謎の文言
僕が変われたのは、間違いなくその言葉のおかげだ。
だから、今の僕がある。
家族との距離も元通りになったし、極少ないが友人関係の構築も出来るようになった。
皆には、感謝しかない。
チャット欄に打ち込まれた文章。
簡潔に終わっていて、何を伝えたいのかが分かりやすい。
「じゃ、そろそろ落ちる。」
「まったねー!」
「お疲れ様です。」
「また次な。」
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非常にすがすがしい気持ちで、朝の準備をする。
正しい時間に起きて、朝ご飯を食べ、歯を磨き、服を着替える。
妹の美帆も現在進行形で、同じ動作を取っている。
キッチンの方では、母さんが洗い物をしている。
父さんが出ていく時間は、僕と妹より早いので、この時間に会うことはまずない。
「どうしたの?お兄ちゃん。なんかご機嫌だね。いいことでもあった?」
「ああ、パーティーメンバーの実情を深く知ることが出来たと思う。これはもっとより良い方向に行くためのチャンスに違いない。」
「そう笑顔だとなんか不気味、、、無理して笑ってない?」
「無理なわけあるか。人生で一番の時間と言ってもいい。」
妹と二人で話し込んでいると、横から母さんの言葉が通過する。
「元気なのはいいことよ。でも、自分に素直にね。思ってることは、はっきりと吐き出せばいいし、我慢はしちゃだめ。」
「二人そろって、、、いいよ。大丈夫。」
多少の動揺を隠すために、腕を大きく振る。
その腕が思いっきり、飲み物の入っているコップに当たってしまった。
お茶がこぼれる。
「ああ、もう何やってんの、、、」
「ほら、無理してそうじゃん、、、」
母が濡れてしまったところを片付ける。
いつも机に置いてある新聞紙が、変色していた。
「、、、後で読もうと思ってたんだけどな、、、」
母が名残惜しそうにしている新聞を見る。
そこには、大きな見出しで、こう書かれていた。
未だ犯人の行方分からず
未明深夜都心外れの一軒家でその事件は起こった。被害者は四名で全員死亡。遺体の損傷が激しく男女の判別不明。表札から被害者家族の苗字は小林と判明。凶器と思われるものについては不明。洗面所の脱衣かごの中から血痕が見つかっており、この家のものではない服の繊維が確認された。また、被害者家族所有のパソコンの電源が入ったままになっており、そこには謎の文言が残されていた。以下がその文言である。
人生という物は、一生に一度きりのもの。
一度無くせば、もう戻ってこない。
それが、不慮の事故だろうと確定した未来だろうと関係ない。
死というのは、避けられないもので、誰にでも等しく訪れる。
違いがあるとするならば、それぞれの死因であったり、それぞれが何故死のうと思ったかの違いだろう。
また、立場という考え方もあるだろう。
死をもらう側。
死を与える側。
これでも、見方が変化してくる。
どちらが善で、どちらが悪なのか。
当人たちにしか分からない。