十章 やってやろうじゃないか。
一真とソルは駆け出すと共に左右に展開し、一真は右、ソルは左から、互いにゴーレムへ接近する。
ゴーレムはモノアイをギョロつかせ、ソルへ敵意を向けて右腕を振り下ろす。
石柱そのもののような腕は、人間一人を潰すには十分過ぎる大きさと重量を持つが、むざむざ潰されてやるような理由などソルにはない。
走りながらもソルは振り下ろされる腕の間合いから飛び退き、その一秒後にゴーレムの右腕が砂地へ叩き付けられる。
砂塵を巻き上げたそこは、隕石が落ちたかのようなクレーターを穿った。
ソルは瞬時に軸足を入れ替えて飛び上がり、落下の勢いと共にゴーレムの右腕目掛けてカットラスを振り下ろした。
「ハッ!!」
しかし、肉厚の蛮刀がゴーレムの右腕を斬り裂くことは叶わず、表面を僅かに砕くのみに終わり、その反動がソルのカットラスを握る右手をビリビリと震動させる。
「チッ……さすがに硬いな」
舌を打ちながらも、ソルはすぐにゴーレムの右腕を足場に、跳躍して離れる。
瞬間、ゴーレムはソルを薙ぎ払おうと右腕を振るい、ブュオッと野太い風切り音が響く。
そうしてゴーレムの注意がソルに向いている間に、一真が懐へ飛び込んでいく。
一真の姿を確認しつつユニは詠唱を始め、しかし治癒術とは違う魔法陣を展開する。
「――猛き力よ、彼の者の勇気と共にあれ――『エクステンド』!」
ユニから朱色の光が放たれ、それが一真へ纏う。
恩恵者の膂力を一時的に強化する魔術だ。
エクステンドによる援護を受けて、一真はカタナブレードの柄を握り締める。
「でえぇぃッ!」
胴を薙ぐ要領で、ゴーレムの左脚へカタナブレードを振るうがしかし、やはりソルと同じような結果にしかならない。
ならばもう一撃、と一真は重心を入れ替えて逆袈裟にカタナブレードを振り下ろそうとして、カトリアから制止の声が届く。
「カズマくん、離れてください!」
そう言うや否やカトリアは詠唱を始め、彼女の周囲に緑色の魔法陣が顕現される。
「――竜を巻く疾風よ、烈刃となりて薙ぎ払え――『トルネード』!!」
風属性の上級魔術『トルネード』だ。
すると、ゴーレムの足元から風が吹き荒れ――自然災害の台風にも匹敵するほどの凄まじい竜巻がゴーレムを飲み込んだ。
「っとと、巻き込まれる巻き込まれる……」
カトリアの制止の声を聞いていた一真は、竜巻に巻き込まれないように、急いで離れる。
やがて竜巻が収まり――なおもゴーレムは健在。
「……なるほど、こんな相手では撃退が精一杯なのも頷ける話です」
ブレードランスを構え直しつつ、カトリアはゴーレムの状態を睨む。
確かに最初に姿を確認した時よりも欠損した部分は増えており、亀裂もいくつかは生じている。
だが、ゴーレムはそれに怯んだり弱った素振りも見せない。
「だが、効いているのであれば……!」
カトリアとは反対側の位置から、サムソンが再びアクアブラストを唱えようと詠唱を始め、
ゴーレムのモノアイがその彼を捉えた。
手近にあった石柱を掴んで砕き抜き、それをサムソン目掛けて投げ付けたのだ。
「なっ……」
詠唱を中断したサムソンだが、バウンドしながら迫る石柱から逃れるにはタイミングが遅過ぎた。
結果、石柱をぶつけられたサムソンは鞠のように吹き飛ばされ、砂の上を転がり横たわってしまった。
「サムソンッ!?」
ソルの声に動揺が生じるが、すぐにユニが向かった。
「私が行きます!」
ユニがサムソンを助け起こして、遺群の陰へと一時離脱するのを尻目にしつつ、ラズベルは再び矢を弦にかける。
「調子乗ってんじゃないわよ!」
最初の一矢目よりも距離を詰めてから矢を放つ。
狙いはやはりゴーレムの胸部で、確かに矢は突き刺さるのだが、物理的な攻撃ではやはり効果は薄い。
「剣が効かないなら……」
