第6話 壁ドン?
「な、なるほど……そういうことか」
アレク様は顔を少し赤くして、うめいた。
エレナに、アレク様がわたしのことを愛していると証明しなければならない。
そうしないとエレナはミハイル殿下の説得をしてくれないらしい。
困った。
「ええと、エレナさんの言う通り、たしかにミハイルは公私混同しないだろうから、やっても効果は薄いかもね……」
アレク様は早口で目を伏せながら言う。
わたしはアレク様の青い瞳を覗き込む。サファイアのようなその瞳には動揺の色があった。
「でも、やるだけやってみる価値はあると思います。もしかしたらなにかミハイル殿下になにか誤解があるのかもしれませんし、ミハイル殿下と交渉することもできます」
「たしかに、そうだけれど……」
「アレク様……恥ずかしいからやめておこうと思っていらっしゃいませんか?」
どきっとした様子で、アレク様はふるふると首を横に振る。
……図星なんだ。
恥ずかしい気持ちはよくわかるけれど、手段を選んでいる場合じゃない。
でも、何をすればいいんだろう……?
「こ、恋人とか夫婦らしいことをすれば良いんですよね……?」
さっきも考えたけど、たとえばキスをするとか……。
「ええと、たとえばキスとか……?」
アレク様がわたしの脳内とまったく同じことを言う。
わたしとアレク様は顔を見合わせた。わたしはアレク様の赤い唇を見ていて、殿下もたぶんわたしの唇を見ている……。
そして、かあっと顔を赤くして、互いから目をそらす。
「そ、それはやめておこうか」
アレク様が慌てて言う。
わたしはうなずきかけて……でも首を横に振った。
「い、今は……どんなことでもやるべきだと思うんです。それに……殿下にだったら、わたしはキスされても平気ですし……」
「そ、そう?」
「はい。いえ、『平気』じゃなくて『嬉しい』……と思います」
わたしは小さな声で、アレク様にささやいた。
とても恥ずかしいことを言った気がする。たぶん、わたしの顔も真っ赤だ。
アレク様は黙って椅子から立つと、わたしの手をとった。
「あ、アレク様……?」
「アリサも立って」
優しい声で、アレク様は言う。わたしがおずおずと立つと、アレク様はわたしの手を引き、そして、窓側の壁際へと連れて行く。
わたしが壁側にいる状態で、アレク様はわたしにまっすぐに向き合った。
「え、えっと……?」
「アリサがそこまで言ってくれたんだから……やらないわけにはいかないさ」
アレク様は、壁に手をついて、少しだけわたしとの距離を縮めた。
どきりとする。
こ、これはいわゆる「壁ドン」!? 王都の図書館でよく読んでいた恋愛小説にもときどき出てきていたようなシーンだ。
そういう小説では、ヒーロー役は強引にヒロインに迫るわけだけれど……。
殿下はもじもじとしていて、その頬はとても赤い。照れているんだ。そこには強引さはなくて、そんなアレク様が可愛くて……かっこよく見えた。
「アレク様の好きなようになさってください」
わたしが微笑むと、アレク様はうなずき、そっとわたしの唇に、自分の唇を重ねようとし……。