75cm、彼の心に私は溺れる
考えなしに書いた作品です。お手軽にどうぞ
「なあなあ、聞いてくれよ」
彼は楽しげに話しかけてくる。月に一回、彼とはファミレスへ行く。彼に彼女ができた後も前もそれは変わらない。蝉の声が煩く泣き、灼熱に照らされたアスファルトは陽炎をユラユラと映し出す。太陽の光はビルの窓ガラスに反射し煌めく。そんな景色が流れる中、ぼーっとしていると彼の言葉は無理矢理現実に戻してくる。
「なに?」
ジュースがたんまり入ったコップの中の氷をストローでクルクルとまぜながら面倒くさそうに答える。
「最近彼女がさー」
彼は惚気話を始める。また彼女のはなし、聞きたくもない。彼に彼女ができる前はこんな事は無かったのに。さっきまで楽しく話してのが嘘のように心が冷たくなる。
前は適当に安いメニューとドリンクを選んだら最近の話、恋バナ、嫌いな奴の愚痴とかを何時間も話をしていた。誰の目も気にせずに笑い合っていた。こんな時間がいつまでも続けばいいと思っていたのに今ではどうだ、会うたび彼女の話、彼女の話、うんざりしてくる。こんな時間早く終わってほしい。会わなければいい。そんな事を何度も思ったことか。けれど、それはできない。いや、したくはない。この時間が唯一彼と出会い、話をできる時間なのだから。
「そういえばさ、山口いんじゃん。あいつ結婚するらしいぜ」
「そうなの?」
もう自分達も25歳、結婚を考えてもいい頃合いだ、彼もきっと結婚を考えているのだろう。
「なあ、お前も好きな人とか恋人いないの?」
言葉にできないような焦燥感は体を包み込み胸は針が刺さったようにチクリと痛む、好きなのは貴方だ。恋人になってくれるならなってくれ。そう言いたくなるが歯を噛み締めぐっとこらえた。これを言ったら最後、彼には軽蔑され二度と会えないかもしれない。いざ実際に目の当たりにすると理解されない存在、それが自分。
「いるよ、好きな人」
「どんな人?可愛い?」
「いや、かっこいい人だよ」
「ま、お前は顔もいいし性格もいいからきっといけるよ。親友の俺が保証する!」
親友、この言葉がどれほど憎いか、悔しいか、辛いか、友達以上恋人未満。絶対に超えられない壁がそこにある。彼の恋人にライバル視すらされないだろう。何せ、"親友"なのだから。
「いつから好きなの?」
「うーん、わかんないや」
彼の事が好きだと気付くまでそう時間が掛からなかったわけじゃない、逆に大いに時間を掛けただろう。自分だって彼とは最初親友だと思っていた。けれどそれは違った。彼は触れ合ってもドキドキしないし、顔を紅く染めたりなんてしない。けど自分はドキドキもするし、顔を紅く染めたりしまう。ないはずの感情があることに気づいてしまった。
「ま、俺も彼女とそろそろ結婚するけどなー」
息が止まる。汗が手からじわじわと湧き出てくる。精一杯の笑顔を必死に作り答える
「結婚式、挙げるなら呼んでね」
「当たり前だろ、お前にはスピーチもよろしく頼むよ」
ああ、彼がどんどん離れていく。嫌だ、離れないで。手を伸ばし抱きしめたくなる。75cm、そのファミレスのテーブルは彼に触れるのは容易く抱きしめるには困難な長さ。相手は目の前にいる、けれどその手は届かない、75cmの厚き透明の壁は越えられない。もう手は届かず目の前は崖、一歩でも踏み込めばもう後にも戻る事はできずにこの関係は崩壊する。自然と乾いた笑い声がでる。
でも、もう戻れなくたっていい、二度と会えなくたっていい。今ここで、決める。そう決心をした。
「大事な話がある。聞いてくれるだけでいい」
彼の返答を待たないですかさず次の言葉を言う
「絶対に無理なの充分承知で言う」
天井を見上げ、息を思い切り吸う
「好きだ」
一瞬、けれど永遠のように感じた。頭は真っ白になり何も考えれなくなる。身体が軽くなる。
1時間か、はたまた30秒程度だったかはわからないが、彼は顔を手で塞ぎ、口を開ける
「……お前がそっちだったとは気付かなかった、すまない」
「別にいい、気に病むことはない、全て俺のせいだ…」
結果などとうに知っていた。けれども悲しくなる、悔しくなる、辛くなる。振られて当たり前だ、何せ俺は、男なのだから。親友だと思っていた相手がこちらに恋愛感情を抱いているなど嫌だろう。
「なあ、俺、今後もお前の友達でもいいか?」
彼は寂しそうな顔でそう言う
「ああ」
もちろんいいとも。何せ俺たちは
"親友"なのだから
75cm、彼の心に私は溺れる
ボーイズラブに接触してないか不安ですが。許してください!なんでm(ry
気に入って頂けたら嬉しいです