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冒険者組合の下請け人見習い  作者: こすもすさんど
ゼメスタン編

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25/33

二十五章 怯んでなるものかよ。

 北西よりサファイアドラゴンが出現、至急援軍を要請する。


 スミレよりこの報告を受けたカトリア、ソル、一真の三人は、そのスミレと共に北西方面へ急行していた。

 ソルのパーティメンバー達はまだコールドラの群れと交戦しているようだが、そちらへの援護は中断せざるを得なかった。


 そろそろサファイアドラゴンの出現地点に到着するだろうと言う時だった。

 何かに気付いたスミレは、他三人と合わせていた速度を速めてそこへ向かう。


 その何かとは、ゼメスタンのギルドマスターと数人のコントラクター。

 だが、全員が怪我をしており、特にギルドマスターは左右から支えてもらいながらだ。


「どうされましたかっ」


 スミレはギルドマスターの前に立って事態を訊ねると、ギルドマスターの左側を支えている男が答える。


「サ……サファイアドラゴンが出たんだ。いきなりの奇襲で、このザマだ」


 どうやらどこからか奇襲を受けたらしい。

 そしてやはり、サファイアドラゴンの出現は確かだと。

 話している内に、カトリア達も追い付いてきた。


「サファイアドラゴンの出現は確かなのですね?」


 カトリアがそう訊ねると、スミレが頷いて肯定し、奇襲を受けて怪我人もこの通りだと告げた。

 一真はその中に、セレスの姿が見えないことに気をかけた。

 彼女もギルドマスターに追従していたはずなのに。


「……あの、セレスはどうしたんですか?」


 彼がそう訊ねると、怪我を庇いながらも周囲を警戒していたコントラクターの一人が反応した。


「セレスだけが奇襲を免れたんだ。俺達を守るために自分が殿しんがりになると言って……、……まだ離脱出来てないのか?」


「!!」


 つまり、セレスは今一人で戦っていると言うことだ。

 それを聞いた一真は考えるよりも先に足が走り出していた。

 ソルとカトリアが制止を呼びかけたが、それは耳には入らなかった。




 その鱗は、長年に渡って凍結と溶解を繰り返したことで結晶化しており、宝石のように光り輝く。

 だが、同時にそれはまるで貴金属のように硬く、並大抵の刃を通さない。

 吐き出されるブレスは吹雪そのもので、その存在が現れれば、周辺の集落は瞬く間に凍てつき閉ざされてしまうと言う。

 加えて、四足歩行と翼による飛翔で陸空共に死角のない身のこなし。

 ベンチャーズギルド指定のランクはSランク級……自然災害に匹敵するレベルの魔物にこのレッテルは貼られる。


 そのような強大な魔物に一人で立ち向っていると言う現実に、肩で呼吸を繰り返すセレスは薄ら笑いすら浮かべた。

 右手に片手剣、左腕に盾を装備し、マントを翻しながら必死に喰い下がる。


 甲高い咆哮と共に吹雪ブレスが吐き出され、積雪もろとも吹き付けようとセレスに襲い掛かる。

 セレスは地面を大きく蹴って吹雪ブレスを躱し、片手剣の間合いにまで踏み込もうと距離を詰める。

 サファイアドラゴンの頭部に一撃を入れるべく、踏み込みながら片手剣を振り下ろす。

 しかし、サファイアドラゴンは翼を羽ばたき、飛び上がりながらその一撃を躱し――たその一拍の後に、落下の勢いと共に右前脚を叩き付けてくる。


「ッ!?」


 回避は間に合わない、咄嗟の判断で左腕の盾で前脚を受けるが、ドラゴンの巨躯と人間一人とでは膂力も重量も比較にならず、致命傷を防いだとはいえセレスは木っ端のように吹き飛ばされる。

 積雪の地面を何度もバウンドしてようやく転がり倒れる。


「(……そろそろ、町にはついた?)」


 自ら殿を努めると言って、負傷したギルドマスター達を先に逃してから十数分。

 ここまでサファイアドラゴンの攻撃を躱し続け、少しずつでも反撃は加えているが、セレスへの攻撃の手は一向に緩まない。それどころか怒りによってさらに激しく攻撃を畳み掛けてくる。


