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三話 スライムとの戦い


「上と相談してきました! すいませんが今回は別の方法で測定していきますね。実戦判定です!」


 受付嬢は戻ってくるなりそう言った。


 魔道具を使ったステータス測定ができなくなったので、というか俺が壊したので、上司に相談していたようだ。

 いや悪いことをした。


「実戦測定というのはつまり、町の外に出てスライムと戦ってもらいますね!」


 ──スライム?


「スライムと戦ってステータスが測れるものなのか?」


「いえ、ステータスを測る為ではなく最低限の戦闘能力があるかのチェックですね。元々はステータスもその為に測っていたものですから」


 なるほど、無用な死人を出さない為か。


 確かに最弱のスライムに勝てないようなら冒険に出てもすぐに死ぬだけだ。

 誰かれ構わず登録してバンバン死人が出ました、なんてことになればこの登録所──ひいては国に批判が集まるだろうしな。


 最低限生き残れるくらいの力は見せろ、と。


「バスカルさんも一緒に受けてもらいますね」


「ああ? 俺もかよ!?」


「先程のステータスの数値が正しかったのかわかりませんからね。受けないなら許可書は

発行できませんよ!」


 いや、数値は正しかったのだ。

 すまんバスカルとやら。


 結局三人で町の外にあるスライムの出現する場所へと向かった。


「いやー、やっぱり外に出るのはいいですね。私、事務作業よりこうやって現場に出る方が好きなんですよ!」


 ああ、さっきから急に元気になったなと思っていたらそういう理由か。

 そりゃ一日中建物の中に居るよりたまには外に出た方が気分転換に──ん?


 あれ?

 これ戦闘能力の判定も受付嬢がするのか?

 大丈夫なのか?


 そんな疑問に答えるように目的地に着いたところで受付嬢はこう言った。


「ではこの草原で判定していきますね。判定は私、レミが行います! 以前冒険者もしていましたので見る目はあります。こう見えて二級認定を受けてるんですよ!」


「二級!?」


 バルカスは驚いているようだが、なるほど二級冒険者か……


 ──うん、どういうものか全然わからん。

 なんだろう二級って。

 昔はなかった基準だな。

  

 ざっくり説明を聞くと冒険者は一級から四級のランクがあるらしい。

 実績に実力によって国から認定されるそうだ。

 一級ともなれば一流の冒険者という事だな。


 そんな話をしていると、

 さっそく何体かのスライムが集まってきた。


 餌を求めて徘徊する顔も何もない粘性の魔物。

 だがその動きからこちらに襲い掛かろうとしているのがわかる。 


「じゃあまずはバスカルさんから」


「よっしゃあ! くらえ、『十字斬り』!」


 バスカルは左右各々にかけた腰の剣を抜き、二本の剣でスライムを斬りつけた。

 大柄な見た目と粗野な口ぶりのわりには綺麗な太刀筋の技だ。


「さすがですバスカルさん、見事な剣技ですね。これなら登録は問題なく大丈夫です。じゃあ次はアランさんお願いします」


 先程の『十字斬り』はスキルだ。

 筋力ではなく魔力によりある一定の型や作用をもたらす。

 スキルというのはそういう仕組みらしい。

 

 さて、俺はスキルは使えないからなー。

 何を見せればいいのだろう?

 とりあえず──殴って倒すか。

 

 遅すぎるスライムの動き。

 構えるまでもない。

 飛びかかってきたところで力任せに殴る。


 

 ──バーンッ!



 拳がスライムに触れた瞬間、人気のない草原に炸裂音がこだました。

 衝撃により一陣の風が巻き起こる。 


 ──軽い。

 軽すぎて何の手応えもない。


 拳の衝撃に触れて当のスライムは跡形もなく霧散していた。


 一瞬で終わってしまった。

 おそらく一秒も経っていなかったろう。

 これで良かったのだろうか?



 受付嬢の──レミか、レミの方を見るとまた目を丸くしてキョトンとした顔をしていた。

 

「……え? え? 今よく見えなかったんですが何をしたんですか? さっきのスライムはどこ行ったんです?」


 ──んん?


「俺は見てたぜ。そいつの体が一瞬揺れて……気づいたらなんかスライムが消えてた」


「もうバスカルさん、全然見えてないじゃないですか! アランさん、今何をしたんです?」


「え、殴ったんたが」


 ──見えていなかったらしい。


「何かスキルを使ったんですか? もー、さっきスキルは持ってないって言ってたのに」


「いや、使ってない使ってない!」


「ってことは無自覚か。アランさん、もしかしたら凄いスキル持ってるかも知れませんよ。スライムが消えたから浄化系か転移系かなー。いや、近づいたら発動する結界系かも……」


 元冒険者としての血が騒いだのか、レミはスキル考察を始めた。

 まだまだ冒険に未練ありありなんじゃないか?


