【SSコン:段ボール】 お願い事
工作をしようよ、そう言われて入った先は一見ゴミ屋敷。でも良く見れば水晶やら細工物やら貴重なものであろうものがたくさんおいてあった。
「ここにあるのは基本好きに使っていいよ」
いやこれを? と思うようなラインナップだ。テレビの査定番組に出しても普通におかしくない、なんなら高額査定されそうなものまで揃ってるのにこれを好きに使って工作? 色々冗談じゃない。
「えーっとね、とりあえずはこのモーターと、あとは……あった。紙ストローの袋! 他にも空き瓶とかあるから見つけ次第回収してね。僕が使うかも。装飾品はあまり使わない方が持ち帰るの楽だけど、まぁ一作につき一個くらいなら問題ないだろうし、気に入ったのとか好きなの使っていいよ」
そういうことなら……よくはない気がするがいいか。
どうにかして心置きなく使えそうなものを探し出した。主に高級そうな品々をまとめて入れていた段ボール。それに小さな水晶球を合わせて、お城を作る。そう言えば、とここに誘った得体の知れない人物を見れば、同じく段ボールで何かを作ろうとしていた。
「よっと」
口で段ボールの一番上の薄皮を剥いでいる。衛生的によろしくないんじゃないか? でもここには大それた道具もないから仕方ないか。
屋根を作る段階になって、私も薄皮を剥いでカタカタとした質感の塔が欲しくなった。でも指ではうまく剥げない。仕方ないので先程あいつがしていたのと同じように口で剥ぐ。なんでか今度はうまく行った。なんでだ。
そんなこんなしていると夕暮れに。なんとか門限に間に合う時間にやっと完成した。
「おぉ、すごいなぁ!」
あいつはしげしげと段ボール製のお城を観察している。その手には同じく段ボールで作られた、小さなハリネズミ型の車。装飾はその棘の先に小さな宝石(これが困ったことにおそらく本物)を使っている。
「お前のも大概すごいと思うけどな」
「そう! へへっ、頑張った甲斐があったな!」
照れたように笑うその顔が、なんだか少し寂しそうに見えて。
「またきてもいいか?」
そんな疑問を口に出す。
「覚えてたら、きてもいいよ」
まるで忘れるかのような口ぶりに。
「なぁ、だったら、もう一つだけ、このお城の装飾をちょうだい。そしたら、忘れずにまたここにくるから」
祖母の言っていた「願掛け」を思い出す。あれを使えばきっと、こいつの存在も、この変な屋敷への行き方も忘れやしない。
「ん、そこまで言うならいいけど……」
「助かる」
装飾品やらの山から一つ、小さい小さいそれを取り出して。お城の扉から中に放り込む。
「これでよし。じゃあまたくるからね」
「ん……バイバイ」
最後まで信用されていないのか、また会うという可能性は口にされなかった。
小さなダイヤモンドが埋められたピンキーリング。それを眺めながら思う。さて次行く時はお土産が必要だなぁ。何を持っていこうか。あぁ、あのハリネズミの、ちょっと残った何もついてない棘にはめられそうな真珠なんてどうだろうか。それとも、何か他のものがいいだろうか。
「うん、大丈夫。忘れてない」
祖母のあの話を思い出しながら、ダイヤモンドを見つめる。
『おばあちゃん。なんで結婚指輪はダイヤモンドにする人が多いの?』
祖母の指にはまった繊細な細工の指輪をちょいちょいとつつきながら聞いた。
『それはね、ダイヤモンドには「永遠」という意味が込められるからなのよ。私は、この人を永遠に愛したいです、ってお願いするの』
優しい目で祖母は私の頭を撫でていた。
『じゃあ、なんでおばあちゃんは指輪にダイヤモンドを使わなかったの?』
祖母の指輪には、真珠がはまっていた。
『ふふ、私はねぇ、おじいちゃんのこと、ずーっと好きでいられる自信があったから。別のことをお願いしたかったの』
『別のこと?』
『えぇ。この人と、どんな嬉しいことも、どんなに悲しいことも、全部わけっこできますように、ってお願いしたのよ』
そういう祖母の目はどこまでも優しくて、その笑顔はとても柔らかかった。
『真珠にはそういうお願いができるの?』
『えぇ、できますとも。真珠は昔、人魚の涙だと言われていたの。涙は、悲しい時だけじゃなくて、感動した時や、嬉しい時にも出るのよ? だから、私はそれを全部わけっこできますように、ってお願いしたの』
そんなことを思い出したから。
「やっぱり、真珠にしよう。ずっと友達でいられるように」
どんなことでも分け合える、のなら。ずっと一緒にいるということじゃないか。だったら、小さな真珠のネックレスから、一珠だけ抜き取って、お願い事をしてみる価値はある。実際「永遠に忘れたくない」というお願いをこの指輪にはまった小さなダイヤモンドは聞き届けてくれた。
ちょっと時間を置いてから行こう。もうくるはずがないと思っているところに現れてやったら、あいつはどんな顔をするだろうか。ちょっと今から楽しみだ。