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剣士が貴重ってマジですか!?

「ここで実技を行うぞ」


 そう言って連れてこられたのはギルドの裏にあるちょっとした訓練所のような場所だった。全面石張りで床や壁には少し黒くなった後が目立つ。


「これから出てくるのは幻術の魔法で生み出す魔物だから怪我することはない。しかし君の攻撃が君自身にあたると怪我をするので気を付けてくれ」


 そういうとおじさんは魔道具だろうか? 何か青い球体に向かい手を伸ばした。すると俺の目の前に一匹のスライムが現れた。


「こんな感じで俺が呼び出すから君は出てきたやつの相手をしてくれ」


「わかりました」


 俺はそういうと、例の袋から直剣を取り出す。すると驚いたようにおじさんは声をかけてきた。


「君もしかして剣を使うのかい!?」


 俺はなにかしてしまったのかと思いすぐに聞き返す。


「そうですけれど。もしかして何かまずかったですか?」


「いや問題はないけど剣士だったとはなぁ……」


 おじさんが何に驚いているのかわからないけれどとりあえず目の前のスライムに集中しよう。スライムは基本雑魚敵として広く知られているが実際はどうなのだろうか。それ以前に戦闘経験がない俺はどうするべきかを知らない。


「とりあえず観察してみるか……?」


 戦闘はいわば情報戦といってもよい。相手の情報をより多くつかみ対策する。これ以上に勝率をあげるものはほかにないからだ。とりあえず俺は一度斬り込んでみた。


「よっと……」


 何気なく振るったはずの一刀は難なくスライムを倒してしまう。


「あれ……?」


 俺は自慢じゃないが剣道や剣術は習っていなかった、というかただの運動でさえ苦手だった。なのに先ほど何気なく振るったはずなのにまるで鍛錬を積んできたかのようなものだった。


「すごいじゃないか君。普通スライムを剣で斬ろうとしてもスライムの体内にある核を斬らなきゃこいつらは倒せないんだが」


「ありがとうございます」と答え少し考えてみる。

 剣というのを初めて持ったというのにあの斬撃はまずありえない。だとすると……そうか。ゲームのアカウントか!

 俺はそう結論付けた。今回神様はお詫びにゲームのアカウントを模して俺を再構成した。そのゲームはムスペル・レギルス・オンラインというゲームで、このゲームにはキャラにはレベルがあったが職業に対するレベルも武器の熟練度というのもない。


「驚いたぜ……君はいったい何者なんだ? 剣に斧、槍に弓まで。それにいくつか見たことのない武器まであったぞ」


「私もどこの武器なのかわからないんです。この武器と技術はすべて祖父から受け継ぎました」


 などと答え、俺は別のことを考えていた。そしておそらく俺の予想が当たっていたことを確信した。ムスペル・レギルス・オンラインではキャラクターのレベルさえあげてしまえばどの職業でも同レベルで遊べるため熟練度が存在しない。そして今回模倣されたキャラクターはまだ職業に就いていないチュートリアル段階の無職なのだ。つまりお試しで武器を使うので魔法職以外のすべての装備品が装備できる。つまり俺はどんな武器でも自在に操り戦えるということだ。


「さて、次が最後の魔物だがやるか? 次は正直厳しいと思うぜ」


 そんなことを言われたらやりたくなってしまう。


「お願いします」と答え俺は右手に少し肉厚の片手剣を、左手には中型の盾を構えた。


「わかった。それじゃあ最後の相手はこいつだ」


 そういっておじさんが出したのはすらっとした白髪女性だった。瞳は鮮やかな緋色をしており、控えめなドレスに身を包んでいた。


「この女性は一体だれなんですか?」


 俺にはただの人にしか見えなかったのでおじさんに聞いてみる。


「こいつは吸血鬼さ。魔族の中でも高位に位置していてな、倒した……なんて話は最近はねぇ。というかまず遭遇すること自体がねぇな」


 なんかやばそうなやつが出てきた。俺はそう思ったがこれは幻術だから怪我をすることはないとおじさんが言っていたのを思い出した。


「それじゃあ行くぞ?始め!!」


 おじさんが掛け声をする。俺は一気に踏み込み上段から一撃を加えてみる。彼女はそれがわかっていたかのように左足をひき回避する。そしてそのまま右手の鋭い爪で俺の胴を突きに来た。俺はとっさに体をひねり左手の盾でガードする。


