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トリスの裏日記  作者: 春生まれの秋。
5/5

ベリアルさん、お見事です。④

④、



アリ君の提案により、私達は、今のこの領地の情報を探る事にした。

素性がバレると消える可能のある私は、直接領内の人々と接触するのは不味いらしく、アリ君達とは別行動である。

何故だか判らないけれども、アリ君からお願いされた事は、ヒトと接触しなくても良い事柄だった。

領主の娘として当然持っている、自分用の領内地図(未来から持ってきてた備品の一つ)と、現地の差違を細かく記録していく事。それだけである。何処にどんな木がどれだけ生えていたか、とか、川の流れが地図とどう違うのか、とか、地形の変化とか。

地質学で学んだ事を書いていけば良いらしい。

それがこれからどういう役目を果たすのか。戦術面でどう生かすのか。

それは、軍師アリ君にしか判らない。

脳筋二人(トリスとカイル君)には、そういった事を活用する能力は無いのだから。


私が人目を避けて、地形図作成に勤しんでいる間に、アリ君とカイル君は、大胆にも、ラスティン家に突撃をかましたらしい。

勿論、領民の話を聞いた後で。




此処からは、アリ君達に聞いた話なのだが。

ラスティン家の現状は、今季はあまり思わしく無いのだという。

長雨のせいで、崖崩れが発生したり、あと二日も雨が続いてしまうと農作物の育成にも影響が出かねないそうなのだ。

普段は趣味人な領主夫妻が真面目に政務をこなして尚、人手も対策も追い付かないらしい。

酒場で二人はそこまで聞いて、領主に直談判に行った様で。

ちゃっかり書類仕事や雑用のお手伝いで信頼度を稼ぎつつ、情報を集めたのだそうだ。




「トリスんところのあの趣味に能力全部ぶっ込んでるご両親が、別人の様だった。あの人達、ちゃんと領地経営出来たんだな。」


↑カイル君談。



「普段からは考えられないくらい、真面目で有能で、領民想いな、『理想的な領主像』だったぞ、お前のご両親。なんで()()()()なったのか不思議な程だったぞ。」


↑アリ君談。


合流した二人が、そんな事を言うのを、私は信じられない思いで聞いた。両親が有能なのも領民想いなのも知っていたが、その無駄に高い能力を、財政を傾ける勢いで趣味に注いでいる姿しか知らないからだ。全く想像できない。


「調査、ありがとうございます。両親は真面目に領主業に励んでいる様ですね。個人的には想像出来ませんが、貴殿方が偽りを語るとは思えないので事実なのでしょうね。と、なると早急にこの長雨の原因を調べて問題を解決しないと、大変な事になりますよね。」


「トリス、それはどういう事なんだ?」


心底不思議そうに、カイル君が聞いてきた。そう言えば、カイル君は、私がカイル君のご両親(というかご家族)を知っている程には、我が家の特徴を知らなかったな、と思い至った。アリ君達同期生の仲間内では、数々の両親のやらかしを私からの伝聞や各自の独自の活動分野で知っているので有名なのだが、一般人には割りと無名な貴族だったな、我が家(ラスティン家)

等とつらつらと考えていたら、アリ君がカイル君に教えていた。


「トリスのご両親はな、ある程度趣味をやらせてストレス発散をさせないと、ある日大爆発して財政を圧迫するまでコレクションを増やしたり、思い付くままに実験を繰り返して採算度外視で新しい武器とか防具とかを心ゆくまで開発したりし出すんだ。」


呆れ顔で、説明するアリ君。


「つまり?」


どういう事かと聞くカイル君。

私は、アアアア…と顔を両手で覆い、苦悶しながら核心を口にする。


「後で必ずエリスおねえさまが大爆発。領地を守る為に私ももっと稼いで家に納金しないと、家が潰れるの。真っ先にお金に替えられにされそうなのが裏庭(私の居場所)だから、私の精神大ピンチなんです。」



そんな私を見下ろしなが、淡々とアリ君が一言。


「ああ、裏庭という名の裏山な。」


「そう。」


呻きながらも律儀に肯定すると、


「溜め込んでるコレクションじゃないんだな。」


カイル君に突っ込まれた。


「それらは、替えが効きませんし、共有財産なので。」


顔を上げ、涙目で私がカイル君に告げると、彼は呆れた様な顔をした。


「それはそうと、私も頼まれていた調査を完遂しましたよ!これが、報告書です。確認してください。」


気を取り直して事細かに書き記した地図と註釈、覚書の束をアリ君に提出する。


「ああ、ありがとう。これで策が練れる。」


ニッコリと笑うアリ君の笑顔にきゅんとする。

しかし、トキメキに浸る時間が惜しいので、私は私の出来る事は無いかと考える。


「ねぇ、カイル君。考えるのはアリ君に任せてさ、ココの調査、これで全部かな?他に何か、私達、忘れて無い?」


「そうだな、そもそも、ベリアルの気配とか不自然な出来事とかを調べるのが冒険の基本だが、俺らがやったのは、物理的な調査だけだもんな。魔の気配とか、そういう異常はまだ調べてねぇな。」


「じゃあ、アリ君が考えてる間に、そっちの調査もしようか。」


「そうだな。」



そうしてわかった事は、

・ココでの問題は、この長雨による被害である、という事。

・自然災害と思われるが故に、対応が後手に回り、領主夫妻の手腕のみでは解決しそうにないという事。

・趣味を封印し続けている両親のストレスが凄まじく、早期にこの問題を解決しないと、ストレスの分だけ後日、反動に依る衝動が恐ろしい事になる、という事。

である。

私としては、一番怖いのは3つ目の事案なのだが、それは世間様に及ぼす技術力推進も比例して強まってしまうので、一概に『悪』と言えない所がまた何とも言えない事態なのだ。




魔神ベリアルさんは、何処まで考えて行動しているのだろうか?この長雨は、我が家の特徴を的確に把握して、長引けば長引くほど最終的には「私」にダメージが行くようになっている気がする。そこまで計算しての嫌がらせなのだろうか?

ベリアルさんってば、本当に人の嫌がる事を的確に見抜いて嬉々として実行する方ね、と思った事態だった。





うーん。

まだ先に進まないなぁ。

おかしいぞぉ?


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