第2話 アレク様の考え
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みんなは心配そうな顔をしていたけれど、何も口を挟まなかった。
ここでの最高権力者はアレク様だ。
そのアレク様が、婚約者のわたしに二人きりで話したいことがあるといえば、いくらフェリックス君たちでも、尋ねるのは遠慮すると思う。
アレク様に連れられ、わたしは屋敷に戻った。そのあいだアレク様は珍しく無言だった。
そして、わたしたちの寝室に入る。
この部屋に来るのもかなり久しぶりだ。
本当だったら、アレク様との日常が戻り、同じ部屋で寝られる(本当に寝るだけだけど)ことを楽しみにできたはずだ。
でも、今のアレク様は上の空といった感じだった。
「あ、あの……どうしたんでしょうか、アレク様?」
「ああ、ごめん。ええと……とりあえずベッドの上に座ってくれる?」
言われたとおり、わたしはベッドにちょこんと座った。そして、首をかしげる。
そんなわたしを、アレク様は愛おしそうに見つめた。
けれど、その表情はすぐに悲しげなものに変わる。
「まずは、ニーノルスクでの交渉を成立させてくれて、ありがとう。さすがアリサだ。おかげで救われた」
「いえ……とんでもないです」
わたしはそう答えながら、アレク様の態度がどこかよそよそしいことが気になった。
どうしたんだろう?
アレク様はぼんやりとわたしを見つめ、そして、つぶやく。
「アリサは偉いよ。一人で何でも出来てしまう。クライブの言っていたとおり、アルハンゲリスクの領主だって務めることができるさ」
「そ、そんなことありません……! わたしは……アレク様がいなければ……何もできないただの少女です」
「だが、実際にアリサはニーノルスクとの交渉を成立させた。でも、今回の俺はなにもできなかった」
「アレク様がここを離れることができなかったのは、クライブの妨害のせいですし、わたし一人では何も出来ませんでした」
「そんなことないさ。一人では何も出来ないのは、俺の方だ。ただでさえ、俺はアリサに借りがあるのに」
「借りってなんのことですか?」
アレク様は、「しまった」という顔をした。前から知ってはいたことだけれど、アレク様はなにかわたしに隠している。
それが、アレク様がわたしを選んでくれた理由と関係あることはわかっている。でも、「借り」とはなんだろう?
アレク様は、わたしをまっすぐに見据えた。
「実はアリサにアルハンゲリスクの辺境伯になってもらおうと思うんだ」
「え? で、でも、アルハンゲリスクの辺境伯に封じられたのは、あくまでアレク様です……」
「今はそうだけれど、王国政府に掛け合えば、快く同意してくれるさ。アリサは有力な公爵の娘だし、一方の俺は厄介者の第一王子。どちらが、王国にとって、つまりミハイルにとって都合が良いかは明らかだ」
アレク様は淡々と語ったけれど、わたしは驚きと困惑でいっぱいだった。
どうしてアレク様はこんなことを言うんだろう?