「(なら、私も……でも……)」


 自分もここから離脱しようにも、痛みと疲労で身体が言うことを聞かない。

 体力はもはや限界、ポーチに仕込んでいる即効薬を飲もうにも、自分を積極的に狙ってくる魔物の前でそんな隙を晒すわけにはいかない。

 ついでに言えば、吹き飛ばされた拍子に片手剣を手放してしまった。


 サファイアドラゴンは、倒れたセレスを睨みながら一歩一歩迫りくる。

 確実に仕留めるために、なぶり殺しにするつもりだろう。


「(まぁ、あとは誰かが何とかしてくれるでしょ……)」


 そう決めつけて、セレスは意識を手放そうと身体の力を抜き――


「でえぇりゃぁぁぁぁぁッ!!」


 何者かがサファイアドラゴンの斜め後ろから飛びかかり、手にしたバスタードソードを勢いよく背中に叩き付ける。

 だが、サファイアドラゴンの龍鱗の硬度の前には歯が立たずに甲高い音と共に弾き返される。


「セレスからっ、離れろぉぉぉぉぉッ!!」


 何者か――一真は弾き返されようとも、怯まずに着地するなり今度はバスタードソードを腰溜めに構えながら突進する。

 全身ごと突っ込むような一撃は、龍鱗の繋目を捉えたか、その鉄壁の守りが僅かに破られ、バスタードソードの切っ先が肉を捉える。

 ハッキリとした痛覚を刺激され、サファイアドラゴンは驚きながらも飛び下がって距離を置いた。


「カ……カズ、マ!?」


 セレスは身体に鞭を打ってどうにか立ち上がろうとするが、誰かにそれを支えられる。


「セレス様、ご無事ですか!」


 彼女に肩を貸すのはスミレ。


「じきにユスティーナマスターとソル様も加勢します、今の内に体勢の立て直しを」


「……私なら大丈夫、お構いなく」


 スミレの肩から手を離すと、セレスは懐のポーチから即効薬の瓶を二本取り出し、二本とも飲み干す。


「これでもう少し戦える」


 落としていた片手剣を拾って構え直す。


 見れば、サファイアドラゴンの猛攻に一真はどうにか耐え凌いでいるが、急ぎ加勢しなければ長くは保たないだろう。


「行きます」


 スミレは腰から短刀を左右に抜き放ち、サファイアドラゴンへ駆け出す。




 一旦バスタードソードを鞘に納めて、両手を空けて身軽になってから、一真はサファイアドラゴンの攻撃を躱してはやり過ごしていく。


「(セレスが立ち直るまでは!)」


 サファイアドラゴンは、一真を噛み砕こうと牙を剥いて飛び掛かってくる。

 跳躍してその間合いから飛び退き、懐のホルスターからスティレットを抜いて投げ付ける。

 目にでも刺されば御の字だが、顔周りの龍鱗に弾かれるだった。

 しかしサファイアドラゴンの注意を引かせる効果はあったようで、一真を仕留めようと今度は吹雪ブレスを吐き出してくる。


「そうだこっちだっ、俺を狙え!」


 なるべくサファイアドラゴンをセレスから遠ざけるように立ち回る。

 そうすることで、自分以外のコントラクターが動いてくれる。


 サファイアドラゴンの腹下を何かが通過し――グォッ、とサファイアドラゴンが呻いた。


「いくら鱗が丈夫でも、腹は脆いようですね」


 反転して立つは、スミレ。

 彼女が握る短刀には血が滴っており、どうやらサファイアドラゴンの腹下を通り抜け様に斬撃を与えていたようだ。

 新たに敵が増えたことを認めたサファイアドラゴンは、忌々しげに首をもたげる。


「行くぞスミレちゃん!」


「承知!」


 一真とスミレの二人は、左右へ散開しつつサファイアドラゴンへ向かう。

 すると、一真の方が動きが遅いと見たか、サファイアドラゴンはその場で飛翔し、上空から吹雪ブレスを吐き出してきた。

 薙がれるように放たれる吹雪は、積雪を吹き飛ばしながら一真へ襲いかかる。

 一真はその場から身を投げ出すように前転し、吹雪ブレスをどうにかやり過ごす。


「(空を飛ばれてる内は反撃出来ない……なんとか奴が着地するまでを耐え凌げば!)」


 そうして一真が注意を引き付けている内は、スミレが積極的に仕掛けていく。

 吹雪ブレスを吐き出して滞空しているサファイアドラゴンの真下にまで飛び込むと短刀を納めて、懐からクナイを二本取り出し、


「そこッ!」


挿絵(By みてみん)


