三十一章 これってフラグって言うのか?
シルヴィアとの対談を終えた一真は、コントラクター用の宿舎へ戻るべく夜の街道を歩いていた。
自分の前世について根掘り葉掘りと聞かれては答えると言うことを繰り返し、もう深夜とも言える時間になってようやく解放されたのだ。
「(それにしてもあの人、ほんとに何歳なんだ?)」
退席する前に一真は何気なくシルヴィアに「そう言えば本部長っていくつなんですか?」と何気なく訊ねたところ。
「レディに齢を訊ねるとは無礼であるぞ?」
とやんわりと返されてしまった。
一真としては、十歳くらいの身体付きだと見ていたが、どうやら見た目通りではないらしい。
だが、どう見積もっても年齢を隠さなければならないような歳には見えない。
「(合法ロリ……いや、これ以上は止めとこう)」
ここは剣と魔法のハイファンタジー世界だ、前世の常識ではあり得ないことのひとつやふたつやみっつはあるだろう、と呑み込むことにした。
そうして夜道をトボトボと辿っていると、どこか憂鬱そうな様子で彷徨っているカトリアを見かけたのだ。
「あれ、カトリアさん?」
「……えっ?」
一真の声を聞いて、カトリアはパッと顔を上げて振り向く。
「あ、お、おかえりなさいカズマくん」
「ただいま、カトリアさん」
「………………」
「?」
どうしてか、カトリアは黙りこくって俯いてしまう。
「カトリアさん、どうしたんですか?」
何か思い詰めたような顔をするカトリアに、一真は身を案じて声を掛ける。
俯いていたカトリアは、一度頷き、意を決したように顔を上げた。
「……カズマくん」
「はい?」
「良ければ、少し歩きませんか?」
「そりゃ構いませんけど。どうしたんです、急に」
「ひとつ、確かめたいことがありまして」
カトリアは何を確かめるつもりなのか、それは分からなかったが、少し歩くと言う題目通り、一真はカトリアの隣に立って歩調を合わせる。
もう夜も更けた時間帯では、町の明かりのほとんどは消えており、道行く人々の喧騒は聞こえない。
普段なら酒場などは賑わっているかもしれないが、今は大陸規模でのギルドの重大な任務の最中だ、よそのコントラクターと町民との間に余計な軋轢が生じないように、外出を控えてくれといい含めているのだろう。
「明日、決戦ですね」
不意にカトリアから、そのように話が切り出された。
「はい。今度こそ、必ずディニアルを止めましょう」
一真は力強く頷いて見せる。
だが、カトリアが話したいこととは別だろうと思っていた。
「何か、悩み事ですか?」
「……」
その悩みの種があなたなのですよ、とは言えずにカトリアは言葉に詰まる。
やや間をおいてから、絞り出すように発したのは。
「……分からないのです」
「分からない?」
それは何のことだろうかと、一真は続きを待つ。
「私はプリマヴェラのギルドマスターで、先代よりその役目を託されました。ベンチャーズギルドの模範となり、力無き者の剣になり、道を踏み外した者を正しく導けと。そのために粉骨砕身し、先代のために、ギルドのために、人のためにと」
それを聞けば、カトリアはギルドマスターとしての責務を立派に果たしていると、先代のギルドマスターは草葉の陰で泣くことはないだろうと聞こえる。
「……なのに。今私は、その役目を放棄しようと考えてしまうことがあります」
「役目を放棄って……ギルドマスターを辞めるってことですか!?」
どうしてそんな、と一真は驚く。
「もちろん今すぐの話ではなく、辞めるにしても、せめて私の後釜になる人がいなくてはなりません」
「それは、そうでしょうけど……」
彼女は、一体どうしてしまったと言うのか。
「ほんとにどうしたんですか。こんなのカトリアさんらしくないですよ?」
カトリアさんらしくない。
それを聞いてカトリアは、
「ッ……そうです、こんな姿はっ、『私らしくない』んですッ!」
堰を切ったように声を荒らげた。
怒りとも悲しみとも取れる彼女の激情に、一真は思わずたじろぐ。
「私はギルドマスターとして!いつもいつだって!誰かにとって理想の存在にならなくてはいけないのに!」
「ちょ、ちょっと、カトリアさ……」
「なのに、こんな、こんな……ッ!……こうして、あなたにも私らしくない姿を見せてしまっていて、どうするべきなのかは分かっているのに、納得出来ない自分もいて……っ」
カトリアが必死に涙を堪えているのが、痛いほどに分かる、分かってしまう。
こんな時、どうすればいい?