 まあスキルのせいだと思われた方が色々と都合はいい。

 とりあえず合格判定は貰えるのだろうか──



 ──ザサッ


 ──?


 なんだ? 茂みの中から妙な物音がした。

 スライムの音ではないな。

 

「ここはスライム以外の魔物も生息しているのか? なにか変な足音がしないか?」


「いえ? ここは主にスライムだけの筈。だから実戦判定としてこの場所を──。いや、あれは!」


 低い唸り声と共に茂みの中から音の主が現れた。


 四つ脚、漆黒の毛なみ。鋭い牙に人ほどもある体躯。

 毛なみの上からでもわかる、力感に溢れた筋肉。


 ──うん、これは、犬だ。


「あれはブラッドウルフです!」


 狼か。


「こんな高レベルの魔物がこんな町の近くに出るなんて……! このままじゃ町も危ない!」


「ヒャハハ、このバルカス様に任せろ! こいつも俺の十字斬りの餌食にしてやる!」


 先程からずっとつまらなそうにしていたバスカル。

 ここぞとばかりに前に出る。


「ダメですバスカルさん!」

「ヒャハハ、くらえ十字ぎアーッ!」


 威勢良く飛び出したバスカルだったが、背後から襲いかかった別のブラッドウルフに尻を噛まれた。

 なんとも賑やかなやつだな。


「ほら! ブラッドウルフは群れで行動しますから他にもいる筈です! イチ、二、サン──全部で五体!」 


「あっあっあ、尻がー!」


「私がひきつけますのでその間に二人とも逃げて! 応援を呼んできて下さい!」


 ……てんやわんやだな。


 このままだと登録判定自体お流れになりそうだ。

 さすがにもう一度やり直しは面倒くさい。

 このままだと町に危険も及ぶだろう。


「──!? アランさん、何を!?」


 俺はレミより前に出てブラッドウルフの眼前まで進んだ。

 当然、牙を剥き襲いかかってくるブラッドウルフ。



 両腕、両足、──そして喉。

 五匹で的確に連携をとり噛みついてきた。


「グルルル!」

 

 はは、可愛いワンちゃん達だ。


 俺は食らいついた牙を振りはらうために、体を小刻みブルブルと震わせた。


 ブブブ──!


 振動で付近の木々が揺れこの葉が舞い散る。


 直後噛み付いてきているコイツらは──


 ──バキンッ。


 衝撃でブラッドウルフの牙が折れた。


「キャウンキャウン!」



 文字通り牙を折られ退散するブラッドウルフ達。

 これだけイヤな思いをすればもうここには近寄らないだろう。


「ええええ!? 今また何をしたんですか! というか怪我は!? 噛まれて平気なんですか!?」


「俺の尻も大変なことになってるのにアンタ大丈夫か──まったく血も出てない!?」


 今日、何度目だろうか。

 レミとバスカルはまた目を丸くしてあんぐりと口を開いていた。

 体をブルブルさせただけ──って言っても信じないだろうな。


 案の定、この後またしばらくレミのスキル考察が続いた。



〜〜〜〜〜



「はい! アランさんの冒険者登録証です」


 レミから登録証を受け取る。

 登録所に戻った俺は、無事に登録を完了することができた。

 ゴタつきはしたが、これで冒険に出てもいいとお墨付きを貰ったわけだ。


「アランさんは凄いスキルの才能が眠ってるんですから、精進してそれを開花させて下さい。期待してますよ!」


「……ありがとう」


 ──結局全部スキルのせいになったか。

 まあいい、目立つよりはいい。

 スカウトがまた来ても困る。


 

 こうして俺は冒険者登録所を後にし──


 ──ん?


 登録所を出ようとしたところで出入り口に立っているバスカルと目が合った。

 ジッとこちらを見ているが何か用事か?


「アンタ……いや、アランさん。聞いて貰いたい話がある。明日、時間があれば少し付き合ってくれないか」


 バルカスからの唐突な申し出。


 登録判定の時とはうって変わって神妙な態度。

 真剣な顔をしているが噛まれて破れた尻は丸出しだ。


 

「魔物退治に付き合ってもらいたいんだ」


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