 先程に自分が斬り付けた部位へと放ち、即座に離脱。

 放たれた二本のクナイの内、一本は別の部分に刺さるが、もう一本は傷口に突き刺さった。

 痛むところをさらに痛めつけられ、サファイアドラゴンは今度はスミレに向き直り、飛び降りながら前脚を叩き付けよう迫る。

 鋼鉄すら斬り裂きかねないほどの鋭利な爪はしかし、スミレは敢えて向かってくるサファイアドラゴンと擦れ違うように身を翻して前脚、に続いて巨躯をやり過ごしつつ、ついでにクナイを抜き放ち様に斬りつけ――『血のそれとは違う紫色の飛沫』が舞う。

 

 地を揺るがしながら着地するサファイアドラゴンに、今度は回復したばかりのセレスが斬り掛かる。


「えぇぃッ!」


 上から斬れば龍鱗に弾かれる。

 ならば下から腹を狙う。

 振り上げるような斬撃は、サファイアドラゴンの龍鱗を避けてそれ以外の部位に片手剣の刃が喰い込み、突き入れれば沈み込む。


 そのセレスとは反対方向から、一真は薙ぎ払うようにバスタードソードを振るい、だが斬撃の位置が高かったか龍鱗に弾かれる。

 しかし、重量と遠心力の乗った一撃は、サファイアドラゴンの結晶化した龍鱗を砕いてみせた。

 カタナブレードとバスタードソードとが異なるのは、質量の違い。

 カタナブレードが物理的に"斬り裂く"ものであるに対して、バスタードソードは質量によって"叩き割る"ものに近い。

 このような力業は、身軽な武器では出来ないものだ。


「こいつも完全無欠じゃない!」


 弾かれて少し足がふらつく一真だが、ダメージを与えたと言う手応えが、戦意を高揚させる。

 三方から波状に攻め立てられていることに苛立ちを覚えたか、サファイアドラゴンは一度、イニシアティブを取り戻すように三人から距離を置いて飛び下がる。

 距離が開けば、すぐに吹雪ブレスを吐き出しての遠距離攻撃。

 しかし間合いが遠ければ避けることもそう難しいことではない、三人はすかさず散開して吹雪ブレスから飛び退く。

 飛び退いて着地、と同時にスミレは雪風を駆け抜けて一息にサファイアドラゴンへ迫る。

 抜き放つのは短刀ではなく、先程の近接攻撃にも使用したクナイ。

 吹雪ブレスに続いて、スミレを噛み潰そうと牙を剥くサファイアドラゴン。

 だがスミレはその手前で跳躍、月面宙返り(ムーンサルト)のごとく舞い上がり、


「せぇりゃぁぁぁぁぁッ!!」


 落下の勢いと共に両手のクナイを振り下ろし、サファイアドラゴンの翼――正確にはその膜へ叩き込む。

 体表の龍鱗よりは軟化しているらしく、翼膜を斬り裂くことは叶わないながら、鮮血を迸らせた。


 明らかな痛みにより、サファイアドラゴンは悶え苦しむように身体を暴れさせた。

 暴れた拍子に翼がぶつかり、スミレは跳ね飛ばされるが、すぐに積雪の上で受け身を取って起き上がる。


「今の内に畳み掛ける!」


 翼膜にクナイが刺さったまま暴れているサファイアドラゴンを間近にしながらも、セレスは果敢に斬りつけていく。

 舞うような連撃でもなければ、叩き込むような一撃でもない。

 派手さ華やかさはないが、堅実的で小刻みな斬撃。


 セレスの反対側からも、一真がバスタードソードを叩き込んでサファイアドラゴンの龍鱗を破っていく。


 しかしサファイアドラゴンとて一方的にされるがままではない、暴れながらも体制を立て直し、一真に向かって全身で体当たりを仕掛ける。


「ッ!?」


 反撃が来る、と一真は咄嗟にバスタードソードを寝かせて構え、盾のようにしてサファイアドラゴンの体当たりを受ける。


「ぐっ、うぅ……ッ!?」


 当然受け止め切れるはずもなく、一真はバスタードソードもろとも派手に突き飛ばされ、積雪に背中から倒れる。

