えたのだが。
補佐役が「失礼します」と一礼してから退室しようとするが、その寸前に、
「それと、ギルドマスター。「色恋に現を抜かすのも良いが、それにかまけて本分を忘れるな」と、ヘイムダルの本部長様より言伝です」
「…………すみません、ヘイムダルに火急の伝書を送ります。便箋の準備を」
不意に、カトリアの気配が変わった。
それはまるで、魔物と相対した時のような、殺意に似たプレッシャー。
一真までもが思わず一歩退くほどだ。
そのプレッシャーを目の当たりにしても補佐役は一切動じず、すぐにペンと便箋を用意した。
カトリアは文面に「余計なお世話です」とだけ殴り書きして、伝書鳩の脚に『縛り付ける』と、鳩の首根っこを掴み、窓の外へ向けて思いっきりぶん投げた。
放物線を描いて落下し、羽を広げて飛んでいくような様子は見られなかったが、大丈夫だろうか。
「これでよし」
上機嫌に頷くカトリアの背に、補佐役は「それでは失礼します」とだけ一礼してドアを閉めた。
「……えっと、カトリアさん」
「何でしょうか?」
「えぇと……さっきの続き、しますか?」
「ッ……ぜ、ぜひとも、お願い、しま、ひゅ……」
さっきの続き。
それを聞いて、先程の殺意の波動とも言えるプレッシャーとは何だったのかと思うほど、急にしおらしくなるカトリア。
しかも律儀に席に付き直して、体勢すら元通りにしてから。
一真も澱みなくカトリアの顎に指を絡めて、顔を近付けて、
――今度は邪魔が入ることもなく、二人の微熱が交錯した。
「俺にとっての一番は、カトリアさんですよ」
「……はい♪」
一度目の人生は、突然に終わりを告げた。
だが、神の気まぐれか何かでこの世界に転生して、とても充実している今を送っている。
数年後はきっと大変なことになるだろうなと思いつつも、そんな未来を楽しみにしている自分もいる。
前世では分からなかった幸せを噛み締めながら、一真はもう一度カトリアと唇を重ねた――。
END
………………
…………
……
常闇の中から拾い上げられたように、意識が浮上した。
「………………ん」
美しさと野性味、相反する二つを兼ね備えた漆黒の髪を持った青年は、自意識を確かめた。
「……どこだ、ここは、オレは」
聞き慣れた自分の声色。
そして鮮明に思い出せる、自分の末路。
「(そうだ。オレはあいつに負けて、……生きているのか?)」
有り得ない。
あれだけの出血に加えて、重要臓器を破壊されたのでは、いくら治療を施しても助かる見込みはゼロに等しい。
思い当たる節があるとすれば。
「(……転生、したのか)」
どうやら今回は、神に会うことは無かったらしい。
記憶は……前々世のものから残っている。
あの忌々しいと感じていた少年の、否定出来ぬ言葉すらも。
「あっ、目が覚めたんですね?良かったです」
思わず気が抜けそうな声が聞こえたので、出入り口だと思われる方向へ向き直る。
ふわふわの赤茶けた髪をやや短めに揃えた、穏やかそうな雰囲気の少女――それも14〜15歳くらい――が歩み寄ってくる。
美人と言うより、可愛らしい顔立ちだ。
ベッドの近くまで来ると、目線の高さを合わせるように屈む。
「痛いところとかは無いですか?」
「……オレは、生きているのか?」
思わずそう訊ねた。
「え?えっと……生きてると思います」
少女はどうしたのかと心配そうに覗いてくる。
「ここはどこだ?」
続けざまに訊ねると、少女ははっと気付く。
「え?……あ、寝てる間にいきなりに知らないところに連れてこられたら、びっくりしちゃいますよね」
ごめんなさい、と一言断る少女はこう言った。
「ここはプリマヴェラの宿屋です」
「……プリマヴェラだと?」
どういうことだと自問自答する。
転生したはずなのに、何故前と同じ世界にいる?
埒が明かないとして、思い切ってみる。
「この町のコントラクターの、カズマ・カンダと言う男を知っているか?」
プリマヴェラの町民なら、誰でも知っているはずだ。
そう思っていたのだが、
「カズマ・カンダ?いいえ、聞いたことないです」
「…………」
少女の口から放たれたのは、予想外な返答。
しかも、聞いたこともないと言う。
まるで、カズマ・カンダの存在など『最初から無かった』かのようではないか。
自分の知っている世界。しかし認識が異なる。
それらから導き出される結論は……
「(並行世界、と言うことか?)」
どうやらここは前世と同じ世界だが、『時間軸が異なる』らしい。
つまりこの時空のホシズン大陸は、『神田一真が転生しなかった世界』と言うことだろうか。
黙りこくっているのを見て不安に思った少女は、自分の名前を名乗った。
「えぇとえと……わたしは、『リーラ・レラージェ』って言います。あなたは?」
「オレは……」
名前。
前世で名乗っていた名前は、前々世の自分を"否定"すると言う意味で『ディニアル』としていた。
それならば。
誰も信じなかった自分と真逆の存在と言う意味として……
「『ビリーヴ』だ」
そう名乗ることにした。
To be continue……?
完結!!
ここまでお付き合いありがとうございました!!





