二十章 至福のひとときとはまさにこのこと。
ソンバハルからヘイムダルへ向かい、ヘイムダルで一晩を過ごし、そこでスミレ達ソンバハルのコントラクター達とは別れ、ヘイムダルからプリマヴェラへの道程は、一真とユニの二人だけだ。
幸いにも、ヘイムダル〜プリマヴェラ間で魔物と出くわすようなことはなく、まだ日の位置が高い内に、二人はプリマヴェラへ帰還した。
本来の目的であった、レクスオークの討伐の件は既にヘイムダルを通じてプリマヴェラのギルドも知らされており、二人が集会所へ立ち寄った時には受付嬢が報酬金を用意して待ってくれていた。
報酬も受け取ったところで、集会所内で飲み食いをしようと考えていた一真とユニだが、そこで報酬金を受け渡した受付嬢に呼び止められた。
「ギルドマスターがお二人にご用件があるそうです。少々お待ちいただけますか?」
「カトリアさんが?」
何の話だろうかと一真は頭を捻るが、それよりも先にカウンターの奥からカトリアが現れた。
その表情は労うためのものではない、深刻なものだ。
「カズマくん、ユニさん、おかえりなさい。お疲れのところに申し訳ありませんが、お二人にお訊きしたいことがあります」
そこの席へ、とカトリアが指した空席へと着席する。
一真とユニが隣り合って座り、その対面にカトリアが着く。
「ソンバハルのトウゴウマスターと、サイオンジマスターから伝達を受けました。お二人とも、東支部と西支部の抗争に巻き込まれたと」
カトリアがそれを知っているということは、伝書鳩辺りで知らされたのだろう。
一真は取り繕うことなく正直に答えた。
「はい。でも、それはすぐに終わったんです。西支部のサイオンジマスターは身柄を拘束されていただけで、俺達が彼を発見して抗争を終わらせました」
けど、一真はすぐに続ける。
「その後すぐに、西支部のギルドマスター代理の、その側近の男がギルドマスター代理を裏切って殺害、そのまま戦闘になりました」
「……ディニアル、と言う男ですね?憶測の域を出ませんが、今回の抗争を引き起こした元凶……いえ、本来ならソンバハルのギルドで完遂されるはずのレクスオーク討伐の件を妨害していた可能性があると」
そこまで知らされていたらしい。実際に妨害工作を行ったのはランハーン副支部長なのだが、大元を考えればそう判断されるのは必然だ。
「我々ギルドは、ディニアルなる人物を重要参考人として断定。大陸各地に指名手配すると公表しました」
領内に多大な混乱を招き、抗争による結果とは言え多くの犠牲者数を出したこの男の存在を放置するわけにはいかないと、カトリアは頷く。
「それと、実際に戦闘を行ったお二人にも意見をいただきたいのです。……端的に、どのような男でしたか?」
カトリアが知るところは、あくまでもギルドと言う機関を通じて又聞きしたものに過ぎない。
対面し、刃を交えた者達の率直な意見を求めたのだ。
まず、最初に一真が答えた。
「あいつは、どう言うわけか俺のことを強く憎んでいました。何故憎むのかは分からず、ただ「お前がオレの全てを奪った」「お前が消えなくては意味がない」と、言っていました」
続いてユニが、戦闘力について答える。
「カズくんを圧倒するくらいの剣の使い手で、雷属性の攻撃魔術、混乱の魔術も使ってきました。私とカズくんを含めた四人がかりで、どうにか撃退に持ち込めたくらいです」
ついでに私は魔術を受けて怪我しました、とユニは自分の右肩を覆うギブスを見やる。
二人の意見を聞いたカトリアは、眉をひそめる。
「一応確認しますが……カズマくん、その男との面識は?」
「ありません。あったとしても、恨みを抱かれるようなことはしていないはずです。なのに、あいつは俺のことを一方的に知っていて、どこかで擦れ違った覚えもありません」
一真に対する執着心は、もはや狂気と言っていい。
「……皆目検討も付かない男ですね。一体何をそんなにカズマくんを憎むのか、理由もハッキリしないのは気味が悪いです」