 すぐに起き上がって追撃に備えようとするが、一真が起き上がった時には既にサファイアドラゴンは吹雪ブレスを吐き出そうとしていた。


「(やばいっ)」


 一真は起き上がろうとしていた体勢から、無理矢理身体ごと跳躍して回避しようとする。

 一拍を置いて吹雪ブレスが放たれるが、必死に回避したおかげで直撃することはなく、一真のすぐ後ろを通過していった。

 だが、それは安心には至らなかった。


 文字通り、汗を冷やされるような攻撃をされた一真は、安堵しつつもすぐに立ち上がろうとして、転んでしまった。


「なっ、左足が……!?」


 見れば、一真の左足のブーツがくるぶし辺りまで凍りついており、それが積雪に張り付いているために、動けなくなっている。

 直撃はしなかったが、吹雪ブレスの余波がこのような結果を生んだ。


「くっ、そっ!これじゃまずい!」


 どうにか雪から左足を引き抜こうともがく一真だが、想像以上に固く凍っているようでびくともしてくれない。


「カズマ様っ!?」


 機を窺っていたスミレは、左足が凍結して身動きが取れない一真を見て目を見開くものの、すぐに行動に移る。

 クナイを一度納めて再び短刀を左右に抜き放って駆け、サファイアドラゴンの懐に飛び込み、腹下に一撃与えてすぐに離れる。

 すると、サファイアドラゴンの注意がスミレに向いた。


「わたしが相手です!」


 スミレはさらに手裏剣を投げ付け、しかしサファイアドラゴンの龍鱗には通用しないが、さらに気を引かせて見せる。

 飛び上がりながら前脚を叩きつけようと迫るサファイアドラゴンを尻目に、セレスは動けないでいる一真の元へ駆け寄る。


「少し痛くするわよ」


 何をするのかと思えばセレスは左手を振り上げて、一真の凍ったブーツと、それに繋がれた部分の積雪との繋目を盾で殴った。


「いっ、づっ」


 すると、凍った積雪と一真のブーツの凍結部位とが砕けて、彼の左足は解放される。

 左足のブーツはまだ凍ったままだが、足そのものは動くのであれば今はこのまま戦うしかない。


「悪い、助かった」


「さっきのお返しのつもり。気にしないで」


 セレスはすぐに踵を返して、スミレを狙うサファイアドラゴンへ肉迫していく。

 一真はまだ凍ったままの左足を軽く振って調子を確かめてみる。


「感覚は鈍いけど……行ける!」


 バスタードソードを構え直して、セレスに続く。


 サファイアドラゴンの猛攻を掻い潜りながらも、スミレはすれ違いざまに懐へクナイを一閃、すぐに離脱。

 忌々しげにスミレを睨むサファイアドラゴンだが、突然発作でも起こしたかのように咳き込み始めた。

 吐き出される唾液には、明らかに毒々しい紫色が混じっている。


「……ようやく効いてくれましたか」


 スミレが短刀ではなく、クナイによる攻撃を断続的に行っていた理由。

 それは、致死毒液に浸らせたクナイを打ち込むことで、体内から生命力を削り取る攻撃だ。

 無論、人間であればごく少量であっても致死に至るそれも、サファイアドラゴンは並大抵の抵抗力ではなく、一度や二度打ち込んだところですぐに中和してしまうために効果はない。

 だから断続的に打ち込む。

 そうすることで少しずつ毒を蓄積させ、つい先程に効果が表面化したのだ。


 だが、サファイアドラゴンの動きが鈍るような様子は見られない。

 三人が必死になって攻撃を重ねてきているが、それでもまだ氷山の一角だろう。


 ふとまた、サファイアドラゴンは翼をはためかせて飛び下がり、三人との距離を置く。

 大きく息を吸い込む動作から、また吹雪ブレスだと見た一真だが、それにしては息を吸う時間が長い

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 一真がそれを脳裏に思い浮かべると同時に、セレスが叫んだ。


