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三章 初めてだけどまぁこんなもんだろう。

 プリマヴェラ深森。

 プリマヴェラの町の近辺に点在する森林地帯であり、この地特有の植生物などが多数群生しており、特に薬草に関しては薬用から飲料茶にまで幅広く使用される。

 しかし、この穏やかな気候と豊かな緑は、同時に魔物にとっては棲み心地が良く、なおかつ獲物となる動植物が豊富であるため、一般人が立ち入るのは大変危険である。

 そのためこの地の植生物や鉱物資源などは、基本的に依頼を通したコントラクターが採集、納品することで町に届けられている。


 その深森に、一人の武装した人間が訪れた。

 縄張りに不埒者が侵入したと見て、草陰から何かが飛び出してきた。


 ギャシァァァッ、と耳障りな鳴き声を上げながら両腕の鎌を上げ、背中の翅をバザバザと広げて威嚇する、草色と枯葉色の魔物。


『グリンマンティス』と呼ばれる、カマキリ型の魔物だ。

 元は普通のカマキリだった個体が、体内のマナの急激な増幅によって突然変異を起こした結果、体躯は人間よりも若干小さいほどにまで肥大化し、両腕の鎌はより鋭くなり、獲物は虫類から他の動物や魔物へと移り変わった。

 突然変異を起こしたとは言え、やはり飛行することは不得手であるものの、変異前と何ら変わらない跳躍力を持ち、獲物に飛びかかって鎌の一撃で致命傷を与え、弱らせたところを生きたまま捕食すると言う。


「こいつか」


 人間はグリンマンティスの姿を認めると、背中に担いだバスタードソードを鞘から抜き放ち、構えを取る。

 グリンマンティスは、己のテリトリーに侵入してきた獲物を複眼で睨めつけ、鎌を擦り鳴らし、後脚を踏ん張ると、


 跳躍、放物線を描くように人間に飛び掛かる。


 落下の勢いと共に鎌を叩き込むつもりだ。

 しかし、それだけ大振りな攻撃を人間が見切れないはずもなく、軽く飛び下がってグリンマンティスの振り下ろす鎌の間合いから離れる。

 グリンマンティスの鎌は勢い余って地面に深々と突き刺さり、地面から鎌を引き抜こうともがいている。

 敵の前でそんな隙を見せようなど、迂闊でしかない。


「はッ!」


 瞬間、人間は素早く一歩踏み出し、手にしたバスタードソードを振るった。

 刀剣でありながら、放たれた弓矢のような鋭い"突き"が、グリンマンティスの逆三角形状の頭部を捉えた。

 文字通り、急所を的確に"突かれた"グリンマンティスはその場で横転し、二度、三度と脚を痙攣させると、それきり動かなくなった。


「よしっ、この調子だ……」


 人間は、ターゲットであるグリンマンティスの討伐を確認する。

 死んだフリをしている可能性もあるため、念を押してもう一撃頭部にバスタードソードを突き立てる。暴れ出さないところを見ると、完全に絶命しているようだ。


 人間――神田一真は今、コントラクターとして初の依頼を遂行している最中だ。

 コントラクターにはF〜SSまでのランクがあり、昨日に適性試験をクリアした一真は、当然最下位のFランクだ。

 そのため、今はFランククラスの依頼しか受けられないのだが、ある程度の数の依頼を熟して、ギルドに実力を認めてもらえれば、ランクが上がる。


 その彼が最初に受けた依頼は、『グリンマンティスの間引き依頼』だ。


 つい最近から、グリンマンティスの個体数が増えすぎており、一部の個体が獲物を求めて深森の外にまでテリトリーを広げ、偶然深森の近くを通行していた一般人が襲われたと言う。

