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一話 レベルを上げすぎた男

《チャッチャラチャラーン。アランはレベルが上がった!》


 美しい音楽が鳴り、美麗な声が響きわたる。

 

 どこからともなく聞こえてくる音、

 これは天の声だ。


 幾たびの戦闘やトレーニングを繰り返し、経験を積めばレベルが上がる。

 レベルが上がれば身体能力は向上し、速さや魔力なども上がる。


 僅かずつではあるが確実に。

 レベルは裏切らない。


 通常の戦闘においては魔法技術や『スキル』が大きくものいうが、過度なレベル差はこれら全てを覆す。

 高位のレベルの前にはあらゆる能力は意味をなさない。


 俺のようにスキルのを習得できない、

 能力に恵まれぬ者の唯一の光明。

 それが『レベル』。


 ──俺はレベル上げが大好きだ。


 苦労を重ねて時には命がけの戦いを乗り越えた末に、さらなる強さが報酬として得られる。

 その行為が病みつきになる程、たまらなく楽しい。


 その魅力は人生を踏み外す程に──


 「ハッ!」


 スパンッ。


 俺は岩の上に乗せた果物を手刀で刻んだ。


 通常であれば素手で果物を切るなんて何らかの『スキル』を使わないと無理だ。

 だが高レベルはこの様にそれも可能にする。

 単純に尋常じゃない速さと力で裂いたのだ……


 ──ん?


 バカッ。


 ああ! 

 勢い余って下の岩まで切ってしまっていた。

 

 果物が落ちて砂まみれだ。

 あ〜あ、今日のオヤツが……


 まあ、とにかくこんな事ができるのもレベル上げの賜物だ。


 もともとは立身出世を目指して冒険者になりたかった。しかし戦闘を繰り返す内にレベリングにハマってしまい、いつしかレベル上げという行為そのものが目的となった。


 富や名声、いや、もはや冒険自体すらがどうでもよくなっていった。


 まさに、本末転倒。


 わかってはいてもその魅力に取り憑かれた俺は自分を止めることはできなかった。


 やがては更なるレベル向上の為に、オレは魔物が支配する土地『魔界』と呼ばれる領域に足を踏み入れた。

 そこは土地自体に魔素が濃く、強力な魔獣や魔人が跋扈する地域。

 前人未踏のまさに魔窟だ。


 そこでもやることは変わらない。

 魔物を倒してレベルを上げる。それだけ。

 それを延々、延々と。


 運が良かったんだと思う。

 運良く死ななかった。


 死なない限りはレベルを上げ、いつしかこの魔界でも脅威と感じるような魔物が居なくなった。



 ──だが俺は今とても大きな問題に直面している。


 その問題とは至って単純。

 レベルが上がらなくなってしまったのだ。



 経験値が足りぬのかと思い、『深淵の悪魔』と呼ばれる魔獣を倒しても『暴虐の化身』と言われる竜を倒してもダメだった。

 毒の湖を泳いだり灼熱の山を駆け登ったりもした。

 それでもダメだった。


 これはつまり……

 ずっと考えないようにしていたが……

 どうしても一つの結論が頭をよぎる。


 ──俺はもうレベルの上限に達してしまったのでは──?


 ……いや! 

 そんなハズはない!


 仮に、仮にもしそうだとしたら俺は──

 これからいったい何をして、何を目的にして生きていけばいいんだ──!


 レベル上げこそ俺の人生そのものなんだ。

 それがここで終わるなんて……



「ああああぁっ!」


 ──ガンッ!


 俺は思わず目の前にあった魔岩石を殴りつけた。

 小屋ほどの大きさがあった魔岩石は粉々に砕け散る。


 わかっている。

 こんな事をしても意味はない。

 レベルが上がったりしない。ただの八つ当たりだ。


 あぁでも、もう一度、もう一度だけでも天の声が聞きたい。

 あの美しいレベルアップの音を──!


 しかし、もはやここでいくら魔物と戦ってもレベルは上がるまい。



 ──そうだ。



 もう一度最初からやり直そう。


 冒険を最初から。



 やはり、レベル上げというのは冒険に必要な事柄であってそれ自体が目的になるのはおかしいんだ。

 初心に戻って冒険者として真面目にやり直せば、どこかにレベルアップのきっかけになるような事があるのではないか?



 ──ゴゴゴゴゴ……


 そう考えていた最中、急に地面が揺れ出した。

 なんだ、地震か?


 !


 地震と同時に後ろから高密度の火炎球が二発。


「ハァッ!」


 高速で飛んでくる火炎球をこちらも高速の手刀で斬り落とす。

 ()っついな、くそ。


 火炎球が飛んできた方向に目を向ける。

 そこには毛むくじゃらで二本の角、二本足立つ魔物が居た。

 コイツは以前から敵対している『魔人族』のヤツだ。

 奇襲をかけに来たか。


「ギギ、あの獄炎球(デスファイア)を素手で撃ち落とすなんて、オマエ本当に人間か?」


 獄炎球デスファイア──やはりスキルか魔法の類か。

 魔人族はスキルや魔法を多用する。

 今まで幾度も対峙してきたが、この魔界の中でも一際厄介な奴らだ。


「失礼なことを言うな。バリバリ人間だ」


「ギギ、そうだな。ひ弱な人間だ。ひ弱な人間ナドに我が一族ガ追い詰められるナンテあってはならない。今日こそシネ!」


「もうお前らと戦ってもどうせレベルは上がらん。無駄な殺生になるだけだ。やめておけ」


「オット、オマエと戦うのは俺じゃない。相応しい相手を用意シタ。ギギギギ」


 ──ゴゴゴ……


 魔人が下卑た笑いを浮かべるとともに再度地震が起こる──いや、これは地震じゃない、この地面が盛り上がってるようだ。


「グルァアアァ!」


 突然、目の前の地面が割れ、その下から4メートルはある竜が現れた。

 その背には巨大な甲羅がついている。

 凶悪な顔つきで、さながら亀と蜥蜴を合わせたような姿だ。


「ギギ、コイツは『地底の覇者』の異名を持つ土竜ダ。本来はコイツを引き連れ一族で人間の領土に攻め込むハズだった。それをオマエが邪魔しなけれバ……!」


「人間の領土に攻め込む……?」


 それはいかんな。

 俺は飛び上がり土竜の背の甲羅に乗った。


「オラアァァ!!」


 バァンッ!

 力任せに甲羅を拳で殴った。


 辺りに衝撃が響く。


 だがまだまだ。

 何度も拳を叩きつける。

 巻き起こる衝撃波。


 自重と衝撃でだんだんと地面に沈んでいく土竜。

 

「ガルアァァ?!」


 土竜は信じられないとでも言いたげな顔をしてしばらく抵抗していたが、問答無用でそのまま地面に埋め直した。


「ガアァ……」


 戦意を喪失し完全に埋まる土竜。

 よし、これで静かになったな。


「ガ、ガ、ガ、そんなバカな! デタラメだ! 土竜を力任せに埋め直すナンテ! 化け物メ、キサマやはり人間でハ……!」


「人間だと言ってるだろ。

さあ、お前は埋めるだけで済ませる訳にはいかないな。覚悟して貰おう」


「ア、ア、ア、ギャアァァ!」


〜〜〜


 さて!

 余計な邪魔が入ったがもう魔界には用はない。


 帰ろう、人間の世界に!

 始まりの町ルーズに戻って、

 一介の冒険者アラン・ドールとしてやり直そう──!


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