七話 対ワイバーン
洞窟攻略から数日後──
報酬を受け取ったギルドから連絡がきたというので、俺は再びリュカとバスカルに呼び出されていた。
「あの……その……アラン、この間は本当にありがとう……」
──?
頬を赤らめ俯きかげんにモジモジと話すリュカ。
最初に会った時の、自信に溢れた明朗快活さはどこにいったんだろうか?
束ねていた髪を下ろし、服装も薄着にスカートで冒険者というより町娘といった出で立ちだ。
洞窟でオーガに鎧を壊されて、鎧の替えが無いのだろうか。
──!
そうか、わかったぞ。
モジモジしてるのは鎧が無くて不安なんだな。
強力な装備というのは身に付けてるだけだ自信がつく。
例え武具の力でも自分が強くなったと錯覚するものだ。わかるわかる。
しかし、装備に頼っている内はまだまだ甘い。レベルを上げればいずれ己の肉体が鎧の代わりになる。
やはりレベルアップこそ至高──
「それで兄貴、これがギルドから預かった手紙なんだか」
今からリュカにレベル上げの素晴しさを伝えようと思っていたが、その前にバスカルから手紙を渡された。
手紙に目を通す。
今回のオーガ退治に対して改めてお礼ともう一件、依頼を頼みたいという内容だった。
「ねえ、これって……」
「うむ。封印された扉、改変されたダンジョン、中身の補充された宝箱。あの理性の無いオーガがやったとは考えにくい。もう一件の依頼というのは、黒幕を倒せということだろう」
「ひえっ! 黒幕ってあのオーガより強い奴が居る、ってことだろ。俺たちには手が余るぜ」
「そうね、でも私たち駆け出しの冒険者は直接依頼された仕事は断れない。選り好みしてるなんて評判がたてば今後仕事が来なくなっちゃうよ」
「じゃあこの依頼受けるのかよ、姉御」
「いえ。あのオーガ凄く怖かった。さすがにあれ以上の魔物討伐ってのは……うーんでも……」
手紙を見つめてしゃがみ込み、悩む二人。
断りたい仕事は断った方がいい。
俺から見ても明らかに二人では手に余る。
「──俺が行こう。ギルドにはそう伝えてくれ」
手紙から顔を上げ、驚いた様にこちらを振り返る二人。
「え! 危ないよアラン! ……でも、確かにアランなら──」
「マジですか兄貴! すいません、また俺たちの為に……」
乗り掛かった船だ。それに責任も感じている。
レベルを隠して参加したことで二人を危険にさらしてしまった。
俺は居なければ、二人は洞窟の扉で引き返しただろうからな。レベルに合わない戦闘をさせてしまった。
この件は俺が確実に片をつけなければ。
〜〜〜〜〜
ガタゴト──
揺れる馬車の中。付近の地理がわからない俺はリュカとバスカルに案内され、依頼主の屋敷に向かっていた。
俺の場合は走った方が断然早いのだが、たまにはこうして景色を眺めながら荷馬車に揺られるのもいいものだ。
「あ、見えてきた! あの屋敷よ」
──なんだ、あれは?
リュカが指差した方に目をやると屋敷の敷地内──中庭だろうか──の上空に何か妙なものが動いているのが見える。
「うわあぁ! 助けてくれぇ!」
──!
あの動いてるもの、あれは魔物だ。
誰かが上空を飛行する魔物に襲われている!
「あれは翼竜! こんな所にワイバーンが居るなんて!」
「……馬車を止めてくれ」
「アラン、止めに行くつもり!? ……行くならワイバーンの爪に気をつけて! あの爪に一度でも掴まれたら終わりよ!」
そう、翼竜は上位個体になると火を吐くものも居るが、何より危険なのはその鋭い爪と牙だ。
一度その爪に捕まれば、身動きのできない上空に連れていかれそのまま引き裂かれるか、もしくは地面に叩きつけられるかだ。
あの襲われている男も放っておけばいずれそうなる。
俺は馬車から降り急ぎ駆け、男とワイバーンと間に割って入った。
「伏せていろ」
男にそう伝える。下手に動かれると危険だ。
男は驚いた顔をしていたが指示通り地面に伏せる。
「キシャアァ!」
ワイバーンの標的がこちらに向き、その鋭い爪で襲いかかる。
俺はその爪に──普通に捕まった。
「キシャア!?」
ワイバーンは俺を上空に持ち上げようと引っ張るが、浮き上がらない。
それもそのはず。俺は地面を踏み抜き、両足を埋めているのだから。
──バキンッ!
それでも強引に引っ張り上げようとした為にワイバーンの爪が折れた。
力が緩んだ瞬間その足を掴み、強烈に地面に叩きつける。
翼ある者を地面に落とすなんて不粋だと思うが、仕留め損ない飛んで逃げられるのも困るからな。
「ギュアァ……」
一鳴きし動かなくなるワイバーン。
「兄貴、思いっきり爪に掴まれていたみたいだけど、無事っすか!?」
一足遅れてリュカとバスカルが追いついてきた。
ちょうどいいタイミングだ。
「アラン、大丈夫!? 怪我してない? 回復薬かけるから見せて! あ、爪で服に穴が空いてる、繕うね!」
……リュカはここまで世話焼きだっただろうか?
戦闘のたびに服を繕っていたらキリがないぞ。
服を引っ張るんじゃない。
「大丈夫だ。それより──」
安全であるはずの土地で、しかも屋敷の敷地内でワイバーンに襲われる、それはいったいどういう理由だろうか。
俺は突っ伏している男に手を差しだす。
「あ、あなたは……」
「アラン・ドール。こっちはリュカとバスカル。冒険者だ」
「おお、あなた方があのオーガを倒した……」
一息つき、落ち着いた男はこう言った。
自分の娘を守ってほしい、と──