第2話 エレナ&フェリックス君
エレナはまだアルハンゲリスクに滞在するつもりだと言った。
わたしはびっくりして問い返す。
「か、帰らないの!?」
「最初に言ったでしょう? 長旅してここまで来たんだから、すぐ帰ったら面白くないし。それに……もう少しお姉ちゃんと一緒にいたいし」
エレナは顔を少し赤くして、ささやくように言った。
そう言ってくれるのは嬉しいけれど……。わたしはちらりとアレク様の横顔を見た。
アレク様はわたしの視線に気づくと、微笑んだ。
「もちろん、エレナさんなら大歓迎だよ。好きなだけここにいてくれていい」
エレナは嬉しそうにうなずいた。
まあ、お父様やミハイル殿下からなにか言ってこなければ、当分のあいだは問題ないかもしれない。
そのとき、こんこんと扉がノックされた。
おずおずと入ってきたのはフェリックス君だった。
「紅茶のおかわりをお持ちしました……」
フェリックス君の声に、エレナが水晶のような瞳をきらきらと輝かせる。フェリックス君はびくっと震え、こわごわとした様子で紅茶を注いでいく。
初日にエレナに抱きしめられて以来、フェリックス君はエレナの前ではびくびくしている。
フェリックス君は紅茶をカップに注ぎ終わると、ポットをテーブルの上に置き、逃げるように立ち去ろうとした。
けれど、そうはいかなかった。
エレナがぎゅっとフェリックス君の手をつかんだからだ。
「な、なんですか?」
「そんなに急いで行かなくてもいいのに。あたしのこと、嫌い?」
エレナが上目遣いで、切なそうにフェリックス君を見る。
あ、あざとい……。
さすが学園一の人気者の美少女だけあって、しおらしい仕草をするととても可愛い。
フェリックス君も、顔を赤くして、慌てて首を横に振る。
「い、いえ、嫌いだなんて、とんでもありません」
「なら、あたしのこと好き?」
エレナは急ににっこりと、からかうような表情でフェリックス君を見つめた。
フェリックス君は口をぱくぱくさせ、耳まで顔を赤くした。エレナにペースをつかまれてしまっている……。
「き、嫌いではないです」
「フェリックス君は可愛いな―」
突然、エレナがぎゅっとフェリックス君を抱きしめる。
小柄な美少年のフェリックス君はあっぷあっぷとしながら、「やめてくださいよー」と涙目で抗議している。
わたしは苦笑いした。まあ、フェリックス君も、エレナみたいな美少女に抱きしめられて喜んでいると思うし(なんといっても、本人がそう言っていた)、まあ、いっか。
「アリサ様~、助けてくださいよ~」
気がつくと、エレナが満面の笑顔で、フェリックス君に頬ずりをしている。
そ、それは少しやりすぎかも……。
でも、フェリックス君の綺麗な顔も、満更でもなさそうに顔が緩んでいるような……。
突然、エレナがこちらを振り向く。
「アレク様とお姉ちゃんもこのぐらいスキンシップをなさってはどうですか?」
「「え!?」」
わたしとアレク様は顔を見合わせる。
エレナはにやにやと水晶のような瞳でわたしたちを見つめる。
「お姉ちゃんたちのことだから、キスもしていないんでしょう?」
「そ、そうだけど……」
「なら、アレクサンドル殿下が、お姉ちゃんを抱きしめて頬ずりをしてみても良いと思うの」
そ、それはおかしいような……。
けれど、フェリックス君が「それは名案です」とエレナに抱きしめられながら、口をはさむ。
肝心のアレク様は、顔を赤くして、わたしを見つめていた。
い、意外と乗り気なのかも……。
「やっぱり、あたしの前で、殿下がどれだけお姉ちゃんを愛しているか、見せてほしいんです。あたしがフェリックス君にできることなら、殿下がお姉ちゃんにできないわけないでしょうし」
エレナは挑発するように、その美しい髪をかき上げて言った。
アレク様はしばらくためらった後、そっとわたしに手を伸ばした。
わたしはどきりとする。
エレナとフェリックス君が、わくわくとした表情で見守っている。
アレク様の柔らかく大きな手が、わたしの肩に静かに触れた。
わたしはびくっと震える。
ほ、ほんとに……アレク様がわたしに頬ずりするの!?
<あとがき>
次回から話が動きます!
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