ソルは一度カットラスを納め、代わりにピストルを抜き、さらに腰のベルトに伸ばし、掌大ほどのソレをピストルの銃口に挿し込み、ゴーレムの無防備な右脇腹に向ける。
「こう言う攻撃もある!」
引き金を引けば、銃弾に押し出されるように先程差し込んだソレも共に撃ち出され、ゴーレムの脇腹へ着弾し――派手な爆発を巻き起こした。
大量の爆薬を詰め込んだ特殊な弾頭で、大きさ故にピストルの弾倉には収まらないので、こうして外付けされるのだ。
爆風が晴れれば、着弾した部位であるゴーレムの右脇腹は少しだけ崩れる。
が、それだけだ。
「……やれやれ、効いているならそうだと教えてほしいもんだ」
教えてくれるはずもないが、そんな軽口でも言わなければ、保っていた気力が萎縮してしまいそうだった。
そうしている間にも、一真は再びゴーレムの懐へ潜り、最初に攻撃を加えた左脚へカタナブレードを振るい、やはり効果は今ひとつだ。
「クソッ、ダメか!」
反撃される前に飛び下がってゴーレムの間合いから逃れる。
「(脚はどうしたって硬いのか?それなら……)」
しかしゴーレムは一真に反撃を行うことはせず、両手を重ねるようにして組み、それをゆらりと頭上へと持ち上げ、
カトリアはゴーレムが何を仕掛けてくるかを瞬時に予測した。
「気を付けてっ、衝撃波が来ます!」
警戒を呼びかけてから一拍を置いて、ゴーレムはアームハンマーのごとく両腕で砂地を殴り付け――そこを中心にショックウェーブが発生、同時に津波のような大量の砂が巻き上がる。
「まずいっ、伏……」
ソルが「伏せろ」と叫ぶよりも先に、砂の津波が辺り一帯を呑み込んだ。
その咄嗟に、一真はカタナブレードを砂地に突き立ててしがみつき――瞬く間に砂の奔流が襲い掛かった。
ベースキャンプにもその余波が届き、一瞬だけとは言え大きく揺れた。
「むっ……」
イダスは何事かと、傍に立て掛けていた大剣を手に取り、すぐに収まったことでその手を離す。
どうやら彼らはゴーレムと遭遇し、交戦に入ったようだ。
情報と対策はあるとラズベルは言ったものの、それでも心配なものはどうしようもない。
すると、重傷者を送り届けていた四頭の馬(ラズベル達が乗って来た馬達)が戻って来て、その中の一人が馬から降りてイダスに駆け寄ってきた。
「隊長、ひとまずの重傷者は送り届けました。次は誰から搬送しますか」
「うむ……その前に馬達にも休憩させてやれ。ラズ達が運んできた物資に、水とエサがあるはずだ」
「了解」
馬達を天幕の近くに移動させて、ラズベル達が置いてきた道具袋を開けるのを見流しつつ、イダスは砂煙が立ち込める方向を見やる。
「(ラズ、プリマヴェラのコントラクター達よ……頼むぞ)」
遺群の陰に隠れながらサムソンの治癒を行っていたユニは、突然の轟音の後に急に静かになったのを不審に思った。
「……戦いが終わった?」
サムソンは幸いにも致命傷に至ることはなく、すぐに死ぬことはない。
だが、何ヶ所か骨が折れているらしく、戦闘継続は出来そうもない。
ユニはサムソンをここに置いておき、そっと遺群から顔を覗かせる。
――だが、ゴーレムはまだ悠然と立っており、他に立っている者は誰もいなかった。
「え……ぇ、カズくんっ!?」
まさか……としたくない想像をしてしまい、ユニは悲鳴のように一真を呼び、
その声をゴーレムに聞かれてしまった。
モノアイが今度はユニを捕捉し、ズシンズシンと歩み寄ってくる。
「ッ……やって、やるんだからッ!」
サイズを両手で握り直し、サムソンを隠している遺群から離れるように飛び出し、ゴーレムに立ち向かうユニ。
カットラスもカタナブレードもまともに刃が通らないような相手に、サイズが効くとは思えない。
それでも、自分がやるしかない。
そう覚悟を決めたユニの視界の中に、砂の中から這うようにカトリアが立ち上がるのが見えて、彼女の元へ駆け寄る。
「カトリアさんっ、大丈夫ですか!?」