「分けも分からんのにいきなり殺しに掛かってくるなんて、こっちからしたら傍迷惑なだけですよ」
否、積極的に命を奪おうとしてくるのだ。傍迷惑なだけならどんなに良かったか。
「あと……逃げた時には、背中にカラスの羽根のようなものを生やして飛んでいきました」
「カラスの羽根?……魔力による疑似形成でしょうか」
現状で分かることはそれだけで、何故一真の殺害を目論むのか、肝心なことは分からず終いだ。
「ともかく、今後は各支部が中心となって、ディニアルなる男の動向を把握、追跡していく次第です。……さすがにこのプリマヴェラに直接乗り込んでくることは無いでしょうが、油断は出来ません。カズマくんもユニさんも、依頼によって町の外へ出る際はご注意ください」
お話は以上です、とカトリアがそう締め括ろうとした時、ふと彼女を呼ぶ声が届く。
「っと、ここにいたかカトリア」
声の方向へ向けば、ソルがそこにいた。
「ソンバハルに出張ってくれって依頼の件なんだが、今回の顛末を風の噂で聞いた。今から行ったところで無駄骨を折ることになりそうだが……どうする?」
「……そうですね。ソンバハルへの遠征は取り消し、代わりの依頼はまた後日に、と言うことをパーティメンバーさん達には伝えていただけますか?」
「分かった。話の途中で邪魔して悪かったな」
言葉を交わして確認しあってから、ソルはその場を去ろうとして、はたと足を止めて一真へ向き直った。
「おぅそうだ……カズマ、ユニ、ソンバハルの遠征お疲れさん。大変だったそうじゃないか」
何を言い忘れていたと言えば、二人への労いの言葉だった。
「あ、はい。もうエラい目に遭いましたよ」
「ソンバハルで武力抗争が起きたって聞いてな。巻き込まれたんじゃないかって、気が気でなかったぞ」
よく生きて帰ってきた、とソルは頷く。
「ユニもな。怪我だけで済んだんなら儲けものだ。ちゃんと治るまでは下手なことするんじゃないぞ」
「はーい。今日からちゃんと療養しまーす」
ユニの返事を確認してから、最後にもう一度一真に話し掛けるソル。
「それと……カズマ、リーラから言伝だ。帰ってきたら、ハミングバードに来てほしいそうだ」
「リーラから?分かりました」
何か自分に用件があるのかと一真は席を立とうとして、カトリアに確認を取る。
「話は、今ので終わりですか?」
「はい、以上になります。リーラさんの元へ行ってあげてください。彼女、待ってくれてますよ」
「もし夜遅くに帰ってきてたら、それまで待ってたのか?まぁいいか、じゃぁ失礼します」
一礼してから席を立ち、一真は集会所を後にした。
その背中を見送るユニは静かに呟く。
「うーむ、予めカズくんを予約していたかぁ……さすがはリーラちゃん」
と言うか、と今度はカトリアを見やる。
「カトリアさん、リーラちゃんとカズくんをくっつけようとか企んでません?」
「さて、何のことでしょう?私はリーラさんをほんのちょっと後押ししてあげただけで、他意はありませんよ」
嘘ではない。むしろカトリアにとっては事実であるため、何ら取り繕うことなく涼しい顔で応えてみせる。
「……後押ししちゃって、良かったんですか?」
「何か、ダメな理由でも?」
ユニは暗に言っているのだ。
一真に恋心を抱いているのではないのか。なのに他の女の子の後押しをしても良いのかと。
「なら、ユニさんとのマッチングでもしてあげましょうか?」
「あ、それは大歓迎……じゃなくてっ、カトリアさんはいいんですか!?」
のらりくらりと躱そうとするカトリアの物言いに、ユニは思わず声量を増して問い質す。
「……カズマくんがどうしても私と付き合いたいと言うのなら、それも吝かではありませんが。彼が他の女の子を選ぶのなら、それも良いと思いますよ」
カトリアのその言葉は、過剰な自信によるものではない。
全てを受け入れる覚悟がある故の余裕だと、ユニには感じられた。
「……私は、誰が相手だって譲ったりなんかしませんからね」