目の前で女の子が、辛くて泣いているのに、何もしないでいいのか?
一真は必死に考える。
どうすれば今のカトリアから辛みを取り除いてやれるのかと。
ふと、「らしくない」と言う言葉を思い出す。
今のカトリアはプリマヴェラのギルドマスターではなく、ただ一人の少女として激情を顕にしている。
だが、ギルドマスターとしてそんなことは許されないと頑なに心に蓋をして押し付けようとしているのだと。
ならば――その蓋から手を離させればいい。
「カトリアさん、言ってみてください」
「……え?」
戸惑いに目を見開くカトリア。
「カトリアさんは、どうしたいですか?」
「わ、私はギルドマスターとして、どうすべきかを優先しなくてはならなくて……」
「違いますよ。『カトリアさんはどうしたいか』を訊いてるんです」
「……どう言う、ことですか?」
見開いたままのカトリアの蒼い瞳を、一真は真っ直ぐに見据える。
「ギルドマスターだから、じゃなくて。カトリア・ユスティーナさんは今、何を望んでいるのか、です」
「私が、どうしたいのか……?」
「そうです。役目とか誰かのためとかは、一旦全部棚上げして、自分のことだけ考えてみればいいんです」
「自分のことだけ……」
徐々にカトリアの表情から強張りが薄れていく。
もう一押しか、と一真は声をかけ続ける。
「何を言ってもいいんですよ。「スライムのぬいぐるみが欲しいんです」とか、そう言うかわいいわがままだって聞……」
――その一瞬、時が止まっていた。
ただ分かるのは、『カトリアが一真へキスをしている』と言うことだ。
誰もいない、誰も見ていない、この場所で。
ゆっくりと、一真とカトリアの唇が離れる。
「カトリア、さん……?」
「……あっ、あ、あの、その、これは……ご、ごめんなさいッ!」
我に返って自分が何をしたのかを自覚したカトリアは、慌てて踵を返して宿舎の方へ駆け出して行った。
一真はその揺れる金髪を、ただ見送るしか出来なかった。
「…………今の、カトリアさんからしたんだよな?」
恐らくは衝動的なものだったかもしれないが、紛れもない彼女の意志による行動だった。
事故の拍子による結果はキスにはならない、と他ならぬカトリアが言っていたのだ。
そして、これは事故などではない。
で、あれば。
「え、えぇぇぇぇぇ……!?」
自分が何をされたのか、今ひとつの実感が無いまま、しかし心は酷く乱れ揺れながら、一真は覚束ない足取りで宿舎へ戻る。
コントラクター個人ずつに宛てがわれた部屋の中。
そのベッドの上で、一真は先程のカトリアの行動を思い返す。
「(カトリアさんが、俺にキスした……つまり、カトリアさんは、俺のことが好き?)」
ハッキリとした言葉には出ていないが、そうだと判断するには十分過ぎる。
そうでなければ、唇同士にキスをしようなどとは思いはしないだろう。
ラズベルが一真の頬にキスをしたような、友愛に近いものとは違う。
「(そうだとしたら、俺は?)」
これに対して、自分は何をすればいいのか。
一真は目を閉じて、この大陸に転生を果たしてから今までのカトリアのことを思い浮かべる。
行くアテのない自分を拾い、ギルドに雇い入れてくれたこと。
朝早くから夜遅くまでギルドの業務に勤しんでいること。
誰もを惹かせるカリスマ性と、SSランクのコントラクターとしての確かな実力の持ち主。
実はぬいぐるみが好きと言う趣味があったり。
うっかりキスをしてしまった時の、初々しい反応。
目の前で家族を奪われた悲しみを背負いながらも、先代ギルドマスターの遺志を継いでいること。
一真にとってのカトリアとは、尊敬すべき上司であり、導いてくれた恩人でもあり、背を預け合った仲間でもあり、歳の近い少女でもあり、そして――
