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一時の休息

 翌日からは毎日、魔力制御と座学の繰り返しだった。

 午前中に、最低限の生活に必要なことをリエラさんやシャルロットさん、冒険者として必須の野営や魔物などの知識をエルドさんとグレイさんから、それぞれ教えてもらう。

 午後はミラさんから魔法の知識、魔力制御の特訓をしてもらっている。



「ふぁ~、体が重い……」


 俺は目を覚まし体を起こすと窓の外を見る。

 外はまだ暗いく、東が少し明るくなってきている。

 木の枝に小鳥が二匹止まって鳴いており、こちらに挨拶しているようだ。


「さてと、そろそろ下りないとな」


 魔法の練習はミラさんのいるときにできるが、スキルや刃技は誰もいない早朝の森でしか試すことができない。

 俺は服を着替えるとギルドの一階へと向かう。


「おはようございます、今日は早いんですね」


 俺は先に下りてきていたリアーナに言う。

 すると彼女はこちらを見ると少し驚いた顔をする。


「おはよう、あなたこそこんな時間にどうしたのよ。まだ夜明け頃よ?」


「私はこれから体を動かしに行こうかと思いまして。リアーナさんは?」


 俺はスキルのことを伏せつつ答え、リアーナに質問する。

 彼女は少し困ったように顔を伏せ、小さな声で話す。


「最近この辺で魔物が出てきたでしょう? だから森に入らないようにお父様から言われているの。でも最近は甘いものを口にしてないから……」


「食べたくなって森の木の実を?」


 リアーナは頬を赤くして頷く。


「それじゃあ、私が代わりに行ってきましょうか?」


 俺がそう提案するとリアーナは微苦笑びくしょうを浮かべる。


「その気持ちはありがたいわ。でもあなたは木の実を見分けられるの? あなたを見てる限り狩りはできても、どの木の実が甘いか見分けられないような気がするわよ?」


 確かに俺では見分けることができない。

 どうするべきか悩んでいると、リアーナは何か思いついたの顔をあげた。


「そうよ、浩輝が私に付いて来ればいいのよ。あなたなら魔物を倒せるし私は木の実を探せる。どちらも片方しかできないなら二人で行けばいいじゃない!」


 リアーナはどうやら俺を連れて行くつもりらしい。

 まあ、体を動かすことには変わりないからいいか。


「わかりました。ですが一応グレイさんに聞いてからにしましょう?」


 俺がそう言うとリアーナはこちらを見ると俺の前に指を突き出す。


「そんなのお父様に言ったら止められるわ! 今から行くわよ!」


 そう言うとリアーナは俺の手を取る。

 俺は後でグレイさんになんて言われるか、そのことで頭がいっぱいになっていた。




 街道をある程度進んだところでリアーナは足を止めた。


「このあたりから森に入りましょう?」


 リアーナがそう言って入ろうとする場所は、今までの場所に比べて草木が少ない。

 そのせいか周りに比べて光が当たり明るくなっている。


「私たちが今から取りに行くのはエリスベリーって言う赤くて小さいのが特徴の実よ。エリスベリーの木は背が低くて、葉が少しトゲトゲしているわ」


 そう言いながらリアーナはどんどん進んでいく。

 途中で先ほど聞いた特徴と一致するものを見つけた。


「リアーナさんあれは?」


 俺がそう聞くとリアーナはその木を見る。


「あれはリリスベリーの木よ。見た目はそっくりだけど木の実には毒があるのよ。昔はよく旅人があれでなくなったそうよ?」


 冗談交じりに話してくるが、さらっと今毒があるって言わなかったか?

 確かこの世界に来てすぐの頃あれに似た木の実を食べた気がする。

 

「あれ? 顔色悪いけどどうかしたの?」


 リアーナがそう聞いてくるが、俺はそれどころではない。


「リアーナさん、そのリリスベリーって食べてどれくらいで死ぬんですか?」


「変なことを聞くわね。そうね、確か二日で毒が回るって本に書いてた気がするわよ? それがどうかしたのかしら?」


 二日? 俺の食べたのはリリスベリーじゃなかったのか?