今回はリーラちゃんが先手を打ったから仕方ないですけど、と付け足してから、ユニは軽く一礼して席を立ち、集会所を後にした。
それを見送るソルは、出入口の方を見やりながら呟いた。
「罪な男だよな、カズマってヤツは」
「えぇ、そうですね」
対するカトリアは、いつものギルドマスターとしての微笑を浮かべるだけで、ソルにはその真意を測ることは出来なかった。
ソルからの言伝通り、ハミングバードにやって来た一真。
「あ、カズマさんっ。いらっしゃいませ!」
ドアベルが鳴ったその直後に、リーラがパタパタと駆けてきた。
「こんにちはリーラ。ソルさんに、ハミングバードに来てくれって言われたけど、どうしたんだ?」
今回のソンバハルの遠征には、リーラからお土産などはリクエストされていない(元々レクスオーク討伐だけ完遂したらさっさと帰るつもりだった)ので、特に呼ばれるようなことは無い。
一体どんな用件だろうかと訊ねる一真。
「あ、あのですねっ、もし都合が悪いとかなら断ってくれても全然大丈夫なんですけど……き、今日は、ウチで泊まっていきませんか?」
「あぁ、ハミングバードで一泊してくれってことか?俺は構わないけど……でも、なんでまたわざわざ?」
「その、ですね……カズマさんって、いつも忙しいじゃないですか。だから、あんまりゆっくりお喋りとか出来なくて……だったらウチに泊まってくれたらいいんじゃないか、それならカズマさんを招待すればいいんじゃないかって……」
――実際のところ、今回の『一真をハミングバードに招待する』案は、カトリアから提示されたものだが、それを明かせば一真ならきっと「カトリアさんから?あの人には頭が上がらないな」と言うだろうと思ったので、あえてリーラが自分で考案したように見せかけているのだが。
「よく分からないけど、お泊り会みたいな感じか?」
「そ、そうです!お泊り会です!」
「ん、分かった。それじゃぁ、荷物置いて着替えとか持ってくるから、また後でな」
「はい!やったっ、カズマさんとお泊り♪」
上機嫌になるリーラを尻目にしつつ、一真は一度ハミングバードを出て自宅に戻った。
再びハミングバードの戸を開けた頃には日が傾き始めた夕暮れ時になっており、泊まるにはちょうどいいタイミングだ。
ドアベルが鳴ると同時にリーラが飛んでくる。
「カズマさんおかえりなさいっ。お夕飯とお風呂、どっちから先にしますか?」
「……ぷっ」
「えっ、なんで今笑ったんですか!?」
いきなり笑いを堪えるような様子を見せた一真に、リーラは愕然とする。
「いやその、「おかえりなさい」のあとに「お夕飯とお風呂」って、何だか"新婚夫婦"みたいなやり取りだなって」
一真は何気なくそう言ったつもりだったが、リーラからすればそんな「何気なく」で済まされることではなかった。
「しっ、しししっ、新婚ッ!?そそっ、それにっ、ふ、夫婦っててて……ッ!?」
ぼふんと顔から火を噴き出し、あわあわと慌てまくるリーラ。
そんな様子を一真は「リーラって時々面白いなぁ」と苦笑している。
「ぁ、じゃぁ、その……、……そ、それとも、わ、わたし、にします、か……?」
『お夕飯かお風呂か、それともわたし?』と言う新婚によくある文言を、リーラは精一杯の小声を勇気と共に絞り出したのだが、
「まぁ、ヘイムダルからは徒歩で帰ってきて疲れたし、風呂から先にしようかな」
その小声があまりにも小さ過ぎたのか、一真には聞こえてなかったようだ。
「…………アッハイ」
ガックリと肩を落としながら、リーラは男性用浴場の準備に取り掛かった。
沸かしたての湯槽に身を沈めながら、一真は物思いに耽る。
エスターテとソンバハル、その二つの町についてだ。
どちらも、自分が町を訪れた時に限って問題や異変が起きた(あるいは表面化した)のだ。
ただの偶然だと思ってしまえばそれで終わるのだが、コテツの言葉が引っ掛かっていた。
――まるで大事を起こせば必ず彼がやってくると予見していたようではないか――
前提条件が逆ではないだろうか。