支えたい、守りたいと思える存在。
「――そう言うことか」
すっ、と一真は腑に落ちるものを感じた。
目を閉じていたせいか、意識が微睡み始める。
夢現の中で、あるひとつの答えに辿り着いていた。
寝不足。
控え目に言ってそうとしか思えないほどに、カトリアは瞼の重さを感じながら目覚める。
「ねむ……」
カーテンの隙間から差し込む朝陽を感じ取って、反射的に起きたのはいいのだが、起きて頭が回り始めて――昨夜のことを思い出す。
「〜〜〜〜〜ッッッッッ!!」
声を上げそうになる衝動を手で押さえ、ベッドの上をゴロゴロと何往復もする。
「(バカバカバカ!私のバカ!決戦前にカズマくんに何てことを!?)」
今更になって、激しく後悔する。
軽く息が切れるほどになってようやく往復を止めて、枕元に置いていた、デザートスライムのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
「……カズマくんの、ばか」
顔を埋めているぬいぐるみに聞かせるように、小さくぼやいた。
ようやく気分が落ち着いてきたのを自覚してから、カトリアはバッと起き上がる。
洗顔し、身だしなみを整え、ギルドの制服ではなくコントラクター用の装備とブレードランスを身に纏うまでを迅速に。
誰がどこから見ても、プリマヴェラのギルドマスター、カトリア・ユスティーナだ。
それを確かめて(デザートスライムのぬいぐるみは荷物の中にしっかり隠してから)出立準備を整えて、カトリアは部屋を出た。
ヘイムダルの宿舎には、大多数の客人を迎えるために食堂が設けられている。
今日の朝食と(事が長引かなければ)昼食は、ここでいただく予定だ。
「あ、カトリアさんっ。おはようございます」
カトリアが食堂にやって来て一番にリーラが出迎えてくれた。
指定のエプロンを着用しているのは、彼女はここで朝と昼で働くことになっており、そうするように手配したのはカトリア本人である。
「おはようございます、リーラさん」
カトリアはいつもの微笑を浮かべて頷く。
「昨夜は急に部屋から出ちゃいましたから、どうしたのかって皆さん気にしてましたよ?」
そう言いつつ、リーラは席の一角を指す。
そこには、一真を含めた昨日の女性陣が和気藹々と朝食を取っているところで、一席だけ空けられている。
カトリアを待っているのだろう。
「昨日はすみません。少々疲れていたもので」
実は偶然一真と会ったことはおくびにも出さず、「朝食をいただけますか?」とリーラに訊ねる。
「かしこまりましたっ。席でお待ち下さいね」
注文を承り、リーラは小走りで厨房へ駆けていく。
「リーラちゃんは若いのによく働いてくれて、私達も大助かりですよ、ユスティーナマスター」
その様子を見ていたカトリアに、同じエプロンを身に着けた年配の女性の料理長が声を掛けてきた。
「元気で礼儀正しくて、手際も良く、おまけにとってもかわいらしい。このままウチで働いてくれると嬉しいのですけど、リーラちゃん、プリマヴェラの宿屋で働いていますしねぇ」
「そこは、プリマヴェラの宿屋の女将と要相談でお願いします」
早速馴染んでいるリーラに安心しつつ、カトリアは自分を待ってくれている席へ向かう。
席に近付くと、ラズベルが最初に反応した。
「っと、最後の一人がようやく来たわね」
ラズベルがそう言うと、席にいた全員が「おはようございます」と挨拶する。
「皆さん、おはようございます。昨夜は突然退席したりして、ごめんなさい」
指摘される前に、カトリアは頭を下げる。
「そうですよ、急にどうしたのかって思いましたよ」
そう言いつつも、ユニは空席の椅子をずらしてカトリアに座るよう促す。
「昨日は疲れていて上手く頭が働かなかったもので……」