「危なかった……やっぱり最初は様子見したほうがよさそうだな」


 そうつぶやくと彼女は特に構えることなく自然体のままこちらに近づいてきた。距離が互いの間合いに入りかけたとき相手はいきなり視界から消えた。なぜかわからないがふと一歩後ろによろけてしまう。すると俺がいた場所に彼女がするどい突きを繰り出していた。

「な……!?」おもわず声をあげてしまう。先ほどの攻防はただ俺が斬り込んできたからただいなしただけで、彼女から攻められると俺は目で追うことも難しい。素早く彼女との間合いを詰めにかかる。速さでは圧倒的に俺が不利なのだ、危険だとしても張り付きできるだけ相手をトップスピードまでもっていかせないようにと考えた。俺は片手剣と盾を袋にしまうと次は短剣を二本取り出す。

 そのうえで俺がチョイスしたのが短剣である。片手剣よりも威力は劣るがこれほど近い間合いだと攻撃した際に隙ができるかもしれない。それならこの距離で取り回しのきく短剣の方が強く前に出られるそう思ったのだ。

 しかしそう甘くはなかった。彼女の武器は彼女自身、そして圧倒的な身体能力にある。いくらゲームのキャラを模したからとはいえ身体能力では彼女に遠く及ばない。そしてついに決着がついた。俺がついに彼女を間合いから逃してしまったのだ。さっきは偶然避けることができたがそんなことが毎回あるはずもなく今度はしっかりと一撃をもらってしまった。


「ふぅ、疲れた……」そう俺が言うのと同時におじさんが近寄ってきた。


「すごいな君は。その年でこんな芸当ができる奴なんてこの大陸でも君ぐらいだろう」


 確かに今回はやりすぎた。どこまでやれるかの確認のつもりだったのだが、普通この年の少年がなせるようなことではない。


「そうですか? でも世界は広いですし、大人の方ならこれくらいできる人は数多くいるのでは?」


そう答えておいた。おじさんは「そりゃないぜ」と答えてきた。そういえば結果が気になる。


「おじさん、結果はどうでしょうか?」


「ああ、君はB級冒険者から始めてくれ」


 そういわれて気になったのだがB級とは何のことだろうか。


「すいません。B級っていうのは何ですか?」


「ん? ああ、冒険者はランク付けされていてな、依頼のランク以上でなければ依頼の遂行もしくは解決が難しいため受注ができないようにされているんだ。ランクは上からS・A・B・C・D・Eまでの六段階ある。中でもS級は別格でな、それ以前にA級ですら王都にあるギルド本部での試験に合格する必要があるんだがな」


「なるほど、ということは先ほどのはいわゆる適性検査のようなものですか」


「まあ、そういうこったな。基本的にはC級冒険者で一人前。B級になると個人に対して依頼が来るほどなんだが、君の場合は実力が実力だからないきなりB級に認定させてもらうよ」


「わかりました」


「それじゃあ登録に入るからまた別の部屋に移動するぞ」


 俺はおじさんの後を追った。


「そういえば俺の名前を言ってなかったな。俺はエルドっていうんだ。よろしくたのむぜ」


「はい。私は嘉瀬宮浩輝といいます。浩輝と呼んでください」


 そう俺は答えおじさんの後を追う。俺たちが来たのは応接室みたいなところだった。

 緑のカーペットに横長のソファー、少し低めのテーブルが置かれている。


「適当に座ってくれ。俺は書類の準備をしてくるからよ」


 そういうとエルドさんは奥の扉に入っていった。俺はソファーに座りこれからのことについて少し考えてみる。まず金銭面こちらはこのギルドからの依頼をこなしたりして手に入れるとして住居の問題だ。