「ごほっ……大丈夫です。全身砂まみれですが」
どうやら、ゴーレムの攻撃の影響か何かで砂に埋まってしまっていたらしい。
だとすれば一真やソル、ラズベルも同じように……と信じたい。
それを確かめたいところだが、ゴーレムはそれを待ってはくれない、カトリアとユニへその剛腕を振り下ろそうとしているのだから。
二人とも瞬時に散開し、その後すぐに岩石の拳が大地を震わせる。
「ユニさんは、他の皆さんを探してください。恐らく砂に埋まっているはずです。ゴーレムの相手は、私が」
「分かりました!」
ユニはゴーレムから遠ざかりつつも、誰か砂に埋まっていないかと辺りを注視していく。
その間に、カトリアは走りながらブレードランスの切っ先を砂地へ突き立て、棒高跳びのように飛び上がると、叩き付けられたゴーレムの右腕に飛び乗り、そのまま腕の上を駆け上がるようにゴーレムへ接近していく。
狙いは、ダメージが重なっているだろう胴体だ。
「りゃあぁッ!!」
跳躍しつつ、上段から振り下ろす一閃。
普通の魔物なら必殺の一撃になり得るが、ゴーレムが相手ではやはり表面を浅く削るだけに留まる。
しかしカトリアはそこで止まらず、一度ゴーレムの足元近くに着地し、ゴーレムがカトリアを蹴り飛ばそうとするよりも先に彼女は懐から離脱し、少しだけ距離を取ったところですぐに詠唱を開始する。
「――凍て付く刃よ――『アイスラッシュ』!」
短い詠唱と共に放たれるは、刃の形をした超低温の氷。
氷属性の初級魔術だが、詠唱時間が短いために、足を止める時間もまた短くて済む。
一撃の強さよりも手数を確実に与えていくのだ。
分厚い氷の刃は先程にカトリアが斬りつけた部分へ突き刺さるが、ゴーレムは何気もなくそれに手を伸ばし、握り潰した。
が、その直後に太く鋭い矢が突き刺さった。
「ラズベルさん?」
カトリアは矢が放たれた方向に目を向け、そこにラズベルが立っていたことに気付く。
「はんっ、砂漠育ちをなめんじゃないっての……」
この地に慣れ親しんでいたが故か、自力で砂から這い上がってきたらしいラズベルは、啖呵を切ってみせる。
「早いところくたばりな、木偶の坊が!!」
啖呵と共に、必中の矢を放った。
カトリアとラズベルがゴーレムの注意を引き付けている間に、ユニはソルを発見し、なんとか砂の中から引っ張り上げたところだった。
「すまん、危うく生き埋めになるところだった」
砂を払いながらソルはユニに礼を言う。
「これだけでも……――ケアーエイド」
ソルの肩に手を置いて、ユニはケアーエイドを唱えた。
疲労感が弱まるのを確かめて、「助かる」と告げるなりソルはすぐに駆け出した。
それを見送りつつ、ユニは最後の一人を探す。
「あとは、カズくん……」
急いで助けなければ、とユニは辺りの砂地を睥睨する。
だが、一真を探し出そうと集中した時、カトリア達三人に向けられていたゴーレムのモノアイが、ぐるりとユニの方を向き――身体ごと彼女へと向き直った。
「いけないっ、ユニさんッ!」
カトリアが呼び掛けるが、距離が開いている上にゴーレムの足音が邪魔で、ユニは自分が狙われていることに気付いていない。
「攻撃を集中!ケツ叩いてこっちに気ぃ引かせる!」
ラズベルは背を向けたゴーレムの腰に矢を放ち、確実に突き刺さり、カトリアのアイスラッシュやソルの銃撃も重なるものの、ゴーレムはそれら全てを無視してユニへ迫る。
ゴーレムの足音が近付く中、ユニはふと見慣れたものを見つけた。
それは、一真が身に着けているポーチが砂に埋まっている様子だ。
「カズくんっ」
ユニは彼を助け起こそうとポーチに手を伸ばすものの――だがそれはやけに軽く――ポーチに繋がっているはずの一真本人がいなかった。
「アレ……えっ?」
ポーチしか無かったことに目を丸くし、突如として視界が翳った。