カトリアは席について、
一真の顔を見る。
彼は少しだけ気まずそうだが、それでも確たる決意が見える。
「カズマくん。今日、いよいよですね」
「は、はい」
ディニアルとの決着を着ける。
何事も無く降伏を受け入れれば最上、だがそう簡単には行かないだろう。
程なくして、カトリアの分の朝食が運ばれてきた。
全員が全員、全ての準備を整え、ヘイムダルの集会所前へと集合しようと動き出している時。
「カズマ」
鎧を着込み、その下をマントで覆うセレスは、ふと一真に声をかけた。
「ん、どうしたセレス」
「昨日、何かあったの?」
「昨日?……いや、何もなかったけど」
無論、何かあったどころではない"事"はあったが、今それを話して余計にギクシャクするのは望むところではない。
故に一真は取り繕った。
「……何もないならそれでいいけど。ユスティーナマスターを見た時の、あなたの様子が少し変だったから」
「今回の件、カトリアさんが色々無理を効かせてくれたから、ちょっと申し訳無くてさ」
これは嘘ではない。
そもそもの今回の遠征の発端は、一真自身に遠回しながら要因があるからだ。
一真の存在や行動がディニアルを刺激する結果になり、大陸全土を巻き込む大事にまで発展し、各ギルドと連携するために尽力してくれていた。
その他、リーラの"密行"を『職権乱用で』強引に認めさせたり、そのリーラを宿舎の食堂に受け入れさせたり、直後にシルヴィア本部長を中心とした会議に参加したりと、一昨日から移動中を除いてほぼ働きっぱなしだったのだ。
「だから俺は、少しでもあの人の力になりたいんだ」
一真はそう頷きつつ、ギルドマスター達と最終の打ち合わせをしているカトリアの姿を見やる。
それを見たセレスは、
「……そう、信頼しているのね」
とだけ返した。
「(もう少し早くあなたと逢えていれば、……いいえ、これ以上は不毛ね)」
少しだけ星回りが悪かった。
そう割り切ることにして、セレスは戦いに気持ちを切り替えた。
全戦力たるコントラクター達と、ギルドマスター四人が先頭に立ち、それらと向かい合う形で、儀礼装を纏ったシルヴィアが立つ。
「諸君。今日ここに集いしこと、ベンチャーズギルドを代表して感謝する。我らの目的は、重要参考人たるディニアルの身柄確保、ないしはその討伐。降伏を受け入れればそれで良いが、恐らくそれは叶いはすまい。そして、彼奴は死に物狂いで我らに牙を剥くであろう。犠牲も避けられぬかもしれぬ。だが、彼奴の蛮行を止めねば、我らの明日に平和は訪れぬ」
徐に、シルヴィアはきらびやかな装飾が施されたサーベルを抜き放ち、胸に添える。
「ならば戦おう。我らの平和を、我らの手で勝ち取るために。そして皆、生きて帰るぞ。平和のために自ら礎となることは、この朕が許さぬ。共に生きて、共に明日を迎えようぞ!」
胸に添えたサーベルを高々と掲げれば、コントラクター達は一斉に咆哮を上げる。
一真も、カトリアも、ユニも、ラズベルも、スミレも、セレスも。
そして、この咆哮を宿舎から聞いていたリーラはそっと握り拳を胸に添える。
「全隊、前進開始!!」
シルヴィアが大陸樹へ向けてサーベルの切っ先を向け、号令する。
一拍を置いて、コントラクター達が前進を開始、次第に四つのグループに分かれると、大陸樹ヘイムダルを四方から囲むように展開していく。
大陸樹ヘイムダル。
かつてのホシズン統一戦争を終息させた英雄達がその種を植えた巨木であり、幹の太さだけでも数百mはくだらない。
加えて天辺は雲を突き抜けんほどに高く、これほど巨大な樹木ならばホシズン大陸のどこにいようともそれが目視出来る。
その幹に背を預けるように腰を下ろして目を閉じている、黒衣の男――ディニアル。
「――来たか」
