第9話 愛妾になっていただきます
公爵令嬢と執事の少年の幼い二人の恋愛もの
『婚約破棄されました。でも、優しくてかっこいい幼なじみ執事と結婚することにしたから幸せです!』
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「遠路はるばる我がニーノルスクへお越しいただき、感謝の念に堪えません。私がリバルシの大公クヌート・グリーグです」
「は、はい……クヌート殿下」
大公は他の貴族とは別格なので、敬称は王子や王女と同じ殿下となる。わたしはなんとか作法にのっとり自己紹介した。
とはいえ、冷や冷やものだ。わたしだって王侯貴族との付き合いももちろんあるけど、
でも、クヌート殿下が優しそうな人で良かった。相手が威圧的な男性だったらどうしようと思っていたから
これなら……木材輸出の取引に応じてくれるかもしれない。
クヌート殿下はにっこりと笑った
「実はアリサ殿とは以前、舞踏会でお会いしたことがあるんです」
「えっ! ……そ、それは……」
ま、まずい。せっかく友好的な雰囲気なのに、思い出せなかったら、心象が悪くなってしまう。
ただ……ニーノルスクとルーシは隣国だけあって、頻繁に社交の場が設けられている。わたしも一応、王太子殿下の婚約者だったので、引っ張りだこだった。
もっとも対人能力のないわたしは、形ばかりの挨拶を繰り返すだけになりがちだった。
そういうふうに挨拶した相手の一人に、クヌート殿下がいるのかもしれない。
クヌート殿下は気を悪くした風でもなく、くすっとした。
「覚えていないのも無理もありません。私はもともと大公家では傍流の人間でして、しがない分家の男爵家の子息でした。ただ、本家の血筋が絶えたので、慌てて養子に取られたという次第です」
「そうだったのですね、申し訳ありません……」
「いえいえ、アリサ殿とお話できただけでも、当時の私には十分喜ばしいことでした。アリサ殿は高嶺の花でしたから。ニーノルスクの貴族も皆憧れていたのですよ」
「わ、わたしが高嶺の花!? な、なにかの勘違いでは……」
わたしはたしかに王太子の婚約者で、公爵家の令嬢という高い身分を持っていた。
でも、それだけだ。
身分は高いけれど、華やかな雰囲気なんてまったくない。王太子の婚約者に選ばれたということで、それなりに容姿は整っているけれど、地味だった。
妹のエレナの太陽のような明るさと比べると、わたしが憧れていたなんて到底思えない。
けれど、クヌート殿下は首を横に振った。
「美しく聡明な姫君として、誇り高き名家の孤高の令嬢として、アリサ殿は有名でしたよ。大国ルーシの王太子の婚約者だから、決して手が届かないところにいる深窓の姫でした」
わたしの知っているわたしとはずいぶん違う。
深窓の姫というより、わたしの場合は、単に他人と関わる能力が低かっただけな気がする。
でも……まあ、クヌート殿下はそのおかげでわたしに好意的なイメージを持っているようだし、交渉において悪いことじゃない。
「あのー、ええと、それで……」
本題を切り出そうとするが、言葉に詰まってしまう。隣のフェリックス君は、かちこちに緊張して固まっている。
わたしは深呼吸をした。落ち着かないと。
クヌート殿下は、面白そうにわたしたちを見た。
「用件は、先立ってお送り頂いた手紙を拝見して把握しています。アルハンゲリスクからの木材輸出をニーノルスクに行う代わりに、領地経営のための資金の提供を受けたいというご意向ですね?」
「はい」
スターリング連合王国からの借金を返すため、ということは意図的に伏せている。借り換えだとわかれば、足元を見られる危険があった。
スターリングからの借金の返済ができなければ、わたしたちはアルハンゲリスクを失う。その事実がニーノルスクに知られれば、不利な条件でも飲まないといけない。
クヌート殿下は、あくまで上機嫌だった。
「いいでしょう。ご提案に沿って資金を提供します」
「ほ、本当ですか!?」
あまりにもあっさり、クヌート殿下がうなずいたので、わたしは拍子抜けした。
実際、ニーノルスクにとっても有利な提案ではある。
そうはいっても、これほど簡単に話がまとまったのは違和感がある。
クヌート殿下の翡翠色の瞳が、不思議な色に輝いた。
「ただし、一つだけ条件があります」
「な、なんでしょうか?」
「アレクサンドル殿下とアリサ殿の婚約は破棄としていただきます」
「えっ……ええ!?」
わたしは衝撃のあまり、思わず情けない声を上げた。それでは本末転倒だ。
もちろんアルハンゲリスクの領地の発展を考えていないわけではない。
でも、わたしの第一目標は、アレク様と一緒にいることだ。そのために、わたしたちはアルハンゲリスクの領地を維持しようとしている。
なのに、婚約が無効になってしまっては何の意味もない。
というより、クヌート殿下はどうしてそんなことを条件にするのだろう。
殿下は、繊細な細い指先でとんとんとマホガニー製の机を叩いた。
「アリサ殿には……私の愛妾となっていただきます」
クヌート殿下の言葉が、広い部屋に響いた。
<あとがき>
予想外の危機……?
二度目になりますが、
公爵令嬢と執事の少年の幼い二人の恋愛もの
『婚約破棄されました。でも、優しくてかっこいい幼なじみ執事と結婚することにしたから幸せです!』
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