 被害者は荷物を投げ付けて気を逸したところで命からがら逃げ出したらしいが、いつまた他の誰かが被害に遭うか分からないので、早急にギルドに討伐を依頼したとのこと。


 グリンマンティスは、Fランククラスの依頼に含まれる程度には比較的危険度が低い魔物であるが、それでも武装していない一般人には十分以上の脅威になり得る。


 ギルドから指定されている間引き数は十匹。一真はまだ一匹目を討伐したところだ。

 バスタードソードを背中の鞘に納め、懐からギルドにより支給された地図を取り出しては広げ見て、一真は森の奥へと踏み入っていく。


 ――その背後で、絶命したグリンマンティスを、息を潜めていた他の魔物がありついていく。




 一匹、一匹と確実にグリンマンティスの数を減らしていき、ひとまずの安全を確認したところで、一真は近くの切り株に腰掛けた。

 ベルトに提げたポーチから飲水の入ったボトルを取り出し、一口呷る。


「ふー……これで半分っと」


 ちょうど今、五匹目のグリンマンティスを討伐したところで、小休止だ。

 水分補給を終えて、一真はボトルをポーチに戻し、


 カサ……と言う草の擦れる微音が聴覚に届く。


「ッ!」


 一真は反射的にバスタードソードの柄に手を掛けながらその聞こえた音へ振り向く。


挿絵(By みてみん)


 視界に捉えたのは、グリンマンティスよりもさらに一回り小さい、水色のゼリー状の魔物――『スライム』だ。

 プキュ、と可愛らしい鳴き声と共に、警戒を見せる一真の様子を見ている。


「……スライムか」


 しかし、攻撃を仕掛けてくることもなく、ただ距離を置いて一真の様子を見るだけだ。

 一真は敢えて、足音を鳴らすように地面を踏みつけた。

 ザッ、と湿った土が飛び散ると、スライムは驚いて一目散に逃げ出していった。


 この深森に棲息するスライムは基本的に臆病で、人間を襲うことはほとんどなく、他の魔物――例えばグリンマンティス――に食べられるような、食物連鎖では最下位にあたる。

 ただし、群れれば少しは強気になるらしく、群れの中でもそれなりに成長した個体が外敵を撃退しようとすることもある。

 コントラクターの中には、スライムだからと油断していたら、いつの間にか何十匹ものスライムに包囲され、袋叩きにされて生死の境を彷徨ったことがあるとも聞く。

 どれだけ弱かろうと、魔物に変わりは無いということだ。


 しかし一真の今回の討伐目標はグリンマンティスであるため、他の魔物の相手までするつもりはなかった。


 スライムが森の奥へ消えていくのを見送ってから、一真はバスタードソードの柄から手を離し、残るグリンマンティスの間引きへ向かった。




 深森の奥の方にまで到達する。

 地図上では、この辺りが最奥部のようだ。

 ここまで来ると日の光も木々によって遮られ、薄暗く鬱蒼としている。

 ジメついた空気を感じつつも、一真は注意深く進み――不意に複数の鳴き声が重ねって聞こえた。

 一真は緊張感走らせ、複数の鳴き声の音源の方向へより注意深く進む。


 木々の陰に身を潜めつつ、様子を覗う。


 まず見えたのは、三匹のグリンマンティス。

 その内の一匹は、随伴している二匹よりも一回り体躯が大きな個体だ、群れのボスかもしれない。

 そのグリンマンティス一個小隊(?)の向かいに立つのは、薄緑色の体色に、尖った耳、人間と同じように二本足で立ち、二本ある腕の片手には棍棒を握り、ギャーギャーと喚いている魔物。それが同じく三体。


「(あれは、『ゴブリン』か)」


 前世で読んだ創作物の中で、ポピュラーな存在であるゴブリン。それとよく似た姿をしている。

 思考知識を持ち、組織的に営む棲息する魔物である、とは聞いたことがある。手にしている棍棒などがその例だ、自然物を加工して武器にする程度の知能はあるらしい。


 グリンマンティスとゴブリン、互いに鎌や棍棒を見せつけて威嚇し合っている。


「(それにこの状況……縄張り争いか?)」


 異なる種の動物同士のテリトリーが重なった時に発生する争いだ。

 恐らく、個体数が増えたグリンマンティスがテリトリーを押し拡げ、そこでゴブリン達のテリトリーに踏み込んだ、と言う事態のようだ。

 すると、先頭のゴブリンが棍棒を振り上げて、ボスのグリンマンティスに殴りかかった。

 振り降ろされる棍棒、しかし正面からの単純な攻撃は容易く躱される。

 その攻撃を合図としたように、縄張り争いの火蓋は切って落とされた。

 グリンマンティスの鎌がゴブリンを斬り裂き、ゴブリンの棍棒がグリンマンティスを殴り飛ばす。

 互いの死力を尽くす縄張り争いは、始めこそボスの威を見せるグリンマンティスが優勢であったが、正面からぶつかるだけでは勝てないと悟ったゴブリン達は一斉に背を向けて走り出した。

