二話 冒険者登録
──この町も久しぶりだな。
俺は今、冒険者の始まりの町と言われるルーズに来ている。
始まりの町と言われる理由は、町の中央に冒険者登録所がある事と、付近の魔物が弱く初心者が冒険を始めるにはうってつけなところだ。
冒険者はだいたいこの町からスタートする。
──まったく懐かしい。
初めて来たときは俺も立身出世に燃えていたな。
まさかこんな風に再度スタートすることになるとは。
俺は町中を眺め郷愁にふけりながらも冒険者登録所に向かった。
いやあ、久しぶりすぎてちょっとドキドキする。
別に悪いことをしている訳じゃないんだがあのお堅い雰囲気がどうにも……。
安酒場を兼ねてる民間ギルドのならもうちょい気楽に入れるんだけどなー。
ここ、冒険者登録所とは国営のギルドのようなもので、登録しておけば冒険者としての仕事を斡旋してくれる。
通称『登録所』
報酬は民間のギルドより安めだが、出どころのよくわからない怪しい依頼などはなく手堅い仕事を受けられる。
とは言っても俺が知ってるのは昔に登録した時の話なので、今は果たしてどうなっているかはわからない。
久しぶりに見た登録所の建物は以前より大きく綺麗になっていた。
多分建て直しをしたのかな?
いかにもお役所施設といった堅苦しい造りと内装は相変わらずだな。
ええーい、さっさと済ませてしまおう。
俺は受付に向かった。
書類に必要事項を記入し受付嬢に渡す。
「はーい冒険者登録ですね。ありがとうございまーす」
受付嬢は小慣れた感じで書類に目を通す。
「十五年ほど前に一度登録したんだけど記録は残ってないかな?」
「あーすいません、この建物一度火事になって昔の資料は残ってないんですよ。もう一度登録お願います」
なるほど。
この建物が新しくなっていたのはそういう訳か。
面倒だが登録もやり直しだな。
「じゃあ書類見させて貰いますね。えーとまず名前はアランさんで年齢は……三十二歳? えー全然見えない! 若く見えますねー」
ふむ、そういえばレベルがある程度に達してからあまり老けなくなった気がする。
これもレベルアップの副産物だろうか。
「使えるスキルは無しと……魔法もこれだけですか?」
「ああ、『ファイア』や『アイス』といった初級魔法だけなんだ。やはりこれじゃマズいかな?」
「いえいえ大丈夫ですよー。皆さん最初はそんなもんですよ。これから頑張って覚えていきましょう!」
最初は、っていうかずっとこれだけなんだけど。
「武器はどうですか?」
「う……武器はダメだ。ほとんど使えない」
そう、武器はダメなんだ。
大概は使えばすぐに壊れてしまう。
一応剣は持ってるがこれも連続して使えば折れてしまうだろう。
「なるほど、大体わかりました」
今のやり取りだと俺がもの凄く弱そうに聞こえる気がするが大丈夫だろうか?
レベルは高いぞ?
「じゃあ、後はステータスを計りますねー。こちらへ来てください」
面接のような質疑は終わり、
受付嬢にとある魔道具の前まで案内された。
水晶玉のような魔道具。
ああ、この魔道具はよく知っている。
これは『魔道計測機』だ。
レベルや体力、魔力などのステータスを数値化して見ることができる。
今まで何度もこれで己のレベルを測ってきた。
「こちらにかけて少々お待ち下さい」
どうやら先にその測定具を使用している冒険者の男がいるようで、俺は言われた通り椅子に腰かけ順番待つことにした。
先の男が魔道計測機の水晶玉に手をかざすと、ぼうっとステータスが浮かび上がってくる。
男は水晶玉を掴み受付嬢と俺に見せつけてきた。
「ヒャハハ、どうだこのバスカル様のステータスは!」
その男──バスカルと言うようだが、自慢げに見せびらかしてきたステータスは、
レベル:15
体力 :84
攻撃力:82
防御力:76
魔力 :30
速さ :87
抵抗力:53
と。
──レベル15。
……おおう、伸び代だらけだ。
これだけ低ければちょっと魔物を倒すだけでで簡単にレベルが上がるだろう。
そう、簡単にレベルが上がる……
何度でもレベルアップの音が聞けるってことだ。
あーくそっ。
こいつ、嫌なものを見せつけてくれるな。
俺もこれくらいのレベルにまで戻りたい。
どこかにレベルを下げるアイテムとかは無いものか。
「羨ましいな……」
思わず、素直な気持ちが口に出てしまった。
「ヒャハハ、そうだろそうだろ。あんまり高くて驚いたか!」
「確かに初登録でレベル15は凄いですね。でも頑張ればアランさんも経験を積む内にそれ位までいけますよ」
「いやそうではなくて……」
勘違いされているようだ。
「バスカルさんも油断はしないで下さい。ステータスはあくまで目安。実際の戦闘では数字通りにはいきません。スキルの有無なんかにより簡単に逆転します」
「へいへい。ほら、アンタも測ってみろよ」
バスカルと交代する。
魔道計測機に手をかざし魔力を込めてステータスを表示させた。
今まで何度もしてきた動作だ。
浮かび上がってきたステータスは、
レベル:99
体力 :999
攻撃力:999
防御力:999
魔力 :999
速さ :999
抵抗力:999
うん、今まで何度も見た数字だ。
「えっ?」
「はあ?」
受付嬢とバルカスは目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。
「ええ……? なにこの数字……?
あ、そうか。この魔道具、ちょっと壊れちゃったみたいですね」
受付嬢は魔道計測機を不備をチェックし始めた。
別に壊れてはいないと思うけどな。
俺のステータスはずいぶん前からこの数値だ。
数字が99になってからもレベルは上がり続けていたから、おそらくこの魔道具が測れる上限がこの数値までなんだろう。
「いや、この数値で合ってると思うが……」
「そんな訳ないでしょう、こんなステータスの人が居たら有名人になってますよ!」
──あ、しまった!
受付嬢の言葉を聞いて、俺はそう思った。
そうだ、そうだった。
昔、俺が冒険者として多少名前が売れ始めたとき、傭兵団やら貴族の警護やらで色んなところからしつこく勧誘が来た。
当時、それらがスカウトがレベル上げの邪魔になって困ったんだ。
有名になると色々弊害が出る。
──これはマズい。
俺は一介の新人冒険者として一からやり直さないといけないのに──
「うーん、別に異常はないし大丈夫かな。すいませんアランさん、もう一度お願いします。もう少し魔力を強めに込めて貰えるとハッキリ出ると思います」
うーん困ったな。
ハッキリ出るとマズいんだが。
二度目ともなるともう誤魔化しは効くまい。
しかし、ここで止めるのも不自然だし……
──まあしょうがない。
覚悟を決めてもう一度測定してみる。
言われた通り魔力を強めに込めて。
ヴ、ヴ、ヴ、ヴ、
──ん?
なんか変な音が鳴ってる。
『測定不能』
バンッ!
「うわっ!」
「きゃっ!」
魔道計測機の水晶部分が景気よく破裂した。
俺のせい……だな。
「ああ、すまない、壊してしまったみたいだ……」
「いや、アランさんのせいじゃないですよ! 普通こんな風に壊れたりしませんから。古い物だったので寿命だったんでしょう」
いや絶対に俺のせいなんだけどな。
おそらく計測オーバーの負担に耐えきれなかったんだろう。
まあ結果オーライとするか。
「こうなったらしょうがない。今回は別の方法で測定しますね。ちょっと上と相談してきます」
──別の方法?