プロローグ、始まり
新作です。
よろしくお願いします。
人生という物は、一生に一度きりのもの。
一度無くせば、もう戻ってこない。
それが、不慮の事故だろうと確定した未来だろうと関係ない。
死というのは、避けられないもので、誰にでも等しく訪れる。
違いがあるとするならば、それぞれの死因であったり、それぞれが何故死のうと思ったかの違いだろう。
また、立場という考え方もあるだろう。
死をもらう側。
死を与える側。
これでも、見方が変化してくる。
どちらが善で、どちらが悪なのか。
当人たちにしか分からない。
最後に保存ボタンを押す。
その手は小刻みに震えていて、マウスをつかむ手も覚束ない。
それを追う視線も定まらず、落ち着きがない。
額から汗が滴り、溜まったものが机に落ちる。
パソコン自体をシャットダウンさせて、凝り固まった両手を伸ばして深呼吸。
一回。
二回。
三回。
先ほどよりも幾分か呼吸が落ち着く。
さらに、椅子の上で足を延ばすストレッチ。
足のコリも解け、骨と骨の間で空気が抜け、音が鳴る。
それを聞いて、手で骨を鳴らせる人はたくさんいるけど、足で鳴らせる人は少ないなどという無駄な雑学を思い出した。
全体的に落ち着いたところで、椅子から音もなく立ち上がる。
扉に向かって、足取りを進め、中間くらいで、パソコンの方をもう一度振り返る。
見つめて、再び歩き出す。
しっかりと足を踏みしめていないと、滑ってしまう。
慎重に、慎重に。
扉の前へ。
手をかけ、外に出る。
外は至って、綺麗。
滑ることもない。
なら、話は早い。
一目散に脱衣所に駆け込み、着ていた服を全て脱衣かごに。
頭からシャワーを被り、洗い流す。
どちらかというと、好きな時間。
汚い自分に別れを告げることが出来るから。
十分後、シャワーから出てくる。
真っ白のタオルで全身を拭いて、新品の服に着替える。
脱衣かごの服は、真っ黒の中身が分からないビニール袋に移し替えて、そのまま口を縛る。
他に忘れ物がないか、確認。
「行くか。」
脱衣所で一人呟く。
最低限のものを持って、家を出る。
ちょうどこの袋を捨てるのに、最適な場所を目指して。