 しかし、食べたとき甘くなかったような気がする。

 むしろ、酸味が強かったような気がする。


「そういえば、リリスベリーは酸っぱいらしいわよ?」

 

 それを聞いて余計にわからなくなる。

 リリスベリーは二日で死に至るほどの猛毒なのに、なんで俺は無事なんだ?


「あ! あったわよ、浩輝!」


 リアーナが興奮気味にこちらの肩を叩いてくる。

 指さした先には、先ほどのリリスベリーの木と似ている木があった。


「リリスベリーの木と変わらないように見えますね?」


「そうね、注意深く葉っぱを見てみて?」


 俺は目を細めてみる。


「リリスベリーに比べて葉っぱの形が少し丸みを帯びていますね」


「そうよ、あとは実を見比べるとわかるわ。エリスベリーは実に白い線が横に一本だけ入ってるの。リリスベリーはこれが黒色なの」


 よく見てみるとへたに近い部分に一本線が入っている。


「なるほど、見分ける時にはこれに気を付ければいいわけですね」


 俺はそう言うとリアーナは頷いて蔕の部分を指さす。


「ここをよく見て。蔕の少し上の所に小さな刺があるでしょ? この少し下の所から採るの。そうしないと上手く次の実が出来ないのよ。刺の上から採っちゃうと次の実ができなくなるの」


 リアーナはそう言うと実を採って、持ってきた小さなポーチにしまう。


「かわいいポーチですね」


「ああ、これね。これはお母様が九つの時にくれたのよ。ポーチにつけてるこの石におまじないを掛けたからって、お兄様がわざわざアクセサリーにしてくれたの」


 そう言うとリアーナはポーチをなでる。


「それじゃ、さっさと集めちゃいましょう!」


 リアーナはそう言うとポーチを閉じて、俺たちはベリーを集め始めた。





 私は足早に廊下を歩きギルドの奥へと向かう。


「早く! 早く二人に伝えないと……!」


 私はドアをノックし、返事が返ってきたことを確認すると入室する。

 グレイさんがこちらを見て驚いている。


「そんなに急いでどうしたんですか、ミラさん?」


 グレイさんがそう言うが私はかぶせるように言う。


「浩輝君のことが王国に知れたかもしれません。今、学院の方からも連絡が来ました。どうやら国外には噂として広まっているようです」


 そう言うとグレイさんが一瞬面食らったような顔をするが、こちらをしっかり見返して口を開く。


「それで、ミラさんは学院になんと……?」


 グレイさんがこちらの様子を窺うように見てくる。

 おそらく学院に話した内容次第では動く可能性がある。だからどこまで話したかを私に聞いたのだろう。


「浩輝君と魔物、謎の男に関しては何も、さすがに火事のことを黙っていては怪しまれますので、その辺のことを少し弄って返しました」


 グレイさんはこちらの様子を窺うように見てくる。


「今回の火事では浩輝君の力がなければ解決できなかったし、彼にも落ち度はなかったでしょう。しかし、彼の持つ強大な力を手に入れようとする輩は必ず現れます。それは避けられないことです。特に今回は派手にやり過ぎました」


 浩輝君は今回、救助活動において屋根の上を走り、魔物、それもサラマンダーを倒してしまった。

 噂によるとこの町の区画分けをしている大きな水路を飛び越えた、そんなことも聞いている。

 