「気を付けてっ、普通のブレスじゃない!」


 すると、サファイアドラゴンは地面に向かって吹雪ブレスを吐き出した。

 だが通常の吹雪ブレスよりもそれは強力で、だが地面に向かって放つ。

 ブレスの着弾地点を中心に積雪を吹き飛ばしながら薙ぎ払われていく。


 それはまるで、雪の津波だ。


「うっ、わぷッ……!?」


 サファイアドラゴンを追撃しようとしていたスミレは、瞬く間に雪に呑み込まれてしまった。


「伏せろッ!」


 一真はセレスを強引に地面に伏せさせると、その彼女を守るようにバスタードソードを地面に突き立てる。


「カズッ、……!」


 直後、雪の奔流が一真とセレスへ襲いかかった。




 サファイアドラゴンのブレスが通り過ぎた跡は、完全に積雪が吹き飛ばされて、その下の地面すらも捲り上げられている。

 眼前には、山のように積み重なった雪の塊。


 ようやく邪魔者を排除できた、そう言いたげにサファイアドラゴンは身体を蝕む毒を吐き出しながら踵を返そうとした時、


「――天の雷よ降り注げ、有象無象遍く世界を砕け――『タケミカヅチ』!!」


 不意にサファイアドラゴンの頭上から魔法陣が顕現し――轟音と共に爆雷が炸裂する。


 龍鱗を溶かされ、翼を焼かれ、サファイアドラゴンは悲鳴のような咆哮を上げてのたうち回る。


 雪の向こうから、紫色の魔法陣を消失させるのは、カトリア。

 雷属性の上級魔術、タケミカヅチを放ったのだ。


「調子乗ってんじゃねぇぞ、オルアァッ!!」


 そこへソルが突撃し、カットラスをサファイアドラゴンへ叩き込み、タケミカヅチを直撃して脆くなった龍鱗を斬り破り、ピストルの銃弾がそこへ撃ち込まれて穿っていく。


 少しとは言えダメージを喰らわされ、スミレの毒撃の上から、この二人による強襲攻撃。


 これにはサファイアドラゴンと言えど堪らず、逃れるべく強引に翼を羽ばたかせて上昇。

 すぐにソルはピストルを向けて発砲するものの、サファイアドラゴンは雪風を翼に乗せて、凍雪山脈の方へ飛び去っていく。


「……チッ、逃げ足だけは速い奴だ」


 ソルは舌打ちしながらも、ピストルを下ろして安全装置を掛ける。


「徹底抗戦するつもりが無くて何よりです。長期戦は望むところではありませんから」


 カトリアとソルが戦列に加わるのが遅れていたのは、先程に怪我を負ったギルドマスター達を町の近くまで送り届けていたからだ。


 それよりも、とカトリアはサファイアドラゴンのブレスによって作られた雪の塊を掘り出していく。

 指先が雪ではない何かにぶつかると、両手を使ってその周りをくり貫いていく。

 そこにいるのは、気絶しているスミレだ。

 カトリアは肩を揺らして呼びかける。


「スミレさん、ご無事ですね?」


「ん、ぅん……、ユ、ユスティーナ、マスター……?」

 

 カトリアがスミレを救助している反対側では、ソルも雪を掘り出している。

 まず見つかったのは、一真が使っているバスタードソード。

 そこから連鎖的に、セレスと一真を発見する。


「よぉ、生きてるな」


 ソルが呼び掛ければ、まだ意識があったセレスが先に反応した。


「ぅ……?カ、ズマ……?」


「カズマじゃなくて悪かったな。そこにいるよ」


 まずはセレスから掘り出され、続いて一真も掘り出される。

 これでひとまず全員救出、ほどなくして一真も意識を取り戻す。


「ん……あ、ソルさん……?」


「やっと起きたな、この寝坊助」


「あいつ……サファイアドラゴンは?」


「俺とカトリアで撃退した。しばらくは大人しくしてるだろうさ」


 事の顛末を聞いて、一真、スミレ、セレスは安堵に息をついた。

 息を吐きながらも、カトリアはこの場の全員に伝える。


「もうじき、ソンバハル東支部の本隊と、エスターテの遠征部隊が到着するそうです。あとは後続の方々に任せて、私達は町へ帰還しましょう」


 これでようやく、今回の事件も終息する。

 さて、あとはゼメスタンの町へ帰還するだけ……と言う時だった。


 不意に、一真の死角から何かが飛んできた。


「カズマくんっ」


 それにいち早く気付いたカトリアは、ブレードランスでそれを弾き返した。


「えっ?」


 カトリアが弾き返して、積雪に突き刺さったのは、一真とスミレにとって見覚えのある禍々しい大剣。


「この大剣は……あいつっ、ディニアルだ!」


 一真はそう叫ぶと全員に緊張が走り、即座に武器を構え直す。

 大剣が飛んできた方向を見やれば、


 そこには、背中にカラスの羽根のようなものを生やした男――ディニアルが滞空していた。

 と言う訳で二十五章でした。


 ヒロインの危機に颯爽と現れるカズくんマジ主人公、スミレちゃん奮戦、カトリア&ソルがいれば大体なんとかなる、の3本でキメました。


 次辺りで、このゼメスタン編も終わり、次々回からは最終編に突入する予定です。

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