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第4話 アレク様の嘘つき……

 わたしたちの領地のアルハンゲリスクは、ルーシ王国の北の辺境だ。

 大陸全体でも北方に位置するし、ニーノルスク共和国のような北方地方の国とも接している。


 この極寒の地では、ある特別な風習があった。


 そう……バーニャだ! 


 バーニャは入浴施設の一種で、ニーノルスク共和国を発祥とするサウナに近い。


 丸太小屋のなかに暖炉をつくり、そこに石を積み上げる。

 そして、そこに麦酒をかけると蒸気が発生して、部屋の温度が一気に上る。

 

 その部屋に裸で腰掛けて、じっと体を温める、というのが、この地の健康法だった。


 秋の今はまだ良いけれど、冬は本当に寒いので、バーニャがあることが唯一の救いになるとも聞く。

 

 王都にいた頃のわたしは、バーニャを本の中でしか知らなかった。


 けれど、アルハンゲリスクではそこそこ裕福な家なら、バーニャを持っているし、港町には公衆用の大規模なバーニャもある。


 もちろんアルハンゲリスク辺境伯の屋敷にも完備されているわけで。


 アレク様と衝突した翌日、わたしも初めて入ってみることにした。


 バーニャは三部屋に分かれていて、メインの蒸気風呂の部屋以外に、着替え用の部屋もある。


 そこでわたしはワンピースと下着を脱ぐと、白いバスタオル一枚を体に巻きつける。

 ……ちょっと、というかかなり恥ずかしい。

 というのも、わたしは一人でバーニャに入るわけではないからだ。

 

 そっと蒸気風呂の部屋の扉を開くと、そこはもう、熱気に包まれていた。フェリックス君が手際良く準備をしてくれていて、そして、先客もそこにはいる。


 わたしは後ろ手で扉を閉める。

 先客は、バーニャ特有の暖炉から距離をとって、椅子に座っていた。


 彼は大きく目を見開く。


「あ、アリサ!? なんでここに!?」


 わたしは何も答えず、アレク様をじっと見つめる。


 ……アレク様も裸同然、腰にタオルを巻いただけの姿だった。

 上半身裸のアレク様なんて、初めて見る。


 普段は細身で繊細はイメージのアレク様だけど、さすが鍛えているだけあって、い、意外と……。


 そこまで考えて、わたしはアレク様が赤面しているのに、気づいた。

 じ、じろじろ見すぎたかもしれない。


 というか、裸同然なのはわたしも同じなのだけれど……。

 い、一応バスタオルはまとっているし、ちゃ、ちゃんと胸とかお尻は隠せているはず……。


 けれど、アレク様も、わたしのことをまじまじと見つめていることに気づいて、わたしは頬が熱くなるのを感じた。


 や、やっぱり、やめておけばよかったかも……。

 わたしはエレナの提案に乗ったのを後悔した。


 こんな姿でわたしとアレク様がバーニャに一緒にいるのは、エレナとフェリックス君が仕組んだことだった。


 アレク様がバーニャに入っているタイミングを見計らい、わたしが忍び込む。

 もちろん護衛の人たちがバーニャの入り口にはいたけれど、女主人のわたしなら、当然、彼らも通すことになる。


 ……ちょっとびっくりした顔をしていたけれど。


 こういう状況になってしまえば、アレク様も話し合いから逃げ出すことはできない。

 しかも、お互い裸同然の恥ずかしい格好なら、本音も言えるはず……というのがエレナの言い分だった。


 フェリックス君もこれにノリノリで賛成して、「裸の付き合い」作戦が敢行されたわけだけれど――。


 やっぱり恥ずかしい! 逃げ出したいのは、わたしの方だった。

 ……相変わらず、アレク様はわたしをじーっと見ている。も、もしかして、わたしにみ、見とれている?


 わたしは心の中で、首を横に振った。エレナとかならともかく、わたしだし……。で、でもアレク様は一応、わたしのことを好きと言ってくれているわけで、おかしくはないのかな……?


 そんなアレク様をもう一度観察すると、その視線が、わたしの体の一点に注がれていることに気づく。


 も、もしかして……。

 わたしは慌てて、胸を隠すように、両手で体を抱いた。アレク様がわたしの胸を見ていたような気がしたからだ。


 アレク様ははっとした顔をして、慌てて目をそらした。

 やっぱりそうだったみたいで、わたしは頬が熱くなるのを感じた。


 普段、アレク様からそんな視線を向けられたことはないのだけれど、バスタオル一枚だから胸が強調されていて、つい視線がいってしまったのかもしれない。


 他の人に見られるのであれば嫌だったかもしれないけれど、でもアレク様なら……。


 わたしはそっと歩いて、アレク様の目の前に立った。そして、くすっと笑う。


「アレク様も……男の子なんですね」


「ど、どういう意味?」


「わ、わたしの胸……見ていましたから」


「み、見てなんかいないよ……」


「アレク様の嘘つき……」


 わたしが小声でつぶやくと、アレク様はうっと言葉につまった。

 恥ずかしがっている場合じゃない。


 アレク様が動揺している今こそ、勝負のときだ。

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[一言] 更新待ってましたー!! いけいけ!押せ押せアリサ!
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