 ついに逃げ出したのかと思いきや、ゴブリン達はその辺に落ちている石や動物の骨と言ったものを拾い集め、それらをグリンマンティスに向かって投げ付け始めたのだ。

 攻撃方法を変えて反撃してきたゴブリン達に、グリンマンティス達も怒りを見せ、狂ったように飛び掛かる。


 僅か数分の凄惨な戦いの結果、ゴブリン三体は倒れ、グリンマンティスも二匹が力尽き、残っているのはボスの個体だけだ。

 勝ち誇るように鎌と翅を広げるボスだが、次の瞬間にはその背中を斬り付けられ、先に逝った部下二匹の後を追うこととなった。


「……悪く思うなよ」


 斬り付けた者の正体は、一真。

 漁夫の利……と言うには少し意味合いが異なるものの、少なくとも労せずにグリンマンティスの数を減らすことが出来た。

 魔物との真剣勝負など望むべくもないが、弱ったところに付け込むような結果だ。

 グリンマンティスの間引きが今の自分の役目なのだとは分かっていても、少しだけ後味悪く思ってしまう。

 しかし今はそんな余計な感傷は捨てなくては、と一真はバスタードソードを鞘に納めた。

 間引き予定数は、残り二匹。なるべく早く終わらせようと、一真は少しだけ早足になって、残るグリンマンティスを捜す。




 特に問題が起こることもなく、指定通りの数のグリンマンティスの討伐を確認、深森を出てプリマヴェラへと帰還した頃には、夕方頃だ。


 受付カウンターに赴き、グリンマンティス十匹の間引きに成功した旨を伝え、依頼状の控えを手渡すと、受付嬢は営業スマイルと共に頷いた。


「依頼達成、おめでとうございます。今回の報酬は、こちらになります」


 予め用意されていたらしい革袋がカウンターに置かれる。どうやらこの中に報酬金が詰まっているらしい。


「ありがとうございます」


 一真は小さく会釈しつつ報酬金を受け取ると、受付カウンターを離れて、手近な窓際のテーブルに腰を下ろした。


「……初依頼、完了っと」


 安堵に深く息をつく。

 ギルドより発注された依頼を受け、目的地に赴き、魔物と戦い、依頼内容を達成し、拠点に帰還する。

 この一連の流れを行い、これがコントラクターの仕事であると体感する。

 今はまだ低ランクなために、受けられる依頼は簡単なものばかりだが、ランクが上がるに連れてより危険な場所に赴いて、より危険な魔物と相対することも増えてくるだろう。


 とは言え、今は初依頼の成功祝いとして、自分への褒美を与えたいところだ。

 テーブルのラックに立て掛けられているお品書きを手に取り、パラパラとめくってみる。

 メニューは豊富であり、どのような見た目かの絵も描かれている。

 ボリューム満点な肉料理から、見た目も彩り良いサラダ、前世で馴染んでいたカレーライスなどもあるところ、雑多なファミレスに近い。

 しかし価格を見てみれば、肉や魚をメインに使った料理は他と比べてもやはり高価であり、特に高いものは単品だけで先程に一真が受け取った報酬金が丸々消えてなくなるほどだ。

