六話 駆け出しの洞窟、対オーガ
先程聞こえた奇妙な咀嚼音の元へと向かう。
「そういえば退治する魔物というのはどんなヤツなんだ?」
洞窟の深部まで進んで今更ながら聞く。
今頃こんな事を確認している時点で俺も大概だな。
「鬼人よ。貴族の荷馬車を襲って金品を奪ってるのを見たの。それで追いかけてみたら、この洞窟のある森の中に入るのが見えたってわけ」
「あのオーガを仕留めたとなったら大金星だな、姉御!」
──鬼人か。
たいした相手では無いな。
ただのオーガであれば──
入り口の扉、洞窟の造り、魔道具の入った宝箱、全てが妙だ。
ここに居るのが普通のオーガとは考えにくい。
「──居たわ、あの岩陰の奥!」
「よし! ここはこのバスカル様の奇襲で……ひいっ!」
勇んで前に出たバスカルだが、オーガの姿を見て尻もちをついた。
オーガは虚な目つきで近くにいたゴブリンを掴んでは──喰らっていた。
豚頭人でもあるまいし、オーガがゴブリンを喰うなど異常行動だ。
予想通りコイツは通常のオーガではないな。
「グルルル……!」
「姉御、どうしよう! コイツなんか目つきがおかしいぜ!」
「ここまできたらやるっきゃないでしょ! アラン、あなたは手を出さず後方から援護して!」
二人はオーガの左右に回る。
左からリュカが二刀流、右からバスカルの十字斬りで計四発の斬撃。
なかなか良いコンビネーションだ。
だが──
「姉御、こいつの皮膚、剣が通らねえ!」
「ウソ……オーガの肌がここまで固い筈は──きゃっ!」
オーガはその大きな手で二人を鷲掴みにした。
「グルァアァァ!」
そして、そのまま握り潰さんとしているようだ。
二人の鎧がミシミシと音を立てひしゃげる。
バスカルより軽装な分リュカの方が危険だ。
「いやぁ! 痛い、やめて! 離して!」
「姉御! くそっ、離せクソ野郎!」
バスカルは腕に剣を突き立てるがビクともしない。
「あ……あ……かはっ……」
──マズい。
このままだと鎧だけでなくリュカの骨まで砕ける。
すでに呼吸もままならないようだ。
俺は片足を上げ──勢いよく地面を踏み抜いた。
──ドウンッ……!
地面が割れ振動が走り、衝撃が洞窟中に広がっていく。
洞窟全体が揺れてあちこちで崩落が起きた。
地面が崩れたことにより体勢を崩したオーガ。
その持ち手が緩む。
──今だ!
俺は両足でオーガの腕を上下から挟み込むように、力任せに蹴り抜いた。
上下からの圧力に耐えきれず、引き裂けちぎれ飛ぶ右腕。
「ガァアァァ!」
左腕のバスカルを手放し、怒り狂ってこちらに襲いかかってくる。
──コイツ、痛覚が無いのか?
その表情から見てとれるのは痛みではなく怒りだけ。
完全に正気を失っているようだ。
いや、何かに操られてるのか──
「ガハッ、ゴホッ……! ア、アラン、危ない!」
うむ、リュカは無事なようだな。
それにしても危ない、か。
実際に危なければ、レベルアップのきっかけになったかも知れないが、残念ながら──
先程リュカにしたのと同じように、オーガは残った腕で俺を握り潰そうしてきた。
が、俺は逆にオーガの腕を握り潰した。
「ガアァァァ!」
さらなる怒りに燃えるオーガ。
操られてるだけなら可哀想だが、さりとて野放しにもできん。
悪いがここで片をつける。
俺は腰の剣を抜いた。
──うん、一撃くらいなら大丈夫か。
「ハァッ!」
剣を振り抜き横一文字に──オーガを一閃した。
「なぁ!? 俺がいくら斬りつけても、傷一つもつかなかったオーガを斬った!?」
──魔剣バルムンク。
魔界で見つけた、俺の攻撃力に耐えられる数少ない名刀だ。
いくら硬くてもオーガくらいは容易く斬れる。
「凄い……アラン、本当に凄い……」
あっという間に戦闘は終わり、二人ともぽやーんと惚けている。
いや、惚けている場合ではない、急いで洞窟を脱出しないと。
少々やりすぎた……
先程の踏み抜きで洞窟が崩壊しかかってる。
〜〜〜〜〜
「あーあ、結局全部埋まっちゃった」
リュカを抱えて三人とも脱出はできたが、やはり洞窟は崩落した。
「まあまあ。どうせオーガが集めてた金品は全部盗品だろう? 回収できていたとしても持ち主に返却しないといけないし、ギルドからは報償金が貰えるからいいじゃないか」
「ほとんどアラン一人で倒したんだから、報償金は当然アランのものでしょ」
あ、そういえば、この二人には口止めをしておかないと。
「それなんだが三人で倒したってことにしてくれないか? どうやって倒したかは他言無用ってことで」
「え! なんで?」
噂になってスカウトが来るのが嫌だから……とは言いにくいな。
「ほら、二人とも頑張ったんだから、三人の功績にして報償金は山分けの方がいいだろう。いっときとは言え、俺たちは仲間じゃないか」
「アラン……! 私たちの為を思って……!」
「アランさん……いや、兄貴……!」
うむ、上手くゴマせたな。ふふふ。
まあ実際この話は広めない方がいい。
先程のオーガ──ひいては今回の事件にはおそらく黒幕が居る。
この二人に危険が及ぶかもしれん。
後日、
予想通り今回の件でギルドを介して、一通の手紙が届いた──
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