 いつまでもグレイさんの家にお世話になるわけにもいかないからな……どうにかして住む場所を確保しないとな。そんなことを考えているとエルドさんが戻ってきた。


「この書類にサインしてくれ。そのあとギルドカードの発行に移るからな」


「わかりました」


 俺は項目一つ一つにしっかりと目を通す。その項目の中で少し気になるところがあった。


「すみません。この魔物の素材についてなんですけど、この魔石っていうものは何ですか?」


「ん? ああ、魔石というのはな魔物の体内で生成される結晶みたいなものさ。高密度に圧縮されたマナなんだがこれはいろいろなものに使われていてね。需要がすごいんだ、だからギルドの方で流通を担ってる。とはいっても冒険者自身にも需要はあるからね。自分で使う人も少なくない」


「冒険者自身も?」思わず口に出してしまった。エルドさんは頷き説明してくれた。


 もともと魔石とは魔物の体内でマナが高密度で結晶化してしまったもの。だから魔力伝導率が高いらしい。それに大きなものであれば少し細工を施すことで増幅装置にまでできるそうだ。

 冒険者にも需要があるというのはその要因の他にも強度が高く上質な魔法媒体になるかららしい。

 そのためあらかじめ魔法を刻印で刻んでおき魔力を流すだけで発動させる。なんてことも可能で一般的に室内を照らす光源や調理に用いる火を魔石で起こしているという。


「なるほど。冒険者には魔法媒体として、一般の方々には光源などの私生活の道具として一定の需要があると……」


「そういうこった。だから基本ギルドに納品するか自身で持ち帰るかは冒険者本人に決めてもらうことになる。質がすごくいいのが取れたりするとギルドの方から買い取りたいって言ったりするけどな」


「そうなんですね。わかりました、ありがとうございます」


 俺は質問を終えると再び書類に目を落とした。一通り目を通すと俺は書類にサインをしエルドさんに渡す。


「内容に不備もなし……よし。確かに受け取ったぜ。それじゃあ冒険者登録を済ませるぞ」


 エルドはそう言うと一枚のカードとコピー機のようだがそれより小振りなものを取り出すと俺の前に置いた。


「こいつは魔道具でな。お前さんの魔力からどんな素質がありどういったことができるのかそれを映し出してくれる。そいつをこのカードに転写するんだ。それで冒険者登録は完了だぜ」


 俺は手を乗せて少し待ってみる。すると魔道具が淡く光り俺の情報が宙に映し出された。

 エルドはそれを確認するとそのままカードに転写してくれた。


「これで冒険者登録は完了だ。あと依頼の受け方だがどこのギルドでも共通でな、まず受付に行ってなギルドカードを提出するんだ。そうすると受付がその冒険者のランクに見合った依頼を持ってきてくれるぜ」