 これからやりくりしていくことも考えると――否、一度そう考えれば悩むまでもなく、


「あ、すいません。オムライスと定番サラダ、それとサイダーください」


 近くにいた受付嬢を呼び、比較的安価なものをオーダーすることにした。


 オーダーを終えて注文が届くのを待つ間、一真は何気なく窓際を眺め――その視線がある場所へ注がれる。


 遠くの向こう側に見える、巨大な樹木。


 ここからあの巨大な樹木までどれほどの距離があるかは分からないが、とてつもない大きさの樹なのだろうとは見て取れる。


「お待たせしましたー。オムライスのセットです。ご注文は以上でお揃いでしょうか?」


 すると、受付嬢の一人がオムライスのセットを運んできては、一真の目の前に盛られた皿と、泡立つサイダーが注がれたコップが並べられる。


「あぁ、ありがとうございます。……あそこに見える樹って、何ですか?」


 注文を受け取りついでに、一真は窓の外を指差して訊ねる。


「樹……『ヘイムダル』のことですね?」


 受付嬢は一真の指差す方向を見やる。


「ヘイムダル?」


「あれは、ホシズン大陸のほぼ中心に存在する大樹で、この大陸が、プリマヴェラと、『エスターテ』『ソンバハル』『ゼメスタン』の四大領地に分けられた象徴になったと聞いています。……私は、ギルドの教本で知っただけですけど」