一真がやってくるから大事を起こすのではなく、『大事を起こせば一真がやってくる』と言うのだ。
「(未来予知をしているのは、どっちかと言うとあいつの方だよな……?)」
ユニは一真に「未来を見る魔術を使っているのではないか」と疑ったが、ディニアルの方がよほど先見している。
そうなれば、エスターテでゴーレムが暴れていたのも、ディニアルの差し金だろうか。
定期便の日程に合わせて事を動かしたと言うなら辻褄が合う。
カズマ・カンダと言う存在をエスターテに誘き寄せて、ゴーレムによって倒されるのを期待して。
それが失敗に終わり、ソンバハルの抗争の巻き込みにも失敗し、ついにディニアル自ら手を下しに来たと言うわけか。
だが、ディニアルを一真の命を狙う理由は未だ分からず終いだ。
そして、重傷を負わせたとは言え逃げ延びているのだ。
傷が癒えれば、再び一真を狙いに現れるだろうことは想像に難くない。
「……今そんなことを考えても仕方ないか」
今はゆっくり休んで、リーラと話に花を咲かせよう。
そう決め込んで、一真は勢いよく湯槽から上がった。
入浴後はすぐに夕食に向かおうと食事処に足を向ける一真だが、それはリーラに止められた。
「今日はこっちです」
彼女に招かれるままに、一真はついていく。
一度厨房に入って、リーラは女将に頭を下げる。
「じゃぁ、女将さん。あとはお願いします」
「はいはい。こっちは気にしないでいいから、『ごゆっくり』ね」
何故か『ごゆっくり』を強調して言う女将に、リーラはまたもや顔を噴火させた。
耳まで真っ赤になっているリーラの後ろ姿が向かうところは、このハミングバードの居住区――リーラと女将の生活空間だった。
「いいのか?こんなところに俺が入ったりして」
普通の宿泊客はここまでは招かれないだろう、と一真は言うが、リーラは振り返りながら答える。
「いいんです。だって今日は、カズマさんを招待してるんですから」
そこにかけてください、とリーラが示した席に座る一真。
彼が席に着くのを確認してから、リーラは早速鍋を火にかけていく。
そうして待つこと十数分。
「お待ち遠様ですっ」
リーラが用意してきたのは、丼ぶりのように深く厚い容器に、香ばしい出汁の香り、豊富な野菜に、きつね色の油揚げ、そしてそれらの下に敷かれる、細長く白いもの。
それは……
「これ……『きつねうどん』じゃないか!」
「カズマさん、ソンバハルの料理のことをよく知ってるみたいですから、こう言うの好きかなぁって、頑張って食材を取り寄せて作ってみました!」
むふん、と胸を張って見せるリーラ。
「ソンバハル特有の食材ってちょっとお高いので、お店には出せないんですけど……カズマさんにだけ、特別です♪」
「俺のために用意してくれたんだな……ありがとう、リーラ」
「え、えへへ……」
彼から真っ直ぐな感謝を向けられて、リーラは照れたように小さく笑う。
「じゃ、早速……いただきます」
手を合わせて「いただきます」を告げて、一真は箸を取る。
息を吹きかけて熱を冷まし、つるりと麺を滑り込ませる。
コシがあり、なおかつ滑らかな食感に、出汁の効いた薄味。
「……うん、美味しい。俺好みのうどんだ」
「ほ、ホントですかっ、ありがとうございます!」
良かった、と安堵するリーラを前に、一真は順調に食を進めていく。
野菜も固過ぎず柔らか過ぎない絶妙な煮込み具合に、油揚げもしっかり味が染み付いており、急いだわけでもなくものの数分で食べ終えてしまった。
「ふー……ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
出汁も残さずいただいて、一真は満足げに息をつく。
「じゃぁ、うどんのお礼ってことで洗い物は俺が……」
自分で洗おうとする一真だが、リーラに「待ってくださいっ」と止められた。
「ま、まだやることがあるんです!」
「やること?」
デザートでもあるのかと期待しかけた一真だが、食事に関することではなかった。
ソファーに座るリーラに手招されて、そこへ近付く。