振り返ってみれば、ゴーレムのモノアイが自分を見下ろして、左腕を叩きつけようとしていた。
咄嗟の判断、ユニは身体ごと投げ出すようにゴーレムの間合いから逃れ、その直後にゴーレムの拳が叩きつけられた。
殴り潰されることはなかったものの、その拍子に生じた衝撃波がユニを吹き飛ばす。
「ーーーーーッ!!」
不愉快な浮遊感、の直後に背中から砂地に叩きつけられ、痛みによる身体の痺れと、同時に肺の中の空気を無理矢理吐き出される。
「かは、ァ!?ゲホッゲホッ……」
咳き込み胸を押さえながらも、ユニは正気を保つものの、ゴーレムはなおもユニを執拗に狙い、左腕を引き上げてもう一度叩きつけるべくゆらりと振り上げる。
早く逃げなくてはと思考が命令しても、痺れた身体ではどうしようもない。
「……ぁ」
私、死ぬかも――
そんな自分の声が脳裏を過りかけて、
寸前、
「ここ、ならっ、どうだァァァァァッ!!」
突如として、逆光を背にどこからか一真が現れた。
落下の勢いと共にカタナブレードを袈裟懸けに振り下ろし――
――ゴーレムの左腕を真っ二つに断ち斬った。
「「「「!?」」」」
その場にいた一真以外の全員が驚愕した。
攻撃らしい攻撃が通じなかった相手に、初めて有効打を与えてみせたのだから。
鉄壁を誇るはずの自身の腕を真っ二つにされ、ゴーレムは慌てたように蹈鞴を踏む。
斬り落とされた左腕と共に、高所から落下してきたらしい一真は倒れ込むように砂地を転がった。
「カ、カズくっ……!?」
「痛ってて……大丈夫か、ユニ!」
一真はすぐに立ち上がってユニを抱き起こし、ゴーレムから距離を置く。
想定外の事態に混乱しているのか、モノアイを右往左往させているゴーレムを凝視し――ソルはあることに気付く。
「まさかカズマの奴……腕の関節を狙って攻撃したのか!?」
魔術攻撃による積み重ねもあるかもしれないが、それだけではこの結果には至らない。
一体どうやってあの大岩そのものである腕を切断してみせたのか……ソルはそれを、「ゴーレムの腕の可動部へ正確に斬撃を打ち込んだ」と見抜いた。
同時に、一真がゴーレムの左足の、それも一箇所を狙っていたその理由が、最初から局所攻撃だったことにも気付く。
いくら頑丈でも、動く限りは必ずどこかに"隙間"があるのだから。
恐らくは遺群や石柱に攀じ登って機を窺っていたのだろうがしかし、10m近くある巨大な敵を相手にそれを敢行してみせたその勝負勘と度胸は、歴戦の勇士たるソルを驚愕させるには十分過ぎた。
「だとすれば話は早いな……カトリアッ!」
「はい!右腕の関節部に攻撃を!」
ソルの呼び掛けに、カトリアはすぐに反応すると同時に詠唱を開始する。
「――スノーウィンド!!」
極低温の冷気を纏った烈風が放たれ、ゴーレムの右腕に直撃させる。
さすがに砕くまでには至らなかったものの、ここまでまるで怯まなかったゴーレムを後退りさせた。
そして、その間にもソルはゴーレムの右拳に飛び移り、深い亀裂が生じている部位へカットラスを振り下ろす。
「オラァッ!!」
一真と同じように真っ二つには出来なかったが、カットラスの質量とソルの力量の上乗せによって、ゴーレムの右腕を砕き割ってみせた。
瞬く間に両腕を失い、攻撃手段らしい攻撃手段もまた失ったゴーレムは、悪あがきのつもりか、着地したソルを踏み潰そうと右脚を振り上げて、
――そのモノアイに矢が突き刺さった。
「最初っから目玉を狙えば良かったかもねぇ」
不敵に笑ってみせるのは、ゴーレムのすぐ真下にいたラズベル。
ゴーレムの注意がソルに向けられた時、ラズベルは大胆にもゴーレムの足元近くにまで距離を詰め、モノアイを正確に狙い撃ったのだ。
片脚を上げたところで急所を突かれたゴーレムは、轟音と共に砂煙を上げながら転倒する。
――砂煙を切り裂いて、一真が倒れたゴーレムに肉迫する。
