始編
最近蚊も出てくるようになったな。三日前にやられたところがまだ痒い。
私は踊った。彼らの奏でる音により。私は食らった。彼らの出す肉を。
もはや私に恐怖する者はいなくなった。私は彼らの仲間としてここに居るのだ。
数日後、私が目覚めたときには彼らは死んでいた。屍の中に立つその人物は、私だった。
目前に私が立っているのだ。私は私に問いかけた。「君は何故、死んでしまったのか」と。
私は私を殺した。
どうやって殺したかは分からない。覚えていないのだ。私は再び歩いた。
日も暮れた時、私の目に灯りが映った。あれは…街だろうか。私はその灯りに向かって歩いた。
ここは街だ。恐らく何の変哲もない街なのだろう。だが、私はこの街に違和感を覚えた。違和感の正体は分からない。ただ一つ言えることは、彼らと同じようなものは居ない。それが何故かも分からない。どうやら私は何も知らないようだ。
私に声を掛ける者がいた。
「貴方は誰?」
私は不思議に思った。ただの街に私が居て何がおかしいのか。灰色のマントにフードを被ったその者は質問の答えを聞かず、ついて来いと促した。
路地裏に入り、その者はフードを取った。長い金髪の少女であった。が、私は彼女の自分との違和にハッとした。彼女の耳は極端に長い。彼らのように明らかに人では無い者と違い、この微妙な差に、得も言われぬ嫌悪感を覚えた。
「やっぱり…人、ですか?」
質問の意味が分からなかった。人でないなら何だと言うのだろう。
「君は、人ではないのか」
彼女は頷いた。訳が分からない。
「…ここは人の居ていい街ではありません。出て行きなさい」
「何故?」
「貴方に話すことではありません」
何故だろう。私は当の本人であるのに。…彼女の戯言を鵜呑みにする必要はないだろう。
「わかった。出て行こう」
私はその場を後にした。
どうやら彼女は付いてきてはいないようだ。日は沈み、街は闇に呑まれている。僅かな月光を頼りに、私は。
暇だ。最近麻雀が楽しい。