「わかりました。ありがとうございますエルドさん」


 俺はそういうとリアーナやシャルロットさんの待つギルドホールに戻った。


「あら、意外と長かったのね」


「ええ、実技が意外と長引いたもので。お待たせしてしまってすみません」


「いいわ、私が付いていくって言ったんだもの。あなたが謝る必要はないわ」


「シャルロットさんもすみません」


「いいえ、大丈夫ですよ」


 シャルロットさんはそう笑顔で答えた。


「ところで結果はどうだったのよ?」


 リアーナがそう聞いてきたのでギルドカードを見せると二人はすごく驚いていた。


「あなた……剣が使えるの?」


 俺はなぜエルドさんと同じことを聞かれたのだろうと疑問に思った。


「そうですけど、そんなに驚くことですか?」


 さすがに気になるので聞いてみた。


「そりゃそうよ。剣を扱える人なんてすごく貴重な存在として扱われているわ。誰にでも扱えるものじゃないもの」


 は? と思う。剣が使える人が貴重とか何を言っているんだろう。

 だって剣は握るだけじゃないか、魔法と違って何も必要じゃない。

 ただ剣を握る、足さばきや振るうの工程を正しい技術と繰り返すことによる鍛錬で鍛えていけばいいのだ。


「はい。お嬢様の言う通り剣が扱える人はごく少数です。我々が剣を握って振るったとしても剣がすっぽ抜けますし。振るえたとしてもほぼ目標には命中しません」


 俺は唖然としてしまった。

 神様……あんたの世界おかしくないか!? 魔法の時もおかしいと思ったけどさ!

 今回のはさすがにおかしいだろ!?

 確かに剣がものすごーく苦手な人がいるのはわかる。でも違うだろ!? これはおかしいだろ!?

 手からすっぽ抜けるって何?目標に当たらないとか何をどうしたらそうなるの!?

 そんなことを思っていると、リアーナが追撃を仕掛けてくる。


「私なんて10歳のころ剣を振るおうとしたことがあったのよ。そしたらなぜか目の前の巻藁じゃなくて、右斜め後ろにいたジェイクの首輪が斬れてたわ」


 さらっと怖いこと言うなと!! 


「あの時は私も旦那様も奥様も肝を冷やしました……」


「そんなことが……。ところでリアーナさんにシャルロットさん、これから良ければ街を案内してもらえないでしょうか?」


 俺はこの町の土地には詳しくなからな、今回ついでに教えてもらおう。

 そう思い二人に案内をしてくれないかと聞いてみる。


「申し訳ございません。わたくしはこれから屋敷に戻らなければならないのです」


 それはしょうがない。シャルロットさんはルミエール家のメイドなのだ。おそらく今も本当は何かやらないといけないことがあるのだろう。


「いえいえ。ギルドまで案内してくださっただけでもすごく助かりました。ありがとうございます」


「しょうがないわね……私が案内してあげるわ」


「……え?」


 リアーナが案内すると言ったので俺は驚いてしまった。


「何よ、文句があるなら案内しないわよ」


「いやいや。文句はないんですけどちょっと意外だったので」


 素直にここは述べておいたほうが良いだろうと思い正直に話す。


「私をなんだと思ってるのよ?そんなに薄情じゃないわよ!」


 一瞬どの口が言う。と思ったがリアーナも親切で言ってくれてるのだろう。そう思うと少し悪い気がした。


「じゃあお願いしてもいいですか?」


「ええ。任せておきなさい」


「では私は屋敷に戻らせてもらいますね? お嬢様をお願いします浩輝様」


 そういうとシャルロットさんは屋敷に戻っていった。おそらく何かあった場合は俺が彼女を守らねばならないだろう。知らない土地、まだ対峙したこともないが魔法もある。

 結構なプレッシャーだな。


「私をよろしくって、それ逆じゃない?」


 そんな風に文句を言うとリアーナはこちらを振り向いた。


「それじゃあ行くわよ!」


 そう彼女が言うと俺たちはギルドを出た。


 今回呼んでくれた方、ありがとうございます!

 そして今回は浩輝が、異世界転移後初の戦闘でした!武器の扱いは体が覚えているそうなので、いろいろ便利そうですね~

 今回はついに浩輝、リアーナちゃんとデートの約束を取り付けることに成功!!

 まあ、二人ともそれを意識してないし、気付いていないだけかもしれませんが……それはそうと頑張れ浩輝!

 そして次回はリアーナちゃんに町を案内してもらうわけですが、シャルロットさんが『お嬢様をお願いします』と言っていましたね。浩輝いろいろがんばって!

                    それではまた次回会いましょう

                                 それでは皆さんよい読書を!!

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