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八話 試しの腕輪、狂獣の首飾り

 男に連れられ屋敷に入る。

 先程ワイバーンから助けた男だ。

 

 いきなりワイバーンが出てくる状況、これ以上は危険ということでリュカとバスカルは屋敷に入る前に帰った。

 


 この屋敷は商人の家ということだったが、内装の壁には商売とは不似合いな、剣や槍などの武具が飾られていた。


 この館の主人の趣味だろうか。

 いや、それにしては年季の入った古い武具が多い。

 古美術品(アンティーク)というヤツか?

 


 応接室に通され男と向かい合い、座る。


「改めまして、先程は本当にありがとうございました。私はこの屋敷の主でユーズ・ロベールと申します。ギルドに手紙を出したのも私です」


「冒険者のアラン・ドールだ」


「ギルドから聞きました、あのオーガも貴方達が倒して頂いたそうですね。……いかがでした?」


 ──いかがでした、とは?


 どういう意味だろうか。


「普通のオーガより強かったが、それより状態が異常だったな。あれは完全に正気を失っていた」


「──!

 やはり、そうでしたか……」


 不快さを滲ませた表情を浮かべ、俯くユーズ。

 あのオーガについて何か知っているようだ。


「いや実はその件、盗まれた私どもの家宝のせいなのです」


 ──どういうことだ?


「その家宝とはある魔道具で、魔物の力を限界以上まで引き出し、さらに恐ろしいことにその魔物を凶暴化させるものなのです」



 詳しく聞くとこのユーズの父は著名な魔獣使い(モンスターテイマー)だったらしい。

 すでに亡くなっているそうだが、この屋敷に飾られている武具も生前に実際使っていたものだそうだ。納得。


 そして、その冒険の遺産の中に件の魔道具があったと。


 魔物を強くして凶暴化させるなんて、はた迷惑な魔道具だ。

 人間側からすれば害にしかならない。

 なぜそんな物を家宝に?


 しかしそれには理由があった。


「あの魔道具、『狂獣の首飾り』と言うのですが、本来は使役している魔物の力を強化させる物なのです。ただ使用するには特殊な魔力が必要で、その資質がない者が使うと──」


「あのオーガのように、使役している魔物が凶暴化すると」


「ええ、その通りです。これをご覧下さい」


 ユーズは棚の引き出しから白い腕輪を出し、自らの腕にはめた。

 うっすらと赤くなる腕輪。


「これは『試しの腕輪』といい魔物使い(テイマー)としての資質を測る物です。少しだけ赤くなっているでしょう?

赤いが濃くなるほど、魔物と相性の良い魔力を持っているということです。残念ながら私にはテイマーとしての才能はないようですがね」


 鼻をかき自嘲したように笑うユーズ。

 冒険者だった父親と違い、商人をしているのもその辺りに理由がありそうだ。


「私の父はこの腕輪を深紅に染める程の魔力の持ち主でした。そんな者は滅多に居ない。つまりはそれ程の資質がないと、あの『狂獣の首飾り』は扱えないのです」


 なるほどな。

 その資質がない者が使ったのであのオーガは凶暴化したと。


 俺はどうなんだろう?

 テイマーとしての資質はあるのだろうか。


「ちょっと貸してみてくれ」


 ユーズから試しの腕輪を渡され、装備してみる。



 ──真っ青。


 びっくりするくらい真っ青。


 ……これはどういうことなんだろう。

 赤くなるんじゃないのか?


「これは……素晴らしい。おそらくアランさんはよほど退魔に優れた魔力をお持ちということでしょう。こんな色は私も初めて見ましたが……」


 少し首を傾げるユーズ。


 とりあえず俺にテイマーとしての資質はないようだ。

 だってめちゃくちゃ青いし。



「まあ、あらかた経緯はわかった。その首飾りが盗まれて使われている、それもおそらくは魔物に。手紙にあった依頼というのはその首飾りを取り返してほしい、というものだな?」


「……いえ。魔物に盗まれたというのはその通りですが、依頼は二点、『狂獣の首飾り』を破壊してほしいということ。そしてもう一点は、私の娘を守ってほしいのです!」


 ──破壊? 警護?

 その首飾りは家宝ではないのだろうか。

 しかも娘を守ってほしいと言う。

 話が見えないな。



 ──バンッ。


 突然、応接室のドアが開く。


「パパ! ワイバーンに襲われたって大丈夫?!」


 金の髪に青い瞳。成人には満たないであろう女の子が、大声を出しながら部屋に入ってきた。

 ユーズの娘さんか。


「ああ、大丈夫だ。この人に助けてもらった。冒険者のアラン・ドールさん、お前の警護も頼もうと思っている」


「──ッ!」


 その子はユーズの言葉を聞いた途端、明らかに怒った表情になった。


「もう、パパ! 警護なんて要らないって言ってるでしょ!」


 コチラを睨みつけてくる女の子。

 俺なにか怒らせる様なことしただろうか?


「……アランさん、パパを助けてくれてありがとう。でも貴方には用はないわ。悪いけど今すぐ帰って」


 めちゃくちゃな言われようだ。

 

「こら、シリル! 失礼なことを言うんじゃない。お前も今の状況はわかっているだろう!」


「自分の身くらい自分で守れるわ! 要らないって言ったら要らないのよ!」


 ユーズの娘──シリルは怒りに任せて机をバンと叩き、机の上の物が散乱した。


「……とにかく護衛は要らないから。魔物が来たら返り討ちにしてあげるわ」


 少し我にかえったのか、声のトーンを落とし散乱した物を拾い上げるシリル。


 そこで一瞬だが俺は見た。


 シリルが『試しの腕輪』を拾い上げた時、腕輪が煌々と深紅に染まっているのを──



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