「ああ、これだけ派手にやってしまうと、流石に隠せるものではないからね。必ず人伝いで噂程度は流れる、そう思っていたけど。少し予想が甘かったかもね」


 今回は火事の中、誰も浩輝君を知らない状況で起こった、なのに魔導学院はなぜ探りを入れてきたのだろう。

 昨日も考えたがやはり結論が出ない。魔導学院が浩輝君を探る理由がわからない。


「グレイさん、王国側は何も?」


「いや、一度は連絡があったが、そちらの方も浩輝君のことは煙に巻いたよ。しかしこれはもう隠せないかもね……」


 グレイさんは深いため息をつくとこちらを見てくる。


「この話は浩輝君にはしたのかい?」


「いいえ、話さなければならないでしょうが、その前にグレイさんに相談しておこうと思いまして。グレイさんもその場に居てくださるとありがたいのですが」


「わかった。その時は同席しよう」


 どう浩輝君に話すか、そのことについて私はグレイさんと相談を始めた。





「ふぅ、これくらいあればリアーナさんの分も合わせれば十分な数があるんじゃないですか?」


 俺は後ろの方で作業していたリアーナに声をかける。


「そうね……うん、大丈夫よ」


 あれからしばらく実の採取を行っていて気付かなかったが、もう正午くらいだろうか、太陽が真上に来ようとしている。

 午後からはミラさんに魔法を教えてもらう約束だ、それはサボれないな。


「それじゃあ、そろそろ帰りましょう」


 俺がそう言うとリアーナは頷き、街道に出る。


「そういえばあなたずっと敬語よね? そんなに気を使わなくてもいいのに」


 リアーナはそう言ってくれるが、この世界ではリアーナは貴族だ。言ってしまうと平民の俺が貴族のリアーナに敬語じゃないのはおかしい気がする。

 俺がそんなことを考えていると、前を歩くリアーナが振り向いて、ふてくされた様子でこちらを見てくる。


「何よ、私の名前を呼ぶのは嫌なの?」


 こちらをじっと見て、俺を睨んでくる。


「そういうことじゃなくて、リアーナさんは貴族ですし、そういうことに気を付けておかないといけないんじゃ……」


 俺がそう言うとリアーナは呆れ顔になる。


「そんなの気にしなくてもいいわよ。私は気にしないしお父様も気にしないわ。むしろ喜ぶんじゃないかしら」


 グレイさんが喜ぶ? どうしてだ?

 よくわからないが、そこまで言うなら遠慮せずに呼ばせてもらおう。


「わかったよ、リアーナ。これでいい?」


 リアーナは満足したのか笑顔で頷く。

 というかであった時から思っていたがリアーナは美少女だな。

 俺は自分の顔が少し赤くなっていることに気付き、リアーナから目を逸らす。


「何よ? どうして目を逸らすのよ」


 リアーナはそんなことを言ってくるが、俺は何でもないと答える。


「そういえば浩輝、あなたミラさんに魔法習ってるのよね? もう何か一つくらい使えるようになったんじゃないの?」


 そう、あれからリアーナはミラさんと俺の魔法制御の特訓を見ていないのだ。


「そうだな……攻撃系の魔法はあまり習ってなくて。今教えてもらってるのは、暗いところで光を生み出す魔法とか、回復魔法とかかな。一応冒険者だから探索とかに便利な魔法を中心に教わってる」


 俺がそう言うとリアーナはうらやましそうにこちらを見てくる。


「リアーナも参加してみたら?」


 そう言うとリアーナはしょんぼりとした顔になると拗ねたように言葉を漏らす。


「お父様がやめておきなさいって、行かせてくれないのよ……」


 グレイさんもリアーナが心配なのだろう。

 それに俺のことも極力隠しておきたいようだし。

 そう考えると何か申し訳ないような気がしてきた。


「とりあえずギルドに帰ってもう一度グレイさんに言ってみよう? 俺も一緒に行くからさ」


 俺がそう言うとリアーナは少しだけ笑顔になって俺の隣に来る。


「それじゃあお昼までに帰りましょう。このベリーをシャルに渡してジャムにしてもらわないと!」


 リアーナはいつもの調子に戻ると、俺の前に来て手を差し伸べてくる。


「さ、急ぐわよ!」


 リアーナは俺の手を取ると、ギルドへ向かい街道を走りだす。

 




 今回読んでくれた方、ありがとうございます!

今回はちょっとした浩輝の休憩回です。まあ、私こう言うの書くのが苦手なんだな~って書きながら思いました。

 そして浩輝君のいないところでまた何かが動きだしそうな雰囲気です。リアーナちゃんと友達のように気兼ねなく話せるようになってよかったですね、浩輝。

 次回はいろいろと動き始めます! 王国に魔導学院、はたまた浩輝に運命の相手が!?

 ではでは次回また会いましょう!

                               それでは皆さんよい読書を!!  

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