目を開き、立て掛けていた大剣を手に取り、立ち上がる。
視線の先に見据えるのは、カズマ・カンダ――神田一真。
彼の周りには多くのコントラクターが追従している。
「来たぞ、ディニアル!」
一真はあえて声を張り上げて、自らの存在を誇示する。
「この戦力差を見たら分かるだろ、お前に勝ち目は無い!」
だから降伏しろ、と一真は諭す。
「勝ち目は無い?ハッ……笑わせるなよ神田一真」
この状況を前にしても、ディニアルは鼻で嘲笑ってみせる。
ただの強がりや虚仮威しではない、明確な勝算でもあるのだろうか。
「雁首だけ揃えてこの戦力差?それでオレを殺せるとでも?」
「殺す必要なんて無い。お前が諦めてくれれば、それで済むんだ」
「随分消極的だな、この一ヶ月間で腑抜けにでもなったか」
ジリ、とディニアルは一歩踏み出し、左手を空へ掲げる。
左手を中心に黒紫色の魔法陣が顕現する。
「言ったはずだ。オレはお前を殺して、その転生特典を取り戻すとな」
「……どうあっても、降伏する気は無いのか」
なら、と一真は背中に担いだバスタードザンバーの柄に手を添える。
「そんなつもりはない、必要もない。……さて、茶番もそろそろ終わりだ」
左手の魔法陣は見る内に巨大化し始め、やがてその"円"が虚空を生み出す。
「来い、『ドラゴンゾンビ』!!」
開かれた虚空から、ズルズルと引き摺るようにその巨駆が姿を現す。
虫食いのようになった黒紫色の鱗の内側は白骨が露出し、頭部から生えていたのだろう二本の龍角は半ばから折れ、ボロボロの翼は耳障りな音を鳴らし立てる。
ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ、と人の嘆きや断末魔のような咆哮を発して、その屍龍――ドラゴンゾンビは、爛れた口蓋から業火を吐き出した。
雑草を瞬時に灰に変えるほどの熱量のブレスに、一真を始めとするコントラクター達はすぐに散開した。
「野郎、どんな手品を仕込んでると思ったらこう言うことか!」
ソルはカットラスとピストルを抜き放つ。
ドラゴンゾンビが攻撃を開始すると同時に、ディニアルは踵を返して、大陸樹の中へと姿を消していく。
「待てっ、ディニアル!」
一真はディニアルを追おうとするものの、その先にドラゴンゾンビが地を踏みしめて立ち塞がる。
龍翼を振り上げ、一真を叩き潰そうと迫る。
咄嗟に飛び下がって間合いから離れる一真だが、叩き付けられた地面がクレーターを穿つ。
「くそっ!」
まずはこいつを何とかしてからか、と一真はバスタードザンバーを抜こうとするが、その彼の真横を矢が横切り、ドラゴンゾンビの鱗に突き刺さる。
「カズマ!あんたはあいつを追いな!」
矢を放ったのはラズベル。その彼女に続くようにボウガンや同じ弓矢の使い手のコントラクターが一斉に矢を放っていく。
「ここは私達が引き受けるわ」
既に臨戦態勢を整えていたセレスは、真っ先にドラゴンゾンビへ肉迫する。
「カズくん、行って!」
ユニは意を決してサイズを抜き放ち、
「わたし達も後に続きます!」
スミレは左右の忍刀を逆手に構える。
「さっさと行けよ、ルーキー!」
「あのスカした野郎をブン殴ってこい!」
「てめぇの実力、見せてやれよ!」
ソルのパーティーメンバー達も口々に続く。
そして、
「行きなさい、カズマくん」
カトリアもブレードランスを抜き、一真に"命令"を下す。
「……はいッ!!」
一真は力強く頷き、注意が分散し始めたドラゴンゾンビの懐をすり抜け、大陸樹の内部へ突入する。
結末の時は、近い。
と言うわけで三十一章でした。
事故じゃない本物のキス、カズくんが何か決意した?ディニアルが切り札を切って決戦へ、の三本でキメました。
次回、死闘開始です。