どかりとゴーレムの胴体に乗り込み、カタナブレードを逆手に持ち直し、ラズベルの矢が突き刺さったモノアイ目掛けて、力の限りで振り下ろした。
その一撃が、僅かに光っていたモノアイを完全に停止させる。
途端、ゴーレムの挙動がピタリと止まり……静寂が訪れる。
「…………どうやら、なんとかなったようですね」
カトリアのその声が、彼らの勝利を代弁した。
ピクリとも動かなくなったゴーレムの頭部から、突き刺したカタナブレードを引き抜く一真。
「はー……やったか」
安堵に大きく息を吐き出し、一真はカタナブレードを背中の鞘へ納刀して、ゴーレムから飛び降りる。
すると、ゴーレムの身体がバラバラに砕け始め、やがてただの瓦礫の山へとなれ果てた。
恐らくはモノアイが中核となっていて、それを破壊されたためにマナもまた失われたのだろう。
自然に発生したものか、人為的なものかどうかは分からなかったが、やはりゴーレムの身体を構成していたのは大量の瓦礫だったらしく、砂丘遺跡の遺群がちょうどいい素材になったのだろう。
しかし、少なくともエスターテのコントラクター達はゴーレムの存在を知らなかったところを見ると、このゴーレムは自然発生したものとは思えなかった。
だとすれば……と一真の中に凝りが残ったのも一瞬だった。
「カーズくんっ!」
いきなり、ユニが一真の左腕に抱き着いてきた。
「ユ、ユニ!?」
「やったねっ、大勝利大勝利!」
嬉しそうに身体を擦り寄せるユニだが、一真はと言うと勝利を喜べる心境ではなかった。
いきなりユニにくっつかれたことへの驚きもあるが、
「(いやあのちょっ、当たってるっ、当たってるから……!)」
カトリアやラズベルほどではないにしろ、外套越しでも分かるくらいの大きさと形を持つユニの"ソレ"が左腕に押し付けられているのだから、年頃真っ只中である一真としてはたまったものではない。
「わ、分かった、分かったから……」
役得と捉えるよりも先に気恥ずかしさが上回り、一真はユニを離そうとするものの、既にしっかりホールドされてしまっているため振りほどけない。
「やるじゃないかカズマ!見直したぞ!」
そればかりか、駆け寄ってきたソルには右側からヘッドロックをされる。
「ちょちょ、ソルさんまで……」
自分よりもずっと格上の先輩から褒められると言うのは嬉しいものだが、ヘッドロックまでされるとは思っていなかった。
「そうそうっ、ソルさんも一緒に!」
それどころか、ユニがソルに同調を促す。
「おぅ、大勝利大勝利!はっはっはっ!」
ノリ良く声を上げて笑ってみせるソル。
まぁそれはそれとしてだ、とヘッドロックをやめると、ソルは至極真面目にユニに訊ねた。
「サムソンは?」
ユニも一真から身体を離して、真面目に答える。
「あ……はい、何か所か骨が折れてるみたいですけど、命に別状は無いみたいです」
そこの遺跡に隠れてもらってます、とユニは崩れた遺群を指す。
「そうか……、良かった」
仲間が犠牲にならずに済んでか、ソルは安堵する。
勝利と安心の余韻もそこそこに、カトリアが手を鳴らした。
「さて、ベースキャンプに戻りましょう。皆さんも吉報を待っているはずですから」
この砂丘遺跡の脅威は取り除いたのだ、まずはそれを伝えなくてはならない。
遺群に身を潜めてもらっていたサムソンを、ソルと一真が支えてやりながら、一行はゴーレムの亡骸を背にベースキャンプへ向かう。
――砂丘遺跡の空を、ある一羽のカラスが飛び去って行ったことに気付いた者は、いない。
と言うわけで十章でした。
魔術は有効なんだけど死ぬほどタフなゴーレム、腕の関節を狙ってぶった斬る一真、そして一抹の不安を残しての勝利の三本でキメました。
最近の流行りと言うかテンプレと言うかなろうの必須条件とも言うべき、安易なチートで無双するなんてことはしません、一真はあくまでも人間ですので。