 ヘイムダル、エスターテ、ソンバハル、ゼメスタン、四大領地……

 新たな情報が続けざまに送られて、一真は急いでその単語を記憶しようとする。


「そこから先は、私がお話ししましょう」


 不意に掛けられる、第三者の声。

 一真と向かいの席に座るのは、ギルドマスターたるカトリアだった。


「彼は大陸の外から来ているので、ここの地理や歴史には詳しくないようです。詳しいことは私から説明しますので、業務に戻ってください」


「あ、はいっ」


 受付嬢は一礼してすぐにカウンターの向こうへ戻って行く。


「初依頼、達成おめでとうございます。カズマくんは、これから夕食のようですね」


「はい。ほんとはもっと奮発しようかと思ったんですけど、さすがにそれはもう少し稼げるようになってからです」


 苦笑しつつ、一真はオーダーしたオムライスとサラダを指す。

 カトリアもオムライスやサラダの価格は知っており、「ささやかな奮発ですね」と微笑する。

 話を戻せば。


「では、ヘイムダルについて説明しましょうか」


 カトリアは一呼吸を挟んでから、ヘイムダルに関する説明を始める。


 ――今から約200年前ほどに、このホシズン大陸の覇権を握るための大規模な戦争、『ホシズン統一戦争』が行われました。

 およそ三千万人以上もの死者の名前が挙げられたとされ、人類史上最悪の全滅戦争とされています。

 自分達が自分達以外を滅ぼすまで続くこの戦乱……ですが、この泥沼状態に楔を打ち込むべく、ある者達が立ち上がったのです。

 彼らは皆、ホシズン大陸の外から渡ってきたとされる者達で、『ヘイムダル』と言う組織として旗を上げました。

 大陸に住む者達では考えられないような、あらゆる発明や開発、奇計、謀略を次々に行い、少しずつ、しかし確実に戦乱を終息させていきました。

 そして、戦乱の始まりから70年が経ったその年明けに戦乱の終息宣言『角笛宣言』によって、ホシズン統一戦争は終わりを迎えました。

 彼らヘイムダルは、角笛宣言の後に取り決めとして、ホシズン大陸を東西南北四つの領地として分割しました。

 これが、後の『プリマヴェラ』『エスターテ』『ソンバハル』『ゼメスタン』になります。

 さらに、非戦を前提として、各地の民主代表者が中心となって互いに手を取り合い、共存させる『ホシズン条約』を締結。

 同時に戦乱終結の象徴として、四大領地の中心に大陸樹の種……彼らの旗の名である、『ヘイムダル』を植えました。

 こうして、ヘイムダルを中心とした新たな歴史が始まったのです――。


 ヘイムダルについての説明を終えて、カトリアはお冷を一口する。

 説明が終わったのを見計らって、一真は挙手した。


「はい、カトリアさん。質問いいですか?」


「どうぞ」


「プリマヴェラはこの町のことなんで分かりますけど……エスターテ、ソンバハル、ゼメスタンって言うのも、町の名前なんですか?」


 大陸を四つに分け、各地の民主代表者が中心となって共存する、と言うのは先程にも説明されたが、それが地名なのか町の名前なのか組織の名前なのかが判断つかなかったのだ。

 その質問に、カトリアは頷くことで答えた。


「えぇそうです。この三つについても説明しましょうか?」


「お願いします」


「では……コホン」


 ――まずはエスターテからです。

 エスターテは四大領地の"南"に当たる、砂漠のオアシスを基点に作られた町……と言うよりは集落に近いですね。

 砂漠地帯にあると言う関係上、食料や水の自給自足が困難ですが、プリマヴェラやソンバハルとの貿易、交易を積極的に行うことで問題を解決しています。

 ただ、自給自足が困難なのは人間だけではなく、魔物も同じです。

 常に少ない餌や貴重な水を奪い合っているため、プリマヴェラ周辺の魔物と比較すると危険度の高い種が棲息しています。

 また、物資を狙っての隊商への襲撃件数も多く、時にはエスターテの町に魔物の群れが押し寄せることもあります。

 そのため、エスターテに所属するコントラクターは、町を守るための自警団としての役目も担っています。


 次に、ソンバハルですね。

 四大領地の"東"に当たる町で、かつて『ヘイムダル』に所属していた者達の趣向が特に強く、他の三つの町と比較しても独特な文化が発展しています。

 また、広く肥沃な土地を活かした農業による生産力は四大領地の中でも頭一つ抜けています。ちなみに、プリマヴェラの食材屋で取り扱っているものの三割近くは、ソンバハルから取り寄せたものですよ。

 魔物の危険度に関しては、プリマヴェラよりも若干高い程度なのですが……それよりも大きな問題を抱えています。

 現在のソンバハルは、領地の中でさらに東西に分かれた派閥争いが深刻化しており、下手をすれば内戦が発生しかねない状態です。

 ベンチャーズギルドも、両派閥が武力衝突に至らぬよう力を尽くしてはいますが、コントラクターがこのような派閥争いの私兵のように扱われるのは、大変好ましくありません。


 最後に、ゼメスタンです。

 四大領地の"北"に当たる辺境に構えた町で、年中を通して気温が非常に低く、エスターテと同様に食料の自給自足が難しいですが、代わりに鉄鋼鍛冶や織物のような工業製品の生産力は随一です。

 このような環境であるため、ゼメスタン周辺に棲息する魔物はいずれも凶暴で生命力も高く、それに伴ってこの町で行われるコントラクターの適性試験は極めて厳しく、プリマヴェラの比ではありません。生半可な実力では到底太刀打ち出来ないほどに、この地の魔物は強力な個体ばかりなのです。

 その関係から、ゼメスタンに所属するコントラクターの人口は少なく、ギルドが他の町からコントラクターを派遣することも珍しくありません――。


「……ふぅ、長くなりましたが、以上になります」


 エスターテ、ソンバハル、ゼメスタンの三町についての説明を終えて、カトリアはもう一息つく。


「食事の最中と言うのに、長くなり過ぎました。すみません」


「いえいえそんな、質問したのは俺の方ですから。それに、オムライスもちょうどいい塩梅に温くなってきましたし」


 いただきまーす、と一真はスプーンを手に取り、丸々とした黄色い丘に刺し入れる。

 割った部位から湯気が溢れ出し、まだまだ温かい状態だと主張してくる。


「さて、休憩時間もそろそろ終わりますので、私は業務に戻りますね」


 食事を再開した一真を見て、カトリアはお冷を飲み干して席を立つ。


「え、休憩時間?もう日が暮れるのに、ですか?」


 休憩時間は終わりと言うカトリアに、一真は目を丸くする。


「もちろんです。深夜時間の担当の方が来るまでが、私の仕事ですので」


「はー、ギルドマスターも大変ですね……月並みの言葉しか言えませんが、お疲れ様です」


「そのお言葉をいただけるだけでも嬉しいです。では、ごきげんよう」


 一礼してから、カトリアは亜麻色の髪とクリーム色のリボンを翻して受付カウンターの奥へ戻って行く。

 それを見送ってから、一真は冷め始めつつあるオムライスを味わい、時折サラダを頬張り、サイダーで流し込んでいく。


 明日も頑張ろう。

 そう小さく決意して、一真はオムライスを食べ終えて、食器を受付嬢に返すと、真っ直ぐに自宅への帰路を辿った。

 と言うわけで三章でした。

 初依頼を順調に達成する一真、自然界の厳しさ、カトリアの世界説明の三本でお送りしました。

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