するとリーラは、ぽんぽんと自分の膝を叩いてみせる。
「み、耳かきをしようと思いますッ!さぁどうぞ!」
「耳かき?って言うか……その、リーラの膝の上に?」
そこへ頭を乗せろと?と訊ねる一真に、リーラは物凄く恥ずかしそうにこくこくと頷く。
「(ええええええ……い、いいのか?こう言うのって普通、恋人同士がやるものじゃ……?)」
しかし同時に、一真はこれを「逃れられない」ことにも気付く。
何故ならば、ここで遠慮したりすればリーラは間違いなく「そ、そうですか……」としょげ返ってしまう。
決して長くはない付き合いだが、何度も接している内にリーラ・レラージェとはそう言う女の子だと言うことには気付いている。
――もっと肝心なことには気付いていないのだが――
しょげ返らせるわけにもいかず、結局一真の方が先に折れてしまった。
「で、では失礼して……」
一真はリーラの隣に腰掛け、上体をそーっとそーっと倒し、左耳を下にしてリーラの膝に乗せる。
「えっと……重くないか?」
「だだ、大丈夫ですっ。無理もしてませんよっ?さぁっ、カズマさんの耳を塵一つ残さず掃除しちゃいますよ!」
「いやそこまでやったら外耳道痛めるから。普通にしてほしい」
「そ、そうでした……」
では改めまして、とリーラは先程の慌てっぷりとは思えないほどの繊細な手付きで耳かきを一真の耳の中へ入れていく。
………………
…………
……
「ど、どうですか?痛くないですか?」
「いや、全然大丈夫。リーラって耳かき上手だな」
「えへへ……女将さんにやってもらってるのを、自分でも出来るようにって頑張った甲斐があります」
次は反対です、とリーラからの指示を受け、一真は頭の向きを変える。
最初こそ双方とも緊張して無言だったが、次第に言葉を交わしていくようになる。
「ん、ふぁ……」
入浴、食事と来て横になったせいか、一真はあくびを噛み殺す。
「あ、このまま寝ちゃってもいいですよ」
「いや、良くないだろ……リーラだってまだ仕事あるのに」
「後のことは、女将さんに任せてるから大丈夫です。ぜひとも寝てください」
「そ、そっか……あ、でも寝るんならちゃんとベッ、……ト、に……、……」
リーラの膝と言う魅力的な枕が齎すヒーリング効果は、瞬く間に一真を眠らせていく。
「カズマさん?……寝ちゃいましたか」
眠る一真を見下ろしつつ、リーラは耳かきをソファーの脇に置いた。
その体勢のままで、一真の寝顔を眺める。
「……あのね、カズマさん」
眠っていて聞こえないことを分かっていて、……否、聞こえていないからこそ、リーラは声にする。
「ちょっとしたことでも褒めてくれて、ご飯を素直に美味しいって言ってくれて、誰にでも優しくて、コントラクターのお仕事も一生懸命頑張って、どんなに大変なことだって必ずやり遂げて帰ってくる……そんなカズマさんが、わたしは好きです」
想いを口にして、続けていく。
「カトリアさんみたいにキレイで何でも出来る人じゃないし、ユニさんみたいに可愛くて癒やしてくれる人じゃないし、……きっとカズマさんのことだから、色んな魅力的な女の子がいるんでしょうけど、わたしは皆さんみたいに戦えないけど……」
きゅっと口を噤んでから、呼吸一つ。
「カズマさんを好きって気持ちは、他の誰にも負けてないつもりです。でもわたしって臆病だから、こんな形じゃなきゃ伝えられないんですけど……好きなんです」
これを誰かに聞かれていたら恥ずか死ぬだろうと思いつつも、止められない。
「もちろんカズマさんだって、好きな人がいるかもしれませんし、それが誰かは分かりませんけど……出来れば、その人が、わたしだったらいいなって、思います」
誰もいないことは分かっているのにキョロキョロと辺りを見回してから、
――そっと、一真の左頬に唇を乗せた。
「おやすみなさい、カズマさん」
と言うわけで二十章でした。
色恋沙汰には余裕?なカトリアと、リーラちゃんのヒロイン力爆発の二本でキメました。