「わ、わたしが辺境伯をやるなんて無理です。そんな力も意思もわたしにはありません!」
「バラキレフやココシキン、フェリックスたちの手助けがあれば平気さ。アリサの聡明さがあれば、優秀な彼らの力を使いこなせる」
「そんなことありません。仮に……仮にそうだとしても、辺境伯を返上した後、アレク様はどうされるんですか!?」
「俺は一人で外国にでも行くさ。最初から、そうするべきだったんだ。俺がここにとどまることで、ミハイルにも……アリサにも迷惑をかけた」
「わたしは迷惑だなんて思ったことは一度もありません。わたしはアレク様と一緒にいるために、このアルハンゲリスクに来たんです」
わたしが訴えると、アレク様はつらそうに目を伏せた。
そんな顔をしてほしいわけじゃない。
わたしが欲しいのは、「これからもずっと一緒にいるよ」という一言だけだった。
でも、アレク様は首を横に振った。
「ニーノルスクでは、大公クヌート殿下に求婚されたそうじゃないか。俺なんかより……彼の方がきっと、君を幸せにできる」
違う。あれは、クヌート殿下がわたしの覚悟を試そうとしただけで……。
そう言おうと思ったけれど、わたしの言葉は声にならなかった。
そう。クヌート殿下は、わたしが望めば、本当に正妻として迎えると言ってくれた。
たしかに、それは現実的には選択肢の一つとしてありうるんだ。
他の女の子なら、辺境のアルハンゲリスクでの生活を捨てて、ニーノルスクの大貴族に嫁ぐことを選ぶかもしれない。
でも、わたしはそんな選択をするつもりはない。
わたしにとって大事なのは、アレク様のそばにいることなんだから。
アレク様も、わたしと同じ気持ちでいてくれると思っていた。
でも、今のアレク様は、これまでとは正反対のことを言う。何かに取り憑かれてしまったかのように。
アレク様は、話は終わりだ、とでも言うように寝室から立ち去ろうとした。
ここでアレク様をそのまま行かせるわけにはいかない。わたしは思い切って、アレク様の腕をつかんだ。
「待ってください!」
「……放してくれないかな」
「ダメです!」
アレク様はわたしを振り払おうとする。それはあくまで優しかったけれど、でも、もみ合いになってしまい、気がつくと、わたしは体のバランスを崩していた。
「きゃあっ」
「わあっ
」
わたしは悲鳴を上げてベッドに突き飛ばされるような形になる。
そして、殿下もわたしにつかまれていたから、体制を崩して、わたしに覆いかぶさるような格好になった。
じっとアレク様は、わたしを見つめ、顔を赤らめる。
「アレク様……」
偶然だけれど、これはチャンスかもしれない。
アレク様がなぜ豹変したのかわからないけれど、以前みたいに戻って欲しい。
わたしはなんて言葉をかけるべきか考えた。
そして、わたしは頬が熱くなるのを感じながら、ささやく。
「わたしたちは婚約者なんです。アレク様が望むなら……わたしに何をしてもいいんですよ?」
わたしは心から、そう思っていた。
わたしが必要とする人は、アレク様以外にはいないのだから。
アレク様は顔を一瞬ためらい、そして、わたしに手を伸ばそうとした。
その大きな手がわたしの胸元に伸ばされたのを見て、わたしはどきりとする。
心臓が跳ねるほど、緊張している。わたしが言い出したことだけれど、アレク様がその気になれば、わたしを好きなようにできてしまう。
アレク様の顔は見たことのないような、焦ったような表情で。
わたしは心をかき乱される。
ううん。婚約者だもの。全然不安なことなんてないし、むしろそれをわたしは望んでいる。
そのはずだ。
けれど、アレク様は手をピタッと止めた。そして、それまでの必死な表情が嘘のように、穏やかな笑みを浮かべる。
「アリサは……怖がっているんだ」
「そ、そんなことありません!」
わたしは内心を言い当てられて、どきりとする。
アレク様は首を横に振った。
「俺はアリサに触れる資格なんてないんだ。だって……俺には何もできないんだから」
アレク様の声は、あくまで優しかった。
わたしは否定しようとして、声が出なかった。
そう。不安を感じていたのは、怖がっていたのは事実だ。
でも、それ以上に、アレク様がわたしを必要としてくれることへの期待の方が大きかった。
わたしはそう言いたかった。でも、わたしが口を開く前に、アレク様はベッドの上から立ち上がり、そして、立ち去ろうとした。
「ま、待ってください!」
わたしの言葉に、アレク様は一瞬だけ立ち止まったけれど、微笑むとそのまま部屋を出て行ってしまった。
この章は短めの予定です。
二度目ですが、師弟のイチャラブ・ファンタジーラブコメ『追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる』漫画1巻も宜しくお願いいたします!
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